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「日本の選手は「労働者」か?
NPBに見るプロ選手の立場」(前編)

一般社団法人GBL研究所 理事 宮田 正樹

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スポーツビジネスと法 第4回

 労働法、独占禁止法、契約法、著作権法、商標法……。これらさまざまな法律が複雑に絡み合う、世界でもっともポピュラーなビジネスがあります。それが「スポーツ」ビジネスです。日頃、私達が観賞しているこのスポーツにこそ、その国ならではのビジネス課題や法律問題が潜んでいます。この連載では、スポーツビジネスと法に関する研究の第一人者である宮田正樹先生に、「スポーツビジネスと法」と題して連載をいただきます。
 連載第4回、タイトルは「日本の選手は「労働者」か? NPBに見るプロ選手の立場」(前編)。労働基準法、労働安全衛生法、労災保険法、労働組合法などにおいて、プロスポーツ選手はどのような位置づけがなされているのでしょうか?



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プロ野球選手をめぐる法の姿

 MLBの話が続いたので、今回は日本のプロ野球(一般社団法人日本野球機構:略称NPB、以下「NPB」)について、選手の立場を中心にその法的側面を探っていきます。

NPBの組織形態

 まず、NPBはどのような組織になっているのかを概観します。
 2007年までの日本のプロ野球の組織は、日本プロフェッショナル野球協約(以下「野球協約」)に基づき、セントラル野球連盟、パシフィック野球連盟、およびそれらに所属する球団(12球団)によって構成されている任意団体である「日本プロフェッショナル野球組織」と、文部科学省所管の社団法人(当時)である「日本野球機構」という2つの組織がいわば渾然一体となった分かりにくい組織でした。

 近鉄バッファローズと阪急ブレーブスとの合併問題に端を発し、ホリエモンの登場、楽天の横入り、初のプロ野球選手のストライキ(古田の涙)などが話題となった2004年のプロ野球再編問題の際に、この組織体の責任の所在の曖昧さに加え、事態を収拾する能力のなさも露呈し、大きな批判を浴びたことが契機となり、2008年に組織改革が行われました。

 その結果、「社団法人日本野球機構」(2012年に一般社団法人に変更)の内部組織として「日本プロフェッショナル野球組織」が位置づけられ、日本プロフェッショナル野球組織の中にセントラル野球連盟、パシフィック野球連盟、およびそれらに所属する球団(12球団)が包含されるという現在の構成になりました(図1参照)。


図1(※クリックで拡大します)

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 NPBの定款の第12条(現41条)において「この法人の事業遂行に必要な専門的事項を処理するため、理事会の下にプロフェッショナル野球組織を設ける」と定められています。
 したがって、プロフェッショナル野球組織(以下「プロ野球組織」)が実際にプロ野球の試合を運営し、オーナー会議や実行委員会で、コミッショナーの任免(これはオーナー会議の専権事項)や新規球団参入、試合形式など、重要事項を決めています。

 プロ野球組織のガバナンス機構としては、野球協約第8条に基づいてコミッショナーが組織を代表し、コミッショナー事務局を指揮監督し、オーナー会議、実行委員会やセ・パ両連盟の理事会において決定された事項を執行するほか、事務を処理します。

 コミッショナーは、オーナー会議で選任され、任期は1期2年で再任も可となっています。なお、NPBの定款第42条2項で「コミッショナーは、原則として会長がこれを務める」とされています。
 それではNPBの会長はどのようにして決まるのでしょうか。NPBの定款の第26条3項では、「会長は、社員総会が会長に適任であるとして選定した、球団に関係のない理事の中から、理事会の決議によって選出する」と定められています。そしてNPBの「社員総会」は、NPBの機関としての「オーナー会議」としても開催される(定款第12条2項)とされている上、「オーナー会議」はプロ野球組織の機関としてのオーナー会議(野球協約上のオーナー会議)としても開催される(定款第12条2項)と定められているなど、NPBとプロ野球組織との入れ子構造の分かりにくさが野球協約とNPBの定款の間に存在しますが、要は、コミッショナーとNPBの会長は同一人物であるというのが原則となっています。
 また、コミッショナーは司法的権限を持ち、指令、裁定、裁決および制裁を下すことができます。その際、調査委員会に事実調査を委嘱することができ、また、必要に応じて有識者会議を設けることができます。

 これだけを見ると、コミッショナーの権限はなかなか大したものだと思えるのですが、MLBと比べるまでもなく、日本のコミッショナーの存在感と実権は誠に頼りないものだというのが現実です(アメリカのプロリーグのコミッショナーの権限と役割については、稿を改めてご紹介します)。

 現実のプロ野球組織の(そしてNPBの)最高権力機関は「オーナー会議」にあります。実務的には、その指示監督を受けるとされる「実行委員会」がプロ野球組織の合議・議決機関です。

 このような構造を三権分立に見立てて(図2参照)、「議決機関(立法):オーナー会議&実行委員会」「執行機関(行政):コミッショナー(および事務局)」「司法機関(司法):調査委員会(コミッショナー)」と表現されることがありますが、組織改革以前と同様、コミッショナーはお飾りにすぎないといわざるを得ない実態が続いています。


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 NPBの諸規定はMLBのものを参照あるいは真似て作られているため、選手はNPBの構成員とされておらず、NPBの構成員である各球団と契約(統一選手契約)でつながり、球団の指揮命令を受ける者とされています。その統一選手契約に野球協約が引用されていることによって、その範囲において、選手に対して野球協約の効力が及ぶことになっています。


プロ野球選手は、球団に対していかなる法的地位に立つものなのか?

【雇用か請負か】
 統一選手契約はその第2条で選手契約の目的として「選手がプロフェッショナル野球選手として特殊技能による稼働を球団のために行なうことを、本契約の目的として球団は契約を申し込み、選手はこの申し込みを承諾する」と定めています。そしてその第3条で「球団は選手にたいし、選手の2月1日から11月30日までの間の稼働にたいする参稼報酬として金・・・・・・円」を支払う、としています。
 「特殊技能による稼働を球団のために行なう」という文言をどのように捉えるか、そしてその実態がどうであるかにより、この選手と球団との間の契約が「請負契約」か「雇用契約」の判断がつけられることになりますが、いまのところ定まった判断は下されていません。

 国税庁は、プロ野球選手を所得税法上「事業所得者」として取り扱っていますので、プロ野球選手と球団との契約は、請負契約と判断しているものと思われます。
 一方、学説上は雇用契約説が多数説です。理由は次の2つにあります。

① 請負契約は、特定の仕事の完成を目的とするものであるのに、プロ野球の場合、何が仕事の完成に当たるのかよく分からない。それよりも、プレーという労務の提供とその対価たる報酬の支払いの関係と見る方が自然である。
② プロ野球選手は、チーム/球団の一員としての行動を余儀なくされるのが通常(非独立的で従属的地位に置かれているのが通常)であるから、独立的地位にある事業者と見るのは無理がある。

 なお、公正取引委員会は、1978年に国会で、プロ野球選手と球団との契約は雇用契約であって「取引き」とはいえず、プロ野球の取引慣行については独占禁止法の適用はないという見解を述べています。(昭和53年3月2日の参議院法務委員会におけるドラフト制度に関する戸田嘉徳公正取引委員会事務局長の発言)

【労働者性】
 球団との関係が雇用か請負かには関わらず、日本プロ野球選手会は「労働組合」として認定されています。選手の親睦会としてスタートした「日本プロ野球選手会」は下記のステップを経て労働組合法第2条に定める労働組合と認定され、次いで労働組合法第11条に定める法人としての労働組合(労働組合法人)として法人登記しています。つまり、プロ野球選手は労働組合法上は「労働者」と認められている訳です。

 1980年 社団法人として設立認可(法人格取得→平成24年に一般社団法人化)
 1985年11月5日 東京都労働委員会が労働組合として認定
 1985年11月19日 労働組合法人として法人登記

 法人格の取得手続は、 ① 労働委員会の資格審査を受ける(組合規約、大会議事録(要署名人)、役員名簿等が必要)、② 最寄りの法務局へ法人登記を行う(組合の実印が必要) 、です。
 法人格取得のメリットは、労働組合の団体として次のような財産取引上の便宜が得られることです。

1  土地・家屋等の不動産を取得する場合に組合として登記ができる
2  組合として有価証券等の投資が可能である
3  税制上公益法人となるので、個人名で財産取引をするより税制優遇される

1946年11月3日に任意団体「日本野球選手会」としてスタートしたプロ野球選手会は、1980年に社団法人(現・一般社団法人)日本プロ野球選手会として法人化され、1985年には労働組合日本プロ野球選手会としての認定と登録がなされています。
したがって、プロ野球選手会は、ファンサービスその他の社会活動を行う一般社団法人日本プロ野球選手会と選手の待遇改善や地位向上など要求に基づいて団結し、団体交渉を行う労働組合日本プロ野球選手会との二つの顔を持った団体なのです。

 上記のように、プロ野球選手は労働組合法上の「労働者」とされていますが、労働基準法上の「労働者」ではなく、労働安全衛生法、労災保険法などの適用もないとされています。このような法律上の取扱いの齟齬は当該法律の保護法益の違いに基づくといえるでしょう。

 労働組合法は、労働組合の結成・活動を通じて労働者の権利を守ることを目的としており、「労働者」をその第3条において「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義しています。この定義から、労働組合法上の労働者は、「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」であれば、現在は失業中の者であっても労働者に含むということになっています。

 一方、労働基準法は、憲法第27条第2項の「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」に基づき制定された法律で、労働条件の最低限を定めるものです。そして労働基準法第9条では「労働者」を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で賃金を支払われる者」と定義しています。そのため、契約上において請負、個人事業主とされている者についても、実質的な「使用従属関係の有無」で「労働者」か否かが判断されます。しかし、「事業又は事務所に使用される者」という定義上、失業者は労働基準法上の労働者には含まれない(就業者のみが対象)とされています。


NPBによる選手の扱い

 NPBの選手に対する態度は、前記2004年のプロ野球再編問題の最中、当時の読売巨人軍のオーナー「ナベツネ」こと渡邉恒雄(当時、読売新聞グループ本社会長)が、労組日本プロ野球選手会の古田敦也会長(当時)が合併や球界再編などでの球団側との話し合いを求めたことを聞き、発した言葉「……、無礼な。たかが選手が。たかが選手といっても立派な選手もいるけどね。まあ、オーナーとね、対等に話す協約上の根拠は1つもない!」に端的に表れています(このナベツネ発言は、当時、国会でも問題視されています)。

 NPBはプロ野球選手会が1985年に労働組合と認定された後も、これを「労働組合」と認めず、プロ野球再編問題においても選手会の交渉申し入れに対し「正式な労働組合と認めていない」として応じようともしませんでした。
 選手側が申し立てた「(バッファローズとブレーブスの)合併差止の仮処分」は2004年9月3日に東京地裁で却下され、これを不服として行った即時抗告は9月8日に東京高裁に棄却されましたが、両裁判所ともプロ野球選手会が労働組合であることを認め、「日本プロ野球選手会には団体交渉権がある」「団体交渉で誠実交渉義務を尽くさねば不当労働行為にもなる」「日本プロ野球組織の対応は誠意を欠いており、今後は誠実な交渉を求める」と指摘しています。しかし、その後においてもNPBの選手に対する対応には大きな変化は見られないようです。

 このようなNPBにおける選手の処遇の問題は、前記1978年の国会(昭和53年3月2日第84国会の参議院法務委員会)であらかたのものが質疑に挙げられ、論議されています。

 選手契約を雇用契約と見るかどうかについては、先述のように公取委事務局長が「雇用契約」としてプロ野球選手の処遇問題に公取委が関与させられることを免れようと図った(?)ことを除くと、大方の政府関係者(政府委員・議員)は、雇用と請負の間に位置する「無名契約」とした上で、「どちらかというと請負契約に近いもの」として労働法の適用を免れるとの含みを示しています。その他、ドラフト問題に限らず、統一選手契約の内容が一方的な附合契約であること、保留権(保留制度)の問題、労働組合法の問題(選手の労働者性の問題)、労働災害保険の問題そして年金制度の問題と、現在に至るもまだ解決・改善が図られていない種々の問題が質疑されており、この議事録は今も一読の価値のあるものとなっています。
 総括すると、この国会での質疑において政府側(自民党政権ですが)は、一貫して経営側に有利な答弁を繰り返しており、球界の盟主・読売巨人軍を擁する読売新聞の政府への影響力および政府・自民党の経営者側への肩入れ・労働者軽視の姿を再確認する思いであります。

 さて、続く後編では、上記の国会での質疑でも挙げられ、MLBにおいても選手との間で争いの歴史を持つ保留制度・ドラフト制度・フリーエージェント制度などについて、日本の状況を確認してみます。





 編集/八島心平(BIZLAW)


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この連載記事を読む
 スポーツビジネスと法 / 宮田 正樹(一般社団法人GBL研究所 理事)

宮田 正樹

Profile

宮田 正樹 [一般社団法人GBL研究所 理事]

一般社団法人GBL研究所 理事、二松学舎大学国際政治学研究科。1971年大阪大学法学部卒。同年伊藤忠商事株式会社入社。同法務部等を経て、株式会社日本製鋼所法務専門部長兼法務グループマネージャーを歴任。2013年9月末日を以て同社(日本製鋼所)を定年退職。同年10月より一般社団法人GBL研究所理事。2004年より二松学舎大学大学院で「企業法務」について、2008年より2016年2月まで帝京大学で「スポーツ法」について、それぞれ非常勤講師として教鞭を執る。主著に『リスク管理と契約実務』(共著 第一法規、2004年)、『知的財産のビジネス・トラブル Q&A』(共著 中央経済社、 2004年)『リスク管理と企業規程の作成・運用実務』(共著 第一法規、2008年)『プロスポーツ経営の実務』(共著 2011年 創文企画)『現代企業実務 Ⅰ(国内企業法務編)』(共著 2014年 大学教育出版)『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(共著 2014年 レクシスネクシス・ジャパン)『グローバルビジネスロー 基礎研修 Ⅰ 企業法務編』(共著 2015年 レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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