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めくるめく
スポーツビジネス法の世界(後編)

一般社団法人GBL研究所 理事 宮田 正樹

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スポーツビジネスと法 第1回

 労働法、独占禁止法、契約法、著作権法、商標法……。これらさまざまな法律が複雑に絡み合う、世界でもっともポピュラーなビジネスがあります。それが「スポーツ」ビジネスです。日頃、わたしたちが観賞しているこのスポーツにこそ、その国ならではのビジネス課題や法律問題が潜んでいます。この連載では、スポーツビジネスと法に関する研究の第一人者である宮田正樹先生に、「スポーツビジネスと法」と題して連載をいただきます。連載第1回、タイトルは「めくるめくスポーツビジネス法の世界」です。



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  スポーツビジネスと法 第1回 めくるめくスポーツビジネス法の世界(前編)




「閉鎖型」「開放型」の
スポーツビジネス

 さて、スポーツビジネスのビジネスモデルには「アメリカ型」と「ヨーロッパ型」とに分けることができると言われています。アメリカのプロスポーツで採用されているビジネスモデルは「閉鎖型モデル」とも呼ばれています。このモデルでは、リーグによりチーム数とその所在地域が厳密に管理されており、各チームには所在地域におけるビジネスの独占権(フランチャイズ)が与えられています。そして、リーグへの新規参入には、既存のチームによる承諾と、巨額の参加費が必要とされています。

 このような閉鎖型ビジネスモデルを採用する背景には、“優勝の行方が分からない状態を長く続ける”(結果予測不確実性を高める)ことがリーグ戦を盛り上げる上で必須であるというアメリカのスポーツビジネス界における定説の存在があるのです。そして、それを実現するためには各チームの経営資源を管理し、戦力バランスをできるだけ均衡させることが必要です。「経営資源」とは、主に「選手」と「お金」のことを指します。「選手」についてはドラフト制度と保留制度によって、「お金」については収益分配制度やサラリーキャップ制度によって、チーム間の戦力をなるべく近似させるような管理が行われます。戦力が拮抗すれば、接戦が増え、結果予測不確実性が高まるからです。

 「戦力均衡」「共存共栄」がアメリカ型とも呼ばれる「閉鎖型モデル」の標語(キャッチフレーズ)と言っていいでしょう。

 これに対して、ヨーロッパ・サッカーが採用しているモデル(「ヨーロッパ型」)は「開放型モデル」と言われています。このモデルの特徴は、リーグが階層的に組織されており、上位リーグの弱いチームは下位リーグに降格し、下位リーグの強いチームは上位リーグに昇格するという「昇格・降格システム」が採用されている点にあります。このモデルでは、各チームに地理的な独占権はなく、新規参入についても巨額の参加費を払うことなく最下層のリーグから興行を開始することが可能になっています。

 アメリカ型の「閉鎖型モデル」で行われている「管理」は、リーグ全体の共存共栄という大義名分の下で選手個人やチームの権利を犠牲にした上で成り立っていると言えます。これを言い換えると、リーグ(チームという事業者の集団)が内部規約(契約)により各チーム(事業者)間での自由競争あるいは選手の労働市場における自由競争を制限しているということであり、反トラスト法の中心となるシャーマン法第1条の規定に違反するおそれのある行為ということになります。そのため、反トラスト法違反や労働法違反を争う訴訟・判例がアメリカのスポーツビジネスには非常に多いのです。

 ということで、わたしの「スポーツ法」のテーマの一つが、「反トラスト法(独禁法)とスポーツビジネス」となりました。

 わたしの「スポーツ法」が対象とするスポーツビジネスの範囲は、基本的には、プロ野球、プロサッカーといったエンターテインメントとして「見せるスポーツ」に限定して、それに関わる法律問題を取り上げていくことにしました。

 この意味でのスポーツビジネスの原点は、選手が繰り広げるスポーツ・ゲーム(試合)の「興行」にあります。ラジオ・テレビによる「放送」も興行の一部ととらえることができるでしょう。また、興行とその放送により広くファンを獲得したスポーツとチーム・選手の「顧客吸引力」を商材とすることによって「ライセンシング(マーチャンダイジング)」や「スポンサーシップ」というビジネスが成り立っています。

 現実に、興行(入場料収入)、放送(放送権・放映権料収入)、スポンサー(スポンサー料収入)、ライセンシング(ロイヤリティ収入)の4つがスポーツビジネスの収入の柱となっています。これらに加え、選手個人の顧客吸引力をマネタイズする「エンドースメント」(CMモデルやイメージキャラクターとしての起用など)や、球場等のスポーツ施設の命名権(ネーミングライツ)のビジネスがありますし、球団が施設を保有・管理する場合には、施設内での飲み物・食い物・グッズの販売といった「コンセッション」収入もバカになりません。

 これらを「競技に基づくビジネス」と「派生的ビジネス」として図表化したものが下の図です。


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 これらのビジネスに関わる法務・法律問題、そして、ゲームを繰り広げる選手、チーム(球団)、リーグという組織(法人)・個人に関わる法務・法律問題の基本的な部分を、指摘・紹介・解説することが、わたしの「スポーツ法」の授業の内容となっていったのです。

 なお、わたしをスポーツビジネスおよびスポーツ法の世界に導いてくれた恩人であり、盟友とも言うべき大坪氏は、2014年3月に癌により逝去されました。「盟友」を自認するわたしとしては、非常に残念且つ悔しい出来事でした。


スポーツビジネスが抱える
大きな法的問題点とは

 先ほど、スポーツビジネスを「エンターテインメント・ビジネスの一分野である」とのとらえ方をしました。しかしスポーツには音楽、演劇、映画など他の多くのエンターテインメント分野と大きく異なる法環境にあること、ある種の弱点の存在があります。それは「著作権」による保護を求めることができないという点です。

 音楽コンサート、演劇やミュージカル、映画などは、劇場などの施設に来場する観客から入場料を徴収する「興行」というビジネスモデルを採っているところはスポーツの興行と同じです。そのテレビ放映権が入場料と並ぶ収益源であることもこれらのエンターテインメントとスポーツは同じと言えます。ところが、音楽や演劇・映画などはすべて「著作物」として著作権による保護を享受できるし、歌手・演奏家、役者などには「実演家」として「著作隣接権」が認められており、イベントそのものとそれに登場し参加する実演家に著作権法による保護が働いています。しかし、野球やサッカーなどのスポーツ競技は「著作物」とは認められておらず、スポーツ選手は著作隣接権の対象となる「実演家」とは認められていません。

 これは、今のところはあまり顕在化していませんが、放送やインターネット・コンテンツとしてのビジネス展開においてスポーツが抱えるアキレス腱であると言えます。

 この連載の中でも触れていきますが、そもそもスポーツのテレビ放映権(放送権)なるものは権利として存在するのか、存在するとして本来の権利者は誰なのかという問題があるのです。これも「スポーツ競技は著作物ではない」ということが問題を分かりにくくしている要因の一つと言えましょう。

 というようなさまざまなテーマをちりばめて、「スポーツビジネスと法」に関する連載をスタートいたします。日本のスポーツビジネスにも触れていくつもりですが、教材となる事例が限られていますので(日本の場合はスポーツおよびスポーツビジネスに関して法律問題として争われることがほとんどありませんでしょ。 )「スポーツビジネスを通してアメリカ法を知る」という側面が強い読み物となるでしょう。

 わたしの現時点での構想としては、次のようなタイトルと内容で、順次執筆していく予定です。

 タイトル(内容)
 ・それは「保留制度」から始まった(MLBの保留制度と独占禁止法)
 ・マービン・ミラーの「FAへの死闘」(フリーエージェント制度導入と労働法)
 ・NPBに見るプロ選手の立場(日本の選手は労働者か?保留制度は?)
 ・スポーツの興行は何で守られているのか?(施設の所有権?アメリカの判例)
 ・施設の名称は誰がつけるのか?(ネーミングライツと商標法)
 ・テレビ放映権って誰が持っているの?(アメリカの判例を中心に)
 ・スポーツ中継のブラックアウト(アメリカの視聴者によるクラスアクション)
 ・チューインガムから始まった「肖像権」(肖像権を巡る米・日の判例)
 ・独占禁止法と知的財産権(NFLとアメリカン・ニードルの訴訟を中心に)
 ・コミッショナーって何をしているの?(リーグの運営の構造)
 ・学生スポーツとコマーシャリズム(NCAAの学生が起こした訴訟)

 それでは、次回「それは「保留制度」から始まった(MLBの保留制度と独占禁止法)」をご期待ください。


 編集/八島心平(BIZLAW)


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この連載記事を読む
 スポーツビジネスと法 / 宮田 正樹(一般社団法人GBL研究所 理事)

宮田 正樹

Profile

宮田 正樹 [一般社団法人GBL研究所 理事]

一般社団法人GBL研究所 理事、二松学舎大学国際政治学研究科。1971年大阪大学法学部卒。同年伊藤忠商事株式会社入社。同法務部等を経て、株式会社日本製鋼所法務専門部長兼法務グループマネージャーを歴任。2013年9月末日を以て同社(日本製鋼所)を定年退職。同年10月より一般社団法人GBL研究所理事。2004年より二松学舎大学大学院で「企業法務」について、2008年より2016年2月まで帝京大学で「スポーツ法」について、それぞれ非常勤講師として教鞭を執る。主著に『リスク管理と契約実務』(共著 第一法規、2004年)、『知的財産のビジネス・トラブル Q&A』(共著 中央経済社、 2004年)『リスク管理と企業規程の作成・運用実務』(共著 第一法規、2008年)『プロスポーツ経営の実務』(共著 2011年 創文企画)『現代企業実務 Ⅰ(国内企業法務編)』(共著 2014年 大学教育出版)『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(共著 2014年 レクシスネクシス・ジャパン)『グローバルビジネスロー 基礎研修 Ⅰ 企業法務編』(共著 2015年 レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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