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意外と知らない、
高齢者の住まいを考える

日本大学法学部 准教授 矢田 尚子

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「住む」だけではない、高齢者の住まい 第1回

 「超高齢社会」(注1)と言われて久しいですが、高齢者の住まいの種類や課題について知らないことは、意外と多いのかもしれません。今回お話をお聞きするのは、主に高齢者の住まいの契約問題を研究されている、日本大学法学部准教授・矢田尚子先生です。
 初めて聞く言葉が多いことや、制度が複雑で難しいところもありますが、自分が介護する側・される側になったら…と考えると、知っておきたいお話ばかり。高齢者の住まいにまつわる問題について3回にわたって、お届けします。



高齢者が安心して
暮らせる住まいはないのか

――矢田先生の専門分野についてご紹介ください。

矢田 民法が専門です。民法というのは、私人間の関係を規律する私法の一般原則です。中でも居住用不動産、住まいを対象とした紛争問題に興味があります。住まいというのは、家族の暮らしの拠点であって、単なる財産・物を超えたものだと思っています。住まいとそこで暮らす家族の生活から生じる問題に関心があります。

 大学では、物権法のほか、親族・相続法(家族法)などを担当しています。ただ、民法の講義の中で住まいをめぐるトラブルを直接扱うことは少なくて、賃貸借の話題くらい。個人的には、この賃貸借が、今一番興味のある分野です。

 人と人が契約を結んで建物を借り、住まいを確保し、そこで安心して暮らす。そのようなことは、ごくあたり前のことように思うかもしれません。けれども、そのごく当たり前のことでも、高齢者が賃貸住宅に入居しようとすると、火事を起こすのではないか、保証人や身寄りがいないなどの理由で入居を断られてしまうことがあります。高齢者にとって、安心して暮らせる場所はないのか・・・。

 一方で、住宅のオーナーが安心して高齢者に物件を貸せる状態も作らないといけない。そういう貸す側や借りる側の問題が存在することを知って、最近は主に賃貸借を中心とした「高齢者の住まいにまつわる契約問題」を研究しています。


――そもそも、高齢者の住まいの問題に取り組もうと思ったきっかけは何ですか。

矢田 もともと「居住の保障」や「居住権」とは何かということにすごく興味があって、大学院生の頃に夫婦の居住用不動産をめぐる居住の保障について修士論文を書きました。たとえ離婚したとしても、現在、住んでいる(夫名義の)住み慣れた住まいに妻や子が住み続けるという選択肢はないのか。当初は、女性、特に専業主婦の離婚後の住まいの確保や、財産分与に絡む問題を研究テーマにしていました。

 その後博士課程に進み、指導教授が変わり、その指導教授から「この研究テーマではいつか限界が来るから、より広がりのある他の研究テーマを見つけなさい」と言われました。しかし、結局なかなかテーマが見つからなくて、大学院の博士課程を休学しました。その間に祖父が要介護状態になって。そこで、近くで暮らす母と叔母が毎日介護する状態が続きました。姉妹二人がすぐ傍にいたからなんとか最期まで看取ることができましたが、仮に家族の一人だけがすべてを抱えることになったら、とても大変なことだなと思いました。

 ちょうどその頃、平成12(2000)年に介護保険法(注2)、平成13(2001)年に高齢者住まい法(注3)が施行されました。施設は数が限られているし、介護が必要でも施設に入るほどでもはない、でも自宅で生活するのは難しい。そうした方のための住まいがもっと必要ではないか、という議論が出ていました。

 そのような中、私の指導教授が、平成15(2003)年に厚生労働省が設置された「介護を受けながら住み続ける住まい」のあり方に関する研究会の委員になりました。そして、この住まいの筆頭に挙げられたのが有料老人ホームでした。

 タイミングよく有料老人ホームの入居契約について研究を始めていたため、指導教授の口添えでオブザーバーとして私も委員会に参加させてもらうことになりました。委員会の中では、居住の権利の保障という面から建物賃借権と有料老人ホームの利用権の違いや、有料老人ホーム入居契約をめぐる法的問題点について報告しました。


――当時の法改正の動きもあって、高齢者の住まいの問題に関わるきっかけができたのですね。

矢田 はい。制度的には、その後、高齢者住まい法が改正され、平成17(2005)年から「高齢者専用賃貸住宅」(注4)(以下、「高専賃」)の登録が始まりました。高齢者住まい法が施行された当時は、高齢者の入居を拒否しないけれども、一般的な賃貸住宅にすぎない「高齢者円滑入居賃貸住宅」(注5)(以下、「高円賃」)を提供する事業者の登録制度しかありませんでした。
 しかし、実際には、高齢であることを配慮したバリアフリー住宅でないと、住み替えは難しいという事情もあり、「高円賃」より高齢者専用のバリアフリー化された賃貸住宅を提供する事業者の登録制度として、「高専賃」ができました。

 このような制度の変化の中でいくつもの委員会が発足し、その中で、先の研究会のつながりで高齢者の住まいで実際に利用している契約書を調査するという貴重な機会を頂きました。そのため、高齢者の住まいの問題について、私個人は何かの突出した専門家というわけではありませんが、「高専賃」から「サービス付き高齢者向け住宅」(注6)(以下、「サ高住」)になるまでの一連の流れの中で、実際に実務で用いられてきた契約書を、おそらく一番多く見ている存在ではないかと思います。


――高齢者の住まいの研究を始めてから、どんなことを感じていますか。

矢田 法学部で勉強していた頃は法律ありきで、社会的な課題を現行の法律にただあてはめるだけの勉強をしていたにすぎませんでした。ところが現実には、法の整備が求められる分野や法を含む複数の分野にまたがる問題がまだまだたくさんあるということがわかってきました。高齢者にまつわる問題もその一例といってよいでしょう。介護保険が始まって、サービスを受けるための契約の重要性が高まり、福祉分野にも法律知識が求められる場面も増えてきました。
 ところが、福祉分野における介護保険をはじめとした契約にまつわるトラブル事例のいざ研究をしたくても、当時は公表裁判例も少なく、満足のいく判例研究もできない状況でした。けれども、実務に携わる方々の話をきくと、法的解決が求められるようなトラブルがいくつも起きていることがわかりました。訴訟に至らなくても、実はさまざまなトラブルが現場では起きており、法的にも検討すべきことの多い、やりがいのある分野だと感じています。


公的施設の
「介護保険3施設」とは

――高齢者の住まいについて、現在の大まかな状況を教えてください。

矢田 国は、高齢者が重度の要介護状態になっても、住み慣れた地域で生活を継続できるように、住まい、医療、介護、予防、生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステムの構築」を目指しています。これによって在宅医療・介護サービスが充実し、多くの高齢者が望む自宅での最期を迎えることができるとされています。

 一方、高齢者の単身、夫婦のみの世帯は今後ますます増えて、在宅生活の継続が難しいケースはなくならないでしょう。そうしたケースの受け皿となる住まいが、「特別養護老人ホーム」(特養)などの公的施設です。ただ、財政難や用地不足で、今後数が増えることは期待できない状況です。


――聞き慣れない言葉が多いですが、高齢者の住まいはいくつも種類があるのですね。分かりやすくご紹介をお願いします。

矢田 公的施設として、「介護保険3施設」があります。根拠法である介護保険法で認められています。

 1つ目は、「介護老人福祉施設」(以下、特養)。65歳以上で、身体上、精神上の著しい障害があって、常時介護が必要で、在宅介護が難しい方を対象としています。昨年の介護保険法改正で、在宅生活が難しい中重度者の要介護施設に特化することになったので、新規入所者は原則、要介護3以上となります。

 2つ目は、「介護老人保健施設」(以下、老健)。病状は安定していて入院治療の必要はなく、介護、リハビリが必要な高齢者に対して、看護、医学的管理の下、集中的に機能訓練などのサービスを提供します。元気になって自宅へ戻ることを目指す、病院と自宅の中間に位置づけられる施設です。原則3か月、長くて1年程度の短期利用が予定されていますが、「特養」が不足しているなどの理由で、長期化する傾向にあります。

 3つ目は、「介護療養型医療施設」。長期にわたる療養が必要な要医療・介護者を対象としています。介護および機能訓練、医療サービスを提供します。「老健」への転換を目指し、平成23(2011)年度末で廃止予定でしたが、金額が安いこともあってなかなかニーズが減らず、廃止期限が平成29(2017)年度末まで延長されました。

 その他に「介護保険3施設以外」として、「養護老人ホーム」、「軽費老人ホーム」、「認知症高齢者グループホーム」というものがあります(図参照(注7))。

(第2回に続く)


 文/冨岡由佳子
 取材・写真/木村寛明(BIZLAW)




※注
(注1)「超高齢社会」
高齢化率(総人口に対する、65歳以上の人口が閉める割合)が21%を超えた社会。日本は平成19(2007)年に21.5%、平成27(2015)年には26.7%となり、過去最高を更新。

(注2)介護保険法
加齢による心身の疾病などで介護や支援が必要になった人が、その能力に応じて自立した日常生活を営むために必要な保健医療サービス・福祉サービスを受けられるよう、国民の共同連帯による介護保険制度を創設。介護保険料の徴収、給付の条件や給付サービスなどの詳細を定める。平成9(1997)年制定、平成12(2000)年施行。

(注3)高齢者住まい法
「高齢者の居住の安定確保に関する法律」。高齢者向けの良質な住宅の供給を促進し、高齢者が安心して生活できる居住環境を実現するための法律。高齢者向けの住宅を供給する事業者の認定、賃貸住宅の基準の設定、融資や税法上の優遇、終身建物賃貸借制度の実施などを定める。平成13(2001)年施行。 平成23(2011)年の改正により、バリアフリー構造で、介護・医療と連携して高齢者支援サービスを提供する「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)の登録制度が創設された。

(注4)「高齢者専用賃貸住宅」(高専賃)
高齢者の入居を拒まない「高齢者円滑入居賃貸住宅」(高円賃)のうち、専ら高齢者を対象とする住宅。高齢者居住法に基づき平成17(2005)年に制度化。

(注5)「高齢者円滑入居賃貸住宅」(高円賃)
高齢者の入居を拒まない賃貸住宅。平成13(2001)年施行の高齢者居住法に基づき、対象となる住宅の登録・閲覧制度が開始された。

(注6)「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)
平成23(2011)年の高齢者居住法改正によって創設された。国土交通省、厚生労働省の共管制度。バリアフリー構造で、安否確認、生活相談サービスを提供する「サービス付き高齢者向け住宅」の都道府県知事への登録制度。基準に適合した賃貸住宅を建設する事業者に対して、建設、改修費の補助や融資、税制優遇措置がある。 平成23(2011)年の高齢者居住法改正で、「高齢者専用賃貸住宅」(高専賃)、「高齢者向け優良賃貸住宅」(高優賃)とともに、「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)に一本化された。

(注7)図参照
独立行政法人国民生活センター発刊の『月刊国民生活』。同センターのWeb上で、矢田先生の「高齢者向け住まいを考える―契約を中心に―」連載記事公開中。
▼公的施設一覧の図(URL : http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201510_05.pdf




この連載記事を読む
 「住む」だけではない、高齢者の住まい/矢田 尚子(日本大学法学部 准教授)




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