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物流企業における従業員の
事故についての企業側の対応(3)

国際企業法務協会労働法研究会 

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企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case1)

 「法務部スタッフ」を主人公として、その視点から語られる、今日的で複雑な労働問題の数々。会話文や主人公のモノローグなどを用いて事件は語られ、時間軸に沿って事態は展開していきます。法務部スタッフは外部弁護士のアドバイスを仰ぎながら、事例に即した「落としどころ」を見出していきます。
 新連載、「企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A」。Case1のテーマは「物流企業における従業員の事故についての企業側の対応」です。(全3回)。



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Case1 物流企業における従業員の事故についての企業側の対応

【登場人物】
 佐藤敏弘:アメリカン・ロジスティクス株式会社 法務部スタッフ
 青山:同社の法務部長
 塩谷:同社の広報部長
 石原:事故を起こしたトラックのドライバー
 柳本弁護士:同社の顧問弁護士


【法務部としての検討事項 3】

 ドライバーの石原に対する懲戒権を行使するための条件をまとめると次のようになる。

(1) 就業規則等の根拠規定が定められていること

就業規則に定められている場合には、その規定に「合理性」があることが必要であり、また、企業秩序の維持という観点から限定的に解釈される可能性がある。

(2) 権利濫用等の強行法規に違反しないこと(社会的相当性)

懲戒の対象となった従業員の行為の重大さに比して懲戒処分の内容が不相当に重い場合は、権利の濫用として無効と判断される。

(3) 懲戒処分は制裁としての性格を持っているので、罪刑法定主義の諸原則を満たすこと

予め就業規則に懲戒の種別と事由を定め(懲戒の種別及び事由の明定)、制定または改定した懲戒規定を制定時または改定時以前の事案に遡って適用することはできず(不遡及の原則)、一つの事案について重複して懲戒処分を課すことはできない(一時不再理の原則)とされ、手続きとして、懲戒の対象となる従業員に弁明の機会を与える等、適切な手続きを踏むことが要求される。

 次に、懲戒処分の種類であるが、一般的に、軽いものから ①戒告・けん責、②減給、③出勤停止、④降格、⑤諭旨解雇、⑥懲戒解雇 が定められることが多い。
「減給」においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、また、総額が、賃金支払い期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない(労働基準法第91条)。賞与から減額する場合も同様である。「出勤停止」においては、出勤停止期間中の賃金は払われないことが多い。また、懲戒解雇は、懲戒処分に関する規定と解雇に関する規定の双方が適用される。

 以上を踏まえて、自社の就業規則を改めて読んでみた。

(懲戒の種類)第60条
会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。

  1. けん責
    始末書を提出させて将来を戒める。
  2. 減給
    始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
  3. 出勤停止
    始末書を提出させるほか、10日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
  4. 降格
    始末書を提出させるほか、役職を免じもしくは引下げ、またはグレードを引き下げる。
  5. 懲戒解雇
    予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。

(懲戒の事由)第61条
労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給、出勤停止又は降格とする。

  1. 正当な理由なく無断欠勤が7日以上に及ぶとき。
  2. 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
  3. 過失により会社に損害を与えたとき。
  4. 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
  5. 性的な言動により、他の労働者に不快な思いをさせ、又は職場の環境を悪くしたとき。
  6. 性的な関心を示し、又は性的な行為をしかけることにより、他の労働者の業務に支障を与えたとき。
  7. 過失により業務上重大な交通事故を起こしたとき。
  8. その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。

2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第49条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

  1. 重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
  2. 正当な理由なく無断欠勤が14 日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。
  3. 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、数回にわたって注意を受けても改めなかったとき。
  4. 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。
  5. 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
  6. 故意又は重大な過失により業務上重大な交通事故を起こしたとき。
  7. 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く)。
  8. 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
  9. 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
  10. 職責を利用して交際を強要し、又は性的な関係を強要したとき。
  11. 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。
  12. 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき。
  13. 私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき。
  14. 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
  15. その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。

 交通事故については、第61条の第1項第7号と第2項第6号に記載がある。今回の事故は、軽傷とは言え、7名もの幼稚園児の怪我人を出したこと、メディアで報道されたこともあり、重大な事故と考えてよいだろう。故意ということはないだろうから、重過失か過失かの判断で、処分の内容が決まりそうである。

 そこまで考えていくつか疑問な点がでてきたので、顧問の柳本弁護士に以下の質問を送った。

① ドライバーの就業状況は、厚生労働省の告示は満たしている。しかし、厚生労働省の告示、ガイドライン等を守っていたからといって、会社の安全配慮義務は免れるのだろうか。逆に、厚生労働省の告示、ガイドライン等を守らなかったからといって自動的に過重労働だったことになるのだろうか?もし、会社が安全配慮義務を果たしていなかったと認められた場合、従業員を懲戒できるのだろうか?

② 本件において責任の重さは、過失の域を超えていないいのだろうか、それとも重過失と評価すべきだろうか。就業規則に従うとどの程度の懲戒が妥当だろうか?

③ 当社の場合、外資系では珍しくないが業務のローテーションは行われず、人事異動は、空いた職務を公募することで行われ、給与も原則として職種ごとに決定する。降格の処分をしても、この制度を利用すれば、現在と同等以上の職務に就くことができる。懲戒の内容として、社内公募への応募資格を制限することはできるのだろうか?

【弁護士の視点3】

柳本弁護士のコメント ①について

 会社は、労働契約に基づき、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をしなければならないとされ、いわゆる安全配慮義務を負っています(労働契約法第5条)。
 過去の裁判例に照らすと、安全配慮義務の内容は、使用者が事業遂行に用いる物的施設(設備)及び人的組織の管理を十全に行う義務と把握していると考えられ(菅野和夫『労働法』(第11版)633頁参照)、また、安全配慮義務を尽くすためには、労働災害等発生の危険を予見し、その危険を回避するための措置を講じる必要があると考えられます(東京地判昭和45年5月27日判タ253号284頁等)[※]。

 会社に対する法規制である労働基準法、労働安全衛生法等の他、会社に対して関係官庁から示される告示、指針(ガイドライン)等の違反は、当然に、会社と従業員の雇用関係に基づく安全配慮義務違反となるわけではないものの、これらの遵守の有無が安全配慮義務違反を判断する際の材料とされており、従ってこれらを遵守していない場合、会社の安全配慮義務が問われる可能性があると考えられます(従業員の居眠り運転による交通事故に関しては、加重な勤務状態を放置し就労環境を整える義務を怠った等として、会社等の安全配慮義務を認定した裁判例として、サカイ引越センターなど事件(大阪地判平成5年1月28日労働判例627号24頁)[※]、協和エンタープライズほか事件(東京地判平成18年4月26日労働判例930号79頁)[※]、井坂倉庫ほか事件(名古屋高判裁平成20年12月25日労働判例983号62頁等)[※]。
 他方、法令、告示・指針等を遵守していた場合でも、それのみで十分であるとは言えず、労働者の職種、業務内容、機械・設備等に関する具体的状況によっては、労働災害等発生の危険が予見されたのに、結果回避の措置を講じていなかった等として、会社が安全配慮義務違反に問われる場合もないとは言えないように思われます。

[※] 判例解説の閲覧にはLexis ASONE のライセンスが必要です

 本件においても、会社は、労働省告示である「改善基準」を遵守していたとのことですが、事故を起こす2週間程前から増えていたという残業の状況、当該労働者の疲労の状況等会社の把握していた具体的事情によっては、安全配慮義務違反を問われる可能性が全くないとは言えないように思われます。
 なお、会社に安全配慮義務違反があったこと及びその違反の程度等は、懲戒処分の有効要件としての相当性(後記③参照)を判断する際の一要素として考慮する必要があると考えられます。

柳本弁護士のコメント ②について

 過失が、通常、一般的な注意義務違反をいうとされているのに対し、重過失とは、故意に比肩する重大な過失をいうとされております。例えば、わずかな注意を払えば容易に違法有害な結果を予見できたのにその注意を怠った等の場合には、重過失ありと判断される場合が多いと考えられます。なお、車両一般の交通事故における重過失の例としては、酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、おおむね30km以上の速度違反(高速道路を除く)、過労、病気及び薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある場合(道路交通法66条違反)等が挙げられております(別冊判例タイムズ№38 59p)。

 本件事故は、ドライバーの居眠り運転が原因とのことですが、居眠り運転をした場合、交通事故という重大な結果を生じることは容易に予見できると考えられる点に鑑みると、本件交通事故についても、重過失ありという判断がなされる可能性が高いと考えられます。
 なお、就業規則に懲戒処分の根拠規定が存在しており使用者が労働者を懲戒することができる場合でも、その懲戒行為が、当該労働者の行為の性質および態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠いている場合、又は当該分が社会通念上相当であると認められない場合には、権利濫用として、当該懲戒処分は無効となります(労働契約法15条)。
 上記の相当性の判断に際しては、当該行為の性質・態様や被処分者の勤務歴(勤務期間、勤務実績、会社に対する貢献の大きさ等)、同様の事例に関する先例と比較した場合における公平性等を総合的に考慮すべきであると解されております。また、組合との協議や懲戒委員会の討議等を経ることが定められている場合は、その手続を遵守する必要があり、そのような手続きがない場合でも、原則として本人に弁明の機会を与えることが適正手続の観点からは求められており、よって、これらを欠く場合には懲戒処分が無効となる恐れがあると考えられます(前掲菅野和夫『労働法』674~5頁参照)。本件においても、懲戒処分を課す場合には、上記の点に留意しつつ、判断する必要があると考えられます。

柳本弁護士のコメント ③について

 まず、「社内公募への応募資格の制限」は、就業規則上、懲戒の種類等として定められていないため、懲戒処分として、上記を行うことはできないと考えられます。
 次に、社内公募制度は、一般に、社内のやる気のある人材を積極的に登用するという趣旨の制度であると考えられるため、同制度への応募者の登用を認めるか否かについては、原則として、会社が広い裁量を有しているとは考えられますが、懲戒処分を受けた者の社内公募制度への応募資格をその後一切認めない等とすることは、社内制度の内容によっては従業員の受ける不利益が相当重くなることも考えられ、そのような場合には、一つの事案について重複して懲戒処分を課すことはできないという一時不再理の原則に違反する恐れもあり、或いは、会社の上記取扱がその裁量の範囲を逸脱し権利濫用に当たりそのような制度は無効である等の判断がなされる可能性もないとは言えないように思われます。

 そこで、過去に懲戒処分を受けた者についても、少なくとも一定の期間経過後の社内公募制度への応募は認めた上で、懲戒処分の対象となった行為の具体的内容、時間の経過、その後の経緯等を踏まえて、実際に応募者の登用を認めるか否かについて、人事上の判断を行うという対応をとるのが望ましいように思われます。
 本件では、懲戒処分を受けたドライバーが、仮に、社内公募制度により、元のドライバー職への登用を求めて応募してきた場合、重大な事故を起こしたという行為の内容等に鑑みて、会社が、人事上の判断として、諸般の事情を考慮して登用を認めないという判断をしたとしても、原則として、会社の裁量の範囲内として有効性が認められる可能性が高いのではないかと考えられます。


【結末3】

 以上の内容を踏まえ、佐藤が人事部と打ち合わせた後、人事部は懲罰委員会を開催し、人事部から石原氏の処分としては、降格のうえ内勤に異動させることを提案したところ、大きな異議もなく承認された。なお、懲罰委員会では、社内公募の件についても議論されたが、柳本先生の見解を踏まえ、運用上で対応することが申し合わされた。

 本件については、とりあえずはこれで終了となるが、佐藤は、今回の事故をとおして、今回の事故に限らず、物流業界における事故は常に人の命に関わる重大事故の可能性を含んでいることから、安全の重要性を再認識したのであった。

 法務としてできることは限られているかもしれないが、委託先との契約書には、現場の担当者と相談して安全についての具体的な条件を規定する、社内会議等で問題を感じたときには積極的に指摘する、現場を訪問したときには安全配慮義務の観点から注意深く観察してみるなど、未然に事故を防ぐためにできるだけの貢献をしていこうと、佐藤は決意を新にした。(了)



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 「企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case1)」、いかがでしたでしょうか。Case2では、「パワハラによるうつ病により休業した契約社員に対する企業側の雇い止め対応」を取り上げます。ご期待ください。


 編集/八島心平(BIZLAW)




 この連載記事を読む
  企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A Case1 物流企業における従業員の事故についての企業側の対応



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遠藤 元一 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

東京大学法学部卒。立教大学法科大学院講師、一般社団法人GBL研究所理事、「優れた第三者委員会報告書表彰委員会」委員。執筆として『循環取引の実務対応』(民事法研究会 2012年)、『倒産と担保・保証』(共著 商事法務 2014年)、「排除的管轄合意を無効としたアップル・島野訴訟中間判決」NBL1073号等。


青木 智子 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

早稲田大学法学部卒。通常企業法務の他、企業側の立場で、労働問題、コンプライアンス問題等も取り扱う。第二東京弁護士会 子どもの権利に関する委員会に所属し、子どもに関するいじめ事件、虐待事件等の対応も行っている。上場会社の監査等委員(現任)。

国際企業法務協会労働法研究会

国際企業法務協会」 International Corporate Counsels Association = INCAは、1988年に発足し、25年以上に亘り活発に活動している組織です。多数の企業法務部および個人が加入し、専門家の定期講演会、会員間の研修会、法分野ごとに研究会などを開催し意見・情報交換・懇親等を行っています。本連載の執筆陣である国際企業法務協会 労働法研究会は2012年8月に開講し、事例研究を行っています。






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