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マタハラに関わる諸問題
(診断書なき産休前の欠勤・
復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)
への企業側の対応(3)

国際企業法務協会労働法研究会 

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企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case4)

 「法務部スタッフ」を主人公として、その視点から語られる、今日的で複雑な労働問題の数々。会話文や主人公のモノローグなどを用いて事件は語られ、時間軸に沿って事態は展開していきます。法務部スタッフは外部弁護士のアドバイスを仰ぎながら、事例に即した「落としどころ」を見出していきます。
 Case4 は、「マタハラに関わる諸問題(診断書なき産休前の欠勤と解雇・復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)への企業側対応」です。
(※この連載はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)

 


関連記事
 Case1 物流企業における従業員の事故についての企業側の対応 (1)(2)(3)
 Case2 パワハラによるうつ病により休業した契約社員に対する企業側の雇い止め対応 (1)(2)
 Case3 労働委員会によるあっせん手続きを申し立てられた際の企業側の対応 (1)(2)
 Case4 マタハラに関わる諸問題(診断書なき産休前の欠勤と解雇・復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)への企業側対応(1)(2)


Case4 マタハラに関わる諸問題(診断書なき産休前の欠勤と解雇・復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)への企業側対応(3)

【登場人物】
 富田葵:サザンスター・ミューチュアル社 リスクマネジメント部員
 広瀬哲也:同社リスクマネジメント部長
 Paul Friedman:同社リスクマネジメント担当役員
 米沢裕子:同社の法務課長
 五十嵐宏:同社の人事部課長
 岩間弁護士:同社の顧問弁護士

※この記事は「Case4 マタハラに関わる諸問題(診断書なき産休前の欠勤と解雇・復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)への企業側対応(2)」の続編です。


【法務部としての検討と岩間弁護士のコメント】(つづき)

検討点3 育休復帰後、いきなり転居を伴う転勤命令を出してもよいか?

 仮に、本当に本人の希望通り、残業のないコールセンターに所属させるとすると、転居を伴う転勤になる。サザンスター・ミューチュアル社の就業規則上には、次のように定められている。

「会社は社員に対し、業務の都合により異動(配置転換、職種転換、転勤、転籍、出向)を命ずることがある。
2 前項の異動を命ぜられた社員は、所定の業務引継を確実に行い、やむを得ない理由のあるほか、指定された日までに、新任部署に赴任しなければならない。」

 解雇の場合と異なり、妊娠中だとしても、転居を伴う転勤を命じることは、一応可能であろうと考えられる。とはいえ、前もって打診して拒絶反応が出た場合でも強行できるのだろうか?

 

弁護士の視点3

 一般的に、配転命令の有効性が認められるためには、まず、労働契約上、会社の配転命令権の根拠が定められていることが必要と解されているため、労働協約や就業規則に会社の配転命令権が定められているかどうかを確認する必要がある(また、労働契約上、特に勤務地・職種の限定がなされていないかどうかについても確認しておく必要がある)。
 次に、就業規則等で配転命令権が規定されている場合でも、配転命令権は無制約に行使できるものではなく、裁量権の濫用と判断されるときは、当該配転命令は、無効となる。この点最高裁は、

「当該配転命令につき業務上の必要性が存しない場合、または業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的を持ってなされたものであるとき若しくは当該労働者に対し通常甘受すべき程度を超える著しい職業上または生活上の不利益を負わせるものであるときは当該配転命令は権利濫用に当たる」

との判断を示している。(※1)。

※1 東亜ペイント事件 最高裁判所昭和61年7月14日(労判477号6頁)

 著しい職業上または生活上の不利益のうち著しい職業上の不利益の具体例としては、大幅な賃金の引下げ等が挙げられる。また著しい生活上の不利益の具体例としては、本人や家族の病気・介護、共働き等の家庭の事情が挙げられるが(※2)、共働き夫婦の一方に対する配転命令については、業務上の必要性と、単身赴任や配偶者の退職を余儀なくされる党の不利益とを比較し、住居手当等の代替措置の有無等も考慮したうえ、転勤に伴う通常甘受すべき範囲で会って権利濫用に当たらないとする事例が比較的多いとされる(※3)。

 なお、平成13年に改正された育児介護休業法が、子の養育または家族の介護の状況への配慮義務を定め、平成19年に制定された労働契約法が仕事と生活の調和への配慮を労働契約の締結・変更の基本理念として規定していること、ワークライフバランスの社会的要請も高まっていること等に鑑みると、今後は、会社が、これらの規定の趣旨を尊重した適切な配慮(住居手当の支給、配偶者への就職あっせん等の代償措置の提供や、十分な事前説明等)を尽くさない配転命令について、権利濫用により無効となる可能性もあることに留意すべきと考えられる(※4) (※2)。

※2 重度の障害を持つ子の養育:札幌地方裁判所平成9年7月23日(労判723号62頁)、要介護状態にある親の介護:大阪高等裁判所平成18年4月14日(労判915号60頁)
※3 最高裁判所平成12年1月28日(労判774号7頁)
※4 以上につき、白石哲編著『労働関係訴訟の実務』(商事法務2012年)196頁以下参照

 

 本件では、会社の就業規則上、従業員に対し、配転を命じる根拠規定が存するため、当該従業員が配転に応じない場合、会社として配転を命じることは、理論上は可能と考えられる。 ただし、本件において、出産後会社に復帰した従業員に対し転居を伴う配転を命じることは、事実上不利益が大きいことに加え、前掲の育児介護休業法第26条、労働契約法第3条第3項、男女雇用機会均等法第12条、13条等の趣旨に合致しない可能性があること等にも鑑みると、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである」として、会社の配転命令が権利濫用に当たるという判断がなされる恐れがあるように思われる。
 そもそも他の職場に移りたいというのは、当該従業員の側から示された希望であるから、これに対し、会社としては、用意できる選択肢はコールセンターであり、その場合転居を伴う転勤となること等を説明した上で、当該従業員がその選択を真に希望するのか否かを確認し、同従業員の同意が得られた場合に限り、上記配転を認めるに留めるのが無難ではないかと思われる。


検討点4 育休復帰後、業務にあわせてグレード(&賃金)を下げてよいか?

 仮に、コールセンターのポストに就かせる場合、富田のジョブグレードはかなり高いため、現在のジョブグレードからは何段階か下げざるを得ない。グレードには賃金バンドの設定があり、グレードの賃金上限を超える場合は上限まで引き下げなければならない。
 賃金が下がる場合、均等法上問題があるだろうか?本人の希望で「楽な仕事」にするのであるから、同意書を取得するなどしてリーガルリスクを下げるべきだろうか。


弁護士の視点4

 業務命令による降格(人事異動の措置)には職位や役職を引き下げるものと、職能資格制度上の資格や職務等級制度上の等級を低下させるものとがあるとされ、降格は、多くの場合、権限、責任、要求される技能などの低下を伴い、従ってそれらに応じて定められている賃金(役職手当、基本給)の低下をもたらすのが通常とされている。また降格による賃金の引き下げは就業規則(賃金規程等)において定められた賃金の体系と基準に従って行われることが必要とされている。
 職務等級制における給与等級(グレード)の引下げも、当該制度の枠組み(規程)に基づく手続等に従い行われる限り、原則として使用者の裁量的判断に委ねられるが、ただし、上記等級の引下げの必要性(これを正当化する勤務成績の不良等)が認められない、或いは他の不当な動機(退職誘導等)が認められる等の場合は、裁量権の濫用として当該降格は無効となり得るとされる(※5)。

※5 以上につき、菅野和夫『労働法』(第11版)(弘文堂2016年)681頁~参照

 なお、この点に関連し、最高裁(※6)は、妊娠中の軽易業務への転換を契機として女性労働者を降格させた事業主の措置が男女雇用機会均等法9条3項の禁止する不利益取扱に当たるか否かという点につき、以下の様な判断を示しており、留意する必要がある。

即ち、最高裁は、まず、同条は強行規定であり、これに違反する不利益取り扱いは労働者の同意の有無に係らず原則として無効であるとしている。
その上で最高裁は、 以下の2つは、妊娠、出産等を理由として不利益な取り扱いをしたものに当たらないと例外を示した。
① 当該労働者が自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき
② 降格の措置を執ることなく経緯業務への転換をさせることに業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度等の諸事情に照らし、上記降格の措置が同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存するとき

※6 最高裁判所平成26年10月23日(判例時報2252号101頁)

 本件では、まず、当該配転がなされるとすれば、それは会社の必要性に基づくものではなく、当該従業員の希望によるものである。
 会社としてはこれに当然に応じなければならない義務を負うものではないものの、当該社員を実際に妊娠出産後にコールセンター業務に配転する場合、現在のジョブグレードから何段階か下げることとなる。またグレードには賃金バンドの設定があるため、グレードの賃金上限を超える場合はその上限まで賃金を引き下げなければならないとのことであるから、これは賃金の引下げを伴う降格に当たると考えられる。
 以上を前提とした場合、上記最高裁判例に照らせば、本件は、妊娠出産を契機として降格したものに当たると考えられる。
 その場合、男女雇用機会均等法9条3項の禁止する不利益取扱に該当するとして、当該降格は、原則として無効となると考えられる。

 そこで、当該従業員に対し、上記の降格を行う場合は、最高裁が示した例外①②、特に本件では①に当たるか否かを慎重に検討する必要がある。
 仮に、上記例外①に当たらない場合は男女雇用機会均等法に反するとして、降格が無効となる可能性が高いため、降格を行うこと及びその前提としてコールセンターに転勤させることは回避する必要があると思料される。
 なお、上記例外①に関しては、承諾の立証が必要となるため、当該従業員から承諾書を取り付けることはリスク回避の一手段となると考える。
 また、最高裁は、例外①の承諾の存否判断のためには、降格前後における職務内容の実質、業務上の負担の内容や程度、労働条件の内容等を勘案し、労働者が当該降格により自身が受ける影響について十分理解した上でその諾否を決定したか否かなどの観点から承諾の存否を判断すべき等としているところ、上記のような承諾があったと言えるためには、次のa~dを勘案して判断することとなるとされている点に留意しつつ承諾を得る必要がある(※6)。

a 降格による直接的影響だけでなく間接的な影響(降格に伴う減給等)についても説明されたか
b 書面など労働者が理解しやすい形で明確に説明がされたか
c 自由な意思決定を妨げるような説明(虚偽の説明や利益誘導等)がされていないか
d 降格の契機となった事由(配転等)による有利な影響(労働者の意向に沿って業務量が軽減される等)が不利な影響を上回っているか

※6 厚生労働省「妊婦・出産・育児等を契機とする不利益取り扱いに係るQ&A」問3とその回答。特に、通常、必ずしも意識されていないと思われるdには、十分に留意すべきと考える


【結末】

 岩間弁護士の回答を受け納得した米沢課長は、さっそく、弁護士コメントを五十嵐課長にメールで転送して説明した。五十嵐課長より、弁護士コメントを踏まえて対応してみますと回答があった。法務部としては一旦富田の反応がどう出るか、様子を見ることにした。

 五十嵐課長は、法務部の回答を踏まえ、広瀬部長に連絡するとともに、本人と再度丁寧な話し合いを持った。メールボックスの確認については、富田は迷った表情を一瞬見せたものの、「確かに、他の方に引き継いでいないのでわからないですよね……。広瀬部長が見るだけであれば、かまいません。ただし、見るのは広瀬部長だけにしてください。」と、確認に同意した。復帰明けの労働条件については、考えさせてくださいとの返事であった。

 その後、一旦富田は人事課付きに異動して休職に入り、そのまま産休になり、無事に出産し、引き続いて育児休業を取得した。
 その頃、ちょうど会社のダイバーシティ関連の部署で育児休業中の社員をサポートする取り組みが始まり、富田は他の育児休業中の社員や復帰した社員から大いに刺激を受けたようであった。そして、出産後1年の復帰予定時期に、「保育園が見つからない」として復帰時期が数ヶ月延びるアクシデントはあったが、なんとか認可外保育園に子供を入園させ、無事富田は会社に時短勤務で復帰した。結局、育児休業中に富田の考えが変わり、元の仕事に近い、英語力を生かせる業務に就くこととなった。
 会社の状況も変わり、親会社からの要求事項も増え、新たな部署が立ち上がり、ちょうど英語に不自由しない人員の需要があったことから、富田を受け入れることになり、無事本件は紛争になることなく解決した。(了)



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「企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case4)」、いかがでしたでしょうか。Case5では、「ソフトウェア会社を退職した社員による職務発明(営業秘密)の流出」をテーマとした事例を取り上げます。ご期待ください。





 編集/八島心平(BIZLAW)




 この連載記事を読む
  企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A

 

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遠藤 元一 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

東京大学法学部卒。立教大学法科大学院講師、一般社団法人GBL研究所理事、「優れた第三者委員会報告書表彰委員会」委員。執筆として『循環取引の実務対応』(民事法研究会 2012年)、『倒産と担保・保証』(共著 商事法務 2014年)、「排除的管轄合意を無効としたアップル・島野訴訟中間判決」NBL1073号等。

 


青木 智子 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

早稲田大学法学部卒。通常企業法務の他、企業側の立場で、労働問題、コンプライアンス問題等も取り扱う。第二東京弁護士会 子どもの権利に関する委員会に所属し、子どもに関するいじめ事件、虐待事件等の対応も行っている。上場会社の監査等委員(現任)。

 

国際企業法務協会労働法研究会

国際企業法務協会」 International Corporate Counsels Association = INCAは、1988年に発足し、25年以上に亘り活発に活動している組織です。多数の企業法務部および個人が加入し、専門家の定期講演会、会員間の研修会、法分野ごとに研究会などを開催し意見・情報交換・懇親等を行っています。本連載の執筆陣である国際企業法務協会 労働法研究会は2012年8月に開講し、事例研究を行っています。

 




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