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マタハラに関わる諸問題
(診断書なき産休前の欠勤・
復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)
への企業側の対応(2)

国際企業法務協会労働法研究会 

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企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case4)

「法務部スタッフ」を主人公として、その視点から語られる、今日的で複雑な労働問題の数々。会話文や主人公のモノローグなどを用いて事件は語られ、時間軸に沿って事態は展開していきます。法務部スタッフは外部弁護士のアドバイスを仰ぎながら、事例に即した「落としどころ」を見出していきます。
Case4 は、「マタハラに関わる諸問題(診断書なき産休前の欠勤と解雇・復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)への企業側対応」です。
(※この連載はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)

 


関連記事
 Case1 物流企業における従業員の事故についての企業側の対応 (1)(2)(3)
 Case2 パワハラによるうつ病により休業した契約社員に対する企業側の雇い止め対応 (1)(2)
 Case3 労働委員会によるあっせん手続きを申し立てられた際の企業側の対応 (1)(2)
 Case4 マタハラに関わる諸問題(診断書なき産休前の欠勤と解雇・復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)への企業側対応(1)



Case4 マタハラに関わる諸問題(診断書なき産休前の欠勤と解雇・復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)への企業側対応(2)

【登場人物】
 富田葵:サザンスター・ミューチュアル社 リスクマネジメント部員
 広瀬哲也:同社リスクマネジメント部長
 Paul Friedman:同社リスクマネジメント担当役員
 米沢裕子:同社の法務課長
 五十嵐宏:同社の人事部課長
 岩間弁護士:同社の顧問弁護士

※この記事は「Case4 マタハラに関わる諸問題(診断書なき産休前の欠勤と解雇・復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)への企業側対応(1)」の続編です。



 米沢課長が整理した法務部としての検討点は次の4点だ。

 検討点1 突然出社しなくなった社員のメールを覗いてもいいのか?
 検討点2 妊娠中は一切クビにできないのだろうか?
 検討点3 育休復帰後、いきなり転居を伴う転勤命令を出してもよいか?
 検討点4 育休復帰後、業務にあわせてグレード(&賃金)を下げてよいか?

 これらの検討点を昨晩、米沢課長は岩間弁護士に送付していた。翌朝デスクでメールチェックすると、そこには早速岩間弁護士からの返信が届いていた。


【法務部としての検討と岩間弁護士のコメント】

検討点1 突然出社しなくなった社員のメールを覗いてもいいのか?

 今回、突然会社に来なくなった社員について、どの業務がどこまで進み、どこで止まっているかわからず困ったことになっている。アメリカの担当者とのメールのやりとりは、CCも役員クラスしか入れずに本人が直接やっているなど、同僚では把握ができないものもあるという。役員に確認してもいいが、非常に多くのメールを受け取る役員に検索してもらうのも負担が大きく頼みにくいとのこと。リスクマネジメント部は役員が外国人なので、日本人役員よりもこういう頼みごとをするのは敷居が高いのだろう。本人のメールや保存している電子ファイルを見れば、広瀬部長も進捗状況を把握できるかもしれない。
 本件の場合、本人の了解なくPCのデータを見ることは可能か。難しい場合、本人の了解があれば見ることはできると考えて良いか。システム部門に依頼をかければ、本人のメールボックスの復元ができ、上司でも確認可能にできるという。過去に退職者についてメールボックスの復元例がある。

 サザンスター・ミューチュアル社の「システム利用者ハンドブック」には

「メールの使用状況(送受信内容、時間等)はすべて記録し、監視対象としています。個人的な使用は、合法かつ倫理に適った方法で行われ、業務または会社のリソースに支障を来たさない範囲でのみ認められます」

 との定めがある。このハンドブックは、就業規則ではないが、社内規程として常時イントラネット上に掲示されている。


弁護士の視点1

 労働者が使用者から貸与された業務用のパソコン等を使用し、使用者のサーバーを通して電子メールやインターネット等の使用をする場合、使用者がそれをどの程度監視・点検等することが許されるかという点が、労働者のプライバシーとの関係で問題となる。
 まず、使用者は、私用のための電子メールやインターネット等の使用を、使用規程等において禁止することができるとされており、またそのような禁止規定がない場合でも、労働者が企業の業務用機器を私的な用事のために使用することは、特に労働時間中は、職務専念義務との関係で差し控えるべきであるとされている(ただし、軽微な私的利用は、労働生活に必然的に伴うものとして社会通念上許容され得るとされる(※1)。

※1 東京地方裁判所平成15年9月22日 グレイワールド事件(労判870号83頁)

 また、使用者が、電子メール等の私的使用の有無・程度について、常日頃から監視したり問題が生じた場合に点検できるか等については、使用規程等においてその権限を明らかにしておけば、労働者は、電子メール等をプライバシーのない通信手段として日頃から使用することとなるので可能とされている(これに対し、使用者の権限が規定されていない場合には、使用者は、企業秩序違反の有無の調査に必要である等、事業経営上の合理的な必要性があり、その手段方法が相当である限り、許容され得るとされている(※2)。

※2 東京地方裁判所平成13年12月3日 F社Z事業部事件(労判826号76頁)、東京地方裁判所平成14年2月26日 日経クイック情報事件(労判825号50頁)。以上につき、菅野和夫『労働法』(第11版)(弘文堂2016年)654頁参照

 本件では、会社が当該社員のPC内のメールや電子ファイル等のデータを見る目的は、「私的使用」の監視・点検等自体ではなく、業務上の必要性によるものであるが、当該社員のPC内の電子メール等には、私的使用に当たるデータが含まれている可能性もあるため、当該社員のプライバシーに対する配慮は必要であると考えられる。
 そして、まず、当該社員本人の了解がある場合は、プライバシーへの配慮の必要はないため、PC内のデータを見ることは当然許されよう。

 次に、本件では、会社の社内規程により、メールの使用状況はすべて記録し監視対象としていること及びメールの私的使用には制限があること等が定められ、かつその内容が常時イントラネットにて社員に掲示されている等とのことであり、以上を前提とすれば、社員は、自身のPC内のメール等のデータが監視対象とされていること等の上記制約を認識していると考えられることから、会社は、当該社員の了解がない場合でも、同社員のPC内のメール等のデータをチェックすることは許されると考えられる。


検討点2 妊娠中は一切クビにできないのだろうか?

 社員が突然会社に来なくなり、このまま欠勤が続く場合、普通解雇が視野に入ってくる。まだ産休期間ではないため、労働基準法上の制限には抵触しないはずだが、育児・介護休業法に引っかかるかもしれない。さらに、男女雇用機会均等法で妊娠を理由とした解雇が禁止されているようだ。ただ、今回のケースは、妊娠が理由なのではなく、本人が普通以上に体調に過敏になり、欠勤しているのであてはまらないのではないか。

 サザンスター・ミューチュアル社の就業規則上には、

「社員が、次の各号の一に該当するときは解雇する。
・傷病以外の事由による会社不承認の欠勤が、その欠勤の開始日から2週間以上に及ぶとき。」

 との定めがある。

 「マタハラ」規制についても調べてみると、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い(男女雇用機会均等法第9条3項)に関する平成27年1月23日付け雇児発0123第1号「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」及び「育児休業・介護休業等育児または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について」の一部改正関連あたりが関係ありそうだ。


弁護士の視点2

 母性保護に関しては、労基法上、産休期間(産前6週間[多胎妊娠の場合14週間]、産後8週間。労基法65条1項)及びその後30日間の女性社員を解雇することは制限されている(労基法19条1項)。また、男女雇用機会均等法は、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止するとともに(同法第9条3項。いわゆるマタニティハラスメントの禁止)、出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、事業主側が、当該解雇が妊娠、出産等を理由とするものでないことを立証しない限り無効としている(同法9条4項)。

 また、男女雇用機会均等法上、事業主は、妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置として、その雇用する女性労働者が、保健指導または健康診査を受けるために必用な時間を確保することができるようにしなければならず(同法12条)、また、当該女性労働者が、保険指導または健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない旨を定めている(同法13条1項)。

 例えば、女性労働者に対し、医師から、母体保護等の見地より、一定期間の休業が必要との指示がなされた場合は、事業主は、上記医師からの指導事項を遵守させるため、指示された期間中、当該女性労働者を休業させなければならないと考えられる(「男女雇用機会均等法のあらまし」厚生労働省 都道府県労働局雇用均等室39~41p。なお、ノーワークノーペイの原則に基づき、上記休業期間中は給料を支払う必要はないと考えられる)(※3)。

※3 マタハラに関する男女雇用機会均等法の改正について
 平成29年1月1日から、改正男女雇用機会均等法が施行される。現行法は、前述したように、事業主自らが行う妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いが禁止されているが(同法9条3項)、改正法により、上記に加え、上司・同僚からの妊娠・出産等に関する言動により、妊娠・出産等をした女性労働者の就業環境を害することがないよう、事業主として防止措置を講じることが新たに義務付けられる(同法第11条の2[新設])。会社としては、改正法施行までの間に、厚生労働省の指針(平成28年厚生労働省告示312号)も踏まえて、(セクハラに関し事業主の講ずべき措置が定められたときと同様の)就業規則の改訂、相談窓口の整備、社内での周知・啓発活動等の対応が必要となる。

 本件では、女性社員は、産休期間に入っていないため、労基法65条1項に基づき、産休を請求することはできないと考えられる。他方、事業主は、上記の通り、男女雇用機会均等法上、医師からの指導事項があれば、これを守ることができるように、必要な措置を講じる義務を負っているところ、女性社員は、医師からは休職の診断書は出せないと言われたとのことであるが、当該女性社員は以前に流産した経緯があるとのことでありこの点を踏まえ保険指導または健康診査の際に医師から遵守すべき指導事項(医師から連絡カード等により示される)が示されている可能性もあるため、この点についても、女性社員に確認しておく必要があると考えられる。



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 「企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case4)」、最終回では残る2つの検討点について米沢課長は岩間弁護士の解釈を読み進め、4つの検討点の分析を経て事態は結末を迎えます。次回の更新をお待ちください。


第3回につづく




 編集/八島心平(BIZLAW)




 この連載記事を読む
  企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A

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遠藤 元一 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

東京大学法学部卒。立教大学法科大学院講師、一般社団法人GBL研究所理事、「優れた第三者委員会報告書表彰委員会」委員。執筆として『循環取引の実務対応』(民事法研究会 2012年)、『倒産と担保・保証』(共著 商事法務 2014年)、「排除的管轄合意を無効としたアップル・島野訴訟中間判決」NBL1073号等。


青木 智子 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

早稲田大学法学部卒。通常企業法務の他、企業側の立場で、労働問題、コンプライアンス問題等も取り扱う。第二東京弁護士会 子どもの権利に関する委員会に所属し、子どもに関するいじめ事件、虐待事件等の対応も行っている。上場会社の監査等委員(現任)。

国際企業法務協会労働法研究会

国際企業法務協会」 International Corporate Counsels Association = INCAは、1988年に発足し、25年以上に亘り活発に活動している組織です。多数の企業法務部および個人が加入し、専門家の定期講演会、会員間の研修会、法分野ごとに研究会などを開催し意見・情報交換・懇親等を行っています。本連載の執筆陣である国際企業法務協会 労働法研究会は2012年8月に開講し、事例研究を行っています。






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