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テレビの放映権って
誰が持っているの? (前編)

一般社団法人GBL研究所 理事 宮田 正樹

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スポーツビジネスと法 第6回(前編)

 労働法、独占禁止法、契約法、著作権法、商標法……。これらさまざまな法律が複雑に絡み合う、世界でもっともポピュラーなビジネスがあります。それが「スポーツ」ビジネスです。日頃、私達が観賞しているこのスポーツにこそ、その国ならではのビジネス課題や法律問題が潜んでいます。この連載では、スポーツビジネスと法に関する研究の第一人者である宮田正樹先生に、「スポーツビジネスと法」と題して連載をいただきます。
 連載第6回、タイトルは「テレビの放映権って誰が持っているの?」(前編)。



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放送権のありかをめぐって

 本稿において「放送権」とは「スポーツ・イベントをライブの中継で、または、録音・録画により、ラジオやテレビなどの放送番組として制作し、放送することができる権利」を指すものとします。
 興行に関わる権利(放送権を含む)は、選手を保有・育成・訓練するにあたり経済的負担を行い、その興行により収益を得ることを業とする球団(チーム)あるいはリーグの財産権の一部であるということは否定できないでしょうが、それが録音・録画・放送などを差し止めることができるほどの強い権利かというと、少なくとも現在の日本の法律下においては、大いに疑問なのです。球団(チーム)あるいはリーグなどに許諾を得ることなくテレビ放送あるいはインターネット配信などがなされた場合でも、当該当事者に対しては「権利の侵害」として不法行為(民法第709条)による損害賠償を請求することができるに留まるものと思われ、差止請求までは認められないでしょう。

 ところで、「放送権」を保有しているものは誰かというと、日本のプロ野球(NPB)とプロ・サッカー(Jリーグ)の場合は、プロ野球はそれぞれの球団がホームゲームの放送権を保有する(野球協約第44条)、Jリーグは各クラブ(チーム)ではなくリーグが各試合の放送権を保有する(Jリーグ規約第127条)と、それぞれ「野球協約」や「Jリーグ規約」という当該団体の身内の取り決めで定めているだけなのです。

 そもそも放送を禁止する権原(法的根拠)があるのか?という根本的な問題が明らかでない上、NPBやJリーグのような身内だけでの規定(契約)の効果が放送局など第三者に及ぶとはいえません。それはさておき、ならば入場料を支払って入場した者による放送を禁じる権限はあるのかというと、更に問題はややこしくなってきます。
 商業放送の場合は、各放送局とも主催者側とトラブルを引き起こすことは利益にならないので、主催者の許諾を得ずに放送するような事件は起こっていないようです。また、特にテレビ放送の場合には、機材も大掛かりとなり、警備の目を盗んで機材を球場内に持ち込むのは現実的には容易ではないでしょう。

 しかし、ビデオカメラなどの小型化・スマートフォンの高機能化、インターネットでの画像配信が容易になった現在においては、入場券を購入して正規に入場した観客がビデオ映像をライブまたは録画で配信することが技術的に可能な状況になってきています。
 このような行為を主催者側が取り締まるためには、どのような法的手段があるのでしょうか。これまでにも何度も述べているように、日本の著作権法では、スポーツの実演は著作権や著作隣接権の対象となっていませんから、スポーツの実演を撮影・録画・録音し放送することを禁止する根拠を著作権法から見いだすことはできないのです。
 所有権に基づくアクセス制限は、球場への入場についての制限はできますが、撮影・録画・録音、放送することを直接禁止する効力はありません。

 となると、観客(入場者)との「契約」で試合を撮影・録画・録音、放送することを禁止するという方法が唯一の手段だと考えられます。
 入場券の売買に付帯する「約款」の条項に「(観客は)試合を撮影・録画・録音してはならず、また撮影・録画・録音したものを公衆送信(放送、有線放送、インターネット等による自動公衆送信など公衆に向けての送信)してはならない」という規定を加えるのが最も現実的な方法でしょう。観客がこれに違反した場合には、「契約違反」(債務不履行)として、契約を解除し施設から退去させる。放送(公衆送信)したり、していることを発見した場合には、「履行請求」(本件の場合は、「してはならない」という不作為の債務の不履行ですから行為の「差止請求」となります)および違反によって生じた損害の賠償を請求(損害賠償請求)することになります。

 しかし、入場し撮影・録画・録音した本人以外の者が、放送やインターネット送信した場合には、当該行為者とは契約関係がないため債務不履行を訴えることはできませんから、不法行為として損害賠償を請求することになります。不法行為の主張もけっこう困難ですが、不法行為を理由とする行為の差止請求はほぼ不可能であるという問題があります。

 なお、音楽コンサートなどの場合、カメラ・ビデオカメラ・録音機など機器の持込そのものを約款あるいは当日の掲示・アナウンスで禁じていることが多いですね。音楽コンサートの場合は、演奏・歌唱される楽曲の著作権、歌手や演奏家など実演家の著作隣接権により、録音・録画の公衆送信などに対し差止請求など法的措置をとることができますが、事後的な対応となってしまうので、予防措置として機器の持込を禁じたり、スマートフォン等による撮影・録画を禁じるアナウンスや係員の配備の措置を講じているのです。

 前述のように、著作権法による保護のないスポーツ・イベントの場合は、機器の持込制限という予防措置と契約による制限(公衆送信などの禁止、違反した場合には差止および損害賠償の請求を約款に加える)という手段しか制限方法はないのが現状ですが、筆者がプロ野球に関して調べたところ、日本プロフェッショナル野球組織(NPB)や各球団の「試合観戦契約約款」や各プロ野球開催球場の「約款」や「観客マナー」規定には、上記のような制限規定は見当たりませんでした。機器の持込制限は顧客を敵視しているとの印象を与え、ファンサービスに反するとの考えから約款の改訂に踏み切れていないのか、あまり問題視していないのか、その理由は不明です。

 という日本の現状を概観した上で、スポーツビジネス先進国アメリカにおける「放送権」の沿革と現状を以下で紹介していきます。


アメリカにおける
スポーツ放送の歴史

 スポーツ・イベントに放送という新たなメディアが加わってきたのは、ラジオが発明され、商業放送が始まった1900年代初めからです。
 無線での音声放送(ラジオ)を世界で初めて実現したのは元エジソン社の技師であったカナダ生まれの電気技術者レジナルド・フェッセンデン(Reginald Aubrey Fessenden 1866〜1932)で、1900年に歪みはひどいものの最初の通信テストに成功したといいます。
 そして正式な公共放送(かつ商業放送)の最初は、1920年11月2日にアメリカ・ペンシルベニア州ピッツバーグで放送開始されたKDKA局といわれています。

 アメリカにおけるスポーツ・イベントの放送(以下「スポーツ放送」といいます)が最初に行われたのは、1921年4月11日のボクシングのラジオ中継です。そして、同年8月5日には最初のプロ野球放送(ラジオによるピッツバーグ・パイレーツ対フィラデルフィア・フィリーズ戦)が行われています(主なスポーツ・イベントの最初の放送は下記のとおりです)(※1)。

●アメリカで最初のスポーツ放送(ラジオ)Westinghouse station KDKA
1921/04/11 ボクシング:10-round, no decision boxing match between Johnny Dundee and Johnny Ray (at Pittsburgh’s Motor Square Garden)

●アメリカで最初のプロ野球放送(ラジオ) KDKA
1921/08/05 Pittsburgh Pirates vs Philadelphia Phillies (at Pittsburgh’s Forbes Field)

●アメリカで最初の大学フットボール放送(ラジオ) KDKA
1921/10/08 University of Pittsburgh vs West Virginia University (at Pittsburgh’s Forbes Field)

●アメリカで最初のスポーツテレビ放送 NBC
1939/05/17 大学野球:Columbia Lions vs Princeton Tigers (at Columbia‘s Baker Field)

●MLBで最初のテレビ放送 W2XBS (NBC)
1939/08/26 Cincinnati Reds vs Brooklyn Dodgers (at Ebbets Field in Brooklyn)

●アメリカで最初の大学フットボールテレビ放送(NBC)
1939/09/30 Fordham vs Waynesburg College (at Triborough Stadium in New York)

●NFLで最初のテレビ放送 (NBC)
1939/10/22 Philadelphia Eagles vs Brooklyn Dodgers (at Ebbets Field in New York)

(※1)世界初のスポーツテレビ中継:1936年のベルリン・オリンピック


スポーツ・イベントの放送権に関する
ラジオ放送時代のアメリカの
判例と法制の流れ

 コモンローの国・アメリカにおいて「放送権」は判例の積み重ねにより認められていきます。初期の判例は、当然ながらラジオ放送に関わるものであり、対象イベントは野球でした(図1参照)。

放送そのものについては、FCC(Federal Communications Commission:連邦通信委員会)が管轄し、事業者に対して、免許の交付、更新の可否を決定をする裁定権、放送通信に関する規則を制定する準立法権を持っています。そのことを含め、通信法(Communication Act)が放送に関する基本的な法律となっていますが、テレビ時代のスポーツ放送については、1961のスポーツ放送法(Sports Broadcasting Act of 1961)と1976年の著作権法の改正(The Copyright Act of 1976)が重要な法律となりました。(図1参照)
 以下、プロ野球放送に関わる初期の争いから眺めていくことにします。



【図1】


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1.ニュートン事件 1936年FCC判断

 最初に上げる放送権の争いはA.E. Newton (WOCL)事件(1936年)です。
 ニューヨーク州ジェームズタウンのA・E・ニュートン氏は自宅の地下室をスタジオとするラジオ局(WOCL)を開設していましたが、1934年のワールドシリーズの内容をMLBの承諾なしに放送しました。1921年以降ワールドシリーズについては各放送局とMLBとの間で放送契約が行われるのが常でしたが、 ニュートン氏はMLBと契約することなく、他の放送局(WGR)の放送を聞きながら、その内容を自分の声で実況放送したのです。

 他の放送局等は、ニュートン氏(WOCL)に対する制裁として、FCCに対しWOCLの放送免許の更新を認めないように申し立てました。その顛末は、当時の週刊誌「Radio Guide」の記事に描かれていますように(図2,3参照)、WOCLの行為は通信法には違反していないというものでした。

【図2】転載元:Radio Guide 1935年11月23日を週末とする号
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【図3】転載元:同上
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(図3 赤枠部分)

News Is Still News

That news is news and is not subject to exclusive ownership or domination, is indicated in an examiner’s report which has been submitted to the Federal Communications Commission.

Examiner Melvin H. Dalberg, who conducted hearings on the application of A. E. Newton, Jamestown N. Y., for renewal of the license of WOCL , holds that that station did not violate the rule against rebroadcasting in its World Series play-by-play account last year. in the following manner: A receiving set was placed in WOCL studios where a running account was received.

In conjunction with the play-by-play account radioed through Station WGR, Buffalo, the announcer used information obtained by watching an animated score board in operation across the street, and a ticker service.

The station was cited for rebroadcasting.

The following argument was used to sustain Examiner Dalberg’s findings.
“In the case at bar it appears that the originating station was broadcasting news of a baseball game to the general public. According to the testimony in this case, the continuity of that broadcast was not literally restated, but the news gathered herefrom and which was heard by the general public from the originating station, was restated by the announcer of Station WOCL to listeners within the area of that station; and it further clearly appears that the facts which he broadcast were not obtained solely from the station or stations into which he had tuned, but also from an electrical scoreboard opposite or near the studios from which he was operating.”

〔記事翻訳〕
 「ニュースはニュースであって、独占的な所有権や支配権の対象ではない」という審査官の報告書がFCC(連邦通信委員会)に提出された。

 ニューヨーク州ジェームズタウンのA.E.ニュートン氏によるWOCLラジオ局の放送免許更新の申請を審理していた審査官・メルヴィン・H・ダルバーグは、当該ラジオ局が昨年行ったワールドシリーズの実況放送(play-by-play account)は、「再放送(rebroadcasting)」の禁止規定に反してはいなかった、との判断を下した。その「実況放送」は次のようにしてなされたものであった。
 WOCLラジオ局のスタジオに(他の放送局が放送する)実況放送を聴取するための1台のラジオ受信機が設置された。
 バッファロー所在のWGRラジオ局から放送されてくる実況放送とともに、通りの向こう側で動いている電光掲示のスコアボードから得られた情報および電信で提供された情報(ticker service)をアナウンサーは用いたのである。

 WOCLラジオ局は、再放送のために引用したのだった。

 審査官・ダルバーグの判断の論拠として下記の主張がなされた。
 「本事件において、原放送局(WGRラジオ局など)は一般公衆に野球の試合のニュースを放送していたことは明らかである。証言によると、WOCLラジオ局の一連の放送は、(他局の)放送を文字通りに再言(口移しに再現)したものでなくて、一般公衆によって聴取されている原放送局(WGRラジオ局など)のニュースから寄せ集めたニュースをWOCLラジオ局のアナウンサーが同局から同局の放送圏に居る聴取者に対して再言していたに過ぎない。更に、同アナウンサーは、彼が受信したラジオ局が実況放送する事項だけではなく、彼が働いているスタジオの向かい側あるいはすぐ近くの電光スコアボードから得た事項も放送していたことは明らかである。

 また、論考 “Sports Broadcasting and the Law”:(Copyright 1984 Robert Alan Garrett and Philip R. Hochberg)において、次のように法的な解説がなされています。

 ニュートンの実況放送は、その後、FCCによる彼の放送免許の更新審査時において異議申し立ての根拠となった。異議の内容は、あのような放送行為は、他局の放送番組を、当該他局の承諾を得ることなく、再放送することを禁じている1934年通信法第325条(a)項(※2)に違反しているというものであった。

 FCCは、ニュートンの行為は「公正な取引理念に反する」「本質的に不誠実である」「他人の努力の結果の不正利用である」「全体として公衆を欺く行為であり、公衆の利益に反する」と言いながらも、通信法第325条には違反していないとした。ニュートンがスポーツ放送を行ったのは、1934年のワールドシリーズに限られていることを強調し、FCCはニュートンの免許を更新した。

(※2)1934年通信法第325条(a)項
Communication Act of 1934 § 325(a)
(U.S.C. TITLE 47 CHAPTER 5 SUBCHAPTER III Part I § 325)
§ 325. False, fraudulent, or unauthorized transmissions
(a) False distress signals; rebroadcasting programs
No person within the jurisdiction of the United States shall knowingly utter or transmit, or cause to be uttered or transmitted, any false or fraudulent signal of distress, or communication relating thereto, nor shall any broadcasting station rebroadcast the program or any part thereof of another broadcasting station without the express authority of the originating station.

〔和訳〕
(a)偽の遭難信号;番組の再放送
 合衆国の裁判管轄内にいる何人も、故意に、嘘や偽りの遭難信号を発信したり、発信させたりしてはならない。また、いかなる放送局も、他局が放送した番組を、原放送局の明示の許諾を得ることなしに、その一部または全部を中継放送してはならない。

(”rebroadcast”を「中継放送」と訳したのは、”to broadcast again (a radio or television program being simultaneously received from another source)”、つまり「再送:他の局の番組の電波を受けて、それをそのまま同時に放送した番組」のことであって、「再放送」すなわち「同じ番組を、後刻あるいは後日改めて放送すること」ではないことを明らかにするためです。
 なお、A.E. Newton (WOCL)事件に関するFCCの判断については、FCC Reports, Volume 2, July 1, 1935 to June 30, 1936のPage 281〜285で読むことができます。)



2.テレフラッシュ事件(National Exhibition Co. v. Teleflash)1936年判決

 ニュートン事件がFCCに対する申立であったのに対し、この事件は裁判所への申立(訴訟)です。ニュートン事件により通信法によるFCCの制裁は期待できないことを思い知った放送局やスポーツ事業者側は法的措置(訴訟)に打って出ることにしました。

 情報提供会社であるテレフラッシュ社(Teleflash)等が、入場券を買って球場に入場した人間から試合の流れについて逐次情報を得て、電話で顧客達に実況で戦況を伝えていたという事件で、球団(ニューヨーク・ジャイアンツの運営会社であるNational Exhibition Co.)が裁判所にその差止請求を行ったのです。
 本件では、入場券には入場者に試合状況を口外することや放送を制限するような文言が何ら記載されてなかったこと、また、試合の提供(球場での目視での観戦)とラジオ放送という言語による表現の提供とは競争関係にはないので、球団とラジオ局との間に不正競争関係はないとして、裁判所はこの行為は違法ではなく、原告(球団)による損害賠償および差止請求は認められないとしました。



[Citation]
NATIONAL EXHIBITION CO. v. TELEFLASH, Inc., et al.
District Court, S.D. New York February 21, 1936
24 F. Supp. 488 (S.D.N.Y. 1936)


3.KQV事件(Pittsburgh Athletic Co. v. KQV Broadcasting)1938年判決

 ピッツバーグのラジオ放送局(KQV)が、ピッツバーグ・パイレーツの試合を球場外の好位置(ビルの一角)から観戦しながら実況放送した事件で、パイレーツ(その運営会社であるPittsburgh Athletic Co.)、正規に放送権を得ていた放送局および放送のスポンサー企業が予備的差止(preliminary injunction)を求めて訴訟を提起した事件です。差止請求の内容は、「原告球団がホームの球場やアウェイの球場で行うプロ野球の試合の実況放送を被告放送局(KQV)が放送することを禁じる」というものでした。

 裁判所は、被告(KQV)の行為は原告(Pittsburgh Athletic Co.)の正常で合法的なビジネスに対する直接的で回復不能な侵害であり、盗用行為(misappropriation)であると判示しました。更に、被告の行為は、原告の費用負担の下で被告の不当利得が企てられた不正競争行為(unfair competition)であり、不当利得(unjust enrichment)がなされた、と判示しました。また、被告の行為は、当事者間の契約上の権利義務に対する不正な侵害行為であり、1934年通信法にも違反するとしています (通信法のどの条項に違反するかについては触れていません)。

 本件においては(テレフラッシュ事件のときとは異なり)、入場券の約款で「この入場券の保有者はゲームの進行状況に関する情報(ニュース)を口外しないことに同意する」と謳ってありました。球団側の学習効果ですね。
 この判決の中で裁判所は、球団は興行を行う球場の運営・整備、選手の給与等に多大な出費を行っており、試合に関する財産権を保有し、放送などにより試合内容を伝達し広める権利(当該権利をライセンスする、つまり、試合のニュースバリューを放送権の許諾などにより換価する権利を含む。)を有するとしています。
 この判決により、放送権を含め試合(ゲーム)に関する財産権が球団にあることが認められたことになりました(その財産権は、ホームチームかアウェイのチームか、はたまた両方にあるのか、あるいはリーグにあるのかは、この判決では述べていません。実務的には、ホームチームに放送権が、アウェイチームにその地元での放送権があるとして、処理されてきています)。

 なお、裁判所は、不正競争行為であるという判断に至るにおいて、International News Service v. Associated Press(248 U.S. 215)の判例(注2)に大いに依拠していると述べています。



[Citation]
PITTSBURGH ATHLETIC CO. et al. v. KQV BROADCASTING CO.
District Court, W.D. Pennsylvania August 8, 1938
24 F. Supp. 490 (W.D. Pen. 1938)


(注2)International News Service v. Associated Press(248 U.S. 215, 1918)
 第1次大戦中に、アメリカの2つのニュースの共同配信機関・International News Service(INS)とAssociated Press(AP)との間で争われた訴訟で、連邦最高裁において「最新のニュース(hot news)」に関する財産権の侵害(ミスアプロプリエイション:hot news misappropriation)が認められたという、有名な判例です。
 大戦中、INSは連合軍側からドイツ寄りであるとみられていたため、英国からの通信線(電信線)を利用させてもらえなかったのです。そのため戦況ニュースの取得に困ったINSが、英国からの通信線を利用することができたAPの記事の早刷りやAPのニュース掲示板などからニュースを拝借して戦況記事を作成して配信先新聞社等に流していたことが発覚し、APがその差止を求めた事件です。

 地裁は差止を認めなかったためAPが控訴し、高裁では逆に差止が認められたので、INSが上告したわけです。
 INSは、APの配信先の新聞社の従業員に賄賂を渡してAPのニュースを取得したり、APの従業員等に働きかけて発表前のニュースを取得したり、記事の早刷りやAPのニュース掲示板などからニュースを拝借し、それらを書き直して(rewrite)INSの配信記事として提供していたのです(ニューヨークなど東海岸の地域で得たニュースを電信でロスアンゼルスなどの西海岸地域に送れば、時差の関係で、場合によってはAPの配信先の新聞社よりも速く、当該ニュース記事の新聞が発行されたりもしたのです)。

 

 「事実」であるニュースそのものは著作権の保護の対象外です。著作権はあくまでも「表現」をその複製から保護するものなので、ニュース記事の文章がINSにより書き直されている場合には著作権違反に問えないのです。
 しかし、ライバル社に簡単に利用されてしまうのでは、ニュースの取材のために投入した費用の回収がままならず、ニュース提供のインセンティブが失われ、ひいては一般市民・大衆の不利益が生じることになるとして、最高裁が見つけ出した保護の法理がコモンローの不正競争法理に基づく「hot news misappropriation」だったわけです。「最新のニュース(hot news)」に「quasi property:準財産権」を認め、その不正目的使用(misappropriation)を差止ることができるとしたのです。ただし、それが認められるのは、当該ニュースの価値が維持されている間という、一定の時限的な保護であるとされています。

 

4.ファス事件(National Exhibition Co. v. Fass)1955年判決

 この判例は1955年のものですが、前記KQV事件の判例が再確認された事件です。

 スポーツライターのファスが、1953年から1954年にかけて、ニューヨーク・ジャイアンツの試合をラジオ放送で聴きながらテレタイプでその実況内容を他のラジオ放送局に流し、当該ラジオ局がその内容を放送したことに対し、球団(National Exhibition Co.)がファスの行為の差止めを求めたという事件です。

 前記KVQ事件でもそうだったのですが、被告側(ファス)は、野球のゲーム展開は単なる事実であり、その放送・公衆への伝達はニュース報道と同じく何ら制限を受けるものではない(「言論の自由」等)という主張を中心に抗弁しました。しかし、裁判所は、原告(球団)は、球場の運営・整備、優秀な選手の獲得と維持に多大な出費を行っており、ゲームの財産権(放送権を含む。)は原告が保有しており、ゲームの内容のニュースバリューについても、それを放棄したものでないことを入場券の約款や場内放送において、更にはラジオ放送においても明確に表明しており、このようにして行われたゲームは「公表」に当たらないので、被告の抗弁は認められないとしました。
その上で、ファスの行為は、球団に損害を与える不正競争行為(misappropriation)であり、これによってファスがラジオ局から得た金員は不当利得(unjust enrichment)であるとし、行為の差止めと不当利得の返還を命じました。



[Citation]
NATIONAL EXHIBITION COMPANY v. Martin FASS
Supreme Court, Special Term, New York County, Part V February 25, 1955
143 N.Y.S.2d 767 (N.Y. Misc. 1955)


 以上、3および4の判例で球団に認められた放送権の法的根拠は、「misappropriation」というコモンローに基づく、すなわち州法に基づく保護にあるわけなのです。
 このような沿革の放送権に連邦法の保護が加わるのは、後述するように、放送がテレビ時代に入り「スポーツ放送法(1961年)」の制定や「著作権法の改正(1976年)」がおこなわれることによってとなります。

 次に、テレビ時代の放送権を特徴づける判例や法制について紹介していく前に、上記初期の判例の積み重ねが始まるに至るアメリカにおける野球の試合の放送権の前史を簡単に眺めておきます。

アメリカにおける野球の試合の放送権の前史
① 電信による情報配信:
1890年代初めの頃から、野球の試合内容を逐次電信(telegraph)により酒場(saloon)に提供するサービスが行われていました。

② 電信送信権の取引(売買)の始まり:
1897年、NL(ナショナル・リーグ)がWestern Union(ウェスタン・ユニオン社:1854年設立の電信会社で、1861年に初めてアメリカ大陸を横断する電信線を敷設した最大手の電信会社)に所属チームの試合の電信送信権を販売しました(金額は、各チーム$300/年)。これは、MLBのLeague-wide Contractの始まりともいえます。

③ Wシリーズの映画化権の取引も始まる:
1910年、映画産業がWシリーズのハイライト部分の映画化権を$500で購入しています(翌年からは$3,500になっています)。

④ Western UnionがMLBの全球団の電信送信権を取得:
1913年、Western UnionがMLBの全球団の電信送信権を$17,000/年で取得するという条件の5年契約を締結。

⑤ Wシリーズのラジオ放送の始まり:
1921年のWシリーズ(NYヤンキースとNYジャイアンツがニューヨークの球場・Polo Groundsで闘った、初めての1球場だけで開催されたWシリーズ)の第1戦が最初のワールドシリーズのラジオ放送でした。
 ピッツバーグの放送局・KDKA 、スプリングフィールドの放送局・WBZ 、ニューワークの放送局・WJZ の3局が放送しましたが、実況と呼べるのはKDKAだけで(同局は球場の解説者から電話線で放送局に流された音声を放送しています)、WBZはKDKAの放送の再送(rebroadcast)でした。
WJZは、球場にいるアナウンサーから電話でスタジオに流される音声をスタジオのアナウンサーが再現し放送するという、当時一般的に使用されていた「re-creation」という方式で放送されたものでした。re-creationとは、球場から音声や電信(teletypeやteleprinterによる)でスタジオに提供される実況情報を受けて、スタジオのアナウンサーがしゃべり、打撃音や観客の声援などを合成で加えて放送するというものです。

 Wシリーズが逐次実況で球場から放送されたのは、翌1922年のWシリーズからとなります。このときはWJZが全試合を実況放送し、他放送局がそれを再送することにも応じました。その結果、このとき500万人がラジオ放送を通してWシリーズを「観戦した」といわれています。

 このように、野球のラジオ放送が始まるまでは、電信による「実況」が盛んに行われていたようです。1955年のファス事件の頃もまだその名残があったわけですね(思えば、1971年に筆者が社会人となった頃も、通信手段は「テレックス」というteletypeの一種でアナログな電信機器が、その後も、最先端通信機器でした)。

 続く後編では、アメリカにおけるスポーツ放送と著作権の関係から説明していきます。お楽しみに。





 編集/八島心平(BIZLAW)


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この連載記事を読む
 スポーツビジネスと法 / 宮田 正樹(一般社団法人GBL研究所 理事)

宮田 正樹

Profile

宮田 正樹 [一般社団法人GBL研究所 理事]

一般社団法人GBL研究所 理事、二松学舎大学国際政治学研究科。1971年大阪大学法学部卒。同年伊藤忠商事株式会社入社。同法務部等を経て、株式会社日本製鋼所法務専門部長兼法務グループマネージャーを歴任。2013年9月末日を以て同社(日本製鋼所)を定年退職。同年10月より一般社団法人GBL研究所理事。2004年より二松学舎大学大学院で「企業法務」について、2008年より2016年2月まで帝京大学で「スポーツ法」について、それぞれ非常勤講師として教鞭を執る。主著に『リスク管理と契約実務』(共著 第一法規、2004年)、『知的財産のビジネス・トラブル Q&A』(共著 中央経済社、 2004年)『リスク管理と企業規程の作成・運用実務』(共著 第一法規、2008年)『プロスポーツ経営の実務』(共著 2011年 創文企画)『現代企業実務 Ⅰ(国内企業法務編)』(共著 2014年 大学教育出版)『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(共著 2014年 レクシスネクシス・ジャパン)『グローバルビジネスロー 基礎研修 Ⅰ 企業法務編』(共著 2015年 レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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