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テレビの放映権って
誰が持っているの? (後編)

一般社団法人GBL研究所 理事 宮田 正樹

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スポーツビジネスと法 第6回(後編)

 労働法、独占禁止法、契約法、著作権法、商標法……。これらさまざまな法律が複雑に絡み合う、世界でもっともポピュラーなビジネスがあります。それが「スポーツ」ビジネスです。日頃、私達が観賞しているこのスポーツにこそ、その国ならではのビジネス課題や法律問題が潜んでいます。この連載では、スポーツビジネスと法に関する研究の第一人者である宮田正樹先生に、「スポーツビジネスと法」と題して連載をいただきます。
 連載第6回、タイトルは「テレビの放映権って誰が持っているの?」(後編)。



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スポーツ・イベントの放送権に関する
テレビ放送時代のアメリカの判例と法制の流れ

 アメリカで最初のスポーツテレビ放送は、1939年5月17日にテレビ局NBCによって放送された大学野球の中継「コロンビア大学対プリンストン大学」でした(前編の【アメリカにおけるスポーツ放送の歴史】で紹介しましたね)。商業放送とはいえ、当時はまだ実験的な段階で、画面も粗く、ゲームの鑑賞に堪えるものではなかったようです。

 1950年代に入り、アメリカにおけるテレビの普及は爆発的に伸びて行き、野球を代表とするプロスポーツの実況放送はテレビ時代を迎えていきます(テレビに関する放送権およびストリーミングなど映像の伝達に関する許諾権を、日本では「放映権」と呼ぶことが多いので、以下テレビ放送に関わる場合には原則として「放映権」という用語を使用することにします)。

 そこで先ず登場してきた(創設された)連邦法が1961年の「スポーツ放送法(Sports Broadcasting Act of 1961)」でした。これは、アメリカンフットボール、野球、バスケットボール、アイスホッケーのプロリーグ(具体的にはアメリカの4大リーグであるNFL、MLB、NBA、NHL)に限り、個々の球団の有する放映権の一部または全部をリーグなどに集約して、一括してライセンス交渉すること(及びその取り決め)は、反トラスト法の対象から除外する、という反トラスト法の適用除外を定めた法律です。
 スポーツ放送法については後日「スポーツ中継のブラックアウト」の稿で詳しく紹介しますので、本稿では、テレビ放送時代の放送権(放映権)にとって最も大きなできごとである、1976年のアメリカ著作権法の改正から紹介していきます。


1.著作権法の改正(1976年)

 アメリカの著作権法は1976年に大幅に改正され「The Copyright Act of 1976」となり、現行法もこれを引き継いだものです。この1976年の改正によりスポーツを含むライブイベントのテレビ放送に著作権が付与されました。

 ライブイベントのテレビ放送に著作権が付与されたことは、条文上は次の2つの条項から読み取ります(それぞれの条文の英文はこちらのPDFを参照)。

 改正著作権法第102条(a)で、著作権による保護を受けるためには、当該「著作物」(”works of authorship”)は、その表現が有形の媒体(”medium”)に「固定(”fixed”)」されてなければならない、と定めています。そして、「固定(”fixed”)」の意味について、定義条項である第101条の中で「音や映像あるいはその両方で構成されている作品で、放送されるものについては、その作品が制作されると同時に固定されるならば、著作権法上の「固定」の要件をみたすものとする」と規定しました。

 更に決定的な根拠として、この条文(上記第101条の「固定」の定義)は「ライブのテレビ放送(ニュース報道、スポーツ・イベント、ライブ・ミュージックイベントなど)を意識したものであり、放送と同時にビデオテープなどに録音・録画されていれば、著作物として著作権の対象となるということである」という説明が議会の委員会説明の記録(House Report No.94-1476)に残されているのです(当該部分の英文はこちらのPDFを参照)。


 上記のとおり、1976年の著作権法の改正により(施行は翌1977年)、スポーツ放送は、放送と同時にビデオテープなどに録音・録画されていれば、著作物として著作権の対象となることになりました。

 なお、ビデオテープなどに収められてしまえば、それはビデオテープという媒体に固定された「音や映像あるいはその両方で構成されている」著作物(「映画の著作物」の一種)として著作権の保護を受けるのは当然ではないか、と我々日本人は思ってしまうのですが、どうもここでいう「放送の著作物」はそれとは違うようです。いわば「番組の電波」を指しているようで、日本の著作権法でいうなら「放送事業者の著作隣接権」に相当する権利なのです。 番組そのものをビデオ化(CD、DVDなど)したものが「映画の著作物」(motion pictures and other audiovisual works)として保護されることはアメリカも日本も同じです。

 さて、スポーツ放送に著作権が付与されるようになったことはいいのですが、それではその著作権者は誰になるのかが次の問題です。著作権法は「創作者(”author(s)”)」としか定めていません。日本の著作権法に基づいて考えると、著作権者は放送事業者(テレビ局)になりそうに思えるのですが、不思議なことに、アメリカの放送事業者は、著作権法改正の過程では自分達が著作権者となるべきだというような主張を一度たりとも行わなかったそうです(むしろ、「球団・チームが著作権者でしょう」というような発言もしていたといいます)。

 それではどうなったかというと、スポーツ放送については、法改正の過程で行われた数々の審議の内容などから、主催者(4大リーグスポーツでいうと球団/チーム)が著作権者であるということになっているようです。

 法改正の過程では著作権者となることに執着しなかった放送事業者ですが、その後、ケーブルテレビ事業者から徴集し分配される「ケーブル・ロイヤルティ」(注1)の分配が始まると、やおら「自分達も著作権者である!」と主張しだしました。

(注1)ケーブル・ロイヤルティ
 改正著作権法は第111条で、所定の使用料(ロイヤルティ)さえ払えば、著作権者の承諾を得なくても、(空中波の)テレビ番組をケーブルで再送(転送)することができるとする強制許諾制度(compulsory license)を与えています。その使用料をケーブル・ロイヤルティと通称し、同法で創設された著作権料審判所(”Copyright Royalty Tribunal”)が徴収し、著作権者に分配することになっていました。
 この「ケーブル・ロイヤルティ」および「強制許諾制度」の創設・存在自体も、非常に興味深い研究課題です。)

 著作権料審判所は、著作権法改正の過程から判断し、スポーツの試合(ゲーム)の放送については球団/チームが著作権者であると判断しましたが、番組制作への貢献を評価し、制作・放送したテレビ局にもケーブル・ロイヤルティを分配することにしたのですが、その金額(割合)が少なすぎるとして、放送事業者は自分達も著作権者であるとして著作権料審判所を相手取って訴訟を起こしたのです。裁判は、放送事業者団体であるNational Association of Broadcasters(NAB)が原告となって起こされましたが、地裁では「著作権料審判所の判断した金額の多寡を評価するには時期尚早!」として棄却されました。
 控訴審では、4大リーグ(NFL、MLB、NBA、NHL)や映画の著作権団体(Motion Picture Association)等、ケーブル・ロイヤルティの分配に与っている他の団体もNAB側として訴訟参加しました(彼らも分配額にそれぞれ不満を持っていたのです)。

 控訴審(コロンビア巡回裁判所)は、「(著作権料審判所による)恣意的な判断はなかった」として著作権料審判所の決定した金額は正当だと認定しました。〔National Association of Broadcasters v. Copyright Royalty Tribunal, 675 F.2d367 (D.C.Cir. 1982)〕

 ケーブル・ロイヤルティの査定・分配についてはその後も争いは続発しており、その取扱い機関も当初の著作権料審判所から1993年にCopyright Arbitration Royalty Pabel(CARP)に移管され、更に2005年にはCARPは消滅し、新たに作られたCopyright Royalty Board(連邦議会図書館長”Librarian of Congress”により任命された3人の委員”Copyright Royalty Judges”によって構成されている:現行著作権法第801条)へと移管されています。


2.ザッキーニ事件(Zacchini v. Scripps-Howard Broadcasting Co.)1977年連邦最高裁判決

 パフォーマーの実演を「肖像権」(パブリシティ権)で保護したとされる連邦最高裁の判例です。なお、有名人らの名前・顔・姿形など肖像(”name, image and likeness”)がプライバシーの権利(”right of privacy”)とは別途、パブリシティの権利(”right of publicity”:以下「パブリシティ権」)で保護されることは、1953年のハーラン事件判決(Haelan Laboratories v. Tops Chewing Gum)で既に確立していました(ハーラン事件については、本連載では『チューインガムから始まった「肖像権」』として紹介します)。

 原告であるザッキーニ(ZACCHINI)氏は、「人間大砲」という自ら砲弾となって大砲から飛び出す(発射される)というイベントを行う芸人さんです。
 彼が、1972年にオハイオ州のある町のお祭り(フェア)においてその実演をしていたところ、地元テレビ局(Scripps-Howard Broadcasting社のWEWS-TV)に雇われたフリーのレポーターがその実演をこっそり(ザッキーニの許可を得ず)撮影し、実演(人間大砲のパフォーマンス)の一部始終(約15秒間)が当該地元テレビ局のニュース番組で流されたのです。これに対して、ザッキーニが「個人の財産権の侵害」として損害賠償を求めた訴訟です。

 ザッキーニは、直ちに州裁判所に訴え出ました。オハイオ州の地裁では、ザッキーニの主張は認められませんでしたが、控訴裁判所では「横領およびコモンロー上の著作権の侵害」であり、報道機関であっても無償でザッキーニの全パフォーマンスを放送することは許されない、としました。ところが、オハイオ州の最高裁判所は「テレビ局(報道機関)は、利益目的などによる不正使用や個人を害することが目的でない限り、パブリシティ権で保護されているパフォーマンスであっても、公益のための報道であればその公表を許される」としました。

 そこで、ザッキーニが連邦最高裁判所に上告した結果、1977年、連邦最高裁判所はザッキーニのパブリシティ権が侵害されたことは明らかであるとし、「米国憲法修正第1条および修正第14条は、(ザッキーニの)全演技を報道する場合まで、放送局を免責するものではない」「全演技のテレビ放送は、そのパフォーマンスの経済的価値への重大な脅威である」「なぜなら、テレビで無償で観られることになると、彼のパフォーマンスを金を払ってまで観ようとする人が減少するからである」として、テレビ局側の「言論の自由等」(正当なニュースの報道である)に基づく抗弁を退けました。

 この判決は、パブリシティ権をベースにパフォーマンスとしての実演に財産権としての保護を認めたこと(逆に言うと、パフォーマンス(実演)にまでパブリシティ権が拡張されたこと)、そして、連邦最高裁判所がパブリシティ権を認めた初めての事例であることにおいて重要な判例とされています。なお、本件は、損害賠償請求事件であり、差止請求はされていません。


[Citation]
Zacchini v. Scripps-Howard Broadcasting Co.,
U.S. Supreme Court, June 28, 1977
433 U.S. 562 (1977)


3.野球選手による著作権主張の訴訟(Baltimore Orioles, Inc. v. MLBPA)1982年

 テレビ時代に入り、MLBの球団やリーグは、「テレビ放送権(放映権)」の許諾により、テレビ局から多大な収入を得るようになりました。第3回『マービン・ミラーの「FAへの死闘」(後編)』で触れましたように、1972年にはMLBはNBCテレビとの間でリーグ全チームの全国放送権として72百万ドル(1972年〜1976年の4シーズン合計)もの「Monday Night Baseball」の一括テレビ放映権契約を締結しています。その後、1976年〜1979年の4シーズンについては、NBCとABCの2テレビネットワーク局に合計で92.8百万ドルの一括テレビ放映権契約を締結しており、その後も放映権の契約金額は高騰の一途を辿ります。このように球団やリーグがテレビ局から多大な放送権料を得ている現実を前にして、選手達(本件の場合は、選手の労働組合であるMLBPA:Major League Baseball Players Association)が、自分達がテレビ放送に関する著作権者であると主張し、球団と争った事件の顛末を次に紹介します。

 1982年5月末にMLBの26球団(当時)と各契約テレビ局に対して選手側が次のような主旨の手紙を送付したところから争いが始まります。

・球団等とテレビ局との放映権契約は、試合の実施者(パフォーマー)である我々選手の承諾なく締結されている。
・我々選手の承諾のない放送は、選手のパフォーマンスに認められる財産権の不正使用であり、違法である。
・我々選手は、自己の財産権の保全のために必要な法的手続を採るつもりである。

 これを受け、球団側がイリノイ州の連邦地裁に差止および宣言的救済(injunctive and declaratory relief)を求めて裁判が始まりました。

〔第1審 No.82 C 3710〕
 球団側の主張は大きくは次の二つです。


①試合の放送は(従業員である選手達が創作したものであったとしても)”work made for hire”(日本式にいうと「職務著作物」に相当)であり、その著作権は球団が保有する。
②「master-servant」理論(主従関係理論)により、雇用者である球団は従業員である選手が行う試合に関するすべての権利を有している。

 これに対して、選手側は次のように抗弁しました。


 試合の放送は、同時にビデオテープに固定されている限り、著作権の保護を受ける著作物であるが、それは、ディレクターやカメラマンその他の番組制作者の貢献によるものである。
 一方、現実の試合そのもの(瞬間瞬間にフィールドで繰り広げられているプレー)は「著作物」ではなく、「非著作物」であるから球団の”work made for hire”の対象にはならない。

 しかし、イリノイ州の連邦地裁は、「現実のプレー」も「放送されているプレー」も「同一のものであり、違いは存在しない」として選手の主張を退けています。

 選手は更に、「自分達は自分の名前や顔・姿形といった肖像およびライブ・パフォーマンスに関わるパブリシティ権の対価を求めているのだ」とも主張しましたが、裁判所は、「コモンローに基づく権利である「パブリシティ権」は連邦法である著作権法に基づく権利である著作権に「専占」(”preemption”)(注2)されるので、球団の保有する著作権の方が優先され、選手のパブリシティ権はこれに劣後するとして、選手の主張を否定しました。

(注2)専占(preemption)
 合衆国憲法第6条2項で「この憲法、これに準拠して制定される合衆国の法律、および合衆国の権限に基づいてすでに締結されまた将来締結されるすべての条約は、国の 最高法規である。各州の裁判官は、州の憲法または法律中に反対の定めがある場合でも、これらのものに拘束される」と定めているように、同じ法域において連邦法と州法が併存する場合には、連邦法が優先適用されるとするものです(”state preemption”として特別に州法が優先される場合との区別を明確にするために「federal preemption」と呼ばれることもあります)。
 著作権法の場合は、法第301条に「Preemption with respect to other laws」として専占についての規定が加えられています。

 連邦地裁は、球団側の「master-servant」理論も認め、球団側の主張に軍配を上げました。

〔控訴審 805 F.2d 663, 7th Cir. 1986〕
 選手側は、連邦地裁の判断は間違っているとして、イリノイ州を管轄する第7巡回控訴裁判所(U.S. Court of Appeals for the Seventh Circuit)に控訴しました。

 選手側は、試合におけるパフォーマンスは芸術性に欠ける(lacked artistic merit)ので著作物ではなく著作権の対象ではない、という主張を加えたほかは、連邦地裁での主張とほぼ同様の主張を繰り返しました。

 これに対して巡回控訴裁判所は、「僅かな創造性があれば著作物たり得る」とし、万一、創造性がなくて連邦著作権法の保護を受けないものであっても、一般的に著作権の対象物の範囲に入るものであれば、州法による保護(すなわちパブリシティ権による保護)を受けることはできない、と断じています。そのほかについても、ほぼすべて連邦地裁と同じ判断に立ち、選手側の主張を退けました。

 連邦地裁も巡回控訴裁判所も、選手の主張する「パブリシティ権」については、連邦法である著作権法が州法としてのコモンローによる保護であるパブリシティ権に専占(preemption)するとして退けたのです。

 「著作権による保護」と「パブリシティ権による保護」の対象が同一とは言い切れないように思われ、どうもしっくりしません。筆者としては、専占(preemption)なんてものを持ち出さなくても、「(野球の)試合がテレビ放送されることは重々承知の上、選手契約を締結し、異議なく試合に出場し、対価として報酬をもらっているのであるから、パブリシティ権の対価はその報酬に含まれていると推定される」ということで決着をつけられるのでないかと思うのですが(裁判所もそう理解しているようです)、判決理由として挙げるには書証などが不足していたのでしょうかねぇ。

 放送権料の分け前が欲しいのなら、裁判所に申し立てるのではなく、労使交渉(collective bargaining)で争って獲得しなさい、というのが裁判所の選手側に対する忠告でした。


[Citation]
Baltimore Orioles, Inc., et al. v. Major League Baseball Players Association
U.S. Court of Appeals for the Seventh Circuit, Oct. 29, 1986
805 F.2d 663 (7th Cir. 1986)


 この後、選手側は連邦最高裁判所に上訴を求めました(petition for a writ of certiorari)が、連邦最高裁はこれを認めず、上記巡回控訴裁判所の判決が確定しました。


4.ボストンマラソン事件(WCVB-TV v. Boston Athletic Association)1990年および1991年

 最後に紹介するのは、主催者の許諾を得ずにスポーツ・イベントをテレビ放映することが違法ではないと判断された事例です。KQV事件により確立した「misappropriation」法理による保護の限界を示す事例として注目される判例です。

 「ボストンマラソン」は、毎年4月の第3月曜日(Patriot’s Day)にアメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストン市で開催されるマラソン大会として有名ですが、その創始は1897年で、近代オリンピック(1896年創始)に次いで歴史の古いスポーツ大会の一つです。
 その主催者であるBoston Athletic Association(「BAA」)は、同じく1897年に設立されたNPO(Non-Profit Organization)です。

 1990年、BAAは同年開催するボストンマラソンのテレビ放映権をWBZ-TVに独占的に許諾していましたが、ライバル放送局・WCVB-TVがBAAの許諾を得ることなく同マラソンの最初から最後までの中継放送を行いました。BAAがWCVB-TVに抗議したところ、WCVB-TVは翌年もボストンマラソンを中継放送するつもりだというので、BAAはその予備的差止命令(preliminary injunction)を求めてボストンの連邦地裁に提訴しました。

〔第1審〕
 BAAの主張は、(1)当該イベントはBAAが長年多額の資金を投入して築き上げたものであること、(2)BAAが保有する登録商標「BOSTON MARATHON」の侵害であること、(3)当該イベントのテレビ放映権はWBZ-TVに独占的に許諾していること、などでした。

 しかし、連邦地裁は、マラソンコースは市街地であり、公共的な空間でありBAAによる支配・アクセス制限が及んでいない場所で展開されるニュース価値のあるイベントなので、(KQV事件の判例の射程外であり)BAAがそれを差止る権限は無いとしました。
 また、BAAの商標権の主張に対しては、WCVB-TVによるBOSTON MARATHONという言葉の使用は、商標としての使用に当たらないとしました。
 結局、予備的差止請求は認められず、BAAはマサチューセッツ州を管轄する第1巡回控訴裁判所に控訴しました。

〔控訴審 926 F.2d 42, 1st Cir. 1991〕
 控訴審では、商標権問題を中心に審議され、裁判所は商標権による保護は、「出所の混同」を防ぐことを目的としているのであることを確認の上、WCVB-TVがボストンマラソンのテレビ放送を行う過程で放映あるいは使用されるBOSTON MARATHONという言葉・文字は、WCVB-TVが主催者であるというような「出所の混同」は生じさせないし、また、WCVB-TVがオフィシャル・スポンサーであるという誤認も生じさせず、その放送がWBZ-TVによって放送されているものだという誤認も生じさせない、として第1審の判決を支持しました。

 この事件(特に第1審の判断)は、KQV事件の判例で確立した「misappropriation」の理論に基づくスポーツ・イベントの放送権(放映権)も、やはり「開催場所へのアクセスが主催者によりコントロールされている」という条件の範囲に限られる(筆者の言葉でいうと「究極的には施設の『所有権』」)ことになるであろうことを示しています。


[Citation]
WCVB-TV v. Boston Athletic Association, et al.
U.S. Court of Appeals for the First Circuit, February 12, 1991
926 F.2d 42 (1st Cir. 1991)


 以上、アメリカにおいてスポーツ・イベントの放送権(放映権)は、判例(KQV事件の判例など)により、原則として、その主催者が保有することになっていること、その法的基盤は州法(コモンロー)に基づく「misappropriation」理論であること、スポーツ・イベントのテレビ中継番組の「放送」は、著作物として著作権の保護が及ぶこと、そしてその放送の著作権者は原則としてイベントの主催者である球団やリーグ等であることを確認してきました(法令・判例の流れは、図1をご参照ください)。



【図1】(クリックで拡大します)


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 4大メジャーリーグ(NFL、 MLB、 NBA NHL)の放映権については「スポーツ放送法」の成立にまつわる話と合わせて、第8回に「スポーツ中継のブラックアウト」と題して改めてお話しします。

 次回(第7回)は、放映権のお話は一旦置いて、「施設の名称は誰がつけるのか?」と題して、「ネーミングライツ」について商標法上の問題などを含めてお話しすることにします。





 編集/八島心平(BIZLAW)


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この連載記事を読む
 スポーツビジネスと法 / 宮田 正樹(一般社団法人GBL研究所 理事)

宮田 正樹

Profile

宮田 正樹 [一般社団法人GBL研究所 理事]

一般社団法人GBL研究所 理事、二松学舎大学国際政治学研究科。1971年大阪大学法学部卒。同年伊藤忠商事株式会社入社。同法務部等を経て、株式会社日本製鋼所法務専門部長兼法務グループマネージャーを歴任。2013年9月末日を以て同社(日本製鋼所)を定年退職。同年10月より一般社団法人GBL研究所理事。2004年より二松学舎大学大学院で「企業法務」について、2008年より2016年2月まで帝京大学で「スポーツ法」について、それぞれ非常勤講師として教鞭を執る。主著に『リスク管理と契約実務』(共著 第一法規、2004年)、『知的財産のビジネス・トラブル Q&A』(共著 中央経済社、 2004年)『リスク管理と企業規程の作成・運用実務』(共著 第一法規、2008年)『プロスポーツ経営の実務』(共著 2011年 創文企画)『現代企業実務 Ⅰ(国内企業法務編)』(共著 2014年 大学教育出版)『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(共著 2014年 レクシスネクシス・ジャパン)『グローバルビジネスロー 基礎研修 Ⅰ 企業法務編』(共著 2015年 レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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