MENU
BIZLAW BIZLAW
Powerd by LexisNexis®
BIZLAW
BIZLAW Powerd by LexisNexis®

RSS
Google+
Twitter
Facebook
HOME

「日本の選手は「労働者」か?
NPBに見るプロ選手の立場」(後編)

一般社団法人GBL研究所 理事 宮田 正樹

sportslaw_main02

スポーツビジネスと法 第4回

 労働法、独占禁止法、契約法、著作権法、商標法……。これらさまざまな法律が複雑に絡み合う、世界でもっともポピュラーなビジネスがあります。それが「スポーツ」ビジネスです。日頃、私達が観賞しているこのスポーツにこそ、その国ならではのビジネス課題や法律問題が潜んでいます。この連載では、スポーツビジネスと法に関する研究の第一人者である宮田正樹先生に、「スポーツビジネスと法」と題して連載をいただきます。
 連載第4回、タイトルは「日本の選手は「労働者」か? NPBに見るプロ選手の立場」(後編)。労働基準法、労働安全衛生法、労災保険法、労働組合法などにおいて、プロスポーツ選手はどのような位置づけがなされているのでしょうか?



 関連記事
  スポーツビジネスと法 第1回 めくるめくスポーツビジネス法の世界(前編)
  スポーツビジネスと法 第1回 めくるめくスポーツビジネス法の世界(後編)
  スポーツビジネスと法 第2回 それは「保留制度」から始まった(前編)
  スポーツビジネスと法 第2回 それは「保留制度」から始まった(後編)
  スポーツビジネスと法 第3回 マービン・ミラーの「FAへの死闘」(前編)
  スポーツビジネスと法 第3回 マービン・ミラーの「FAへの死闘」(後編)
  スポーツビジネスと法 第4回 「日本の選手は「労働者」か?NPBに見るプロ選手の立場」(前編)




NPBにおける
保留制度・フリーエージェント制度・ドラフト制度



保留制度

 MLBに習って運営されているNPBにおいて「保留制度」は当然のこととして導入されています。その規定は、統一選手契約の条項と野球協約の条項にとして定められています。

 まず、統一契約書第31条(契約の更新)として、次のような規定があります。

「球団が選手と次年度の選手契約の締結を希望するときは、本契約を更新することができる。
(1)球団は、日本プロフェッショナル野球協約に規定する手続きにより、球団が契約更新の権利を放棄する意志を表示しない限り、明後年1月9日まで本契約を更新する権利を保留する。
次年度契約における参稼報酬の金額は、選手の同意がない限り、本契約書第3条の参稼報酬の金額から、同参稼報酬の金額が1億円を超えている場合は40パーセント、同参稼報酬の金額が1億円以下の場合は25パーセントに相当する金額を超えて減額されることはない。
(2)選手が明年1月10日以後、本契約書第3条の参稼報酬の金額から、同参稼報酬の金額が1億円を超えている場合は40パーセント、同参稼報酬の金額が1億円以下の場合は25パーセントを超えて減額した次年度参稼報酬の金額で本契約の更新を申し入れ、球団がこの条件を拒否した場合、球団は本契約を更新する権利を喪失する。」

 契約が更新されるということは、次の契約期間(つまり翌年のシーズン)についての選手契約が成立するということです。球団が契約更新の権利を持っているということですから、いかに選手側が嫌がっても、球団が「更新します」と言ったら翌年のシーズンもこの選手はこの球団のためにプレーしなくてはならないことになります。プレーするのが嫌なら任意引退してしまうということになりますが、任意引退選手も保留選手に該当しますので(野球協約第68条第1項「保留球団は、全保留選手名簿に記載される契約保留選手、任意引退選手、制限選手、資格停止選手、失格選手にたいし、保留権を持つ。」)別の球団のためにプレーすることが認められる訳ではありません。

 一方、野球協約「第9章保留選手」において第66条(保留の手続き)として次のような定めがあります。

「1.球団は毎年11月30日以前に、コミッショナーへその年度の支配下選手のうち次年度選手契約締結の権利を保留する選手(以下、「契約保留選手」という。)、任意引退選手、制限選手、資格停止選手、失格選手を全保留選手とし、全保留選手名簿を提出するものとする。
2.契約保留選手の数は70名を超えてはならない。
3.すでに次年度支配下選手の公示のあった選手は契約保留選手の数に含まれる。ただし、第57条の2〔球団の合併、破産等により契約解除された選手の救済措置〕が適用されたときは、契約保留選手の数を80名までとする。」

 つまり、保留選手(球団の契約更新権の対象になる選手)は、他球団との契約交渉のみならず、すべての野球活動を行うことが禁止されます。この野球協約の取り決めは統一契約書同様に選手を拘束するものとされていますから、平たくいえば、当該球団の保留選手対象から除外されない限り、いったん特定の球団と契約した選手は当該球団のためにプレーするほかはすべての野球活動を禁止されてしまうのです。

 なお、ヨーロッパ型の「開放型モデル」を採用しているサッカー・Jリーグの場合は、「保留制度」は採らず、選手の移籍は原則自由とする一方、移籍先クラブが移籍元クラブに対して「移籍補償金」という一定の補償金を支払うことを義務づけることで、バランスを保つ仕組みとしています。



フリーエージェント制度

 NPBに「フリーエージェント制度」(以下「FA」)が導入されたのは、MLBに遅れること16年後の1993年です。現在、野球協約では、FAについては第196条で「この組織にフリーエージェント制度を設け、その詳細は「フリーエージェント規約」として別に定める」と規定しているだけで、その詳細についてはフリーエージェント規約でしたためています。その規約では、NPBのいずれの球団とも選手契約を締結する権利である「国内FA」と、NPB内のみならず外国のいかなるプロ野球組織の球団をも含め、国内外のいずれの球団とも選手契約を締結する権利である「海外FA」との2種類の資格を定め、それぞれの取得要件を大略次のように定めています。

出場選手登録145日を1シーズンとして換算し、累計8シーズン(通算1160日)経過で国内FAの権利を取得できる。ただし、2007年以降に行われたドラフト会議により選択されて入団した選手のうち、選択された当時、大学野球連盟又は日本野球連盟に所属していた選手については、上記の8シーズンを7シーズンと読み替えるものとする。9シーズン(通算1305日)に達したときに(ただし,それ以前に国内FAの権利を行使していた場合を除く。)は海外FAの権利を取得できる。
(最新版である2009年版「フリーエージェント規約」より)

 「出場選手登録」とは、通称「一軍登録」とも呼ばれており、試合に出場できるように所定の手続きにより所属リーグに登録されることで、登録できる選手数は最大28人(野球協約81条2項)です。そのうち、実際に試合に出場できるのは試合前に指名された最大25名です。この出場選手登録から外れることは、俗に「登録抹消」や「二軍落ち」などといわれています。登録を抹消されるとその日から一軍の公式戦には出場できなくなり、10日間は再登録ができません(野球規約84条)。
 したがって、通算1160日(あるいは1305日)も出場選手登録されるという要件を満たせ得るのは一握りの「超一流」選手以外にはあり得ないのです。

 因みに、MLBのFA制度は、選手が権利を取得するには、1年を172日とし、およそ6年分にあたる計1032日間のアクティブ・リストのへの登録(NPBでいうところの「出場選手登録」で最大25人)が必要とされています。なお、MLBは、FAとは別途、5年経過後には選手から球団に対してトレードに出して欲しいと請求することができる権利が生じます。



ドラフト制度

 NPBのドラフト制度は「新人選手選択会議規約」においてその詳細が定められています。

(概要)
 NPBが主催するドラフト会議(正式名「新人選手選択会議」)が毎年10月30日から11月22日までの間に招集開催され、新人選手選択会議規約に定められた手順に基づいて、新人選手との契約交渉権をNPBに属する各球団に振り分けます。球団が選択することができる新人選手の数は、原則として1球団10名以内です。
選択方法は、1巡目は入札抽選、つまり、参加する全球団が同時に選手を指名して、指名が重複した場合には抽選を行い指名球団を決めます。抽選に外れた球団については、抽選に外れた球団のみで再度入札抽選を行い、全球団の1巡目指名選手が確定するまでこれを繰り返します。
 2巡目は「球団順位の逆順」に、すなわち当該年のリーグでの順位が最下位の球団から順に選択権を行使します。(1番目の権利行使球団をセ・パいずれのリーグの球団とするかは、原則として、当該年のオールスターゲームで勝利したリーグの球団とします。2番目はその反対のリーグの最下位球団。以下同様。これを「ウェーバー方式」と通称しています。)
3巡目は2巡目と反対の順番(すなわちリーグ優勝チームから始まる順位順。これを「逆ウェーバー方式」と通称しています。)で選択。 4巡目以降は2巡目からの折り返しで、ウェーバー方式と逆ウェーバー方式を交互に行い、すべての球団が選択の終了を宣言するまでこれを続けます。

 新人選手は、ドラフト会議で指名を受けた球団としか契約交渉ができず、自由な契約交渉が著しく制限されています。したがって、ドラフト制度は、選手獲得市場における自由競争を制限するものであり、独占禁止法第8条1項1号(事業者団体による競争制限)や同法第3条後段(不当な取引制限=カルテル)に該当するのではないかとの問題が前記昭和53年3月2日の参議院法務委員会でも取り上げられたのです。

 実は、ドラフト制度は1936年にNFL(National Football League, NFL)が戦力均衡策として最初に導入した制度です(MLBは1964年、NPBは1965年に、それぞれこの制度を導入しました)。
 この制度に対しては、1978年にNFLの選手により反トラスト法(※)違反との訴訟を起こされています。(Smith v. Pro Football Inc. 593 F.2d 1173 (1978))
 訴訟を起こしたのは、1968年にドラフトによりワシントン・レッドスキンズと5万ドル(契約金含む)で契約を結んだジェームズ・マッコイ・スミスという選手でした。スミス選手は、レッドスキンズのドラフト1位指名選手として入団しましたが、1年目のシーズン最終戦で致命傷を負い、選手生命を絶たれたのです。球団側がスミス選手に支払った負傷手当は、契約書の負傷条項に則った約2万ドルでしたが、スミス選手側は「ドラフト制度が選手の自由契約を排除し、これにより負傷手当を含むより高額の選手契約の締結が妨げられた」として球団とNFLを相手に反トラスト法違反を理由とする損害賠償請求訴訟を起こしたのでした。

 ※これまでに何度も登場しているように「反トラスト法」は日本の独占禁止法のモデルとなった競争法で、連邦法としては「シャーマン法」、「クレイトン法」、「FTC法」等を総称した呼び方です。その中心となる法律がシャーマン法で、第1条でカルテルの禁止を、第2条で私的独占の禁止を定めています。
 スミスの主張は、ドラフト制度は、NFLに属する球団(企業)が全社で示し合わせて(談合、共同謀議)新人選手の労働市場における自由競争の制限をおこなっているわけであり(一人1社としか入団契約交渉をできないようにし、選手がより有利な契約先を選択することができないようにしている)、これは明らかに「カルテル行為」であるというものでした。

 連邦地裁では「当然違法の原則(per se illegal)」で判断し、ドラフト制度は「共同ボイコット」に当たるとして$92,200の損害賠償額を認め、これにクレイトン法に基づく3倍賠償を施した$276,600を損害賠償額としました。
 しかし、控訴裁判所は、この問題は「合理の原則(rule of reason)」(※)で判断するべきであるとし、合理の原則に基づいて競争促進的な面と競争制限的な面を検討した結果、NFLはドラフト制度が競争促進的であることを証明していないとしてドラフト制度は反トラスト法違反であると判断しましたが、損害賠償額については地裁で再度審議することとしました(なお、地裁で再度審議の結果、損害賠償額は$4,000とされ、その3倍の$12,000が最終的な損害賠償額となりました)。

 ※シャーマン法1条の違反(カルテル行為)の判断の手法として「当然違法の原則(per se illegal)」と「合理の原則(rule of reason)」とがあります。「当然違法」の原則」は、条文に定められた共同行為があれば、個別具体的に反競争的効果を立証する必要なく違法とするものです。「合理の原則(rule of reason)」とは、共同行為に加えて、個別具体的に反競争効果の立証がされた場合に違法とされるものです。すなわち、関連市場を画定し、当該市場に及ぼす競争制限的効果を明らかにするとともに、その競争制限的効果と当該カルテルが有する競争促進的効果とを比較衡量した上で違法か否かの判断が下されるのです。
 控訴審でNFL側は、ドラフト制度は球団間の戦力格差をミニマイズする目的で導入され、拮抗した試合が行われることにより、興行収益の増加をもたらし、選手の報酬も上がるという競争促進的効果があるのだと主張しました。しかし、控訴裁判所は、試合における競争を促進する効果はあるにせよ、第三者の市場参入を促すとかより安い商品が開発されるといったような「経済学」的な意味での競争促進的効果を立証していないとして、これを退けたのです。

 反トラスト法違反と認められたのに、なぜドラフト制度が現在もNFLや他のプロ・リーグスポーツに残っているのか不思議ですよね。その理由は、球団と選手会がCBA(労働協約)にドラフト制度を組み込んでいるからなのです。
 反トラスト法の適用除外の理論の1つとして、「適切な団体交渉を経て結ばれた労働協約で定められた項目については反トラスト法による訴訟を提起することができない」という考え方があります。これをNon-statutory Labor Exemption(法律に定めのない適用除外)と呼び、次の3つの連邦最高裁判決(Three Supreme Court decisions)に基づくものとされています。

① Allen Bradley Co. v. Local Union No. 3, International Brotherhood of Electrical Workers, 325 U.S.797 (1945)
② Amalgamated Meat Cutters & Butcher Workmen of North America v. Jewel Tea Co., 381 U.S. 676 (1965)
③ United Mine Workers v. Pennington, 381 U.S. 657 (1965)

 スミス選手との訴訟の途中で劣勢を意識したNFLは、判決が下される前年(1977年)に早々と選手会との間で彼らの同意するドラフト制度を盛り込んだCBAを締結したのでした。
 Baseball Exemption(野球に対する反トラスト法適用免除特例)を享受するMLBを除き、他のプロ・リーグはすべてこれに習っています。


4_02_1.jpg

選手の側に立って考えるNPBの問題点

 NPBにはビジネス面でもいろんな問題があり、この20年以上その成長がほとんど見られていません。ここでは選手の立場に立っていくつかの問題について考えてみます。



1.選手の労働者性と独占禁止法

 学説の多数説、東京都労働委員会がプロ野球選手会を労働組合として認定したこと、そして近年では2004年に東京地裁も高裁もプロ野球選手会を労働組合と認定していることより、プロ野球選手を法的に「労働者」として扱うことには(少なくとも労働組合法上は)異論はないものと思われます。
 そうすると1978年に公取委事務局長が国会で述べたように、プロ野球選手と球団との契約は雇用契約であって「取引き」とはいえず、プロ野球の取引慣行については独占禁止法の適用はないことになるのでしょうか?

 プロ野球選手が独占禁止法2条1項の「事業者」に当たるのか否かの問題については、芝浦屠場最高裁判決(最判平成元年12月14日)の定式を採用し「事業者性を認める余地・可能性はある」とする説があり、筆者もこれに同意するところです。
 同判決では「独占禁止法2条1項は、事業者とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいうと規定しており、この事業は何らかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反覆継続して受ける経済活動を指し、その主体の法的性格は問うところではない」としています。ここから、以下の定式が引き出されています。

1.事業者とは,何らかの経済的利益を供給する者である。
2.事業者とは,経済的利益の供給にあたって,反対給付を反復継続的に受ける者である。
3.事業者に該当するか否かを判断するにあたっては,主体の法的性格を問う必要はない。

 資格者やプロ野球選手のような技能者、タレント・有名人が労働をした場合には「事業者」とされるのであって、一律に「労働者」を事業者から除外する必要はありません。労働者が労働組合などにおいて団結しても独占禁止法に違反しないのは、労働者や労働組合が事業者に当たらないからではなく、労働関係法令に準拠した行為であるために正当化されるからなのです。「適用除外」という意味ではアメリカのNLRAに基づく「Labor Exemption」や上述の「Non-statutory Labor Exemption」と同じ考え方です。

 プロ野球選手と球団・NPBとの関係に独占禁止法に基づく検証を加えることは十分に可能だと考える次第です。



2.プロ野球選手と球団あるいはNPBとの間で「労働協約」は締結できないのか?

 前編で、プロ野球選手は労働組合法上の「労働者」とされていますが、労働基準法上の「労働者」ではない、労働組合法上の労働者の方が労働基準法上の労働者より広い概念である、このような法律上の取扱いの齟齬は当該法律の保護法益の違いに基づくといえると指摘しました。
 労働組合法上の労働者概念が労働基準法上の労働者概念より広いとした場合、労働基準法上の労働者ではないが、労働組合法上の労働者には該当する者の締結する労務供給契約が労働組合法第16条にいう「労働協約」に該当するか、という論点があります。
 仮に、該当しないとすると、それら労務供給者を組織した労働組合が締結する労働協約には規範的効力が生じないという事態が発生します。

 しかし、労働組合法第16条の「労働協約」の概念は、労働基準法が制定される以前の旧労働組合法当時から存在します。そのため、労働基準法上の労働者概念に限定して解する必然性はないことを踏まえると、労働組合法第16条にいう「労働協約」は、労働基準法上の労働者に該当しない労務供給者の締結する労務供給契約をも含むと解されます。したがって、労働基準法上の労働者ではないが労働組合法上の労働者には該当する者を組織した労働組合が締結した労働協約に規範的効力が生じると解することは十分可能です。

 ということで、NPB傘下のプロ野球選手は、MLBなどアメリカのプロ選手と同様のCBAとしての「労働協約」を交渉し締結することをめざし、その実現を図るべきだと考えます。



3.統一選手契約の問題性

 選手は野球協約で定められた統一選手契約書によって球団と契約して、試合に出場します(協約45条以下)。しかし、この「統一選手契約書」なるものがとんでもなく一方的な契約(約款、附合契約)なのです。選手が交渉できる部分は報酬金額とその支払方法にほぼ限られています。

 この契約内容の不当性については、2002年8月26日、プロ野球選手会がゲームソフト会社・コナミとNPBおよび各球団を相手取り、東京地方裁判所に提起した「肖像権に基づく使用許諾権不存在確認請求」訴訟の中でも争われました。この事件は、日本のプロスポーツでは珍しく最高裁まで争いが続きましたが、結果的には選手側が敗訴しています。(詳しくは『チューインガムから始まった「肖像権」』の稿で紹介します。)
 しかし、第1審の裁判官(高部眞規子さん)は、判決文の末尾に、次のように付記しています。

「なお,長年にわたって変更されていない本件契約条項は,時代に即して再検討する余地のあるものであり,また、分配金についても各球団と選手らが協議することにより明確な定めを設ける必要があることを付言する。」

 ここで指摘されている条項のみならず、現行の統一選手契約は、時代に即して全面的に再検討する必要があるものだと筆者は考えています。



4.年金問題

MLBの選手会(MLBPA)結成の過程に見られるように、年金制度(Pension Plan)の充実はアメリカの選手達の最大の関心事項であり、MLBPAの活動の原動力であります。その結果、メジャーに在籍した選手には充実した年金制度が確立しています。

 NPBもかつては「適格年金制度」に加入して選手、監督、コーチ、審判員を対象にした年金制度を持っていました(1964年に創設)。しかし、年金資産の運用が厳しく不足金が発生し事実上破綻をきたしため、適格年金制度が2012年に廃止されることも理由として、2011年3月15日、NPBはOBや現役選手らに対して説明会を開き、加入者に約74億円を解散資金にして分配するという形でこの年金制度を解散しています。現役選手についてはNPBが以降年間3億円程度を「国民年金基金」に積み立てることにしていますが、それで十分とはとてもいえません。プロ野球選手会としても、選手のセカンドキャリアーの問題と共に「年金制度の充実」はとても重要な課題であることを指摘しておきたいと思います。



 以上1〜4で指摘した問題については、プロ野球選手会が「労働組合」として結束し、専門家を交えてNPBや球団と対等に交渉できる組織となり、「労働協約」の締結を実現する中で改善・確立していくべきものなのです。選手等の健闘を願うばかりです。
 続く第5回では、「スポーツビジネスを守るもの」と題して、スポーツ興行の法的基盤について分析していきます。お楽しみに。





 編集/八島心平(BIZLAW)


book_global_businesslaw

グローバルビジネスロー基礎研修 1企業法編
Basic Training of Global Business Law 1 Business Law

井原 宏 / 河村 寛治(編著)
定価:¥5,600+税

出版社:   レクシスネクシス・ジャパン
ISBN-13:  9784908069338
発売日:   2015/11/12




この連載記事を読む
 スポーツビジネスと法 / 宮田 正樹(一般社団法人GBL研究所 理事)

宮田 正樹

Profile

宮田 正樹 [一般社団法人GBL研究所 理事]

一般社団法人GBL研究所 理事、二松学舎大学国際政治学研究科。1971年大阪大学法学部卒。同年伊藤忠商事株式会社入社。同法務部等を経て、株式会社日本製鋼所法務専門部長兼法務グループマネージャーを歴任。2013年9月末日を以て同社(日本製鋼所)を定年退職。同年10月より一般社団法人GBL研究所理事。2004年より二松学舎大学大学院で「企業法務」について、2008年より2016年2月まで帝京大学で「スポーツ法」について、それぞれ非常勤講師として教鞭を執る。主著に『リスク管理と契約実務』(共著 第一法規、2004年)、『知的財産のビジネス・トラブル Q&A』(共著 中央経済社、 2004年)『リスク管理と企業規程の作成・運用実務』(共著 第一法規、2008年)『プロスポーツ経営の実務』(共著 2011年 創文企画)『現代企業実務 Ⅰ(国内企業法務編)』(共著 2014年 大学教育出版)『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(共著 2014年 レクシスネクシス・ジャパン)『グローバルビジネスロー 基礎研修 Ⅰ 企業法務編』(共著 2015年 レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




ページトップ