MENU
BIZLAW BIZLAW
Powerd by LexisNexis®
BIZLAW
BIZLAW Powerd by LexisNexis®

RSS
Google+
Twitter
Facebook
HOME

ソフトウェア会社を退職した社員による
職務発明(営業秘密)の流出(3)

国際企業法務協会労働法研究会 

serial_incalabor_main01

企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case5)

「法務部スタッフ」を主人公として、その視点から語られる、今日的で複雑な労働問題の数々。会話文や主人公のモノローグなどを用いて事件は語られ、時間軸に沿って事態は展開していきます。法務部スタッフは外部弁護士のアドバイスを仰ぎながら、事例に即した「落としどころ」を見出していきます。
Case5 は、「ソフトウェア会社を退職した社員による職務発明(営業秘密)の流出」です。
(※この連載はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)

 


 関連記事
  Case1 物流企業における従業員の事故についての企業側の対応 (1) (2) (3)
  Case2 パワハラによるうつ病により休業した契約社員に対する企業側の雇い止め対応 (1) (2)
  Case3 労働委員会によるあっせん手続きを申し立てられた際の企業側の対応 (1) (2)
  Case4 マタハラに関わる諸問題への企業側対応 (1) (2) (3)
  Case5 ソフトウェア会社を退職した社員による職務発明(営業秘密)の流出 (1)(2)





Case5 ソフトウェア会社を退職した社員による職務発明(営業秘密)の流出(3)

【登場人物】
 日水弘樹:プロキシマ株式会社 法務部チーフ
 美津島良平:クラウドエレクトロニクス株式会社取締役(元プロキシマ株式会社 開発部長)
 ケイス・ヘイワーズ:プロキシマ株式会社 取締役
 井上洋一郎:プロキシマ株式会社 人事部長
 榊弁護士:プロキシマ株式会社顧問弁護士


※この記事は「Case5 ソフトウェア会社を退職した社員による職務発明(営業秘密)の流出(2)」の続編です。



 遅いランチから戻った日水のメールボックスには、早速榊先生からのメールが到着していた。レスの速さに改めて驚嘆しながら、日水はメールを読み進めていった。

【弁護士の視点2】

秘密保持・競業避止条項の活用

 秘密保持にかかる社内規程や秘密保持契約は、企業の利益(営業秘密の保護)と役職員(職業選択の自由)の均衡を図れるよう配慮しつつ、次の4点についてある程度具体化・明確化した条項を定め、役職員が在職中から秘密保持義務を負担していることを認識できるようにしておくことが望ましい。

① 対象となる情報の範囲
② 秘密保持義務を負担する旨
③ 例外規定
④ 秘密保持期間
⑤ 義務違反の際の措置

 ただし、秘密の内容は刻々と変化する。そのため、適時適宜に秘密保持の対象を明確にする(役職員との間で確認する)ことが重要である。そこで、就業の段階に応じて、次の3段階での確認が望ましい。

(1) 避止条項の活用採用時の雇用契約
(2) 雇用期間中の就業規則・契約
(開発部門の配属時、特定大型プロジェクトへの配属、定期的な業務進捗確認時等)
(3) 退職時の契約

 「採用時の雇用契約」は、個別の業務を対象としたものではなく、一般的なものである。また、「退職時の契約」は、締結するよう努めるべきが、円満な協議が期待できるとは限らない。そこで「雇用期間中の就業規則・契約」の段階で、秘密保持の対象となる情報、秘密保持期間等を会社(上司)と社員との間で具体的に確認することが最重要である。
 具体的には、下記のアクションが求められる。

アクション1
 就業規則に秘密保持義務の対象範囲は別途指定する旨をあらかじめ定めておく

アクション2
 包括的・一般的な秘密保持義務を規定した誓約書等で秘密保持義務を課す

アクション3
 在職中に特定の部署に異動し、または部署の異動はなくても重要なプロジェクト等に参画する等して重要な営業秘密を知る場合、その都度秘密保持義務の対象を限定しつつ、秘密保持契約の内容を更新する

 これらのアクションのためには、業務日誌や報告書、従事した開発プロジェクトを日ごろから記録して保持することが不可欠となる。  特に職種を限定して採用した従業員(技術者等)については、従業員ごとに関連する技術情報並びに特定の部署への異動やプロジェクト等への参画ごとに、それらの情報をデータベース化し、営業秘密として扱う技術情報が特定できるような管理体制を構築・実施し、データベース管理は厳格に行われるべきである。また、「雇用期間中の就業規則・契約」は、製品のローンチが近くなったころに締結・更新するのが一般的であり、そこにはプロジェクト名と製品機能を記載しておくべきである。

 このようにして「雇用期間中の就業規則・契約」を締結・更新すれば、入社時に締結した「採用時の雇用契約」と比較して、対象となる秘密が特定され、契約を締結する人も限定的であるため、有効性を維持することができるように考えられる。


退職後の競業避止義務に関する合意について

 会社に在職し、会社との雇用契約上の義務を負っている状態と異なり、退職した従業員は、どのような企業に就職するか、どのような事業を始めるかについては自由に決定できるはずである。
 そのため、職業選択の自由を奪う可能性のある退職後の競業避止義務の有効性は、在職時の秘密保契約よりも厳格に判断され、限定的となる。
 まず、退職後の従業員の競業を制限・禁止するには、労働契約上の明確な根拠、すなわち退職後の競業避止を就業規則や個別の特約等であらかじめ定めておくことが必要と解される。

 しかし、就業規則や個別の特約で競業避止義務を定めても、常に有効とされるわけではない。退職者にその効力を及ばせるためには、従業員の利益と当該の競業避止義務を課す必要性との均衡が図られ、そこに合理性があることが必要である。すなわち、競業避止義務を定める就業規則や個別の特約について、従業員の職業選択の自由と企業の営業の自由(さらには社会における自由競争の確保)の調整を図る観点から、以下の4点等の諸要素を考慮して合理的な範囲内のものか否かを判断することが、裁判例の判断枠組みにも適っている。

① 競業禁止の目的
② 退職前の地位・職務内容
③ 競業が禁止される職種・期間・場所
④ 代替措置の有無

 最近の裁判例は雇用流動化を受けて、競業避止義務の有効性を厳格に判断し、営業秘密保護と職業選択の自由を比較考量して判断される。従業員の職業選択の自由に対して、その競業避止義務が適切に配慮された内容であることを要求し、企業側に厳しい態度を取る傾向が見られるので、上記の諸要素については、次のような考慮が望ましいと考えられる。

① 競業避止の目的
 企業固有の知識・秘密保護を目的とする場合は有効となる可能性が高いが、顧客確保を目的とするだけでは有効とはいえない。ノウハウ等の機密性の高い情報、取引先等の人的関係、多額の費用を投じて育成・確保した容易に代替し得ない専門知識・技能を要する分野の労働力確保、流出移転の防止を目的とする企業固有の秘密情報・利益をなるべく限定・具体化する。

② 従業員の地位・業務内容
 企業の企業秘密やノウハウ等の機密性の高い情報に接する機会のある地位・職務内容にある者や実際に企業の機密に接する職種に属する社員に限定する。

③ 競業制限の期間・地位的限定・禁止の業務内容・職種
 期間としては1年以内であれば有効、2年超だと無効となる可能性がある。・地域的限定としては広範な地理的制限だと無効となる可能性がある、・禁止の業務内容・職種については、一般的・抽象的な文言だと無効となる可能性がある。
 秘密保持・競業避止等に関する誓約書のひな形はこちらを参照されたい。

④ 代償措置
 競業禁止義務期間相当の金銭補償を行う。代償措置がない場合には在職中の処遇や秘密保持手当、退職金の加算等、みなし代償措置といえるものがあると特約の有効性が高まる可能性がある。
 さらに、就業規則およびその細則として退職金規程に、退職後を含めた競業避止義務を規定し、その違反に対しては退職金を減額・不支給としたり、退職後の一定期間内に競業他社への転職が判明した場合に退職金の返還義務等の規定を定めておくことも、間接的に退職後の競業行為を抑制することにつながる(ただし、退職金が労働の対価の後払い的性質を有する部分の減額・不支給は、顕著な背信性が認められる場合に限って有効と解される点に留意する必要がある)。


***


 以上を前提として、従業員が在職中に習得した技能や職務上開拓した取引先等のうち、企業が投じた資本や信用に依存するものと見られる範囲は、その性質上企業に帰属する成果と考えられるから、その範囲の技能や取引先等について秘密保持義務や競業避止義務を負うことを従業員との間で確認することが最低限必要である。

 企業のIT化が進み、重要な営業秘密がデータ化され、グループウェア等で管理されており、機密性の高い営業秘密に接する権限のある職種・地位にあり、高いITリテラシーを有している従業員が退職する場合には、退職時に、貸与していたモバイル契約を解約するだけでなく、ID・パスワードを切断する等して、外部から社内ネットワークに接続できないようにしておくことも必要である。



【結末】

 その後、プロキシマ株式会社の内部調査により、次の事柄が明らかとなった。

・当時、プロキシマ社に在職していた美津島は在職中に秘密保持契約を結んでおり、また秘密保持手当の支払いも行われていた。
・営業部の顧客リストは、部長以上の役職者のみがアクセスできる設定となっていた。しかし、当時のアクセス履歴から、契約スタッフであったAが当該の顧客リストにアクセスしていた事実が判明した。

 これらの内容から、日水は榊先生からの助言を受けつつ、「秘密保持契約違反」「不正競争防止法違反」「冒認出願による特許無効」の3点を明記して、クラウド社への抗弁書面をドラフトした。
 書き上げた抗弁書面を精読し、日水はカウンターとしての確実さを実感していた。



******************************************



 「企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case5)」、いかがでしたでしょうか。Case6では、「身元調査をした上で社員を解雇できるのか(採用募集、サインオンボーナス契約、身元調査、解雇)」をテーマとした事例を取り上げます。ご期待ください。




 編集/八島心平(BIZLAW)




 この連載記事を読む
  企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A


gva_prof

遠藤 元一 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

東京大学法学部卒。立教大学法科大学院講師、一般社団法人GBL研究所理事、「優れた第三者委員会報告書表彰委員会」委員。執筆として『循環取引の実務対応』(民事法研究会 2012年)、『倒産と担保・保証』(共著 商事法務 2014年)、「排除的管轄合意を無効としたアップル・島野訴訟中間判決」NBL1073号等。


青木 智子 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

早稲田大学法学部卒。通常企業法務の他、企業側の立場で、労働問題、コンプライアンス問題等も取り扱う。第二東京弁護士会 子どもの権利に関する委員会に所属し、子どもに関するいじめ事件、虐待事件等の対応も行っている。上場会社の監査等委員(現任)。

国際企業法務協会労働法研究会

国際企業法務協会」 International Corporate Counsels Association = INCAは、1988年に発足し、25年以上に亘り活発に活動している組織です。多数の企業法務部および個人が加入し、専門家の定期講演会、会員間の研修会、法分野ごとに研究会などを開催し意見・情報交換・懇親等を行っています。本連載の執筆陣である国際企業法務協会 労働法研究会は2012年8月に開講し、事例研究を行っています。




ページトップ