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施設の名称は
誰が付けるのか? (中編)

一般社団法人GBL研究所 理事 宮田 正樹

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スポーツビジネスと法 第7回(中編)

 労働法、独占禁止法、契約法、著作権法、商標法……。これらさまざまな法律が複雑に絡み合う、世界でもっともポピュラーなビジネスがあります。それが「スポーツ」ビジネスです。日頃、私達が観賞しているこのスポーツにこそ、その国ならではのビジネス課題や法律問題が潜んでいます。この連載では、スポーツビジネスと法に関する研究の第一人者である宮田正樹先生に、「スポーツビジネスと法」と題して連載をいただきます。
 連載第7回、タイトルは「施設の名称は誰が付けるのか?」(中編)。



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 前編では、主にアメリカにおけるネーミングライツ状況を見てきました。歴史的に見ると2度のスポーツ施設建設ブーム(1970年〜1980年代、1990年〜2000年代)を背景とするネーミングライツの活性化がありましたが、実は、リーマン・ショックからの立ち直りが始まった2010年頃から第3次ネーミングライツブームとも呼ぶべき状況が生じています。 2010年1月から2011年8月の20か月間に、NHL(6件)、NFL(4件)、MLS(メジャーリーグ・サッカー)(3件)、NBA(2件)そしてMLB(0件)とMLSを含めると15件のネーミングライツ契約が成立しています。

 次の3大ラグジュアリー・ネーミングライツは、第3次ブームの象徴のようなスタジアムです。

〔CITI Feild〕
場所:Queens、 N.Y.
ホームチーム:New York Mets (MLB)
スポンサー:Citigroup
契約金額:$400百万
期間:20年間(2028年まで)
年額:$20.0百万


Citi_Field.JPG  Le Citi Field.jpg

〔MetLife Stadium〕
場所:East Rutherford、 N.J.
ホームチーム:New York Jets/New York Giants (NFL)
スポンサー:Metropolitan Life Insurance
契約金額:$425百万〜$625百万
期間:25年(2036年まで)
年額$17百万〜$20百万

Metlife stadium (Aerial view).jpg MetLife Stadium Exterior.jpg

〔AT&T Stadium〕
場所:Arlington、 Texas
ホームチーム:DALLAs Cowboys (NFL)
スポンサー:AT&T
契約金額:$400百万
期間:20年(2033年まで)
年額:$20.0百万

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 さて、本稿では、日本の法制におけるネーミングライツの法的性格について解説した上で、ネーミングライツに関するさまざまな制約や問題点を見ていきます。


ネーミングライツの法的性格

命名権とは

 そもそも「施設に名前を付ける権利」というものが法律上存在するのかというと、そんなものはありません。建物や建築物の対外的な呼称を何とするかは(名前を付けないことを含め)所有者の自由です。更に言うと、何と呼ぼうと呼ぶ人の自由です。でも、それぞれ勝手な呼称を使っていると、当該建物を特定するという本来の機能を果たさなくなりますよね。

 子供の名前は、親が命名するのが一般的ですが、その命名権の保有・行使については議論が分かれており法学的な定説はありません。事実上は、親(又はそれに代わる人)が命名し、出生届を提出することになります。名前そのものは「子の名前に使用できない漢字」を用いるなどがなければ原則自由に命名することができます。
 戸籍法では、第50条第1項で「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない」とし、第2項で「常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める」としています。そして、ここでいう法務省令に当たる戸籍法施行規則(第60条)において「常用平易な文字の範囲」を<常用漢字>、<人名用漢字>、<ひらがな又はカタカナ>としています。なお、届け出た名前が、社会通念上不適当と認められる場合には、戸籍の届け出が受理されないことがあります(1993年8月、「悪魔」ちゃん命名事件)。当然ながら、戸籍登録上は、他人と同一の名称が登録されることを拒むことはありません。

 建物の名称は法定の登記事項ではありませんが、建物を特定する際に有用であるために付されているときは、登記事項とされています。(不動産登記令第3条第1項8号)
 例えば、区分所有建物の一棟の建物に「ミヤタマンション」とか、区分建物に「101号」とか名称が付けられている場合がそれに当たります。

 登記の申請をする場合に登記所に提供しなければならない申請情報の内容の1つとして、不動産登記令第3条第1項8号に次のように定められています。(赤字部分に注目)

建物の表示に関する登記又は建物についての権利に関する登記を申請するときは、次に掲げる事項

  • イ 建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番(区分建物である建物にあっては、当該建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番)
  • ロ 家屋番号
  • ハ 建物の種類、構造及び床面積
  • ニ 建物の名称があるときは、その名称
  • ホ 附属建物があるときは、その所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番(区分建物である附属建物にあっては、当該附属建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番)並びに種類、構造及び床面積
  • ヘ 建物又は附属建物が区分建物であるときは、当該建物又は附属建物が属する一棟の建物の構造及び床面積(トに掲げる事項を申請情報の内容とする場合(ロに規定する場合を除く。)を除く。)
  • ト 建物又は附属建物が区分建物である場合であって、当該建物又は附属建物が属する一棟の建物の名称があるときは、その名称

 以上のように、施設の命名権そのものは、法律で認められた権利というわけではありませんが、ネーミングライツの意義・効果としては、当該施設に大きくその名称を掲げる(物理的に取り付ける、書きつける)ことが非常に重要であり、その行為の諾否は当該施設の所有者が持つ「所有物の使用、収益及び処分をする権利」の一部であり、所有者の同意がネーミングライツ取得の大前提となります。


商標権との関係

 建物・施設の名称は「商標」ではありません。しかし、その名前(文字・ロゴマーク)を当該施設・建物で行われている営業(サービス)や取り扱われている商品の商標として商標登録することは可能です。

 日本においては商品に付されるマークのみを対象とした商標登録制度が長く続いていました。これに新たにサービス(役務)を表示するマークも商標登録可能とされたのは1991年(平成3年)の商標法改正によります。従来の「商品商標」に加え、「役務商標」(英語での呼び方を採って「サービスマーク」と通称されています)の登録による保護が登場したわけです。この改正法は、1992年(平成4年)4月から施行され、以後多くの事業者・個人がサービスマークの登録を行っています。

 商標の国際分類表によると、第1類から第34類までが「商品」の分類区分であり、「役務(サービス)」の分類区分は第35類から第45類までとなっています(※1)。

(※1)国際分類表
 国際分類表とは、ニース協定に基づいて作成された、商標登録のための商品・サービスに関する加盟国共通の分類表のことです。英語版とフランス語版が正文とされており、日本では英語版が採用されています。ニース協定(正式名称は「正式名称は、標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関する1957年6月15日のニース協定」)は、商標やサービスマークを登録する際に商品・サービスについて各国共通で使える国際分類を作ることを目的として、工業所有権の保護に関するパリ条約第19条の特別取極として1957年ニースで締結され、1961年に発効したものです。 日本は1989年の国会でニース協定に加入する承認を得て、翌1990年にニース協定に加入することになり、サービスマークの登録制度へと進んでいったのです。

 例えば、「小売・卸売業務」は第35類(広告 、事業の管理、事業の運営、事務処理)に含まれているので、小売店や卸売店の店舗名(看板)は役務商標(サービスマーク)として商標登録することができます。

 スタジアムやアリーナなどスポーツ施設の場合は、第41類(教育、訓練の提供、娯楽、スポーツ及び文化活動)の中の「スポーツの興業の企画・運営又は開催」や「運動施設の提供、娯楽施設の提供」がその本業とするところですから、その名称については、保全のためにも、少なくともこれらの役務をカバーする内容で商標登録を行っておくべきなのです。

 具体例をあげると、「東京ドーム」はサービスマークの登録制度が導入された1992年に、下記のように多岐に亘る商標登録と防護標章登録の出願を行い、登録を得ています。全46件の登録のうち、商標登録は4件で、残りの42件は防護標章登録(※2)です。

〔商標登録〕下記⑴〜⑷すべてサービスマーク(役務商標)

⑴ 登録番号3067556
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
(第41類)野球場の提供、サッカー場の提供、プロレスリング興行場の提供、二輪自動車競技場の提供、音楽会場の提供、入学試験会場の提供

⑵ 登録番号3342391
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
(第41類)運動施設の提供、娯楽施設の提供、映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供

⑶ 登録番号4015425
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
(第42類)集会のための施設の提供,結婚披露宴のための施設の提供,展示施設の提供

⑷ 登録番号4026200
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
(第42類)多目的ホールの提供、宴会のための施設の提供、葬儀並びに法事のための施設の提供
〔防護標章〕
登録番号3067556(01)〜3067556(42)にかけて計42件、国際分類の第1類から第42類まで各類において防護標章登録をしています

残り42件の防護標章登録は、「東京ドーム」の名前に便乗して、「東京ドーム」饅頭などの商品を売り出したり、「東京ドーム」を謳ったサービスを始めたり、商標登録したりする輩が出現することを防止あるいは排除するためです。

(※2)「防護標章」とは
 商標権はすべての商品や役務(サービス)について権利が及ぶのではなく、登録に当たって指定したものと同一又は類似の商品・役務に限られます。したがって、「著名商標」として不正競争防止法により他人の不正使用を禁じることができる場合を除き、商標権だけでは、同一の商標を他人が「類似しない商品や役務に使用」することを禁止することができません。他人が他の商品や役務に当該商標を使用することを防ごうと思う場合は、その心配がある商品や役務についても商標登録するしかないことになります。しかし、通常の商標登録は、実際に使用中(もしくは使用予定)の商品やサービスでなければならないとされています。また、「使用予定」として登録した商標でも、実際には使用していない場合は、不使用取消審判などで取り消される可能性があります。

 そこで、他人がその商標をその指定商品(役務)と類似しない商品(役務)について使用すると当該商標権者の取り扱う商品(役務)であるかのように出所の混同を生じさせるおそれのあるときは、商標権者に、その混同のおそれのある商品(役務)について、その登録商標と同一の標章(マーク)についての防護標章登録を受けることを認め、商標権の禁止的効力をそれら非類似の商品(役務)にまで拡大することとした日本独特の制度が「防護標章」制度です。
 つまり、著名な登録商標については、予め商品(役務)の出所の混同を生ずる範囲を明確にしておいて、他人が商標登録を受ける危険を防止し、もし使用した場合には商標権侵害とみなして迅速な救済を図ろうとする制度なのです。
 したがって、防護標章の登録を受けるためには、登録商標を保有しており、その標章が広く知られて著名となっている必要があります。

 なお、阪神甲子園球場を運営する阪神電鉄は2012年7月、『甲子園』を商標登録しています。「甲子園」を冠せた日本一を競うイベントが各地であり、そのために阪神電鉄も商標登録を行ったのだそうです。登録内容は次のとおりです。

【登録番号】第5509344号
【登録日】平成24年(2012)7月20日
【商標】甲子園
【氏名又は名称】阪神電気鉄道株式会社
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
(第41類) 野球の興行の企画・運営又は開催、野球場の提供


商標の「使用」にまつわる問題

 ネーミングライツに基づき命名される施設の名称(以下「新ネーミング」と呼ぶことにします。)はスポンサー企業の会社名であったり商品やサービスの商標(ブランド)であるのが通常なので、その名称(新ネーミング)はスポンサーが自己の事業に関わる商標として登録しているものが大半です。したがって、少なくともスポンサーが商標登録している範囲内においては商標権が確立しているのが普通です。

 新ネーミングが第三者の商標権を侵害するという事態が生じるのは、それと同じ又は類似する名称が第三者により第41類「スポーツの興業の企画・運営又は開催」や「運動施設の提供、娯楽施設の提供」の商標として商標登録されていた場合です。
この場合、商標権を侵害したことになるのは命名したスポンサーではなくて、その名称を使用して「スポーツの興業の企画・運営又は開催」や「運動施設の提供、娯楽施設の提供」を営業として行っている施設の保有者や管理者ということになります。

 商標権の侵害問題において難しいところは、その名称やマークの使用が「商標としての」使用に当たるかどうかが問われるところにあります。

 例として「ABCスタジアム」という名称がミヤタベースボール株式会社(以下「ミヤタ」といいます)の運営する球場に命名された場合で考えてみます。

このとき既に、第三者(KAWAMURA株式会社、以下「KAWAMURA」といいます)が「ABCスタジアム」という文字で第41類「スポーツの興業の企画・運営又は開催」や「運動施設の提供、娯楽施設の提供」の商標として商標登録していたら、ミヤタはKAWAMURAの商標権を侵害することになるように思われます。
 しかし、もしミヤタが球場の名称として「ABCスタジアム」という名前を使用するだけで、すべての営業行為は「ミヤタベースボール株式会社」の名前で行っていれば、球場に「ABCスタジアム」という看板を掲げていたとしても、商標権の侵害とはならないと判断されることはない、といえないでしょうか。

 「商標」としての「使用」とはどんなものかというと、商標法第2条第3項に定められおり、具体的には次のような行為になります。(球場の名称の場合にはどのような行為が「商標としての使用」に当たるかを例示として加えておきます。)  なお、「標章」という用語は、商標法で使用されている用語ですが、「文字を含むマーク」と理解しておいてください。

① 商品又は商品の包装に標章を付する行為
商品やその包装(包装紙、箱等)にロゴマークを付ける場合(付けるだけの段階であり、それを販売したりする行為は次の②)。
(球場の例) 記念品などの商品に球場のロゴマークを付ける行為

② 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡もしくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供するする行為
ロゴマークの付いた商品やロゴマークの付いた包装(包装紙、箱、タグやラベル、下げ札で付ける場合を含む。)が施された商品を売買したり、(売買でなくとも)引き渡したり、商売のために展示・陳列したり、輸出したり、輸入したりすること。
インターネットなどネットワークを通じた電子情報財の流通行為も含まれており、このような電子情報財の場合、「標章を付する」とは、当該プログラム等の起動時や作業時のインターフェースに顧客が商標として視認できるよう、商標の電磁的な情報を組み込むことをいうとされている。
(球場の例) 球場のロゴマークの付いた記念品などの商品を売店で販売する行為

③ 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ)に標章を付する行為
ビデオ・レンタル店がレンタルするビデオにその店のロゴマークを付ける、レストランが食器に店のロゴマークを付ける場合等。 (付けるだけの段階であり、それを貸し渡したり、その食器で料理を提供する行為は次の④)
(球場の例) 観客に貸し渡す毛布やレストランの食器に球場のロゴマークを付ける行為

④ 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
前項の例において、ビデオ・レンタル店がそのビデオを顧客に貸与すること、レストランがその食器を用いて客に料理を提供すること。会社のロゴマークを付けたタクシー、バス等の輸送車両で客や荷物を運送すること。
(球場の例) 観客に貸し渡す毛布やレストランの食器に球場のロゴマークを付けて、それを貸し渡したり、その食器で料理を提供する行為

⑤ 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
③のビデオ・レンタル店の例で、ロゴマーク入りビデオを店に陳列すること、レンタカー店が自社のロゴマーク付きの自動車を展示用車庫に並べておくこと等。
(球場の例) 球場のロゴマークの付いた毛布を貸し場所に陳列する行為

⑥ 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
運送業者が運送する荷物に自社のロゴマークの付いたステッカーを貼る行為、クリーニング屋が洗濯物に自社のロゴマークの付いたタグを取り付ける行為、品質評価会社が合格証としてのロゴマークを検査商品に貼る行為等。
(球場の例) 球場などのクロークが観客の手荷物を預かる際に、球場のロゴマークの付いたタグを手荷物に取り付ける行為

⑦ 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
役務商標の使用行為として、ネットワークを通じたサービス提供行為(例えば、有料データ配信、音楽のストリーミング配信など)において、モニター、ディスプレイ等の「映像面」に商標を表示してサービスを提供する行為。
(球場の例) 球場がインターネットで催し物や試合データの提供サービスを行う場合に、当該サイトの画面に球場のロゴマークを表示する行為

⑧ 商品又は役務に関する広告、価格表もしくは取引書類に標章を付して展示し、もしくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
宣伝・広告にロゴマークを使用したり、カタログにロゴマークを掲載・使用する場合。
(球場の例) 入場券やポスターにロゴマークを表示する行為

 例としてあげたミヤタベースボール株式会社の場合には、上記③④(提供する施設に「ABCスタジアム」という標章を付したり、それを貸し出したり、そこでスポーツ興行を提供したりする行為)や⑧(入場券やポスターに「ABCスタジアム」という標章を表示する行為)が生じるものと思われます。他の業務は「ミヤタベースボール株式会社」の名前で行う限りにおいては問題ありませんが、「ABCスタジアム」という看板を掲げる限り球場を貸し出したり、スポーツ興行を提供したりする「役務」の商標として使用していると判断されてしまいますね。

 なお、ミヤタによる⑧の行為は、第5回前編で紹介した「第1次Rooftop business訴訟」でRooftop側が主張した「記述的(descriptive)な使用」すなわち「ABCスタジアムという場所を示すだけであり、商標としての使用ではない」という抗弁が成り立つのでないか、とも思われますが、ミヤタの場合は「施設にABCスタジアムと表示する」ことにより既に③④の侵害行為に当たるので、この抗弁は認められないでしょう。

 また、KAWAMURAの商標登録が「ABCスタジアム」ではなく、「ABC」であったとしても、結論は変わりないといっていいでしょう。というのは、「スタジアム」や「アリーナ」、「球場」といった言葉は当該施設を表す一般的な名称なので、商標としての主要な要素は「ABC」の部分にあると判断されることが多いからです。

 このように、商標権の侵害問題を考慮すると、命名するスポンサー側としては、当該名称が第41類「スポーツの興業の企画・運営又は開催」や「運動施設の提供、娯楽施設の提供」として既に第三者に登録されていないかどうかを調査することが必要だということになります。

 一方、施設側としては、当該名称が第41類「スポーツの興業の企画・運営又は開催」や「運動施設の提供、娯楽施設の提供」として既に第三者に登録されていないかどうかだけでなしに、施設が行っているその他の営業、例えば、土産物・飲食物の販売や提供、毛布や座布団の貸与、チケットの表示、スポーツ教室の運営、その他さまざまな商品やサービスに新ネーミングを使うことができるかどうか(第三者の登録商標を侵害しないか)を調査しなければなりません。第三者の権利を侵害するおそれのある場合には、その商品や役務については新ネーミングを使用することはできません。

 このように、既存の施設の名称を新ネーミングに変える場合には、施設側としては、旧来の名称を付して行っていた事業が新ネーミングではできなくなるという問題がありますから、新たな施設の名称にネーミングライツを導入する場合には、新ネーミングを使用できる商品・役務の範囲を予め調査し、把握しておくことが重要となります。

 スポンサーの保有する商標登録の範囲以外の商品や役務について新ネーミングを商標登録するか否か、するとすればスポンサー側か施設側かどちらの名義及び費用で行うのか、などについてはネーミングライツ契約において取り決めることになります。

 なお、ネーミングライツの媒介を業務とするような広告代理店等においては、第35類「プロ競技施設・学会施設・エンターテインメント施設その他の施設等の名称にスポンサー企業の社名やブランド名を付与することを内容とする広告のあっせん及び仲介」といったサービス内容で商標権を取得しておくことになります。

 例えば、アメリカのライブイベント企画の大手であった、SFX Entertainment Inc.が日本で登録した「SFX」という」商標登録(第4703922号)では、次のような役務が指定されています。(赤字部分に注目)

【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
(第35類) プロスポーツ選手・イベントの主催委員・芸能家のあっせん及びその媒介(他人のために行う交渉を含む。)、広告、スポーツ・報道並びに娯楽の分野に関する事業の経営・管理に関するコンサルティング、事業の管理・経営のための役務の企画・促進・提供に関するコンサルティング、広告・市場調査に関するコンサルティング、プロ競技施設・学会施設・エンターテインメント施設その他の施設等の名称にスポンサー企業の社名やブランド名を付与することを内容とする広告のあっせん及び仲介
(第36類) 金融又は財務に関する助言

 ところで、商標権以外に施設の名称の使用に制約が加わる要素として、競技団体・連盟の規制があります。


ネーミングライツの制約

 国際サッカー連盟(FIFA)の取り決めで、FIFA主催国際公式戦(ワールドカップ予選も含む)及びパブリックビューイングではFIFAの公認スポンサー企業・団体以外はスタジアムの看板露出や命名権によるスタジアムの改名をすることが禁じられています。この場合、命名権を導入している施設については施設名に本来の正式名称を使用することが義務付けられます。正式名称そのものが命名権によるものになっているケース等では、例えば「FIFAワールドカップスタジアム+(都市名:例えば、東京)」というような別称を付けて対応することとなります。

 「世界陸上」でおなじみの国際陸上競技連盟(IAAF)もFIFAと同様の規定を設けています。

 上記のように、国際サッカー連盟(FIFA)や国際陸上競技連盟(IAAF)など国際競技団体の一部は、「企業名・商標名を冠する競技施設では公式戦を開催できない」と規定しています。また大会・興行のスポンサー以外の企業名称が使用できない場合や、命名権を取得している企業の同業他社がスポンサーに付くケースもありますが、これらのケースにおいては施設名には正式名称(旧称)を使用したり、特別に別称を使用したり、必要に応じて、場内に掲出されている企業名のロゴを覆い隠す措置を執ることを迫られることもあります。


ネーミングライツに潜む問題点

 契約当事者の双方(スポンサー側/施設側)がメリットを得られる関係にある用に思われていえるネーミングライツですが、実際には、次のようなデメリットや問題点が存在します。

① 利用者の混乱
 ネーミングライツ契約の内容の変更や期間の満了により、短期間に幾度も施設等の名称が変更されることがあるため、利用者が混乱し、地域施設としてその名称が浸透しない可能性があります。地域施設として名称が浸透しなかった場合は、広告価値や企業イメージが低下する結果につながることも十分にあり得るのです。

② イメージ低下の連鎖
 スポンサー企業に不祥事が生じた場合、名称を付された施設等のイメージまで損なわれる可能性があります。逆に、施設において事故・事件が発生すると、当該事故・事件のニュース等に施設名が度々登場し、スポンサー企業や命名されたブランド名のイメージが損なわれることになります。

③ 地域住民の反発
 施設等の従来の名称を変更し、企業名等を付すること自体だけでなく、付された名称が施設名として適切か、といった点においても、地域住民の反発にあう可能性があります。また、公共施設に一企業の名称等を付与することが、公共性を喪失すると問題視する声があがったりすることもあります。

④ 施設等の所在や機能の不明瞭化
 施設等の名称から地名や施設機能の語句等が除外される結果、施設等の所在地や機能等が分かりづらくなってしまう。

 ②の企業不祥事の事例としては、次のものが代表的な事例です。

⑴ 宮城球場(楽天ゴールデンイーグルス本拠地)の例

2005年「フルキャストスタジアム宮城」と命名。
2007年、フルキャストの不祥事(フルキャストが労働者派遣法違法で業務停止処分を受ける)が発覚し、契約解除。日本製紙がスポンサーとなり、「日本製紙クリネックススタジアム宮城」と命名。
2008年、今度は日本製紙による古紙偽装問題発覚、「クリネックススタジアム宮城」に名称変更。その後、2011年に名称を「日本製紙クリネックススタジアム宮城」に戻すことを含め契約更新されたが、日本製紙は業績低迷により契約更新しないことを2013年に申し出てため、イーグルスを所有する楽天が命名権を取得し、2014年1月1日からは「楽天Koboスタジアム宮城」の名称となった。
2016年10月31日、楽天は新たに契約を更新し、2017年1月1日から、愛称を「Koboパーク宮城」とすることにした。

⑵ 旧・西武ライオンズ球場(埼玉西武ライオンズの本拠地)

2005年、ネーミングライツを導入し、インボイス社と契約し「インボイスSEIBUドーム」と命名。
2007年、インボイス社は契約更新を望んでいたが、西武側がグッドウィル社をスポンサーとすることを選び、同社と契約(2007年1月1日から5年契約)し「グッドウィルドーム」と命名。
2007年12月、グッドウィルが違法な派遣業務を行っていたことが発覚し、事業停止命令を受け2008年1月8日同社との契約解除。
2008年1月9日付で球場名が「西武ドーム」に戻り、以降2014年シーズン終了までネーミングライツは見送られていたが、2014年12月15日、グループ会社のプリンスホテルがネーミングライツを取得し、球場名を西武プリンスドーム」に改称した。 2017年1月16日にメットライフ生命保険が同年3月から2022年2月末までの5年間のネーミングライツを取得したと発表した。これにより、名称は「メットライフドーム」となる。

 上の2件は企業側に生じた不祥事による契約解除(終了)の事例ですが、短期間でスポンサーがコロコロ変わるのでは施設名称が一向に定着しないし、愛着が醸成できません。 短期契約が大半という現状は、日本のネーミングライツの欠点として指摘されるところです。

 施設側に生じた不祥事の事例としては、2008年5月17日に埼玉スタジアム(正式名称「埼玉スタジアム2002」)で行われた<浦和レッズvsガンバ大阪>の試合後に両チームのサポーターがもみ合いとなり、ガンバ大阪のサポーター約800人が足止めされたという事件を挙げることができるでしょう。この事件は新聞等マスコミで大きく取り上げられ、Jリーグは浦和レッズに過去最高額の制裁金2000万円を、ガンバ大阪には制裁金1000万円をそれぞれ科しました。
 埼玉スタジアムはネーミングライツを導入していませんが、もし企業名や商標名が付されたスタジアムであれば、一連の報道により当該企業や商標のイメージ毀損につながった可能性があります。


***


 さて、次回の後編は、ネーミングライツの本場、アメリカでの事例をつぶさに見ていくことにしましょう。お楽しみに。





 編集/八島心平(BIZLAW)


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この連載記事を読む
 スポーツビジネスと法 / 宮田 正樹(一般社団法人GBL研究所 理事)

宮田 正樹

Profile

宮田 正樹 [一般社団法人GBL研究所 理事]

一般社団法人GBL研究所 理事、二松学舎大学国際政治学研究科。1971年大阪大学法学部卒。同年伊藤忠商事株式会社入社。同法務部等を経て、株式会社日本製鋼所法務専門部長兼法務グループマネージャーを歴任。2013年9月末日を以て同社(日本製鋼所)を定年退職。同年10月より一般社団法人GBL研究所理事。2004年より二松学舎大学大学院で「企業法務」について、2008年より2016年2月まで帝京大学で「スポーツ法」について、それぞれ非常勤講師として教鞭を執る。主著に『リスク管理と契約実務』(共著 第一法規、2004年)、『知的財産のビジネス・トラブル Q&A』(共著 中央経済社、 2004年)『リスク管理と企業規程の作成・運用実務』(共著 第一法規、2008年)『プロスポーツ経営の実務』(共著 2011年 創文企画)『現代企業実務 Ⅰ(国内企業法務編)』(共著 2014年 大学教育出版)『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(共著 2014年 レクシスネクシス・ジャパン)『グローバルビジネスロー 基礎研修 Ⅰ 企業法務編』(共著 2015年 レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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