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物流企業における従業員の
事故についての企業側の対応 (1)

国際企業法務協会労働法研究会 

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企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case1)

 「法務部スタッフ」を主人公として、その視点から語られる、今日的で複雑な労働問題の数々。会話文や主人公のモノローグなどを用いて事件は語られ、時間軸に沿って事態は展開していきます。法務部スタッフは外部弁護士のアドバイスを仰ぎながら、事例に即した「落としどころ」を見出していきます。
 新連載、「企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A」。Case1のテーマは「物流企業における従業員の事故についての企業側の対応」です。(全3回)。


Case1 物流企業における従業員の事故についての企業側の対応

【登場人物】
 佐藤敏弘:アメリカン・ロジスティクス株式会社 法務部スタッフ
 青山:同社の法務部長
 塩谷:同社の広報部長
 石原:事故を起こしたトラックのドライバー
 柳本弁護士:同社の顧問弁護士


【経緯1】

 5月の連休も終わり、初夏の陽気を帯びたころ、佐藤敏弘は、会社の近くの定食屋「大盛屋」で、一人で少し遅めの昼食をとっていた。正午からアジアの法務のメンバーたちと、標準契約のひな型について電話会議に参加し、それが予定よりも大幅に伸びてしまったからだ。

 佐藤の会社は、アメリカに本社がある「アメリカン・ロジスティクス」という外資系企業の日本法人で、倉庫業や運送業などの運送関連事業を展開している。佐藤は法務部に所属しており、契約書の標準化プロジェクト・チームのメンバーに任命されて、アジア各国のメンバーと、月に一度の電話会議に参加しているのだ。

 佐藤が、食事も終えて事務所に戻ろうと席を立ちながら、何気なく定食屋の壁の上のほうに据え付けられたテレビに目をやると、見慣れた自社のトラックの映像が目に飛び込んできた。定時に放送されているニュースのようで、佐藤はとっさに「事故にでも巻き込まれたのだろうか?」と思い、テレビに数歩近づいてテレビを見上げた。

アナウンサー:「新しいニュースです。先ほど、午後1時ころ、東京都品川区の路上で、停車中の幼稚園の送迎バスにトラックが追突するという事故が発生いたしました。何名かの園児が負傷して救急車で病院に運ばれたようです。警察がドライバーの身元を確保し、詳しい事情を聴いている模様です。」

 画面には、前面の左半分がぐしゃぐしゃとなった自社のトラックが映し出されており、フロントガラスも左半分が砕け散っていた。バスのほうも、右後部がへこんでおり、窓ガラスも割れているが、それ以外の原型はとどめている。

 佐藤は急いで会計を済ませると、速足で会社の事務所に戻った。



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 席に戻るなり、佐藤は上司の青山に呼ばれた。

青山:「うちのトラックが昼過ぎに事故を起こしたらしい。ニュースでも取り上げられているようだ。幸い、当社のドライバーも含め、死者が出るような事故ではなかったらしい。忙しいところ悪いが、この件は佐藤さんに担当してもらおうと思う。これから社内で対応を協議するから、いっしょに参加してくれないか?」

佐藤:「やはりそうなのですね、さっき、大盛屋で食事していたらテレビのニュースでやっていました。詳しい情報はなかったので、とりあえず急いで戻ってきたところです」

青山:「じゃ、話は早いね。会議室は「サンフランシスコ」だ」

 外資の会社では、会議室を番号で呼ばずにニックネームをつけることが多い。3年前に日本企業から転職してきた佐藤にとっては、未だに馴染めない習慣だ。

 会議では、最初に当面のメディア対応について協議が行われ、メディア等、外部からの問い合わせについては広報部に転送することが決められた。次に、外部に対する広報部の当面のコメントについて、広報部長の塩谷が発言する。

塩谷:「このような場合は、謝罪はしてはいけないという指示が親会社から来ている。そのため、一切ノーコメントで対応するつもりだ。とはいえ私としては、日本でこのような対応をすると炎上してしまう可能性があるのだが……」

 塩谷の発言を受けて、次のように青山が続ける。

青山:「確かに、どう見てもうちのドライバーの責任は免れないように思えるが、詳細が分からない以上、法的責任について言及した形で謝罪するのは避けたほうが賢明だと思う。しかし、「ご迷惑をおかけして」という表現であれば、法的な責任を認めているわけではないし、その程度の謝罪はするべきでは? 日本のメディアは情緒的だから、最悪の場合、問題が大きくなるかもしれない。まずは、法務ですぐに文面を作るよ。佐藤さん、よろしくお願いします」

塩谷:「青山さん、ありがとう。僕のほうは、親会社のほうを説得してみるよ」

 塩谷の発言の後、各部署の役割と連絡網が確認され、会議は散会した。



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 席に戻ると、佐藤はすぐに以下の文章を作成した。


従業員の不祥事を受けて佐藤がドラフトした謝罪文

 この度は、当社のドライバーが事故を起こしてしまい、被害者の皆様にご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。心からお詫び申し上げます。詳細は、現在、警察が調査中です。当社といたしましては、できる限り誠意のある対応をする所存でございます。


【法務部としての検討事項1】

 企業としての謝罪文をドラフトしながら、佐藤は法務部スタッフとして、いくつかの点が気になった。それをまとめてみると、次のようなポイントが導き出された。

 検討点1
 そもそも事故の詳細が分かっていない以上、責任の所在が自社側にあることを認めるような表現は避けるべきではないか?一方である程度の謝罪はすべきであろう。どのような表現であれば責任の所在を明確にせずに謝罪できるのだろうか。

 検討点2
 問題に対する前向きな姿勢は示したほうが好ましいと思われるが、書き方によっては、不用意に義務の履行を約束してしまうことになるのではないだろうか。「できる限り誠意のある対応をする」という表現は適切であろうか。

 佐藤はポイントをまとめ、同社の顧問弁護士である柳本先生にメールで問い合わせた。現段階で、企業として不備なくかつ被害者の心情を刺激しない謝罪文章のドラフトや、今後の対応について、一刻も早くアドバイスが欲しかった。





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