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今、定義付けと体系化が求められる
「国際取引法」の世界

国際ビジネスの法的地平を臨む  国際シンポジウム in 富山2016 

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国際ビジネスの法的地平を臨む 国際シンポジウム in 富山2016 レポート

 「グローバル時代」「国際的ビジネス」という言葉が社会に広く敷衍するに従い、注目が集まる国際取引法。2016年1月30日から31日にかけて開催された「国際ビジネスの法的地平を臨む 国際シンポジウムin富山」(主催:富山大学:文部科学省平成27年科学技術人材育成費補助事業ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(特色型))では、2日に亘って地理・研究の両側面から国際ビジネスに関する提言が行われた。




日・中・台の国際取引を変える法改正と制度設計

 初日のテーマは「富山で考える・地理的コラボレーション(協働)型研究の可能性」。国内外で国際ビジネス法の研究や法的整備を行う研究者、実務家等が会場である富山国際会議場に会して、国際取引に関する現状分析と今後の展望を行った。
 富山大学経済学部長 中村和之教授による開会挨拶に続いて基調講演を行った一橋大学法科大学院 ジョン・ミドルトン教授は、「グローバル時代における日本の英米法教育―一橋大学の試み」と題して同大学の英語による英米法教育の詳細を語った。

 現在、一橋大学法科大学院は、ミドルトン教授の「英米法」または阿部博友教授の「法律英語」いずれかが必修科目となっている。これは国際的視野を持つ法曹人材の育成を目的とする施策だ。英米法科目は原則として英語で授業が進められ、日本語の使用は必要に応じて認められる。国際取引法にかかる基礎能力としての英米法、法律英語知識を身に着けるためには英語学習が必須であり、ミドルトン教授は、実際に用いられるシラバスや教材、試験問題などを通してその取組みを紹介した。

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 同じく基調講演を行った黄瑞宜 台湾玄奘大学法律学系副教授は、「2015年台湾改正会社法に関する最新の動向について」と題し、2015年9月4日に施行された「閉鎖的株式会社制度」、2016年1月8日に施行された「企業併購法への会社分割制度」の導入背景について語った。

 台湾の現行会社法では、大企業を対象とした制度設計がほとんどであり、中小企業や新形態のビジネスモデル(※科技新創事業)に挑むベンチャービジネス企業にとっては不利な規定が多かった。結果的にイノベーティブな国内企業は台湾を離れ海外での資金調達~会社設立を行うようになり、人材流出や企業税収の減少が深刻な問題となっていた。新しく導入された「閉鎖的株式会社制度」は、台湾の企業家が資金調達と経営権の保有を両立できる制度である。黄副教授は同制度と日本の旧有限会社法との相似性に言及しながら、「台湾会社法第356条ノ13規定では、新形態ビジネスモデルが一定規模に達したときは持株有限会社に変更しなければならず、閉鎖的株式会社への投資者・少数株主の権益保護が問題になる」との提言を重ねた。
また、台湾では会社法と異なる特別法として「企業併購法」(※)が設けられており、組織再編に関する規定が為されている(※「併購」とは合併、買収、分轄を指す語であり、企業併購法第4条2号で定められている)。黄副教授は日台の分割会社の比較を行いながら、会社分割によって生じる法理効果(債権者保護の手厚さなど)を解説した。

 続く第1、第2講演では、「知的財産権に対する独占禁止規制について-中国の最新立法および実務の動向を中心に-」「中国におけるE コマースの法制の課題と展望」と題して、丁恒 中倫律師事務所(上海市)中国弁護士、そして楊東 中国人民大学法学院副院長・教授が登壇。
 丁弁護士は「①知的財産権と独禁法の関係、②立法動向、③独禁規制の対象となる主な知的財産権の行使行為、④行政執行実務および司法動向」の4点から中国の知的財産権と独占禁止法との関連を分析。2007年に公布されるまで、専門規定としての独占禁止法が存在しなかった中国の状況に遡り、「知的財産権を濫用し、競争を排除し、制限する行為については独占禁止法が適用される」という現在の中国のスタンスに至るまでの変遷を解説した。行政執行実務および司法動向では、2015年に開始されたマイクロソフトへの独禁法違反調査、2013年に開始され、2016年に課徴金が制定されたクアルコムの事例などを踏まえた、最新の中国行政司法動向が紹介された。
 楊教授は、2014年に約4,270億ドル、2018年には1兆ドルに達するとされる中国のEコマース市場規模に触れたうえで、中国の消費者保護、競争法、電子決済等の諸問題へ言及。中国ではアリペイが電子決済ビジネスを牽引しており、2015年において決済アプリ(アリペイアプリ)利用者数は約3億人、総支払額は約73兆円に達する。アリペイ1社の電子決済ビジネスの規模は、日本のクレジットカード決済市場では総支払額が約57兆円を上回っている現状がある。また、アリペイを筆頭とする「第三者電子決済企業」は約6,000社を超えている。楊氏は、そうしたモバイルファイナンス分野に対する中国の過熱感を踏まえたうえで、2016年に全人代へ提出された中国の電子商取引の意義と必要性を説いた。

 第3講演では、「グローバル企業活動とグローバル・コンプライアンスの課題について」と題して、河村寛治 明治学院大学法学部教授(GBL研究所代表理事・会長)が登壇。
 グローバル・ビジネス活動における課題を、①法律問題の多様化 ②域外適用 ③内部統制の運用と定め、米・中・EUでのカルテル事件、FCPA / Bribery ACT / 外国公務員贈賄防止規制(不正競争防止法第十八条)の紹介・比較を行った。続くグローバル・コンプライアンスでは、実現すべき体制を ①本社を中核とする集団経営 ②本社および子会社における意思決定の仕組み ③本社および子会社の内部統制システムの3つに分類。会社法平成26年改正に伴う内部統制拡充の動きがグローバル・コンプライアンスを下敷きにしたものであり、「法令・定款等遵守の徹底」「個別リスクの未然防止に向けた体制整備」「グループ内での情報連絡体制の構築と実行」が具体的課題であると語った。

求められる法体系作成と後進育成

 阿部博友 一橋大学法科大学院教授がコーディネーターを務め、田中康子 エスキューブ株式会社代表取締役・弁理士を交えたパネルディスカッションでは、阿部氏は「フェニキア人の交易にはじまり、ビジネスとは本質的にグローバルを指向する、国境に限定されない人為である」と発言。国際取引法という概念が、日本国内で提唱されてから既に50年経過していることに触れた後に、法務部が担うべき役割の変化(司法対応のみを中心とした90年代~刑事法対応も注視する現在)を解説した。

 ミドルトン教授は、「国際取引法は学生の選択科目のひとつであり、従来の会社法、銀行法人気にも比べても最近は国際取引法への注目や人気が集まっている。ヴィクトリア州弁護士会 (Law Institute of Victoria) 発行の月刊誌 Law Institute Journalでも国際取引に関する論文が増えている」とオーストラリアロースクールでの国際取引法研究について紹介。

 楊教授は「中国では「国際取引法」という名称の科目はないが、「国際経済法」「国際商法」という2つがある。これらの人気はおおよそ15年前がピークであり、現在はやや下火。背景には中国国内企業・機関への学生人気の高まりがある」と述べ、丁弁護士は「2001年のWTO加盟以降、国際経済法に対する関心は高まっていった。ただし、実務家の観点からいえば国際取引法とは実体法なのか、手続法なのかという疑問が残る」と述べた。

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 本シンポジウムは、文部科学省ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(特色型)事業のひとつであり、国際ビジネスで活躍する女性人材(研究者)の養成も目的のひとつ。
 田中氏は「法律業務、特に知財分野は男女の差が出にくい。ただし企業法務人や実務家は実務の必要性にかられた法律のみを学ぶので、局所限定的な理解は深められるが、その一方で包括的な教育を受けていないため広い射程での視座がない。実務に追われ研究に割ける時間を確保できない」とその現状を説明した。
黄副教授は「台湾では法律を学ぼうとする女性が増えてきている。私が行った学生面接でも、96名のうち88名が女性。そして、台湾の法律教育は弁護士や公務員を前提としたキャリアパスを想定しており、企業法務系人材の路線はそもそも想像しにくい。また金銭的な待遇の面でも、最近は中国を活躍の場に選ぶ研究者が増えている」と述べた。

 河村教授は「上智大学名誉教授である澤田壽夫先生が1966年に設置した国際取引法科目は、「税金を除き、英文契約書や判例を利用しつつ、国籍の異なる企業や人の間の物の売買、運送と保険、知的財産、投融資、企業形態、競争法、仲裁、訴訟、調停による紛争処理、そして国際取引に関与する WTOその他の国際機関、国際協定の働きを学ぶ」とその内容を定義付けておられた。そこから約50年の時間が経ち、今では国際税務対策、IT分野での商取引など多くの変化に対応せざるを得なくなっている。その一方、まだ国内研究者間での認知度が低く、法としての体系が整っていない。国際取引に関する実務経験の有無が、研究者間での齟齬を生む問題もある」と課題を指摘。コーディネーターの阿部教授は「国際取引法の研究が叙述的なものにとどまってはいけない」とディスカッションを総括した。

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問題解決の処方箋としての協働を

2日目は富山大学経済学部大会議室へ会場を移し、「富山で考える・コラボレーション(協働)型研究分野開拓の可能性」をテーマとして国際私法・環境法・知的財産法分野からそれぞれの研究発表が為された。

 岩本学 富山大学経済学部経営法学科准教授は、「国際的管轄合意と公序法」と題して、チサダネ号事件(最判昭和50年11月28日 民集29巻10号1554頁)の司法解釈から、平成23年民事訴訟法改正によって明文化された日本における国際的管轄合意のルールを検討。
本シンポジウムの企画者でもある、神山智美 富山大学経済学部経営法学科准教授は、biopiracy(バイオパイラシー=生物資源の盗賊行為/海賊的略奪行為。先進国が途上国の伝統知識を利用して製薬品や特許を開発し利益を独占する行為)問題に触れながら「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS) 漢方生薬製材を中心として」と題した研究発表を行った。
田中康子 エスキューブ株式会社代表取締役・弁理士による「医薬品の特許期間延長に関する最高裁判決を読み解く」では、1日あたりの製品売上が約2.3億円にも達するという医薬品業界の特殊性を解説しながら、アバスチン事件の知財高裁判決を事例として、医薬品業界の特許権延長に関する効力解釈を試みた。

 立石孝夫 富山大学経済学部経営法学科学科長・教授は、「異なる考え方を持つ人材が集まり、お互いの問題解決への処方箋をつくっていくことこそコラボレーション。このシンポジウムで為された様々な交流が今後も持続していくことを強く期待したい」と2日間に亘るシンポジウムを締めくくった。


 制作・BIZLAW編集部



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