MENU
BIZLAW
BIZLAW Powerd by LexisNexis®
国際的管轄合意と公序法


富山大学経済学部経営法学科 准教授 岩本学
コメンテーター:北里大学 准教授 猪瀬貴道


1 報告の趣旨

 本報告は「富山で考える・コラボレーション(協働)型研究分野開拓の可能性」と題されたシンポジウムの一報告としてなされたものであり、国際取引の活性化あるいは紛争解決において重要な役割を果たす管轄合意条項に焦点を当てて検討した。富山県は、立山連峰から豊富な清水が製造メーカーに恵みをもたらし、伏木港といった国際的な交易拠点を有していることを背景に、世界で多くのシェアを抱える企業を有していることで知られる。一方、そこで問題となる法的問題について、これまで富山県においてシンポジウムなどで取り上げられることは余りなかったように見受けられる。この意味において、本報告が、富山県内に国際取引案件について研究をしている研究者を有することを対外的に知らしめ、今後の県内での産学連携等の契機となれば幸いである。加えて、国際取引に派生する法的問題は、他の法学分野のほか、経済学や環境をとりまく学問との融和も重要となっている。その一助となることを希求する。


2 報告内容

 本報告では、国際取引における契約条項に付される管轄合意条項を主な検討対象とした。この点は、従来明文規定がなかった分野であるが平成23年の民事訴訟法改正によって、明文化された(同法3条の7など)。もっともこの国際的合意管轄の成立や効力を巡る問題すべてがカバーされたわけではなく、引き続き解釈に委ねられた事項がいくつか存在する。そのうちの一つに、合意を排除する要件はいかなるものか、といった問題がある。この点については、最判昭和50年11月28日民集29巻10号1554頁(以下、「昭和50年判決」とする)によって、『管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等』(以下、「公序法等」、とする)は、日本での訴訟を排除する合意(デロガシオン)の排除を認める、とする判例法理が形成されていたが、その文言が抽象的であることは言うまでもなく、改正時具体化した上での明文化も検討された。しかし、上述の通り規定はおかれず、法解釈学の寄与すべき事項となった。

 そこで、本報告では国際民事訴訟法研究の立場から、国際管轄合意に関する現状を示した後、平成23年改正後に残された論点である合意の成立の準拠法と公序法等の意味について、比較法的考察及び国内の裁判例分析を通じて、これらを明らかにすることを試み、その上で今後の展望を示した。以下では、報告内容について概要を述べる。

(1) 国際管轄合意に関する現状
 純粋な国内取引においては、紛争解決時に適用される実体法・手続法は明確であり、契約時における紛争コストの計算も困難とはいえない。一方、国際取引においては、法廷地如何によって適用される国内法・国際私法が異なることから、契約時において紛争解決にどの程度のコストを要するのかの算段は、国内取引に比して遙かに困難である。この契約時のリスクを軽減するために、管轄合意条項を契約書に取り込むことは国際取引においては合理性を有する。そして、当事者間の管轄合意を根拠にして、一定の訴訟法上の効果(管轄原因または管轄否定原因としての適格の付与)を認める国が多く、例えば「この運送契約による一切の訴は、アムステルダムにおける裁判所に提起されるべきものとし、運送人においてその他の管轄裁判所に提訴し、あるいは自ら任意にその裁判所の管轄権に服さないならば、その他のいかなる訴に関しても、他の裁判所は管轄権を持つことができないものとする」(昭和50年判決参照)といった条項が付される。

 もっとも、その条項が法的に認められるかは、別問題である。この点、わが国には従来明文規定がなかった。そのような中で下された昭和50年判決は、合意の有効性について(1)専属管轄に属するものでないこと、(2)書面で合意すること、(3)外国裁判所で裁判ができること、(4)公序法等に反しないことなどを示し、判例法理とされてきた。この判決を踏まえて、平成23年民事訴訟法改正においては国際管轄合意の規定がおかれた。もっとも、合意の有効要件等すべてが明文化されたわけではない(不文のものも含めた現在の合意の有効要件については、道垣内正人『国際契約実務のための予防法学―準拠法・裁判管轄・仲裁条項』(商事法務、2012)198頁以下参照)。特に、成立の準拠法に関する問題と合意を無効とする要件としての「公序法等」については、引き続き検討を要する。

(2) 平成23年改正後に残された論点①-合意の成立の準拠法-
 判例及び多数説の理解は、国際民事訴訟法(実質的には法廷地法)が合意の成立を規律すると解している(昭和50年判決は明言していないものの、原審である大阪高判昭和44年12月15日民集29巻10号1585頁が「本件国際的裁判管轄の合意の有効性の判断の準拠法は契約の準拠法ではなく、これを問題にする法廷地たる日本の国際民事訴訟法によって決定されるべきものと解する」との文言を変更せずに審理していることから、原審同様の立場に立っているとの理解する見解が多数である)が、これに対しては、成立については国際私法に委ねるとする見解が存在する。

 論者によりその根拠には違いが見られるが、例えば管轄合意にも実体的な側面と手続的な側面があり、裁判所は、実体的に有効な合意を前提として、自国法(法廷地法)に従って手続法上の効力(管轄権の排除や付与など)を付与していると理解すべきとして、前者については国際私法に委ねるべきとする(高杉直「判批」WLJ判例コラム第9号(2013)3頁)。この点については、本報告では、管轄合意は当事者の紛争解決に対する予測可能性の担保が重要であること、法廷地法にすべて委ねることはフォーラムショッピングの危険性をはらむことなどから後者の立場を妥当し、議論を進めた。

(3) 平成23年改正後に残された論点①-公序法等の意義-
 公序法の体系的位置づけについて、まず、立法過程を分析し、少なくとも昭和50年の「公序法等」要件は、単に成立の場面のみならず、成立後の事情変更などにも対応して、合意を無効とするものであるとの理解が一般的であったことを示した。もっとも、この理解は上記(2)のいずれの立場に立つかによって違いが生じる。すなわち外国法が準拠法となる余地があるのであれば、国際私法上の公序(わが国では「法の適用に関する通則法」42条に規定がある)が関与してくる点で、(2)の理解が重要である。本報告では(2)の後者の立場から、「公序法等」の位置づけについて、実体法上の公序と国際私法上の公序の双方を含むことを確認した上で、それ以外の枠組みで合意を無効とする余地があるのかを分析した。

 まず、公序法という文言については、米国、ドイツ、スイスなどの比較法的考察を踏まえて、いわゆる絶対的強行法規と管轄ルールの扱いについて検討した。わが国の学説では、絶対的強行法規に反する契約条項について、これを無効とする見解が多数といえるが、この点については、以下の点から批判的考察を行った。すなわち、絶対的強行法規として説明されてきたものは、準拠法如何に関わらず必ず適用される法を指すが、従来議論されてきた消費者法や労働法上の法規などは実体問題への介入を予定しているものであった。管轄ルールへの介入を認め、当該問題については外国で扱うことを認めないとすることは、事実上、わが国に不文の専属管轄規定を創設することになるが、民訴法改正において専属管轄規定がおかれ、また国際民事訴訟法上の強行規定として、消費者保護と労働者保護に特化した規定がおかれた点から、このことは妥当ではないとの分析を示した。またそもそも絶対的強行法規を外国裁判所が潜だつするか否かが予測での対応となる点の問題も、ドイツの議論を参考に指摘した。更に、従来の裁判例を分析し、上記の絶対的強行法規はダイレクトに問題視されていないことを確認し、証拠の偏在など「公序」ないし「公序法」の枠組みでくくるのが適切でないファクターが多く、実際上、管轄肯定に働く「特段の事情」相当の枠組みで管轄合意の無効を判断してきたことを示した。

(4) 今後の展望など
 以上の考察から、本報告では「公序法等」の要件について、その公序という文言の問題点を指摘した。そして、このことは単に文言の是非の問題にとどまらず、合意管轄を統一的に捉える上で重要であることを最後に提示した。すなわち、管轄合意が問題となるのは、わが国に訴えを提起できるか否かといったいわゆる直接管轄の問題のほかに、合意管轄によって管轄が認められた地で下された判決をわが国で承認するための要件である間接管轄(民訴法118条1号)の場面がある。ここで公序といった自国法の観点での要件を課すことは適切とはいえず(なお、裁判例としては、名古屋地判昭和62年2月6日が間接管轄の判断に「公序法等」の要件を課したものがある。同判決については本報告おいて批判的考察を行った。この点については、櫻田嘉章「判批」昭和63年度重判277頁以下参照)、合意管轄一般を統一的な枠組みで捉えるとするならば、本報告で示した形式が適切である点を指摘した。最後に、管轄合意についてはハーグ管轄合意条約が2005年に成立し、2015年10月に発効しており、わが国においても解釈の参考及びその加入への検討は必要としつつ、同条約は適用される事件が狭く、この点を加味した検討を要する旨解説し、今後の展望とした。


3 コメンテーター及びフロアとの質疑

 本報告のコメンテーターとして北里大学の猪瀬貴道准教授(国際法・国際経済法)をお迎えした。コメントにおいては、自身の研究との関連、本報告の総括を述べられた後、報告者に対して、①国際仲裁と本報告との異同の説明 及び国を専属管轄とする合意を無視してわが国で判断をした場合、国際訴訟競合などが生じる恐れがあるがこの点をどう評価するのかについて、意見を求められた。これに対して、報告者は、①仲裁法14条が仲裁合意があった場合の防訴抗弁についての規定であるが、合意を無効にする要件については記載がない。管轄合意同様に無効とする余地があると現状では考えるが、仲裁の特殊性を考慮した検討については、今後行っていきたい旨返答した。②確かに、わが国と専属合意地とで訴訟が競合する可能性や既判力の矛盾が起こる可能性は想定されるが、それは管轄合意に特殊の問題ではなく、それらの一般的に規律に委ねることになる旨返答した。

 質疑の際、フロアからは、3点の質問と1点の意見を頂戴した。③本報告では、公序法と特段の事情という枠組みを取った裁判例を紹介したが、そのような理解は妥当ではないのではないか④裁判所は公序と公序法の実質的な使いわけをしていないのではないか⑤立法に携わった者の説明にある公序の適用場面として成立時及び事情変更時が挙げられているがどのような意味か、との質問がなされた。これに対して報告者は、③④については、昭和50年判決の射程をどう捉えるかの問題であるが、公序法の文言を事案に沿って捉えることを出発点にすれば(この点については、神前禎「合意による管轄権」高桑昭=道垣内正人編「国際民事訴訟法(財産法関係)」(青林書院、2002)143頁)、本報告で示した分析も可能であると考える、⑤については、実体法上及び国際私法上の公序の判断基準時を口頭弁論終結時までとする見解もあり、その立場に立てば、合意の成立時に公序に反していなかったとしても、事情変更を考慮する必要があり、この点を意識していたと解される、と返答した。加えて、③④に関連しては裁判例の分析方法についても、公序法について言及のない裁判例等への分析等も行うよう意見を頂戴した。

 更に、質疑後、参加者からコメンテーターの猪瀬氏への返答を受けて(上記①)、仲裁の異同の点について実務的観点からは報告者と反対の意見を持っている旨頂戴し、意見交換を行った(本研究は、科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究、課題番号26590009)による研究成果の一部である)。




>> 国際シンポジウム in 富山2016 Webジャーナルトップへ戻る

▲TOPへ戻る


>> BIZLAWトップページへ戻る

▲TOPへ戻る