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知的財産権に対する独占禁止規制について
-中国の最新立法および実務の動向を中心に-


中倫律師事務所(上海市)中国弁護士 丁恒


一 独占禁止法と知的財産権との関係および各先進国の立法動向

 最近、中国では、知的財産権の濫用行為に対する独占禁止規制の強化は、非常にホットな話題になっている。最も、知的財産権の行使に対する独禁法の適用の可否については、知的財産権学者と独禁法学者との間で意見が分かれている。知的財産権はその法的性格から、そもそも独占権であり、独占禁止法の規制を受けることはロジック上通じないこと、また、知的財産権の濫用に対する規制については、知的財産権法においては、既に強制許可等の制度が設けられていることを理由に、独占禁止法による独占規制を受ける必要がないという反対意見がある。

 その一方、知的財産権は所有権等の民事権利と同様な権利であることから、独占禁止法の規制を受けるべきであること、知的財産権の権利行使は競争を排除し、自由競争等の現代社会が有している基本的価値に反する可能性があり、また、知的財産権の濫用に対する規制は、知的財産権法自体の強制許可制度や権利消尽等の規則で足りないことを理由に、独占禁止法に基づく規制を受ける必要があるという賛成意見がある。それにもかかわらず、各先進国は、知的財産権の濫用について独禁法を適用する余地があることを認めており、知的財産権の独占行為に関する立法および法律執行を既に進めている。

 1995年アメリカ司法省およびFTCは、「知的財産のライセンシングに関する反トラスト法ガイドライン」を公布した。このガイドラインは、次に掲げる三原則を確立した。

①独禁法の分野において、知的財産権をその他の財産権利と同等に取り扱うこと
②知的財産権を保有することのみをもって、市場支配的地位を推定しないこと
③知的財産権のライセンシングは、通常、競争を促進する効果があること

 EUおよび日本等は、これらの原則を学んだうえ、それぞれガイドラインを制定した。


二 中国の立法動向

 中国の「独占禁止法」の公布前、知的財産権の権利行使の濫用を規制する規定は、「契約法」、「技術契約紛争事件の審理における法律適用に係る若干問題に関する最高人民法院の解釈」および「技術輸入契約管理条例」等の関連法令に散見されている。ただし、これらの法令規定は、知的財産権の権利行使を濫用する場合の契約の効力問題を定めているが、行政処罰等、独占禁止法のような規制内容を定めていない。

 2007年8月30日に中国の「独占禁止法」は公布されており、同法第55条は「事業者が知的財産権に係る法律、行政法規の規定に基づき知的財産権を行使する行為は、本法を適用しない。ただし、事業者が知的財産権を濫用し、競争を排除、制限する行為には、本法を適用する。」としている。

 また、2015年04月13日、中国国家工商行政管理総局(SAIC)は「知的財産権濫用による競争排除・制限行為の禁止に関する規定」を採択し、同規定は2015年08月01日より施行される。これは独占禁止法からまさに8年目でようやく施行されたものだが、SAICは価格に係らない反競争的行為のみを管轄するため、当該規定も価格に係らない、競争を制限または排除する知的財産権の濫用に関するものとなる。当該規定は知的財産権の権利行使と支配的地位濫用の線引きを明確にしている。

 さらに、国家発展改革委員会は、2015年12月31日、「知的財産権濫用に関する独占禁止 ガイドライン(意見募集稿)」(以下、「NDRC草案」という。)を公表した。意見募集期間は、2016年1月1日から同月20日までとなっている。


三 NDRC草案の主要な内容

 NDRC草案においては、独占禁止法の観点から、知的財産権の行使を規制するために、基本事項および具体的な規制対象行為に関する内容を定めている。基本事項においては、特許権、商標権および著作権を適用対象と明確にしたうえ、知的財産権に関する関連市場の画定方法等を規定している。特に、知的財産権の行使が独占禁止法に違反するか否かを判断するための前提とされる関連市場については、関連技術市場、関連製品市場および関連革新市場という3つの画定方法が定められている。

 NDRC草案では、独占協定(水平的独占協定および垂直的独占協定)および支配的地位の濫用という角度から、具体的な規制対象行為の種類および違法認定要素が規定されている。水平的独占協定としては、共同研究開発行為、パテントプールおよびクロスライセンシング、垂直性独占協定としては、許諾製品の再販売価格の拘束、独占的グラントバック条項、不争義務条項およびその他の制限行為が列挙されている。支配的地位の濫用に関し、支配的地位を有する事業者による不公平に高価なロイヤリティ、許諾拒絶、抱き合わせ販売、差別およびその他の不合理な条件という規制対象行為が挙げられている。これらの規制対象行為に関し、許諾製品の再販売価格の拘束行為をコア制限行為として、当然違法原則を運用する以外、その他の制限行為について、基本的に、合理的原則を運用することになる。

 NDRC草案では、直近、ホット話題となるSEP(標準必須特許)の行使行為を規制するために、SEPの制定、SEPを保有する事業者が支配的地位を有するか否かに関する認定および差止命令の濫用禁止について、ガイドラインが定められている。

 以上のように、NDRC草案は、中国の「独占禁止法」を基に、アメリカおよびEU等の先進国のガイドラインおよび法律執行実務を踏まえ、中国における知的財産権の行使に対する独占規制に関するガイドラインを定めることから、今後、事業者の知的財産権の行使における反競争行為の規制強化は期待される。ただし、NDRC草案において多くの規制対象行為に対して認定要素のみが定めていることからすると、独占禁止法行政執行機関の自由裁量権はかなり大きいといえる。


四 最新の実務

 中国において立法が遅れているにもかかわらず、実務上、事業者による知的財産権の行使に対する独占規制に関する行政調査事件および民事訴訟事件が既に発生した。

 行政調査事件としては、SAICによるマイクロソフト社に対する調査事件、SAICによるテトラバック社に対する調査事件および国家発展改革委員会によるクアルコムに対する調査事件等が挙げられている。マイクロソフトおよびテトラバックに対する調査事件はまだに調査中であるが、クアルコムに対する調査事件は既に完了した。クアルコムに対する調査事件においては、国家発展改革委員会が、クアルコムがCDMA、WCDMA、LTE無線通信に係る標準必須特許(SEP)市場およびベースバンドチップ市場において、市場支配的地位を有し、かつ、①不公正な高額なロイヤリティの徴収、②正当な理由なしに非無線通信SEPの抱き合わせ販売および③ベースバンドチップの販売において不合理な条件の付加という濫用行為を実施したと認定し、クアルコムに対して課徴金として60.88億人民元を科した。

 民事訴訟事件としては、中国の民営企業である華為技術有限公司が、SEPを保有する事業者による市場支配的地位の濫用を理由に、InterDigital Technology Corporation、InterDigital Communications, LLCおよび InterDigital, INC.を相手取り提起した反独占訴訟事件が挙げられる。本件においては、裁判所が、華為から主張された関連市場の画定方法を認めており、つまり、中国およびアメリカの各自の地域市場において、3Gの各SEPごとに、独立の関連市場を構成すると認定したうえ、IDCが3Gの各SEPの中国市場において、市場支配的地位を有しており、略奪的な高価の設定行為および抱き合わせ販売行為という濫用行為を実施したと認定した。その結果、裁判所は、IDCに対し、濫用行為の停止、および華為への損失(2000万人民元)の賠償を命じた。

 本件においては、裁判所は、①不公平に高額のロイヤリティを設定すること、②条件の類似する取引の相手に差別的な取引条件を設けること、③ライセンス条件に不合理な条件を付加すること、④ライセンス過程において抱き合わせ販売を行うこと、⑤各種の苛酷な条件を提出する等行為を行うことによって、実質上、取引を拒絶することという要素から、FRAND条項への違反の有無を認定した。また、裁判所は、不公平な高額のロイヤリティとなるか否かを認定する際、①特許による製品への寄与率、②特許による標準への寄与率、③同様な特許について他者から徴収するロイヤリティの金額、④ライセンシーが類似特許についてその他のライセンサーに対して支払ったロイヤリティ、⑤市場経済環境および科学技術発展状況および⑥双方の前期の交渉における意思表示という要素を考慮した。これらの裁判所の考え方は、今後、類似民事訴訟事件ないし事業者内部のコンプライアンス強化等に対して重大な参考となる意義がある。




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