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【第2講演】


中国における電子商取引法制の課題と展望


中国人民大学法学院教授・アジア太平洋法学研究院副院長 楊東


 近年、特にこの2、3年の中で、インターネットが中国社会に非常に大きな変化をもたらした。それは経済だけではなく、もしかしたら政治の面にも大きな影響を与えているかもしれない。法的研究のでも、もはや無視できないものとなっている。中国の代表的なインターネット企業としての阿里巴巴集団も、2014年にアメリカ上場に成功し、インターネット産業が、将来的に中国経済の最も強い力となる可能性は高い。特に金融産業に対しても、新たな変化をもたらしているともいえる。また、インターネットを通じた、クロスボーダーの電子商取引、貿易などの活動も進行中である。以下では、中国の「電子商取引法」の立法の動向、中国の電子決済の発展現状、中国のクロスボーダー電子商取引の動向および中国のクロスボーダー電子商取引の動向を簡単に紹介したい。


1 中国電子商取引立法の動向

(1)立法の背景
 中国の電子商取引市場の規模は、2014年時点で、既に51兆円(約4270億ドル)を超え、2015年の場合は、確実な数値は見つけられていないが、おおよそ60兆円の規模に達していた。これは今後、2018年には1兆ドルになるとも予想される。

 これだけの規模発展にも関わらず、法整備はいまだに不備であり、この業界にもまた多くの問題が散在している。日本では、「特定商取引法」により、ネットでの販売に関し、消費者利益を守る法律が施行されているが、このような相対的に完備された法律が中国にはない。一方、日本のような発達した「特定商取引法」が存在しないからこそ中国の電子商取引が発展したというような言い方もある(とりわけ2015の11月11日「「独身の日」の取引規模が既に人民元で1000億の売上げに達している)。しかし、11月11日の「独身の日」と12月12日などに、モールもしくは自社販売でのキャンペーン企画などで安く販売した商品は、返品不可や予約注文の前金は返金不可などの問題が見られるし、偽造品および不良品の販売や疑わしい取引を十分に取り締まっていないとの批判も多数ある。インターネット通販では詐欺まがいの事件が多発しており、年間の提訴数は約8万件にも達している(合計約6億円もの賠償金)。また中国の特殊な問題としては、電子商取引の販売業者の信頼性を、架空取引によって水増ししたり、偽りの顧客レビューによって高める行為も既に業界の慣行となっている。

(2)立法の過程と現状
 これらの問題を解決し、この業界に健康な発展環境を形成するために、中国国家全人代財政経済委員会がこの立法活動を開始した。なぜ全人代財政経済委員会がこの法律を制定するというと、この分野はどの省庁にも独自に規制することができない分野だからである。財政経済委員会という機関の委員が分かれて、その下にスタッフおよび行政の幹部もいるが、その人数は限られ、実際は専門家委員会を組織し、学者および専門家が起草グループに参加し、全人代財政経済委員会の下でこの法案を制定するということになった。

 この立法活動は2013年のスタート~14年の正式な着手以来、さまざまな調査活動を行っていた。それから去年3月に立法大綱の起草を完了し、年末に草案を完成した。また2016年1月28日と29日に、財政経済委員会がこの草案について議論をした。立法の計画としては、2016年中に全人代常務委員会に審理に提出する予定である。

 この立法の草案は、中国の電子商取引の現状を踏まえるなら、革新と競争の奨励を中心とし、規範と管理の需要にも配慮したうえで完成した。財政経済委員会が設置した電子商取引法起草チームはこの2年余りに渡り、国務院関連省庁、部門、電子商取引モデル都市、専門家・学者などとともに、14の専門リサーチチームを設置し、電子商取引の立法に関連する問題の系統的なリサーチを行ってきた。現在この草案の中では主に7つの立法原則を確定した。それらの原則は以下を参照されたい。

1 イノベーションの奨励
2 信用誠実
3 緩和とした監督管理
4 社会共治(自律的な規制)
5 オフラインとオンラインのルールの統一
7 ビッグデータの開発と利用および消費者の保護

 特に電子商取引の主体と取引の過程を規範化する他に、電子商取引企業の自治、業界の自律、政府の監督管理およびクロスボーダーの取引などについて規定を設けた。


2 中国の電子決済の発展現状

 この立法の動向と問題における非常に大きな問題点としては、中国固有の電子決済の発展が無視できないということである。中国における電子決済のモデルは、諸外国とは異なっている。そのような電子決済があるからこそ、今日の中国の電子商取引ができたといえる。またこのような電子決済があるからこそ、今日におけるインターネットファイナンスのような金融システムの発展が、中国で話題となっているのである。

 日本ではクレジットカードが主流であり、店舗における少額決済であればSuicaやEdyなどの電子マネーが一般的であろう。しかし中国ではそれと異なり、店舗型のオフライン決済は主にデビッド式の「銀聯」、電子決済は「アリペイ(支付宝)」が用いられる。さらに2013年には、中国版LINEと呼ばれる「微信(WeChat)」「微信支付(WeChatMoney)」と呼ばれる電子決済サービスを開始し、急速に拡大した。日本では、スマートフォンを使った電子決済が非常に便利であるが、中国では、2つの代表的な電子決済システムであるアリペイやWeChatMoneyなどを通じて、店舗だけではなく、映画や公共料金の支払い、コンビニエンスストア、レストランなどでも支払うことができる。特にこの2つの電子決済システムは、「淘宝(タオバオ)」などのECサイトでのオンライン利用はもちろん、グルメ・クーポンアプリ、タクシー配車アプリといったリアル(オフライン)とも連動し簡単に決済できる。そのスマートさとスムーズさも、非常に注目を集めている。これが、電子商取引が中国でこれだけ発展している主な原因ともいえよう。とりわけモバイルファイナンス、つまり携帯端末で行った電子決済の発展は、この2年間で電子商取引の発展に決定的な影響を与えた。アリペイのスマホアプリの利用者は2015年末で約3億人を超え、その全体の総支払額は3兆8,720億人民元(約73.6兆円)を超える。その数字は、中国GDP総額の約5%~6%を占め、消費者向けEC市場の2倍近くにも達した。一方、日本のクレジットカード決済市場の総支払額は2013年には57.7兆円であり、Suicaなどの電子マネー決済市場の総支払額は4.1兆円であった。つまりアリペイ1社でほぼ日本のクレジットカード決済市場と電子マネーを合わせた総支払額を超えたということである。

 アリペイのような中国特色の電子決済、諸外国の電子決済と比べて異なっている点は、電子商取引の中で、第三者としての担保的な役割を果たしているということである。つまり、インターネットで取引をする時、まず買い手がアリぺイにお金を預け、商品の送達が確認した後に、アリぺイがそのお金を売り手に払う。このような第三者の電子決済は、中国のインターネットファイナンスの発展にも大変大きな役割を果たした。このような社会、経済および技術(特にモバイルに関する技術)の状況下で、第三者電子決済システムを元にしたさまざまなインターネットファイナンスの開発も発達してきた。多くのインターネット企業がインターネットファイナンスに進出しており、電子商取引よりインターネットファイナンスのほうが発達しているともいえよう。


3 中国のクロスボーダー電子商取引の動向

 クロスボーダーの電子商取引の動向というのは、いわゆる中国対外貿易のインターネット化ということである。中国電子商取引研究センターの統計数字を見ると、2015年上半期のクロスボーダー電子商の取引規模が2兆元に達し、中国輸出入貿易の重要な構成部分となっている。

 この急速な発展に伴い、クロスボーダー電子商取引業務に従事する企業も急速に成長している。現在中国でクロスボーダーの電子商取引のプラットフォームを提供する企業は6,000社を超え、またさまざまなプラットフォームを通じてクロスボーダー電子商取引を展開する企業が20万社も超えた。中国の対外貿易のパターンも、この流れので変化し続けている。日本の伊藤忠商事も2015年4月、上海自由貿易試験区を拠点とした中国におけるクロスボーダー電子商取引事業への参入に向けて中国移動通信(チャイナモバイル)などの中国企業4社と協力を始めた。クロスボーダー電子商取引について、現在草案の中では主に5条が設けられており、クロスボーダー電子商取引に対して国際的な協力、監督管理の緩和、ビッグデータの利用および個人情報の保護などを規定している。

 電子商取引を通じて、世界の経済協力がより深まるとも思われる。とりわけ中国の電子商取引の規模は年々増加傾向にあると予想され、中国の「一帯一路」も構想された以上、日中間のより一層の協力も期待できる。2015年11月の日中韓首脳会談ではFTA(Free Trade Agreement)以外にも電子商取引、技術革新、企業活動の円滑化などの分野で協力を進めることで一致したということで、これから東アジアのネット経済共同体も電子商取引を通じて、もしかしたら実現できるのではないかと思われる。


4 クロスボーダー・エクイティ・クラウドファンディングと東アジアネット経済共同体

 クロスボーダーのエクイティ・クラウドファンディング(Equity Crowdfunding)とは、クロスボーダーの投資、不特定多数の人がインターネットを経由して他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを意味する。この単語は群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語である。エクイティ・クラウドファンディングは、分散した資源と大衆の力とをインターネットプラットフォームを通じて資金調達者たちに配分するという新たなフャイナンスのモデルである。イギリスは現在、このクロスボーダーのエクイティ・クラウドファンディングに大変力を入れており、中国でも非常に注目されている。  その動向として、エクイティ・クラウドファンディングは上海自由貿易試験区で迅速に展開している。既にいくつかのエクイティ・クラウドファンディングのプラットフォームが成立し、上海証券取引所でもこれらのプラットフォームを通じて、国際的な投資の自由化を目指している。さらに、上海自由貿易試験区で、エクイティ・クラウドファンディングのプラットフォームを通じて中国の投資を呼び込むオーストラリアのモバイル電子決済会社もある。この新たな投資のモデルもまた、東アジア経済、貿易および投資における共同体の構築にも貢献できるのではないかと期待している。  このようにインターネットを通じて、貿易だけではなくて投資などの発展および国際的協力の強化も実現できるようになったが、一方で法律の問題は山積みである。それは独禁法や「電子商取引法」のような実定法の問題もある一方、国際私法のような手続法の問題もある。さらにインターネット時代における研究、つまり共同研究ネットワークの構築に関する問題もあるのではないかと思われる。




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