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スポーツ中継のブラックアウト
(アメリカの視聴者によるクラスアクション)
(後編)

一般社団法人GBL研究所 理事 宮田 正樹

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スポーツビジネスと法 第8回(後編)

労働法、独占禁止法、契約法、著作権法、商標法……。これらさまざまな法律が複雑に絡み合う、世界でもっともポピュラーなビジネスがあります。それが「スポーツ」ビジネスです。日頃、私達が観賞しているこのスポーツにこ そ、その国ならではのビジネス課題や法律問題が潜んでいます。この連載では、スポーツビジネスと法に関する研究の第一人者である宮田正樹先生に、「スポーツビジネスと法」と題して連載をいただきます。
連載第8回、タイトルは「スポーツ中継のブラックアウト(アメリカの視聴者によるクラスアクション)」です。



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テレビ放映ビジネスに対するクラス・アクション

クラス・アクションとは、多数の共通する(少額の)損害賠償権をもつ者(この権利を有する人々の層を「クラス:class」と呼びます。)のうち一部の者が、全員のために原告(class representativeまたはlead plaintiff)とな って訴訟を提起し賠償を得ようとする訴訟形態です。
(本稿の中編)では、実況テレビ放映の地域別独占的市場を形成しているMLBおよびNHLのテレビ放映ビジネスに対して、2012年に視聴者から反トラスト法違反のクラスアクションが提起された経緯を解説しました。
引き続き、2012年5月19日付訴状の概要を説明します。

本件(MLBに対する訴訟)での原告、被告は以下のとおりです。

《原告》野球ファン4名
Fernanda Garber, Marc Lerner, Derek Rasmussen, Robert Silver
(Fernanda GarberとRobert SilveはNHL等に対する訴訟でも代表原告です)
Fernanda Garber(ケーブルテレビMVSDであるComcastのユーザー)とRobert Silver(衛星放送MVSDであるDirectvのユーザー)の2名は、全国のテレビ放送の視聴者層全員(「Television Class」と呼んでいます)を代表する原告です。インターネット配信・MLB.TVのユーザーであるMarc LernerとDerek Rasmussenとの2人は、全国のMLB.TVユーザー層全員(「Internet Class」と呼んでいます)を代表する原告です。


《被告》 MLB関係団体・球団およびDirecTV, Comcastなど


《原告の主張する訴因:COUNT》
訴因1:シャーマン法第1条違反(Television Classの請求)
In-market gameの実況テレビ放映に関する水平的競争制限

試合の対戦両球団の所在地域(HTT)での実況テレビ放送(In-market game)は当該チームが放映権を有し、専属RSNに独占的にHTT内で放送させている(他地域への放送は禁じている)。また、他地域から同一の試合の放送・配信が流れ込むことをブラックアウトしている。これらは、球団間での市場分割に相当し、水平的競争制限でありシャーマン法第1条に違反する。

訴因2:シャーマン法第1条違反(Television Classの請求)
Out-of-market gameの実況テレビ放映に関する水平的競争制限

In-market game 以外の実況テレビ放映(全国ネット放送を含む。「Out-of-market game」という。)については、各球団ではなくリーグが一括して独占的にコントロールしており、放映権を有している。本来各球団が個別に保有する放映権をリーグに一括してコントロールさせることは、Out-of-market gameの市場に関する水平的競争制限でありシャーマン法第1条に違反する。

訴因3:シャーマン法第1条違反(Internet Classの請求)
Out-of-market gameのインターネット配信に関する水平的競争制限

Out-of-market gameのインターネット配信についても、本来各球団が個別に保有するものであるにもかかわらず、リーグに独占的配信権を保有させている。これも請求2と同様Out-of-market gameの市場に関する水平的競争制限でありシャーマン法第1条に違反する。

訴因4:シャーマン法第2条違反(All Classの請求)
MLBの試合の実況放映については、テレビ放映およびインターネット配信市場に私的独占状態が形成されている


《原告の請求(救済)》
・損害賠償
・違反行為の差止

【原告の主張のポイント】
原告は、上記のMLBのテレビ放映ビジネスの仕組みは、MLBを構成するリーグ(中心となるのは、コミッショナー事務局)と各球団、Major League Baseball Enterprises Inc.やMLB Advanced Media L.P.などの系列企業、テレビ局( 全国ネットテレビ局、ケーブルテレビ局、専属RSNなど)が契約により共謀することにより形成されており、そこには明らかな競争制限状態あるいは私的独占状態が形成されており、消費者(視聴者)に次の1~3のような損害を与えていると主張しています。

1.HTT(In-market)では、地元球団の試合の実況テレビ放送は専属RSNの独占市場となっており視聴者に選択の余地がない。当該試合が全国放送や対戦相手の地元などの他地域でテレビ放送されており、その放送の信号がHTT内に届いていてもブラックアウトされるからである。この状態では、地元専属RSNには競争原理が働かず、地元球団の実況テレビ放送を視たい視聴者は専属RSNの配信料の高止まりを甘受しなければならないことになる。

2.全国規模での実況テレビ放送については各チームではなくリーグが一括して放映権の許諾権を持ち(独占している)、空中波のCM付きテレビ放送(日本の民放と同じスタイル)については全国ネットテレビ局と契約して限定した試合数の放送を許諾している。しかし、その放送の信号がHTT内に届いていても、地元球団の試合の場合はブラックアウトされる。HTT内の視聴者がOut-of-market gameの実況テレビ放送にアクセスする手段は、MLB自身が提供している2つのサービス、つまりMVSDを経由して提供される「MLB Extra Inning」という有料の衛星放送またはケーブルテレビ番組とMLB.TVによるインターネット配信(これも有料)になるのだが、これらのサービスにおいてもHTTでは地元球団の試合はブラックアウトされる。しかも、「MLB Extra Inning」やMLB.TVによって自分の好きな特定チームの試合だけを見ようと思っても、そのような選択は許されず、見たくもないチームの試合も含まれているフルセット のパッケージでしか契約できない(見たくもないチームの試合の分まで料金を負担させられている)。

3.インターネット配信はMLB.TVでしか提供しておらず、明白な独占市場であり、競争がないため料金が高止まりしている。

【その後の推移】
(1)2012年6月4日 裁判所がMLBの事件とNHLの事件とは関連していると認め、同時並行して係属していくことにしました。この時点でのMLB/NHL両訴訟の関係図・関係者相関図は下図の通りです(クリックで拡大します)。


 1.png

(2)2012年12月5日 裁判所は両被告が申し立てていた却下請求(motion to dismiss)(※)を却下しました。

(※)通常、原告が提訴開始したばかりの(「訴状」(complaint)を出した)段階において、被告側が「答弁書」(answer)を提出する際かその前に、原告の請求を却下するように裁判所に請求する手続で、事物・対人管轄権の欠如、裁判地の不適正、訴状・呼出状の不適切、送達の不適切、救済が与えられうるような請求の原因を主張していないこと(motion to dismiss for failure to state a claim upon which relief can be granted)などを主張します。

被告サイドは2012年7月27日に共同で却下請求(joint motion to dismiss)を申し立てましたが、その棄却すべきとする理由は下記の6点でした。

① 原告は被告の行為に関する「競争阻害性」を明らかにしていない。
② 原告としての適性に欠ける。
 (1) 原告は「直接購入者」でない(Illinois Brick判例の引用→後述(3)参照)。
 (2) 原告が被ったという損害なるものは、原告が主張する被告等による水平的共謀との関係は薄く且つ遠い。
 (3) Garberは「MLB Extra Inning」の契約者ではないので原告適格性を欠く。
 (4) 代表原告のうち4名は、「以前の契約者(現契約者ではない)」なので原告適格性を欠く。
③ MVSDおよびRSNがどのような競争阻害行為を行ったのか明らかにされていない。
④ MLB/NHLの行為は(各球団・チームの共存共栄を目指すという)スポーツリーグ・ビジネスの核心部分であり、反トラスト法違反を構成しない。
⑤ 原告は、いかなる「市場」において競争が阻害されたのかについて、「市場」の定義を明確化していない。
⑥ 「私的独占(シャーマン法第2条)」の主張は的を射ていない。
 (1) 競争阻害性の明らかにしていない。
 (2) 関係者間での「共謀」の存在を明らかにしていない。
 (3) 「独占」の必要要件を明確にしていない。

裁判所は上記①〜⑥の被告の主張をほぼ全て退けましたが、次の2つについては被告側の主張が認められています。

・OOMパッケージの購入者(契約視聴者)ではなかったので原告適格性がないとされたGarberとHermanとは二人がいずれも代表原告となっていたMLBを相手とする訴訟およびNHLを相手とする訴訟の両方で代表原告から除外された。また、同じくSilverはMLBを相手とする訴訟の代表原告から除外された(これら除外された代表原告には、適格性を有する者が代わりとして充当されている)
・RSNとMVSDとは、「私的独占」問題(訴因4)に関しては被告から除外された

なお、上記④の被告側主張を退ける際に、裁判所が次のように論じていることは注目されます。すなわち、

被告(MLB/NHL)は各球団・チームの保有する放映権を一括独占的にリーグがコントロールしOOMパッケージを制作販売することは競争阻害性を有しないというが、スポーツ放送法で反トラスト法の適用除外を受けているのは「sponsored telecasting(スポンサーのコマーシャル付き空中波のテレビ放映)であって、OOMパッケージには適用されず、OOMパッケージの独占的販売そのものが競争阻害的であるという原告の主張は相当であると認められる。

【却下の決定の表書き部分の写し】


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(3)2014年8月8日 被告MLB・NHL側から申立てられていたサマリー・ジャッジメント(summary judgment:正式事実審理を経ないでなされる判決=法律問題だけを判断する判決)の請求が裁判所により拒絶されました。サマリー・ ジャッジメントの請求とは、原告または被告側が、それまでの証拠開示手続き(”discovery”)で明らかになった事実に照らせば、原告(または被告)の言い分に理由があることが明々白々であるので、事実審(”trial”)の前 に、自分を勝たせる判決を出して下さい、と裁判所に申し立てることです。

〔被告側の申立〕
1.MLBについてはBaseball Exemptionが適用される
2.「合理の原則(rule of reason)」により判断すると、競争促進的な側面が勝るとして許される範囲にある
3.原告の主張する損害と被告の行為との間には因果関係がない
4.Television Classには「イリノイ・ブリック判例」が適用されるので原告は損害賠償を請求できない

〔裁判所の判断〕
1.「Baseball Exemption」について:
SCHEINDLIN裁判官は「Baseball Exemption」は「保留制度」に関してのみ適用されるべきであるとして、その射程を縮減して判断しました。

(理由)
Toolson事件の判決でも裁判所は「保留制度」についてしか言及していない(原告側が、「放送の地域制限」についても触れていたが、裁判所は、判決においては、この問題については特に触れていない)。
1961年のスポーツ放送法(Sports Broadcasting Act of 1961)において、わざわざ「the organized professional team sports of football, baseball, basketball, or hockey」と野球(baseball)を対象として明示しており、「全国テレビ放映」の取決めだけに反トラスト法の適用除外を限定している(野球に全面的な適用除外が認められるのであれば、「全国テレビ放映」にだけ限定して立法されたスポーツ放送法の適用対象業種として、わざわざ野球を加える必要はないではないか、つまり野球に対して全面的な適用除外が認められているわけではないのだと理解せざるを得ない)。Flood事件の判決でも、 「保留制度」についてしか言及しておらず、「“reserve system enjoying exemption from the federal antitrust laws,” and “Congress as yet has had no intention to subject baseball’s reserve system to the reach of the antitrust statutes.”」(「保留制度は連邦反トラスト法の適用除外と享受する」、そして「議会はこれまでのところ野球の保留制度を反トラスト法の適用範囲とする意思はない」)と明記している。

2.「合理の原則」について:
MLBおよびNHL(リーグ被告:League Defendants)は、被告等の行為が競争促進的であることを充分に理由づけておらず、合理の原則に基づきサマリー・ジャッジメントを求める資格はないとしました。また、MVSDおよびRSN(テレビジョン被告:Television Defendants)については、リーグ被告が主導する垂直的共謀に関与していなかったことを充分に説明しておらず、また利益を得るためにテレビジョン被告間で水平的共謀があったことは明らかであるとして、サマリー・ジャッジメントを求める資格はないとしました。

3.損害との「因果関係」について:
原告は、被告が(野球やアイスホッケーの実況テレビ放映の)市場において強い影響力を持ち、被告等の行為により価格や供給量あるいは品質に悪影響を与えたことを疎明しているので、この段階ではそれで十分であり、被告は(損害との因果関係が立証されていないとして)サマリー・ジャッジメントを求めることはできないとしました。

4.「イリノイ・ブリック判例」について:
「イリノイ・ブリック判例」とは1977年の連邦最高裁判決(Illinois Brick Co. v. Illinois, 431 U.S. 720 (1977))を指します。「イリノイ・ブリック原則(”Illinois Brick doctrine”)」とも呼ばれ、カルテルにかかる製品の間接購入者は原告適格を有しないものとされ,間接購入者たる原告の訴え却下を求める申立てが被告にとって有力な防御方法となったものです。

下図の例を基に説明すると、レンガ・メーカーAがメーカー間のカルテル(価格拘束行為)によりレンガの価格を高く設定して販売した場合、Aから直接購入した者(例では建設業者B)はAに対してカルテルにより上乗せされたAの違法な利益部分を損害賠償請求することができるが、Bを経由して購入した者(間接購入者:例では家の注文主C)は、Aに対して損害賠償請求することはできないとするものです。その理由は次の通りです。

中間業者(例ではBしか居ないが)が多数存在する場合、その間の求償関係が複雑で算出し難いことと、関与者に二重賠償のリスクが生じる(例でいうと、AはBからもCからも損害賠償請求を受けることになる。また、BとCとの間に中間業者Xが存在していた場合には、Bはその直接購入者であるXと間接購入者であるCとの両方から損害賠償請求を受けることになる。

したがって、購入者は、自分が当該商品またはサービスを直接購入した相手(直接の販売者)に対して、それぞれその購入価格に転嫁された違法な利益(Aの違法な利益部分)を損害賠償請求することしかできないことにするというものです。


 3.JPG

本件では、Television ClassはRSNやMVSDを経由して間接的に実況放映を購入(視聴)している間接購入者であるから、MLBやNHLに対して損害賠償請求することはできないというのが、MLBおよびNHLの主張でした。しかし、 SCHEINDLIN裁判官は「流通過程の中間業者がカルテルの共謀に関わっていた場合には、当該共謀に関わっていなかった最初の購入者は、当該共謀と違法利益の存在を立証し得たなら、メーカーにも中間業者にも損害賠償を請求する 」とする判例(Paper Systems Incorporated v. Nippon Paper Industries Co Ltd. 281 F.3d 629 (7th Cir. 2002))を引用して、リーグ被告の主張を退けました。

【請求拒絶の決定の表書き部分の写し】


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(4)2015年5月14日 裁判所より原告の主張のうち損害賠償請求についてはクラスの適格性が認められないとの判断が出ました(差止請求はクラスの適格性を認める)。

クラスアクションの手続要件については米国連邦民事訴訟規則(”Federal Rules of Civil Procedure”)の第23条(Rule 23)に(a)〜(h)の8項目に分けて定められています。このうち最も主要な要件である(a)と(b)について説明します。

Rule 23(a) Prerequisites(必要条件)

クラス〈構成員〉の一人またはそれ以上のメンバーは、以下の4つの条件を満たした場合にのみ、代表原告としてクラスアクションを起こすことができる:

(1) クラスの人数が各人の事件を併合して訴訟することが困難な能な程に多数であること〈numerosity;多数性〉
(2) クラスに共通する法律上又は事実上の争点が存在すること〈commonality:共通性〉
(3) 代表原告の請求又は防御方法がクラスの請求又は防御方法として典型的であること〈typicality;典型性〉
(4) 代表当事者がクラスの利益を公平かつ適切に守るであろうこと〈adequacy of representation;代表の適切性〉

Rule 23(b) Types of Class Action (クラスアクションの類型)

上記(a)の条件が満たされることに加え、以下の(1)〜(3)のいずれかの場合にクラスアクションとして訴訟を維持することができる:

(1) 個々のメンバーによる、または、個々のメンバーに対する個別の訴訟がなされた場合には、次のようなおそれ(リスク)が生じるとき:
A 個々のメンバーについて矛盾するまたは異なる判断が下され、全メンバーが被告に対して統一的な行動基準を立てることができなくなる、または
B 個々のメンバーに対する判断・判決が、実際問題として、当該判断・判決に関わっていないメンバーの利益まで処分することになる可能性がある、あるいは、当該判断・判決に関わっていないメンバーが自己の利益を守る能力を実質的に損なったり、妨げることになる

(2) 被告がクラス全般に通用する理由により成した作為または不作為の結果、クラス全体として差止請求(injunctive relief)又は宣言的判決(declaratory relief)を求めることが適切な場合

(3) 裁判所が、クラスのメンバーに共通する法律上または事実上の争点が個々のメンバーのみに影響する争点に対して支配的であること(predominance;支配性)及び紛争を公平かつ効率的に裁定するにはクラスアクションが他の利用可能な手段に優越していること(superiority;優越性)を認定する場合。この裁判所の認定には、次の事項が含まれる:
A クラスのメンバーが個別に別の訴訟として遂行または防御することの利益
B クラスのメンバーにより、または、クラスのメンバーに対して既に提起された争いに関する訴訟の範囲及び性質
C 訴訟を特定の法廷に集中することが望ましいか否か
D クラスアクションを維持管理していくことが困難か否か

裁判所は以上を検討した結果、下記のとおり認定しました。

(I) Rule 23(a)については、原告はこれを備えていると認定
(II) Rule 23(b)(2)については、原告はこれを満たしていると認定。したがって、差止請求(injunctive relief)又は宣言的判決(declaratory relief)を求める訴訟としては係属できる。
(III) Rule 23(b)(3)ついては、原告の主張する損害の根拠(原告側の専門家が提出した損害モデル)は信頼性に欠けるとしてこれを否定。したがって、損害賠償訴訟としては係属することはできない。

上記(Ⅲ)の認定により、原告は損害賠償請求ができないことが確定したため、原告としては以後の訴訟戦略の見直しを迫られることになりました。

【損害賠償請求は認められないとする決定の表書き部分の写し】


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(5)2015年9月1日 NHL訴訟について和解が成立・確定しました。

(和解条件)

① NHLは、贔屓(ひいき)の1チームの試合だけを観ることができるパッケージをフルパッケージの20%引きの価格で創設する。このパッケージは、ケーブルテレビやMVPD(ComcastやDIRECtvなど)によるテレビ番組である「NHLCenter Ice」とインターネット配信による「NHL Gamecenter Live」のそれぞれについて創設する
② 早期契約価格(「early-bird」)を前年度(2015年度)よりも17.25%値引きする
③ ComcastとDIRECtvは、NHL Center Ice の2シーズン契約確約者に3週間の無償視聴期間を設ける
④ 4人の代表原告には各1万ドルが被告側から支払われる
⑤ 原告側弁護士団には総額650万ドルの弁護士費用が被告側から支払われる
⑥ ホームマーケットのブラックアウトは維持される

MLBに関しては、NHLの和解後も訴訟を係属しており、法廷での審理(Trial)が2016年1月18日に開始されることになっていました(ここでお気づきのように、2012年から3年以上の長きに亘りディスカバリーのやり取りが続いていたのです)。ところが、

(6)2016年1月11日、MLB訴訟についても当事者間で和解案がまとまり、同年同月22日付で判事の予備承認(preliminary approval)を得ました。

(和解条件)

内容は、2016年1月19日付の「CLASS ACTION SETTLEMENT AGREEMENT 」による:

① MLB.TVの2016年度の視聴料を$109.99とし(2015年度は$129.99)、MLBはこの価格を2020年までの各年度において3%またはCOLA(cost of living adjustment:生計費調整率)(※)のいずれか高い方の率を超えて値上げしてはならない

(※)cost of living adjustment:生計費調整 「生計費調整」とは、賃金決定の際などに、物価上昇に伴う生活費の上昇分を予想しており込むこと、すなわち、賃金の物価スライド制のことを指すのが一般的ですが、ここでは、(社会保障の)生計費調整(「連邦社会保障法Federal Social Security Act」の下における「社会保障年金OASDI」と「連邦補足保障所得制度SSI」に対する生計費調整)のことを指しており、2017年度は0.3%と発表されています。

② ComcastとDIRECtvは、「MLB Extra Innings」の価格を2015年度に比べ12.5%値下げした価格で2016年および2017年は提供するものとする

③ MLBはMLB.TVに視聴者のお好みの1球団だけの試合を提供するパッケージ「Single-Club Programming」を創設し、$84.99で提供する。この価格も2020年までの各年度において3%またはCOLAのいずれか高い方の率を超えて値上げしてはならない

④ MLBは、ComcastとDIRECtvにも、「MLB Extra Innings」のラインナップの中から視聴者のお好みの1球団だけの試合を提供するパッケージを提供させる。その価格はフル・ラインナップの価格の80%を超えないものとする

⑤ MLB.TVの契約者で且つMVSDまたは地域のRSNからIn-Market gameを視聴している人に対して、当該視聴者の選んだその視聴地域外をHTTとする1球団の試合で且つその球団の専属RSNが作成した実況中継番組(ローカルゲーム番組)を、その試合が当該球団のHTTで行われている試合であっても、視聴することができる「Follow-Your-Team」というMTV.TVのオプション・パッケージを、そのパッケージ作りに関係するMSVDやRSNの同意を条件に、2016年から創設するようにする。このオプション・パッケージは当該球団の対戦相手が視聴者の居住地域をHTTとする球団であったとしてもブラックアウトされないものとする。このオプション料金は、2016年で$10.00(①の一般パッケージとの合計で$119.99)とし、この価格も3%またはCOLAのいずれか高い方の率を超えて値上げしてはならないものとする

⑥ MLBは、2017年のシーズン開始までに「In-Market Streaming」(各球団のHTT内でなされるローカルゲーム番組のインターネット配信サービスを指し、以下「IMS」といいます。)を実現すべく、ComcastやDIRECtv、RSN等の同意を得るべく努力する。もし、予定どおりにIMSを始めることができなかった場合には、MLBは①(MLB.TV)、③(Single-Club Programming)および⑤(Follow-Your-Team)おいて認められている範囲での値上げをすることができなくなるものとする
⑦ MLBは、いずれのMVSDも視聴できない環境にある住民(MLBファン)に対し、ケーブルや衛星、インターネットなど当該状況に適した方法でMLBの試合の実況番組が視聴できるよう配慮する

⑧ 4人の代表原告には各1万ドルが被告側から支払われる。(和解の時点では次の4名:Marc Lerner、Derek Rasmussen、Garrett Traub、Vincent Birbiglia)

⑨ 原告の代理人弁護士団には、$1,650万ドルの弁護士料(訴訟費用含む。)が被告側から支払われる

⑩ ⑤の「Follow-Your-Team」による例外を除き、ホームマーケットのブラックアウトは原則として維持される

【和解契約書案の表紙部分】


 6.JPG


以上、「放映権ビジネス」というMLBやNHLの経営の根幹に関わる問題が争われた事件は、和解という形で一応の政治的決着がつけられたわけですが、われわれ日本人としては、一般市民が訴訟(本件ではクラスアクション)という司法手段を利用して、ビジネスや社会システム上の「不都合」の除去・改変を実現していくことが現実に行われているというアメリカ社会のダイナミズム、法制度の妙に感心せざるを得ません。
なお、本稿では敢えて近年の巨額放映権収入の金額には触れていませんが、NFLを筆頭に4大プロスポーツの放映権収入は、彼らの入場料収入を上回り、高騰の一途を辿っています。その金額や高騰の理由については稿を改めて解説したいと思っています。

なお、放映権ビジネスにおける最大の成功者はNFLなんですが、実は2015年にNFLに対しても反トラスト法違反のクラスアクションが提起されています。DIRECtvにより販売(放送)されている「Sunday Ticket」というパッケージが独占的であり不当に高額であるというのが原告側の主張です。

このクラスアクションは、カリフォルニア州やニューヨーク州で起こされた15件の同種の訴訟を2015年12月10日にカリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所に一本化して争われました。原告は、「Sunday Ticket」の契約視聴者である個人やスポーツ・バーなどの事業者で、被告はNFL(及びその関係会社)とDIRECtvです。しかし、被告側が申し立てたmotion to dismissが2017年6月30日に裁判所に認められ、2017年7月13日に棄却決定がなされました。原告がNineth Circuitに控訴し、本年になり書類提出手続が始まっています。




編集/八島心平(BIZLAW)






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 スポーツビジネスと法 / 宮田 正樹(一般社団法人GBL研究所 理事)

宮田 正樹

Profile

宮田 正樹 [一般社団法人GBL研究所 理事]

一般社団法人GBL研究所 理事、二松学舎大学国際政治学研究科。1971年大阪大学法学部卒。同年伊藤忠商事株式会社入社。同法務部等を経て、株式会社日本製鋼所法務専門部長兼法務グループマネージャーを歴任。2013年9月末日を以て同社(日本製鋼所)を定年退職。同年10月より一般社団法人GBL研究所理事。2004年より二松学舎大学大学院で「企業法務」について、2008年より2016年2月まで帝京大学で「スポーツ法」について、それぞれ非常勤講師として教鞭を執る。主著に『リスク管理と契約実務』(共著 第一法規、2004年)、『知的財産のビジネス・トラブル Q&A』(共著 中央経済社、 2004年)『リスク管理と企業規程の作成・運用実務』(共著 第一法規、2008年)『プロスポーツ経営の実務』(共著 2011年 創文企画)『現代企業実務 Ⅰ(国内企業法務編)』(共著 2014年 大学教育出版)『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(共著 2014年 レクシスネクシス・ジャパン)『グローバルビジネスロー 基礎研修 Ⅰ 企業法務編』(共著 2015年 レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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