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物流企業における従業員の
事故についての企業側の対応(2)

国際企業法務協会労働法研究会 

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企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case1)

 「法務部スタッフ」を主人公として、その視点から語られる、今日的で複雑な労働問題の数々。会話文や主人公のモノローグなどを用いて事件は語られ、時間軸に沿って事態は展開していきます。法務部スタッフは外部弁護士のアドバイスを仰ぎながら、事例に即した「落としどころ」を見出していきます。
 新連載、「企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A」。Case1のテーマは「物流企業における従業員の事故についての企業側の対応」です。(全3回)。



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Case1 物流企業における従業員の事故についての企業側の対応

【登場人物】
 佐藤敏弘:アメリカン・ロジスティクス株式会社 法務部スタッフ
 青山:同社の法務部長
 塩谷:同社の広報部長
 石原:事故を起こしたトラックのドライバー
 柳本弁護士:同社の顧問弁護士


【経緯2】

 翌日の午後、事故の被害者の状況が判明した。当社のドライバーはかすり傷で済んだが、幼稚園児7名が病院に搬送され、うち、4名は擦り傷程度の軽傷で、3名が頭を打ったとのことで検査を受けたが特に異常は認められず、全員、その日のうちに帰宅したとのことである。

 以上を踏まえ、会社では対策会議が行われ、佐藤は法務の担当として出席した。会議の結果、事故に至る経緯は、警察からの正式発表がないため未だ明確とは言えないもののマスコミ報道や警察を通じて知り得た情報等に鑑みると、事故の原因は、ドライバーの居眠り運転による可能性が高く、ドライバー石原の過失は否定できないと判断されたため、それを前提に、今後の検討課題として以下のことがリストされ、佐藤は、法務として、法的な側面から問題をまとめるよう、指示を受けた。

① 被害者への謝罪
② 被害者への賠償

 なお、ドライバーに対する懲戒についても議論されたが、この点については、事故原因が判明してから検討することとなった。



【法務部としての検討事項2】

 職場に戻った佐藤は、会議の内容を踏まえて、問題点を以下のとおり整理した。

(1)被害者への謝罪について

  1. 被害者への謝罪については個別対応すべきか、それとも被害者の方々に集まっていただくべきか。
     被害者へ個別に謝罪するのであれば、連絡先を幼稚園に問い合わせることとなるが、個人情報についての意識が高まっている昨今、幼稚園としては連絡先を当社に開示するのは躊躇するであろうし、個人情報保護法上も問題がないわけではない。もちろん、幼稚園が被害者の了解を得てくれれば問題はないが、必ずしもすべての被害者の了解を得られるとは限らない。そこで、日時と会場を定めて被害者の方々に集まっていただき、そこで謝罪するのが現実的である。

  2. (2)の問題とも関連するが、被害者からの質問について、どの範囲についてどこまで回答すべきか。
     この点については、事故の原因は判明していないものの、状況からドライバーの過失は認めざるを得ず、当社の責任は避けられないと思われる。ただし、被害の状況に応じて対応は異なるであろうから、具体的な補償の話は避け、以下のような一般的な回答で対応し、加えて弁護士と相談して想定問答を用意することで対応することとしたい。

基本回答案

 この度は、当社のドライバーが起こした交通事故により、被害者の皆様、ご父兄及び関係者の皆様に多大なご迷惑とご心配をおかけいたしましたこと、心からお詫びいたします。事故の原因については、警察が現在調査中であり、現時点で当社からご説明できることはございませんが、進捗があり次第、都度、ご説明申し上げる所存でございます。会社といたしましては、この度の事故を重く受け止め、再発の防止に努めるとともに、皆様が受けた損害の賠償につきましても誠意をもって然るべく対応させていただく所存でございます。


(2)被害者への賠償について

 交通事故における賠償責任の範囲は、具体的にはどこまで負うのか? 特に、後遺症についてはどうなのだろうか。例えば、過去に、事故から何年も経ってから、「受験に失敗したのはあのときの交通事故で頭を打ったための後遺症で知能に障害が生じたからだ」などと言われて精密検査の費用を請求されたという話を聞いたことがあるが、そこまで賠償する必要はあるのだろうか。

 まずは、当社の法的責任の根拠であるが、民法第715条に基づく不法行為責任(使用者責任)と、自動車損害賠償保護法(自賠責法)第3条に基づく運行供用者責任とが考えられる。

 自賠責法に基づく運行供用責任と民法に基づく不法行為責任(使用者責任)とは、以下の点で相違する。

  •  不法行為では故意、過失の立証は被害者側が行わなければならないのに対し、運行供用者責任では、立証責任が転換され、運行責任者側が「その運行によって他人の生命又は身体を害したとき」に責任を負い、免責されるには「自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと」を立証しなければならないとされている。

  •  自賠責法の運行供用者責任は、不法行為における使用者責任よりも主体の範囲が広くなっており、加害自動車について運行を支配できる立場にあって、その自動車を運行させることによって利益を得ている者であれば責任を負うことになる。


 以上の法的な根拠を検討すると、いずれにせよ、本件については、当社は、使用者として、或いは運行供用者として、被害者に対し、損害賠償責任を負わなければならないと考える。

 そこで、賠償すべき損害の範囲であるが、以下のようにまとめることができる。


被害者が実際に支払った費用や今後確実に発生する必要かつ妥当な費用(積極損害)
(例)

  • 治療費、診察費、入院費、入院雑費、手術費、リハビリ費、付添看護料、介護費用等の病院代
  • 医師の指示による鍼灸、マッサージ費用、形成治療費、温泉治療費、義足や車椅子等の医療器具の購入費
  • 通院交通費や通勤交通費等の交通費
  • 葬儀費用

事故に遭わなければ被害者が将来得られたと予測される収入の喪失(消極損害)
(例)

  • 仕事を休んだ分の損害(休業損害)
  • 障害に対する慰謝料(後遺障害慰謝料)
  • 事故で失った利益(逸失利益)


 調べているうちに、交通事故における賠償責任の詳細についてはかなり専門的な判断が必要だということがわかったので、具体的な金額については個別に弁護士等の専門家と相談しながら対応せざるを得ないようである。

 ただし、後遺症を含めていつまでの期間を対象にするか、つまり、会社として被害者とはいつまで対応する必要があるかは明確にしておく必要がありそうだ。また、示談成立後の後遺症につういても気にかかる。ここは、柳本弁護士に確認してみよう。



【弁護士の視点2】

柳本弁護士のコメント:
 示談成立後の後遺症について言えば、和解(示談)は、被害者が一定の賠償を受けることを条件に、それ以外の賠償請求権を放棄することを約するものであり(民法第696条)、和解成立後に、一方当事者が、和解内容が不十分なものであったとして相手方に追加請求をすることは、不当な紛争の蒸し返しとして、原則として許されないと解されております。

 然し、裁判所は、被害者が放棄した賠償請求権は、和解(示談)当時予想していた損害についてのみと解すべきであり、その当時、予想できなかった後遺症等については、被害者は、後日損害の賠償を請求することができるとして、被害者の救済を図っております(最高裁昭和43年3月15日判決 )。[※]

[※] 判例解説の閲覧にはLexis ASONE のライセンスが必要です

 本件では、園児達の怪我は軽傷とのことなので、示談後に、重大な後遺症が発生する可能性はそれほど大きくないと思われますが、万が一成長に伴い後遺症が生じた場合には、示談後の追加請求の可能性もあることに留意しておく必要があると思われます。



【結末2】

 その後、被害を受けた園児の通っている幼稚園の協力を得て、幼稚園において、園児及びその保護者らに対する会社としての謝罪を行った。幸い園児の怪我が軽傷で現時点では後遺症もなく、また会社が損害の賠償についても誠意をもって対応することを約したこと等から、園児の保護者らからも会社に対する厳しい責任追及の姿勢等は見られず、その他大きな問題は生じていなかった。

 事故後20数日程度経って、業務上過失致傷罪により起訴されたドライバーは、自身の過失を潔く認め、深く反省しているとして保釈が認められ、自宅に帰ることが許された。

 人事部が、ドライバーの石原を出社させ事情を聴くこととなったので、佐藤も同席した。石原によると、事故の前日、午前9時から午後10時まで就業しており、その後同僚と軽く食事をして帰宅したときは午前0時を過ぎていた。それから入浴を済ませ、午前1時からの本代表のサッカーの親善試合をテレビで観戦し、午前3時過ぎに就寝、午前6時に起床して、午前8時には出社し、就業していた。

 石原の就業状態を確認したところ、過去1か月で、土曜日と日曜日には休暇を得ていたが、残業時間は約85時間を超えていた。この就業状態は、36協定の範囲内であり、厚生労働省告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準 」(いわゆる「改善基準」)に定める拘束時間等の要件は満たしており、この点からは問題はないようだが、事故を起こす2週間程前から残業が増えていた上に、事故の前日は睡眠時間が3時間をきっており、石原は運転中強い眠気に襲われて一瞬居眠りをしてしまい、急ブレーキも間に合わず、事故に至ったとのことであった。

 なお、会社は運行管理規定を制定し、それに基づき、毎朝点呼、免許証の確認、体調の確認、呼気の検査等を適切に行うこととなっているためこれを実施するとともに、定期的に無作為に選んだ一定数のドライバーに対して薬物検査を実施している。運用に関しては、内部監査も行われており、特に問題は指摘されていなかった。

 以上を踏まえて、佐藤は人事部から、法務部としての懲戒についての処分案を求められた。



******************************************


 続く第3回では、ドライバーの石原に対する懲戒処分について、佐藤は法務部としての検討事項を分析していきます。「物流企業における従業員の事故についての企業側の対応」第3回の更新をお待ちください。

第3回につづく


 編集/八島心平(BIZLAW)




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遠藤 元一 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

東京大学法学部卒。立教大学法科大学院講師、一般社団法人GBL研究所理事、「優れた第三者委員会報告書表彰委員会」委員。執筆として『循環取引の実務対応』(民事法研究会 2012年)、『倒産と担保・保証』(共著 商事法務 2014年)、「排除的管轄合意を無効としたアップル・島野訴訟中間判決」NBL1073号等。


青木 智子 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

早稲田大学法学部卒。通常企業法務の他、企業側の立場で、労働問題、コンプライアンス問題等も取り扱う。第二東京弁護士会 子どもの権利に関する委員会に所属し、子どもに関するいじめ事件、虐待事件等の対応も行っている。上場会社の監査等委員(現任)。

国際企業法務協会労働法研究会

国際企業法務協会」 International Corporate Counsels Association = INCAは、1988年に発足し、25年以上に亘り活発に活動している組織です。多数の企業法務部および個人が加入し、専門家の定期講演会、会員間の研修会、法分野ごとに研究会などを開催し意見・情報交換・懇親等を行っています。本連載の執筆陣である国際企業法務協会 労働法研究会は2012年8月に開講し、事例研究を行っています。






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