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施設の名称は
誰が付けるのか? (前編)

一般社団法人GBL研究所 理事 宮田 正樹

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スポーツビジネスと法 第7回

労働法、独占禁止法、契約法、著作権法、商標法……。これらさまざまな法律が複雑に絡み合う、世界でもっともポピュラーなビジネスがあります。それが「スポーツ」ビジネスです。日頃、私達が観賞しているこのスポーツにこそ、その国ならではのビジネス課題や法律問題が潜んでいます。この連載では、スポーツビジネスと法に関する研究の第一人者である宮田正樹先生に、「スポーツビジネスと法」と題して連載をいただきます。
連載第7回、タイトルは「施設の名称は誰が付けるのか?」(前編)。



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ネーミングライツを取り巻くアメリカの歴史

 「ネーミングライツ(Naming Rights)」と呼ばれているものは、野球場やサッカースタジアムなどの施設にスポンサー企業の企業名や製品名などのブランド名を付けることのできる権利で、日本語表記では「施設命名権」あるいは単に「命名権」とされています。

 「ネーミングライツ」ビジネスは1970年代にアメリカで生まれ、国からの補助金が少なくなった公共施設が安定収益を求めて考えついた手法で、アメリカの4大プロスポーツ施設を中心に広がった施設により収益を生むビジネスとして40年以上前から定着しています。 スポーツにおけるネーミングライツの発祥は、1973年リッチ・フーズ社によるNFLのバッファロー・ビルズの本拠地「リッチ・スタジアム(Rich Stadium)」(現「New Era Field」)の命名だといわれています。その金額は25年で150万ドルでした。

 日本の公共施設として初めてネーミングライツの売買(※1)が成立したのは東京スタジアムです。2001年3月に開業した同施設(東京都が保有)は、2002年の秋に日本で初めて公共施設としてネーミングライツを売却することを決定し、2003年に味の素と5年間12億円の契約を締結し、施設名は「味の素スタジアム」と命名されました。味の素との契約は2014年まで6年間14億円で更新され、更に2019年まで5年間10億円で更新されています。

(※1)ネーミングライツの売買・売却
 マスコミの報道では「ネーミングライツ(命名権)の売買」とか「売却」という表現が使われていることが多いようですが、ネーミングライツ(命名権)の取引は、当該施設に名前を付ける権利を相手方に譲渡し帰属させてしまうのではなく、「一定期間、名前を付ける権利を与えるが、当該期間を満了したら(契約を更新しない限り)その権利はなくなり、当該施設の命名権は施設の所有者に戻る」というライセンス契約がその内容なので、「売買あるいは売却」という表現は庶民感覚では別段問題視することではありませんが、法的には正しい表現ではありません。
 「施設の所有権者(又はその代理人)Aは、一定期間、当該施設の対外的な呼称を「○○」とすることができる権利をBに許諾(又は付与)し、Bは当該権利の対価として×××万円をAに支払う」というライセンス契約ですから、民法に定める典型契約でいうと賃貸借契約に類似しますが、対象が「物」ではなく「権利」であることなど同じものとはいえず、いわゆる「無名契約」(民法に名前がない契約)だということになります。

 民間も含めた日本国内の施設では1997年に西武鉄道が運営する東伏見アイスアリーナの命名権をサントリーに売却したのが日本初の事例になります。
 これにより東伏見アイスアリーナは「サントリー東伏見アイスアリーナ」と命名されました。サントリーとの契約は2006年9月に期間満了により終了し、スポンサーがダイドードリンコに代わり、以後施設名は「ダイドードリンコアイスアリーナ」となっています。

 「味の素スタジアム」の後、2003年にグリーンスタジアム神戸にもネーミングライツが導入されて「Yahoo! BBスタジアム」と改名されるなど 、日本におけるネーミングライツの導入が始まりました。

 変わったところでは、神戸市が2007年度よりバス停のネーミングライツ販売を始めており、2008年には市内にある727か所のバス停のうち629か所で募集をしましたが、これはあまり成功しなかったようです。また、渋谷公会堂が「CCレモンホール」と命名されたこともあるように、ネーミングライツはスポーツ施設に限られたものではありませんが、本稿ではスポーツ施設のネーミングライツに限定して話を進めます。

 アメリカでは4大プロスポーツの約70%、NHL(アイスホッケー)に至っては90%の競技場にネーミングライツが導入されています(2011年時点)。なお、MLBの場合、現時点でホーム球場にネーミングライツが導入されている球団は全球団30チーム中20チームです。

 アメリカにおけるネーミングライツが日本と決定的に違うのはその契約期間が20年から30年と長期に亘っている点です。
 アメリカでは企業が、単なる宣伝活動でなく、スポーツ文化を支えるという点において積極的なのが(その姿勢が市民の支持を受けるという意味では、これもマーケティングの王道なんですが)その理由のようです。後で述べるように、地域主義というか地元意識の強いアメリカ人の住民性から、「おらが村・わたしの街」の球団・スタジアム・アリーナは地域住民の注目度も高く、彼らを惹きつける力が強いため、消費者・住民を顧客とする企業にとっては恰好のマーケティング手段となり、その関係を長く維持するためには20年、30年といった長期に亘る名前の維持が必要との判断が働いているのです。



日米ネーミングライツ比較(アメリカの状況)

 現時点で契約が生きている日米の主なネーミングライツの契約期間と対価を表にしてみましたので、ご参照ください。

表1:アメリカ(クリックで拡大します)

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表2:日本(クリックで拡大します)

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1 契約期間の違い

 一見して明らかな日米の違いは、先に指摘したように、契約期間の長さです。表1「Years」の列と表2「年数」の列を御ご覧ください。

 日本の場合は、一度の契約で定められる期間は、3年からせいぜい5年間程度と短期間であり、継続更新を重ねた上での最長の契約は「味の素スタジアム」ですが、これも2003年3月1日を始期としてまず5年契約、次いで6年間の継続更新契約、更に5年間の継続更新契約と、2度の更新を重ねた合計で16年間の契約期間となっているものです。

 これに比べ、アメリカの場合は、20年から30年間という長期の契約期間のものが大半です。その理由は、先に述べた企業の姿勢を含めた「スポーツ文化」の違いということになるのでしょうが、スポーツビジネスのインフラが整っていることが大きいですね。

 20年〜30年という長期の契約となると、その契約金額も莫大なものとなります。 表1と表2とを比べてみると、年間の対価金額は、日本の「味スタ」で2.0〜2.5億円、アメリカでほぼ同時期に契約された「Chase Field」(MLB)が2.0百万ドルとあまり変わりはありませんが、契約総額は「味スタ」が1契約10.0億円〜14.0億円であるのに対し、「Chase Field」は60.0百万ドル(単純に$=\100で換算しても60億円)もの金額です。
 ましてや、ネーミングライツが高騰している近年の相場(年間10.0百万ドル〜20.0百万ドル)での取引となると「CITI Stadium」や「MetLife Stadium」のように400百万ドル($=\100で換算して400億円)を超える契約金額となります。

 このような巨額で長期の債務を負う契約の締結についてステークホルダーに説明し、納得を得るには次のような環境が整っていなければなりません。


・ネーミングライツの経済効果を分析・説明しうるコンサルタント等の専門家の存在
・ネーミングライツの市場の存在
 (契約を譲渡・売却できるセカンダリー・マーケットの存在を含む)
・ネーミングライツを通じて広告宣伝効果以外の経済効果を生む可能性
・地方公共団体等行政からの支援・インセンティブの存在

 上記のようなインフラが日本において決定的に欠けるところであり、それが単なる広告宣伝媒体として短期的なネーミングライツの導入に終わっている日本の現状の大元だと思われます。


2 アメリカでは施設の建設計画の段階で契約されることが多い

 日本のネーミングライツの導入は、既存の施設が新たに導入するか、施設の建設が完了してから導入されているのが現状で、建設の計画段階で導入されることはまずありません。

 一方、アメリカでは、施設の建設計画の段階からスポンサーが参画し、資金計画の柱となるのみならず、地方公共団体・施設・球団等と一体となってその運営や地域開発に関与・コミットし、スポンサーの利益も実現していくような取り組みとなっているケースが多いのです。

 施設のハイテク化やゴージャス化に伴い高騰する建設費を賄うには、借入や債券の発行においても、ネーミングライツにより得られる将来のキャッシュフロー見通しを予め確保しておくことが欠かせないものとなってきているのだともいえます。


3 スポーツ施設の新築・改装が行われる背景

 球団など当該スポーツ施設を使用する主体(以下「球団」という言葉は、野球に限らず、アメリカンフットボールやバスケットボール、アイスホッケーのチームやクラブも指すものとして使用します)が自ら所有者となって建設することもありますが、多くのスポーツ施設、特に4大メジャープロスポーツ(NFL、MLB、NBA、NHL)のスタジアムやアリーナは、多額の建設費を要することもあり、立地場所の都市等地方公共団体が公共施設として建設しているというのがアメリカの実情です(日本もそうですね)。

 実は、アメリカではこれまでに2度のスポーツ施設建設ブームが訪れています。

第1次ブーム(1960〜1970年第代)
 「第1次スタジアム建設ブーム」とも呼ばれる時期で、その原因はMLBの球団数が増えたこと(expansion)にあります。1901年にナショナル・リーグ(NL)とアメリカン・リーグ(AL)が交わした和解契約「ナショナル・アグリーメント」により両リーグ併せて16チームでスタートしたMLBの球団数は、1961年から1977年の間に26チームへと増えました。つまり、10チームが新設されたのです。当然少なくとも新設10チームそれぞれのホーム球場が建設されることになります。それに伴って他の球団も負けじと球場の新設・改修を行うことになりました。

 この時代のスタジアムは、野球とフットボール(アメリカンフットボール)との併用が可能な収容観客数6万人前後の巨大スタジアムが中心でした。1960年から1980年までの20年間にMLB専用、NFL専用、両者併用スタジアムの合計で26スタジアムが建設されています。当然、その多くは地方公共団体の公共施設として「税金」で建てられたものです。

 球団とはいえ「一私企業」に過ぎない者のために、地方公共団体が多額の公的資金(税金)を使うことへの理由付けとして打ち出されたのが「スポーツは公共財!」というスローガンでした。これは、NFLの「伝説のコミッショナー」ピート・ロゼールが始めたキャンペーンが元となっているのですが、プロスポーツが地域の子供達に運動の機会を与えるイベントを行うなど、社会貢献活動を行っていくことを通じて「公共財」としての位置づけを得て、地元住民の反発でなく支持を得ていくという地道な活動のモットーなのです。


第2次ブーム(1990〜2000年代)
 「第2次スタジアム建設ブーム」とも呼ばれる時期です。第1次ブームの時代に建設されたスタジアムは、上記のようにフットボールとの併用のものが多く、野球にはキャパが広すぎて不適である(満杯になりにくく、入場料の下落を招くし、空き席が目立つスタジアムがテレビ放映されるとイメージも悪い)こともあり、施設の老朽化も相まって、野球スタジアムの新設の気運が高まったのです。事実、1991年〜2010年の間にMLBでは全30球団中21球団が新球場を手に入れています。また、NFLは1997年〜2011の間に全32チーム中16チームが新スタジアム(新装改修を含む)を手に入れています。

 上記ブームの背景にはもう一つ大きな原因があります。それは、フランチャイズ(球団の本拠地)の変更です。ご存じのように、アメリカの4大プロスポーツはそれぞれフランチャイズ制を採っており、各リーグとも1チーム/1営業地域(本拠地)を原則とし、本拠地の変更(移転)には他のチームによる特別決議を必要とするなどの厳格な管理がなされています。
 ところが、1958年〜2008年の50年間においてMLB/12件、NFL/9件、NBA/18件、NHL/9件と総計48件ものフランチャイズの変更があったのです。


4 なぜ都市・地方公共団体はスタジアムやアリーナに多額の公的資金を投入するのか?

 プロスポーツはビジネスですから、当然「需給関係」により取引の力関係が定まっていきます。アメリカのプロリーグは上記「フランチャイズ制」などを利用し、巧みに「売り手市場」を形成しているのです。

売り手市場を形成する2つの理由

①チーム数が限られている
 現時点で、4大プロリーグのチーム数は、NFL/32チーム、MLB/30チーム、NBA/30チーム、NHL/30チームであり、各リーグともリーグ内あるいは他リーグとの過当競争となることを避け、新チームの参入を厳しく制限しています。 これらのチーム数は、メジャー・プロスポーツチームを誘致できる経済力のある都市の数より少なくコントロールされている、すなわち「売り手市場」となるよう仕組まれています。アメリカ型のプロスポーツ・リーグは基本的には「カルテル」なのです。

②フランチャイズ制により(同一リーグについは)1地域/1チームしか存在しない
 フランチャイズ制については3で説明しましたね。例えば、MLBの場合には、新チームの加入(expansion)、既存球団の売却、本拠地の移転などについては「Major League Meeting(日本でいうと「オーナー会議」に相当)」において3/4以上のチームの賛成がなければ認められないことになっています(Major League Constitution Article V Section 2.(b))。

 このように球団側の売り手市場が形成されているため、メジャー・プロスポーツチームを誘致したい都市や、既存の球団に逃げられたくない都市は、球団側の要求(スタジアムやアリーナの新設や改修)に応じざるを得なくなってくるのです。
 事実、「言うことを聞いてくれないなら、出ていくぞ!(他の都市に移転するぞ!)」という脅しにより、新スタジアムを建てさせたり、大改修させたりした球団も多数あります。

 例えば、ニューヨーク・ヤンキース(MLB)は、1974年にヤンキースタジアムの老朽化を理由に、チームをニュージャージー州に移転するとほのめかし、ニューヨーク市はヤンキースを同市に引き留めるために急遽$250百万のスタジアム改装計画を提示せざるを得ない羽目になりました。老朽化した旧球場は取り壊され、2年間新球場の建設工事が行われ、その間ヤンキースはメッツの本拠地シェイ・スタジアムを間借りしていました。新球場は1976年4月15日に開場しています。(現在のヤンキー・スタジアムは、2009年に新たに建て直された新ヤンキー・スタジアムです。)

 また、シアトル・マリナーズは、かつてシアトル近郊のキングドームをNFLのシアトル・シーホークスと共同利用していましたが、キングドームの老朽化に伴い客足が遠のき、新スタジアムの建設を望んでいました。しかし、新スタジアム建設への公的資金投入が住民投票で否決されると、マリナーズは本格的にフランチャイズ移転の検討を開始することになります。
 これに対し、チームを失うことを恐れたワシントン州議会は、1995年、マリナーズが要望していた総額$414百万ドルの開閉式新スタジアムの建設を認める法案を自ら起草し、それを可決しました。

   こうして、マリナーズは新スタジアムを格安で手にしたばかりか、スタジアムの運営費をチームが負担する代わりに、飲食物販収入やスイートボックス、クラブシートなど、スタジアムにおけるすべての収入がチームの収入となる好条件のリース契約を結んでいます。スタジアムのネーミングライツは地元の保険会社セーフコが20年180万ドルで取得し「セーフコ・フィールド」となりました。

 移転先による優遇事例としては、同じくMLBのワシントン・ナショナルズもすごいですよ。経営難に陥ったモントリオール・エキスポズが当時のオーナーによって第三者に安値譲渡されそうになったため、それを放置するとプロ野球球団の転売価格が下落してしまう(ひいては各球団の現在価値が下がる)ことを恐れたMLBは、オーナーからエキスポズを一時的に買い取り、再生のために2005年に「ワシントン・ナショナルズ」としてワシントンDCに移転させました。
 そのとき、ナショナルズは、ワシントンDCから建設費$611百万ものスタジアム(Nationals Park)を建設してもらった上、年間$550万の施設利用料を支払う見返りに、看板広告、ネーミングライツ、スイートボックス、クラブシート、飲食販売などスタジアムで発生するすべての売上を手に入れることができるという、上記マリナーズ同様、とんでもなく優遇されたリース契約を結んでいます。


都市側のニーズはどこにあるのか?

 上述のような優遇策を提示してまで球団(クラブ/チーム)を誘致しよう、引き留めておこうとする都市側のニーズはどこにあるのでしょうか。

 最大の理由は、都市の再開発の目玉になるからだといわれています。
 アメリカの多くの都市の中心街は、郊外化現象(いわゆる「ドーナツ化現象」)により都市部の空洞化が進み、老朽化した施設や住宅などが放置されるようになり、犯罪率が増加しています。すると住民は逃げ出し、空洞化が更に進んでしまう悪循環に陥るのです。

 こうした中で、多くの自治体は都心の復興に力を入れるようになりました。スポーツ施設の建設はこうした戦略の中心とするには恰好の材料なのです。
 地域経済の活性化を進めていくに際して、球団の誘致やスポーツ施設(スタジアムやアリーナ)の建設がその象徴(ブランド)となるのです。

 地元意識の強いアメリカでは、こうしたブランド戦略が帰属意識を高めるという効果をもたらします。
 「おらが村の、おらが街のチーム」があれば、住民はお金を払ってスタジアムやアリーナで試合観戦するだけでなく、テレビ観戦したりラジオを聴いたり、新聞やテレビのニュースでチームの活躍を目にします。こうした数字として表れない効果も地元住民の満足度及びQOL(Quality of Life:生活の質)を高めます。

 住民の満足度の向上は、政治家にとっては、選挙の投票行動にも影響するので、その実現へと力が入ることになります。逆に、移転話が持ち上がれば、住民に失望感を与え、その責任を問われないようにと、当該自治体の政治家は、引き留めに躍起になるというわけです。


5 ネーミングライツ・スポンサーの狙い

 一言でいうと、広告媒体としての価値及び社会貢献性を示す企業イメージの向上ということになります。煎じ詰めれば「広告宣伝効果」ということですが、他の広告宣伝媒体に優る効果・魅力はどこにあるのでしょうか。

 アメリカにおけるこれまでのネーミングライツ・スポンサーの業種を見てみると、銀行・保険会社など金融機関がとても多いことが目につきます。次いで、通信・コミュニケーション・サービスといったサービス産業があげられます。いずれも商品・サービスの内容で差別化・優劣を競うことが難しい業態でありながら、住民を顧客とする地域密着度の高い業態であるため、スポーツの持つ個人への訴求力と地元意識・地域住民の好感度向上効果は、強力な販売促進手段と考えられているのでしょう。
 これらの業種でなくとも、スポーツの持つ個人への訴求力と地元意識・地域住民の好感度向上効果は魅力的でしょう。そして、施設の持主である地方公共団体や球団と共に地域貢献・社会貢献活動に寄与することで良好なブランドイメージ・企業イメージがしっかりと地域あるいは社会に根付かせることが期待できます。

 上記3で述べたように、現在4大メジャー・プロスポーツ(NFL、MLB、NBA、NHL)については、既に空き枠(ネーミングライツを導入していないチームやスタジアム/アリーナ)が数少なくなっていますが、スポーツ施設という「地域密着性」媒体の重要性に気づいた地方の有力企業や全国区の大手企業は、マイナーリーグや大学スポーツなどのスポーツ施設のネーミングライツにも触手を伸ばしているのが昨今の状況です。

 また、スポーツ施設の魅力は、広告宣伝の訴求対象として将来の顧客たる青少年が含まれることもスポンサー企業には大きな魅力です。

 更に、アメリカでは、施設への命名権だけではなく、自社商品の納入権や特別席(スイートボックス、クラブシート)の利用権、試合のみならずさまざまなイベントのチケット優先購入権など、さまざまな付帯的なメリットも含めた契約が行われています。これらにより、スポンサー企業は、スタジアムやアリーナの施設・イベントを利用して顧客に応じた商談、マーケティングの機会を設けることができ、これもネーミングライツの魅力の1つとなっています。

 以上を整理すると、ネーミングライツは施設が持つ媒体価値に着目したマーケティング方法であり、施設名称に自社名や商品名・サービス名を付けることで、主に次のようなメリットがあると考えられているのです。

・施設来訪者への告知、PR
・企業・商品の認知度向上
・ブランドイメージの向上
・地域住民の好感度向上
・最終顧客との接点の確保
・社員(従業員)のモチべーション向上
・スポーツや文化振興等の自治体施策に協力しているというイメージの形成
・地域に貢献するという企業姿勢の明示 (CSR活動、メセナ活動)


***


 さて、次回の中編は、日本の法制におけるネーミングライツの法的性格について解説した上で、ネーミングライツに関するさまざまな制約や実際の問題例を見ていきます。お楽しみに。





 編集/八島心平(BIZLAW)


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この連載記事を読む
 スポーツビジネスと法 / 宮田 正樹(一般社団法人GBL研究所 理事)

宮田 正樹

Profile

宮田 正樹 [一般社団法人GBL研究所 理事]

一般社団法人GBL研究所 理事、二松学舎大学国際政治学研究科。1971年大阪大学法学部卒。同年伊藤忠商事株式会社入社。同法務部等を経て、株式会社日本製鋼所法務専門部長兼法務グループマネージャーを歴任。2013年9月末日を以て同社(日本製鋼所)を定年退職。同年10月より一般社団法人GBL研究所理事。2004年より二松学舎大学大学院で「企業法務」について、2008年より2016年2月まで帝京大学で「スポーツ法」について、それぞれ非常勤講師として教鞭を執る。主著に『リスク管理と契約実務』(共著 第一法規、2004年)、『知的財産のビジネス・トラブル Q&A』(共著 中央経済社、 2004年)『リスク管理と企業規程の作成・運用実務』(共著 第一法規、2008年)『プロスポーツ経営の実務』(共著 2011年 創文企画)『現代企業実務 Ⅰ(国内企業法務編)』(共著 2014年 大学教育出版)『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(共著 2014年 レクシスネクシス・ジャパン)『グローバルビジネスロー 基礎研修 Ⅰ 企業法務編』(共著 2015年 レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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