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互いにできることを
結集して、助け合う

日本大学法学部 准教授 矢田 尚子

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「住む」だけではない、高齢者の住まい 第3回

 第3回は、高齢者の視点に立って、今後国がどう動いていくのか、現在どんな形の支援があるのかをお聞きします。そして、弁護士の方にも携わってほしいリーガルサービスの必要性についても語っていただきます。



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「地域包括ケアシステム」の
構築を目指して

――高齢者の方が望む生活の場所は、どこなのでしょうか。

矢田 2015(平成27)年度の介護保険法改正の主な内容として、「地域包括ケアシステム」の構築の実現があります。「地域包括ケアシステム」とは、重度な要介護状態となっても、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで継続できるように、医療、介護、予防、住まい、生活支援を切れ目なく一体的に提供する仕組みをいいます。今回の改正では、介護、医療、生活支援、介護予防サービスの更なる充実・強化を図ることで、「地域包括ケアシステム」の構築実現を目指しています。

 そのために、従来の地域支援事業の枠組みを活用しながら、在宅医療・介護連携の強化や、認知症施策などを推進することで、この支援事業の一層の充実を図るのと同時に、これまでの介護予防訪問介護、介護予防通所介護を地域支援事業に移行させることで、より地域の実情に応じた効果的、効率的なサービス提供を行い、それによって住み慣れた地域で高齢者を総合的に支えようとしています。

 たとえば、多くの高齢者が最期の場所として希望する自宅で過ごせるように、2015(平成27)年度から、在宅医療・介護連携推進事業が進められています。これは、住民にとって身近な区市町村が主体となって、地域の医師会などと連携しながら在宅医療、看護の連携推進に取り組む事業です。実施可能な市町村はすでに、2015(平成27)年4月から取組みを開始しており、2018(平成30)年4月にはすべての市町村で実施する予定となっています。
 各市町村が実施する事業項目としては、地域の医療・介護の資源の把握と活用、多施設連携のための協議会の開催、多職種連携のための研修、24時間365日の切れ目のない在宅医療と在宅介護の提供体制の構築推進、地域包括支援センターやケアマネなどに対する支援、退院支援ルールの策定、地域住民への普及啓発、在宅医療・介護連携に関する関係市町村の連携が挙げられています。

 さらに、認知症になっても、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らしが継続できるよう、早期・事前的な対応を基礎に据えた認知症施策なども推進されています。
 まさに「地域包括ケアシステム」の構築実現に向けての多角的な環境整備が今後最大の課題になるといえます。とはいえ、これからますます厳しくなるといわれている介護保険財政の状況などを踏まえると、施設から在宅へと移行しようとしても、特に身寄りのいない、高齢者単身世帯などの在宅ケアなどをめぐっては困難が予想されます。そうすると、住民が主体となって地域の中で知恵を出し合い、互いの力を結集してやっていくしかない。それを支え、援助するためにも、行政による総合的な「地域包括ケアシステム」構築実現に向けての施策が重要になってくるのです。


――大幅に増加している「サ高住」が担う役割は何でしょうか。

矢田 今後「サ高住」などの高齢者の住まいが地域包括支援の拠点になってくるといわれています。拠点になるためには、「サ高住」などの高齢者の住まい自体がきちんとした品質を保つことが大切です。コンプライアンス体制を整え、地域に向けて発信する。あるいは介護の専門知識やサービスなどを広く提供する役割を担うなど、「サ高住」などへの期待は大きいです。「サ高住」などの高齢者の住まいについては、周辺の地域の実情を踏まえながら、うまく地域とつながり連携をとること、そしてそのためにも地域との橋渡しの役割を担えるような人材の育成が今後、大事なことになってくると思います。

 また、内部統制の面でも、食事、介護サービスをグループ企業内で受注・発注するといったクローズドな体質を改善し、地域でサービスを提供する他の事業者についても、「サ高住」で受け入れるようにすると、これまで以上に風通しも良くなると思います。

 地域の外部事業者が提供するサービスの利用や地域の医療や介護とも連携を図りながら、地域ぐるみで「サ高住」などの運営をしていく。これが「サ高住」などの高齢者の住まいをさらに多様な形で発展させていくための基本だと考えています。


中立的に高齢者を支える
「シニアライフ情報センター」

――どの高齢者の住まいに入ったらいいか分からなくて困っている方に対しては、どんな支援の形がありますか。

矢田 一例として「シニアライフ情報センター」(注1)の活動を紹介します。「シニアライフ情報センター」は、紹介先のホームなどからは紹介手数料は受け取らず、会員の方の会費を活動の資金として、消費者目線で相談に乗り、高齢者の「在宅からの住み替え」のお手伝いをしているNPO法人です。平成4(1992)年の発足以来、高齢者の安心居住を目指し、消費者の視点から、高齢者の住まいの情報を幅広く集めています。機関誌の発行を通じての情報提供、セミナー・見学会の開催、電話・面談による個別相談、さらに希望があれば、見学の同行、契約の立ち会い、契約書のチェックなども行っています。

 また、最近では、身寄りがない人や保証人や身元引受人が立てられないというケースも増えているとされ、今後、大きな問題になってくるといわれています。そういったケースでは、例えば、成年後見制度(注2)などをうまく利用することで解決できることもあります。

 事業者が保証人などを求める背景には、入居費用などの支払いを確保したいという面と、入居後、入居者の病態などが変化したときなどの対応の方針や入居者が死亡した後の一連の事務処理などの場面で相談できるキーパーソンを確保しておきたいという2つの側面があります。そこで、保証人や身元引受人にはならなくても、それに近い役割を果たせる存在として、専門職後見人に期待が寄せられています。そのような状況の下、「シニアライフ情報センター」では、新たに「後見支援部門」を立ち上げ、サポートの幅を広げています。

 なお、「シニアライフ情報センター」の後見支援の特徴としては、一般的な後見業務のほか、後見に移行するまでの間の見守り支援や、死後の事務処理手続などにも対応していることにあります。さらに、支援内容の見直しや、後見に移行するといった重要な判断が求められる場面では、専門職や会員の方などで構成される第三者機関によるチェックが入るといった透明性の高い仕組みも備えています。

 また、「シニアライフ情報センター」の一番のポイントは、最初に述べたように、ホームなどの事業者からは紹介手数料をとらずに、会員からの会費を活動資金として情報提供をしていることです。紹介手数料などを取ると、高齢者の住まいに対する評価の中立性が保ちにくいという理由からです。

 そして、専門家のネットワークも強みの一つです。私も委員会や勉強会などでご一緒させて頂いた縁から関わり始めましたが、住み替え相談の内容の幅広さに驚かされました。住み替え先の情報を紹介するといっても、住み替え相談が進む中で、自宅を売却処分する話が生じ、それに派生して税金の問題がでてきたり、あるいは保証人を探すことになったりと、とにかく住まいに付随して法律問題も含め、いろいろな問題が生じるということを知りました。その中で、私個人は住まいの制度や契約書に関することで多少ではありますがお手伝いをさせてもらいつつ、勉強をさせてもらっています。そのほかにも、税理士、弁護士、司法書士、行政書士といった専門家とネットワークを作って情報共有しながら、「シニアライフ情報センター」がワンストップの相談窓口になる仕組みが作られています。


後見だけでなく、
気軽に法律相談できる形を

――親の介護をしたり、または今後することになる読者の方も多いと思います。ぜひ、メッセージをお願いします。

矢田 以前に比べて現在は、高齢者の住まいにまつわる相談窓口も増え、また、ネットなどを通じて情報も簡単に入手できるようになっています。けれども、その分、正確かつ自分自身にとって必要な情報を選びだすことも難しくなっています。その意味では、公的な自治体でも近年、さまざまな情報提供をしているので、まずはお近くの市区町村の窓口や地域包括支援センターなどに、気軽に相談をしてみるのもよいかと思います。


――法律の専門家である弁護士の方への期待について、お聞かせください。

矢田 弁護士さんなどには、もっと、高齢者の住まいの問題の世界に入ってきてもらいたいですね。後見業務から相続につながることもありますし、また、後見が始まる前までの見守り支援もあります。住み替え先の検討や介護サービスなどを利用するといった場面において、もっと気軽に法律相談のできるような機会があったらいいなと思っています。本当に基本的なこと、契約書や重要事項説明書がどれほど大事な書類なのかといったことや契約時に何を尋ねておくべきかといったことなどについて、おそらく高齢者の方は理解していないことも多いので。

 これって法律相談? というぐらいの単純なところから、弁護士さんなどにかかわってもらえたら、と思っています。高齢者の方からの相談は、後見に限らずいろいろな相談があるので、その時に弁護士さんなどともネットワークがつながっていれば、その後のトラブルを予防でき、その方の最後のときを支え、守ることができると考えています。

 高齢者の問題は、紛争になってから弁護士さんなどが入ってくるのではやはり遅いのです。紛争になる前、予防の段階で入っていくことがとても重要だと思っています。例えば、弁護士さんなどがコンプライアンスの知識を持っていても、高齢者にサービスを提供する事業者はコンプライアンスの知識が乏しい場合もあります。そうしたところに、もっと弁護士さんなどが入っていって、基本的な法律知識を知らせてもらえたらと思います。

 また、高齢者の住まいに住み替える際の入居契約書のチェックは弁護士さんなど法律の専門家の得意領域です。高齢者が当事者となる契約では、法律知識を持っている第三者が立ち会うことで、事業者、入居者ともに、入居後に大事になってくるポイントを理解し、確認することができると考えています。確かに、一つ一つの仕事は、高い報酬は生まず、むしろ、面倒だなと思われるようなことも多いので、簡単なことではないとは思います。けれども、判断能力に自信がなくなり、身体的にも弱り、不安な思いが募る場面でこそ、気軽に弁護士さんなどになんでも相談できる仕組みがあったらいいなと思っています。


 文/冨岡由佳子
 取材・写真/木村寛明(BIZLAW)




※注

(注1)シニアライフ情報センター
URL http://www.senior-life.org/

(注2)成年後見制度
認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な方を保護し、支援する制度。具体的には、不動産や預貯金などの財産管理、介護などのサービスや施設への入所に関する契約、遺産分割の協議の際の支援などを行う。すでに判断能力が低下している方を対象とした法定後見と、現在はお元気で、将来万が一判断能力が低下した場合に備えたいと考えている方を対象とする任意後見とがある。




 この連載記事を読む
  「住む」だけではない、高齢者の住まい/矢田 尚子(日本大学法学部 准教授)

矢田 尚子

Profile

矢田 尚子 [日本大学法学部 准教授]

神奈川県出身。千葉大学大学院修了。
専門は民法、住宅法。中央建築士審査会、よこはま多世代・地域交流型住宅整備・運営事業者選定等委員会等の委員を務める。主な著書『高齢者居住法』(信山社、2003年、共著)、『集合住宅・住宅金融の危機管理』(ぎょうせい、2009年、共著)等。




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