MENU
BIZLAW BIZLAW
Powerd by LexisNexis®
BIZLAW
BIZLAW Powerd by LexisNexis®

RSS
Google+
Twitter
Facebook
HOME

共存の智恵

千葉大学 法政経学部 准教授 関谷 昇

interview_sekiya_main02

ルールとは何か、政治とは何か 第1回


 関連記事
  ルールとは何か、政治とは何か [予告編] 第1回  研究の出発点は 「法で救えないもの」への気づき
  ルールとは何か、政治とは何か [予告編] 第2回 「現場と研究の往復」が自分のスタイル
  ルールとは何か、政治とは何か [予告編] 第3回 「法と政治」「公と私」の関係をどうとらえるか?



 はじめの数回は、これからの話のベースとなるための原理的なことに触れていきます。ですから、少しだけ難しさがありますが、これからの連載の中で解きほぐしていきたいと思っています。
 なお、原理的な話題は、みなさまのビジネスシーンの中で、自明の前提とされていることを改めて再認識する、あるいは再考しようとする場合に、直面するものです。様々な前提が流動化し、既存の枠組みを越境することが求められている現在、そもそも論を考えてみることも必要不可欠です。それはまた、いま何が問われているかということを考えることでもあるように思います。

説得と納得の過程

 異なる考え方や価値観を持つ者が、お互いの違いを踏まえたうえで、それでもともに生きようとして話し合ったり妥協したりする、そうした説得と納得を繰り返す営みを、ここでは広義の意味で「政治」と呼ぶことにします。こうした営みは、国家や政治団体といった政治的主体のみならず、個人・企業・NPOといったさまざまな立場の間においても見られことですし、地域社会・市場・国際社会などあらゆる領域においても生じ得る一般的な現象と言えるでしょう。

 そうした過程において、当事者たちは、それぞれが自分(たち)の利益を守ろうとし、その主張の妥当性や正統性をさまざまな道具(明確な理論や根拠から見せかけの技量までを含む)をもって主張し合います。しかし、自分(たち)の考え方や価値観を強いることは相手からの批判を免れませんし、そもそも交渉自体が成立しないことも予想されます。そうであるとすれば、お互いが衝突して不利益を被ることを避けるために、もともとの自分の主張を変えたり、相手との妥協を模索したりすることが必要になってくるかもしれません。

 はじめから考え方や価値観が共有されていれば、交渉内容についても、さらには交渉の舞台そのものについても、それらを自明の前提とすることができます。当事者間における説得と納得の過程にはそれほど時間を費やさなくても、自分(たち)の主張を繰り広げれば、一定の合意にはたどり着き得るでしょう。そこでは、自分たちの主張に含まれている特性というものを必ずしも自覚しなくても、暗黙裏にものごとが進められていくからです。ところが、考え方や価値観を異にするものどうしが共存を図る場合はそうはいきません。自明の前提という「不作為」は許されず、相手との違いを明らかにし、説得と納得を繰り返すことによって、何らかの合意を「作為」していく努力が必要となります。

ルールをめぐる二つの側面

 ルールとは、まさにその過程において当事者たちの関係性を導くものであり、説得と納得の営みを安定化させるものであるととらえることができます。このルールというものを、上述した二つの側面に対応させてみると、次のように考えることができます。

 一つは、法という権威ないしは手続きとしての枠組みを前提とし、人々はそれに従うことによって、生活上の便宜を得ることができるという側面です。財産の保全にしても、商取引にしても、安全の維持にしても、ルールという枠組みが決まっていることによって、安定性を共有し、当事者がそれぞれの目的を達成できるわけです。これは、普遍的なルールがあるということを重要視するものであって、われわれの日常生活におけるルール感覚というものは、そうした側面が大半を占めていると言っていいかもしれません。

 しかし、異なる考え方や価値観の共存という点からルールを考えてみるとどうでしょうか。その場合は、ただルールがあるということを前提として、それに従えばいいということにはならない可能性が出てきます。そこでは、異なる考え方や価値観がいかに尊重され、それぞれが大事にしていることを通じてそれぞれが人間らしい生活を送ることができるかということが問われます。その意味でいえば、ルールとは、相互了解としての「共存」の図るという意味で理解され、解釈・創造される必要があります。

 ルールと政治との関係は、この二つの側面のいずれにもかかわりますが、その根源的なことを考えるに当たっては、とりわけ後者に着目することが重要です。政治とはさまざまな力学が作用し合う場であり、人々は可能であるならば、自分の確信に基づいて目的を達成しようとします。つまり、政治の営みには一定の価値判断が伴う以上、当事者間の関係性には、何らかの対立的側面が含まれることになります。それに対してルールは、普遍的な規範として誰もが遵守しなくてはならないものであり、力のせめぎ合いに対して、個々人の自由と環境としての秩序を保持するために必要とされます。法の支配や立憲主義の考え方は、まさにこの点に立脚しているわけです。異質なものの共存、それをめぐって政治と法との関係が本格的に問われるのです。

 こうした政治と法は、一方では政治の決定が法を作り出し、他方では法を遵守しながら政治が営まれるという関係で理解されるのが一般的です。しかしながら、この両者の関係は、そう単純に理解できないところに難しさがあります。

 これからの連載に当たって、読者の皆さんに留意しておいてもらいたいのは、この政治と法との間に潜む緊張関係という問題です。このことをめぐって、原理的なことから社会的なトピックまでさまざまなことを取り上げていく予定ですが、この緊張関係について、まずは原理的なところを紐解いていきたいと思います。初回は、本連載に通底するテーマを考えるために、政治とルールをめぐる二つの有力な考え方を取り上げたいと思います。




1 2

関谷 昇

Profile

関谷 昇 [千葉大学 法政経学部 准教授]

1971年生まれ。栃木県出身。1995年獨協大学法学部卒業。1997年千葉大学大学院社会科学研究科法学専攻修了、修士(法学)。2000年同大学院社会文化科学研究科日本研究専攻修了、博士(法学)。同大学法政経学部助教授等を経て、2007年より現職。
専門分野は、政治思想史、政治学。研究テーマは、[思想研究]近代社会契約説、自治の思想、補完性原理、コミュニティ論。[社会的実践]市民自治、市民参加・協働のまちづくり。

ホームページ : http://www.noborusekiya.com/




ページトップ