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スポーツ中継のブラックアウト
(アメリカの視聴者によるクラスアクション)
(前編)

一般社団法人GBL研究所 理事 宮田 正樹

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スポーツビジネスと法 第8回(前編)

労働法、独占禁止法、契約法、著作権法、商標法……。これらさまざまな法律が複雑に絡み合う、世界でもっともポピュラーなビジネスがあります。それが「スポーツ」ビジネスです。日頃、私達が観賞しているこのスポーツにこそ、その国ならではのビジネス課題や法律問題が潜んでいます。この連載では、スポーツビジネスと法に関する研究の第一人者である宮田正樹先生に、「スポーツビジネスと法」と題して連載をいただきます。
連載第8回、タイトルは「スポーツ中継のブラックアウト(アメリカの視聴者によるクラスアクション)」です。



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 今回はアメリカにおけるプロ・スポーツのテレビ放送の仕組みについてのお話です。


テレビによる実況放送への対応

 第6回「テレビの放映権って誰が持っているの?」(前編)で紹介したように、アメリカにおけるスポーツの実況テレビ放送は1939年にスタートしました。

●アメリカで最初のスポーツテレビ放送 NBC
 1939/05/17 大学野球:Columbia Lions vs Princeton Tigers (at Columbia‘s Baker Field)

●MLBで最初のテレビ放送 W2XBS (NBC)
 1939/08/26 Cincinnati Reds vs Brooklyn Dodgers (at Ebbets Field in Brooklyn)

●アメリカで最初の大学フットボールテレビ放送(NBC)
 1939/09/30 Fordham vs Waynesburg College (at Triborough Stadium in New York)

●NFLで最初のテレビ放送 (NBC)
 1939/10/22 Philadelphia Eagles vs Brooklyn Dodgers (at Ebbets Field in New York)

 ラジオ放送が始まった頃もそうであったように、MLBやNFLなどスポーツ事業者側は観客の減少につながるとして、テレビ放送を認めることには消極的でした。ラジオの場合は映像を伴わないため想像をかき立てるので、その実況放送は新たなファン・観客の開拓につながることが分かってくるとともに各球団はラジオ局との結びつきを積極的に進めるようになり、特に野球とラジオとはベストマッチの時代を迎えます。

 それでも、MLBの初代コミッショナー:ケネソー・マウンテン・ランディスが1936年に各チームに「自己の試合のラジオ放送を他のチームのテリトリー(支配地域)に放送させることを禁止する」(当該テリトリーにおいて行われる試合の観客の減少を引き起こすことを避けるため)、という決定を下しています。

 映像を伴うため観客席で見るのに近い体験ができるテレビ放送による集客への悪影響は、ラジオの比ではないとして、スポーツ事業者はラジオの実況放送以上にテレビの実況放送をおそれました。

【MLBの対応】
 MLBは1946年その規約に「各チームは、自己のホーム地域(”home territory”)に存在する放送局から、自己の行う試合(ホーム、アウェイいずれの試合も)ラジオ放送やテレビ放送することができる。」が、「自己のホーム地域外の放送局に対しては、メジャー/マイナー問わず他のチームのホーム地域に、当該他のチームの同意を得ずに、自己の試合を放送することを許諾してはならない。」という規定(Major League Rule 1 (d))を定めました。なお、「ホーム地域(”home territory”)」とは「ホーム球場の中心から半径50マイル(約80.5km)の範囲をいう」とされています。(これがMLBの「ブラックアウト(blackout)」ルール(※1)の始まりです。)

 この規定の制定理由はメジャーの試合をテレビで見る方を選択し、マイナーリーグの試合を見に行く観客が減少することを防ぐ、すなわち、マイナーリーグの保護を目的とするものであるというのがMLBの主張でした。

 ところが、1949年、上記規定(Rule 1 (d))は「不当な取引制限」であるとして反トラスト局(Antitrust Division, Department of Justice:DOJ)の調査を受けることになりました。
 そこでMLBは同条項を「当該他のチーム(メジャー/マイナー問わず)が、当日、当該チームのホームまたはアウェイの試合をそのホーム地域の放送局から放送している間は、当該他のチームの同意を得ずに、自己の試合を放送することを許諾してはならない」という形に変更することで一旦DOJの了承を得ました。

 しかし、DOJの追求は止まず、1951年に再度の調査を受けたMLBは、Rule 1 (d)を取り消し、マイナーリーグの保護を外した形の規定に作り替え、現在のブラックアウト・ルール(※1)のベースとなるものにしました。

(※1)ブラックアウト(blackout)
英語「blackout」には「灯火管制」「停電」その他さまざまな意味がありますが、スポーツのテレビ中継に関して使われるときには、「停電」のときのように「テレビ画面が黒く塗りつぶされて何も見ない状態」にすること、すなわち当該番組を視聴者が見られないようにすることをいいます。実際には「ブラックアウト中です」という画面が映し出されますがね。以下で説明するように、MLB、NHL及びNBAとNFLとではブラックアウトのやり方が異なっています。

(ブラックアウトの画面の例)
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【NFLの対応】
 NFLもその規約(bylaws Article X)においてテレビ放送の制限規定を大略次のように定めていました。

いずれのチームも自己が行っている試合を、当日ホームの試合を行っている他のチームのホーム地域(”home territory”)内の放送局から、当該他のチームの許諾を得ずに、ラジオやテレビ放送をさせてはならず、また、当該他のチームがアウェイの試合をしており、その試合をホーム地域内の放送局から放送させているときも、当該他のチームの許諾を得ずに、ラジオやテレビ放送をさせてはならない。

 なお、「ホーム地域(“home territory”)」とは、NFLの場合、ホーム都市の範囲ならびにその外周75マイル(121km)四方を指すと規約で定めているので(“the city in which [a] club is located and for which it holds a franchise and plays its home games and includes the surrounding territory to the extent of 75 miles in every direction from the exterior corporate limits of such city”)これはかなり広い範囲です。

 しかし、この規定もDOJにより「不当な取引制限」であるとされ、訴訟の結果、裁判所は「アウェイの試合に出ているときには、ホームにおける入場料収入はあり得ず、他チームの試合が放送されることによる損失は生じない」ので、上記規定の後半部分は反トラスト法違反であると判示しました。〔United States v. NFL, 116 F.Supp. 319 (1953)〕
 なお、この判決で、同条項に定められていたラジオ放送の制限とコミッショナーの放送契約に関する拒否権(※2)も反トラスト法違反とされました。

 そして、この判決に関して1953年12月28日に下されたFinal Judgmentの第5項において「(NFLは)ラジオ放送やテレビ放送が行われる地域を制限する目的を持った契約をリーグや各チームとの間でしてはならない」と明示されています。

(※2)拒否権を定めた条文:Section 1 (a)
The sponsor, the contract itself and the broadcasters who telecast or broadcast such games must have the written approval of the Commissioner of the National Football League;
〔訳〕試合をテレビやラジオで放送するスポンサーや、契約そのもの、放送局については、NFLのコミッショナーの書面による承認を要するものとする。

 なお、上記条項の如何を問わず、NFLの各チームはホームスタジアムにおいて行う自己の試合については当該都市内でのテレビ放送を禁じていました。これは、もちろん観客の減少(=入場料収入の減少)を防ぐためで、1973年まではすべてのホームゲームに適用されていました。



NFLとテレビ放送

(1) NFLと反トラスト法
 前記DOJとの訴訟〔United States v. NFL, 116 F.Supp. 319 (1953)〕において、NFL側はMLBに下された1922年の連邦最高裁判決「Federal Base Ball Club v. National League」などを引用し、スポーツビジネスには反トラスト法は適用されないと主張しましたが、この主張に対して裁判所は「(これらMLBの反トラスト法適用除外の判例は)プロ野球それ自体の活動に関するものであり、プロ野球そのものが州際取引であるかどうかが問われたものである。本件のようにラジオやテレビの放送権の売買に関わるものではないので、比較にならない。本件で問題となっているのは、放送権の売買に関するNFLのリーグとしての取引制限であるので、NFLの興行そのものが州際取引に該当するか、あるいはNFLが州際取引をしているかの論議は必要ない。」として、NFLによる反トラスト法の適用除外の主張を退けました。

(2) ラドヴィッチ事件〔Radovich v. National Football League, 352 U.S. 445 (1957)〕
 この事件の連邦最高裁判決により、NFLその他のプロリーグ(MLBを除く)には反トラスト法が適用されることが明確化しました。事件の概要は次のとおりです。

 1946年、NFLのデトロイト・ライオンズの選手であったビル・ラドヴィッチ(Bill Radovich)は西海岸に住んでいる病気の父親の近くに居たいので、西海岸のチームにトレードに出すか、もしくは定期的に父親の元に帰れるようにもっと給料を上げて欲しい、どちらもダメだというなら新興リーグのAAFC(All-America Football Conference)に移籍することも考えざるを得ない、とオーナーに願い出ました。しかし、その願いはオーナーに却下されただけではなく、「もし新リーグ(AAFC)でプレーしようと考えているなら、5年間NFLのブラックリストに乗せてやる!」と通告されました。しかし、父親への想いを断ち切れなかったラドヴィッチは、翌年AAFCに移籍して”Los Angeles Dons”で1946年と1947年の2年間プレーしました。その後、彼はNFLのマイナーリーグのチーム(”San Francisco Seals”)からプレイング・コーチとして招かれたのですが、その契約締結の土壇場でNFLのブラックリストに載っていることが明らかになり、契約には至らず、結果的にNFLから締め出されてしまったのです。

 1949年になり彼はNFLを相手取り「ブラックリストによる再雇用の制限を定めた制裁条項は反トラスト法違反である」として裁判を起こしました。この訴訟は最高裁まで争われました。1957年に最高裁はラドヴィッチの訴えを認め、MLB以外のすべてのプロスポーツには反トラスト法が適用されると判決しました。また、この判決文では、野球(MLB)に反トラスト法が適用されないという過去の判例は、合理的でなく違法であり合衆国の法体系に明らかに矛盾しているとも述べています。

 連邦最高裁の上記判決の結果、ラドヴィッチの訴えはその損害賠償額を定めるべく地裁に差戻されたのですが、訴訟に疲れたラドヴィッチは、金銭的にもそれ以上訴訟を継続する余裕はなく、$42,500の和解金でNFLと和解する道を選びました。

 しかし、この連邦最高裁判決はNFLのテレビ放送権ビジネスに大きな影響を与えることになります。

(3) スポーツ放送法の制定
 後に「伝説のコミッショナー」と呼ばれるようになったピート・ロゼール氏が33歳の若さでNFLのコミッショナーに就任したのは1960年のことでした。


(ピート・ロゼール)

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 彼がコミッショナーとなって最初に目をつけたのは、当時は各チームが個別にテレビ局と交渉し、締結していたテレビ放送権でした。
 ロゼールは、リーグが全チームの総代理人としてテレビ局と交渉することができれば、交渉力は強くなり、テレビ放送権の許諾料(放送料)をつり上げることができると踏んだのです。
 チームでなくてリーグが一括して管理しテレビ局と契約する理由としては、「リーグ全体の共存共栄」にあると理論づけました。各チームが個別にテレビ局と交渉していたら人気チームに放送料収入が偏在化してしまい、チームの戦力格差がどんどん広がる結果、ファンの興味をそぎ、リーグ全体としての人気の凋落につながるので、放送料収入をリーグでプールしたうえで、各チームに均等に分配することにより、チーム間の資金力・戦力の格差をミニマイズする必要があるというのです。

 1961年4月24日、NFLは全国ネットテレビ局CBS(Columbia Broadcasting System)とこの方式で独占的放送契約を取り交わしましたが、ラドヴィッチ判決や先述のDOJとの訴訟判決〔United States v. NFL, 116 F.Supp. 319 (1953)〕を踏まえて、NFLはこの契約が反トラスト法に違反していないことの確認を求める訴訟を起こしました。
 しかし、1961年7月20日、ペンシルバニア連邦地裁は、これを違法としました。具体的には、1953年の判決によって禁止された項目、すなわちFinal Judgmentに定められた「リーグやチームと放送する地域を制限する契約を締結してはならない」という禁止項目に違反しているというのです。反トラスト法違反とした本旨は、リーグによる一括交渉が、各チームによる放送権の販売競争の場を喪失させている(経済活動の自由を奪っている)ということでしょう。

 このように裁判で敗れ、CBSとの契約は一旦待ったがかかりましたが、ロゼールは、裁判所外でその逆転に全力をそそぎました。
 すなわち、ロビー活動によりリーグ一括のテレビ放送権交渉を反トラスト法の対象外とする法律(「スポーツ放送法:Sports Broadcasting Act」)を制定させることを目指したのです。このときロゼールは「NFLは社会の公共財である」というコンセプトを打ち出し、議会に対してロビー活動を展開したのです。具体的には、「パント・パス&キック」(Punt Pass & Kick)という8歳から15歳までの青少年を対象とした草の根活動を始めるなどして、全米にあるNFLチームは、それぞれの地域の子供たちが健やかに成長していくための機会を提供している、と熱弁を振るったのです。

 こうした主張もあって、1961年9月30日に「スポーツ放送法」(Sports Broadcasting Act of 1961)が制定されました。(15 USC Chapter 32 §1291~1295)(※3)

 この法律の制定によりNFLとCBSとリーグ一括の全国放送契約は、翌1962年に年間US$4.65百万の対価で正式に締結されました。以後、NFLのテレビ放送契約はリーグ一括の全国放送契約を原則とするものとなっており、チームが個別に放送局と契約することはありません。

(※3)「スポーツ放送法」による反トラスト法適用除外の対象
下記の条文(§1291)にあるように、この法律により反トラスト法の適用除外を受ける対象は「スポンサー付テレビ放送」(in the sponsored telecasting of the games)と明示されています。1961年当時は地上波のスポンサー付番組のテレビ放送が大勢であり、ケーブルテレビはまだその普及の萌芽の時期でした。しかしながら、現在ではケーブルテレビや衛星放送など地上波以外のメディアで、しかもスポンサー付番組ではなく視聴者が対価を支払う有料放送方式のものがアメリカでは大勢を占めています。 また、適用対象外の事業を、「(アメリカン)フットボール、野球、バスケットボール、(アイス)ホッケー」の「プロチーム」と明記されていること、すなわちNCAAなどの学生スポーツは対象外であること、”baseball exemption”のはずの「野球」がわざわざ記載されていることに留意願います。

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(4) 72時間ルールの採用
 現在のNFLのブラックアウト・ルールは1973年に制定されたNFL独自のもので、「試合開始72時間前までにチケットが完売しない場合、スタジアムを中心に半径75マイル(=約121km)の円周内(これを”local market”と呼んでいます。)ではローカルテレビ放送を行わない」というものです。

 先に述べたように、1972年シーズンまでは、リーグの決勝戦やスーパーボールを含めNFLの全試合は、対戦チームのホーム都市でのテレビ中継放送は、それまでに入場券が完売しようがしまいが、ブラックアウトされていました。
 ところが、1972年シーズンにおいてワシントン・レッドスキンズが27シーズンぶりのプレーオフ進出をかけた試合を行うことになりました。そこで、ときの大統領・ニクソンはじめとする政治家たちはレッドスキンズの試合をテレビで見たいと切望しましたが、NFLのブラックアウト・ルールはレッドスキンズのホーム都市であるワシントンDCでのテレビ放送を許しません。ニクソンの命を受けたクラインディーンスト司法長官がピート・ロゼ−ルにブラックアウトを外すよう嘆願(忠告?)しましたが、ロゼ−ルは聞き入れませんでした。

 そこでクラインディーンスト司法長官はロゼ−ルに対し「そんなことしていると、議会はNFLに対する反トラスト法の適用除外措置(スポーツ放送法など)を見直すことになりかねないよ!」と脅しを掛けることになります。これに対してはさすがのロゼ−ルも抗うわけにはいかず、1973年1月14日に開催される第7回スーパーボールは試験的にブラックアウトを適用しないことにするという妥協案を提示しました(この試合はAFCチャンピオンであるマイアミ・ドルフィンズとNFCチャンピオンであるワシントン・レッドスキンズの対戦だったのです)。

 しかし、議会はこれに満足せず、1973年シーズンの開幕前に、「すべてのプロリーグは、試合開始前72時間前までに試合のチケットが完売された場合には、いずれの地域においてもその試合のテレビ放送を妨げることはできない」とする「Public Law 93-107」を2年間の時限立法として制定しました。この立法の趣旨は、必要以上のブラックアウトを規制すると共に、NFLの各チームの入場料収入の低減を防ぐという目的の範囲においてはこれを認めようという考えに基づくものでした。時限立法である同法は、1975年12月31日に、その定めるところにより終了しましたが、NFLは以後も自主的にこのルールを採用し続けました。

 テレビスポーツの色彩が強いNFLがこうしたルールを堅持しているのは意外な気もしますが、その裏にはスポーツマーケティングの定説に忠実なNFLの姿勢があります。

 スポーツリーグ経営では、①チケット販売、②テレビ放映権、③スポンサーシップ、④マーチャンダイジング/コンセッション(飲食販売)が4大収益源と言われていますが、②~③はチケットが売れて(理想は完売)初めて売上げが伸びる性質の収益領域なので、とにかく①チケット販売を伸ばせ、ということなんです。

 なお、人気上昇トレンドの続くNFLのチケットは試合開始までには完売されることが多く、ブラックアウトされる率も大幅に減少してきたこともあり、チケットが手に入らなかった人々から「テレビでも見られないとは何ごとか!」というクレームが殺到しはじめたため、2012年シーズンからブラックアウト・ルールを変更することにし、72時間前にチケット全体の85%を売り上げればブラックアウトが回避できるようにしています。


(ローカルTVでのブラックアウト率変遷を示すグラフ)

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(5) ブラックアウト・ルール撤廃か?
 NFL(レギュラーシーズンで各チーム年間16試合)に比べると年間の試合数の多いMLB(レギュラーシーズンで各チーム年間162試合)など他のリーグはチケットが完売されるような事態はめったに起こらないため、「Public Law 93-107」に定められた72時間前にチケットが完売されていないことを条件とするテレビ放送のブラックアウト・ルールを採用するリーグはなく(※4)、この時限立法は実質的にはNFLを対象としたものでした。したがって、NFLが自主的に72時間ルールによりブラックアウト・ルールを運用している限り、連邦通信委員会(Federal Communications Commission:FCC)としては地上波テレビ放送に関するブラックアウト・ルールを定めた立法は必要ではなかったのです。

(※4)MLBの各チームはむしろホーム地域に所在する地元テレビ局に地元独占的なテレビ放送権を与えることにより、その独占的放送権の対価を得ることを選びました。そして、全国ネットのテレビ放送を始めた後は、全国ネット局のテレビ番組として流されるチームの試合については、そのチームのホーム地域では見られなくする(地元テレビ局が行う実況中継でしかその試合は見られないようにする)という「ブラックアウト・ルール」を採用しました。NHLやNBAもMLBとほぼ同じルールを採用しています。


しかし、1975年頃には、アメリカにおけるケーブルテレビの普及が始まっており(1971年6月までに、アメリカのケーブルテレビ施設は、2,750施設、590万世帯に達しています。)、ケーブルテレビ局がブラックアウトの抜け穴としてブラックアウト地域にケーブルで空中波の実況放送を流すことが懸念されるようになっていました。
 そこでFCCは1975年にケーブル・スポーツブラックアウト・ルール(”cable sports blackout rule”)としてCFR Title 47 §76.67(後に§76.111に改番)を制定しました。
 これは、ケーブルテレビに対してブラックアウト・ルールの適用を定めたもので、スポーツイベントが開催されている地域において当該イベントの実況テレビ放送がブラックアウトされている場合には、当該地域の「所定の範囲(”specified zone”)」に所在するケーブルテレビ局はその実況放送をケーブルで流してはならないとするものです。この「所定の範囲」とは、原則として、当該ケーブル局がFCCにより開設の免許または許可を得た地域における基準点(具体的には§76.3に緯度と経度で定められています)を中心に半径35マイル(56.3km)の円周内とされています。

 その後、衛星放送プロバイダー、オープン・ビデオシステム(”Open Video System”:OVS)(※5)などテレビ放送配信手段が拡大するにつれ、順次ケーブルテレビと同種の網(条項)がかぶせられていきました。

(※5)オープン・ビデオシステム(”Open Video System”:OVS)
ATT(日本ならNTT)など電話会社による電話線や光ケーブルを経由したビデオ配信サービス


 このようにFCCによる法律で守られてきたNFLのブラックアウト・ルールでしたが、昨今のNFLの興行の成功ぶり、興行収益以上の金額($60億)をテレビ放送権ビジネスから得ているNFLのビジネスモデルの変化などを勘案し、2014年9月30日、FCCはこれら法律に定めるブラックアウト条項を撤廃することを決定しました。

 これを受け、NHLは2015年シーズンは試験的にブラックアウト・ルールを適用しないこととし、2016年シーズンも不適用を継続することにしました(法律の裏付けがなくなっただけで、ブラックアウト・ルールが違法とされたわけではないので、これを続けるか否かはNFLの判断によるわけです)。
 しかし、2017年シリーズ以降についてどうするか(完全撤廃とするかを含め)については、本稿の執筆時点(2017年4月20日)では未発表です。

***


さて、次回は「MLBとテレビ放送」の関係の変遷を、事例を追って見ていくことにしましょう。お楽しみに。





編集/八島心平(BIZLAW)



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 スポーツビジネスと法 / 宮田 正樹(一般社団法人GBL研究所 理事)

宮田 正樹

Profile

宮田 正樹 [一般社団法人GBL研究所 理事]

一般社団法人GBL研究所 理事、二松学舎大学国際政治学研究科。1971年大阪大学法学部卒。同年伊藤忠商事株式会社入社。同法務部等を経て、株式会社日本製鋼所法務専門部長兼法務グループマネージャーを歴任。2013年9月末日を以て同社(日本製鋼所)を定年退職。同年10月より一般社団法人GBL研究所理事。2004年より二松学舎大学大学院で「企業法務」について、2008年より2016年2月まで帝京大学で「スポーツ法」について、それぞれ非常勤講師として教鞭を執る。主著に『リスク管理と契約実務』(共著 第一法規、2004年)、『知的財産のビジネス・トラブル Q&A』(共著 中央経済社、 2004年)『リスク管理と企業規程の作成・運用実務』(共著 第一法規、2008年)『プロスポーツ経営の実務』(共著 2011年 創文企画)『現代企業実務 Ⅰ(国内企業法務編)』(共著 2014年 大学教育出版)『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(共著 2014年 レクシスネクシス・ジャパン)『グローバルビジネスロー 基礎研修 Ⅰ 企業法務編』(共著 2015年 レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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