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マタハラに関わる諸問題
(診断書なき産休前の欠勤・
復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)
への企業側の対応(1)

国際企業法務協会労働法研究会 

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企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case4)

「法務部スタッフ」を主人公として、その視点から語られる、今日的で複雑な労働問題の数々。会話文や主人公のモノローグなどを用いて事件は語られ、時間軸に沿って事態は展開していきます。法務部スタッフは外部弁護士のアドバイスを仰ぎながら、事例に即した「落としどころ」を見出していきます。
Case4 は、「マタハラに関わる諸問題(診断書なき産休前の欠勤と解雇・復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)への企業側対応」です。
(※この連載はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)

 


 関連記事
  Case1 物流企業における従業員の事故についての企業側の対応 (1)(2)(3)
  Case2 パワハラによるうつ病により休業した契約社員に対する企業側の雇い止め対応 (1)(2)
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Case4 マタハラに関わる諸問題(診断書なき産休前の欠勤と解雇・復帰後の職務と報酬・バンド制賃金)への企業側対応(1)

【登場人物】
 富田葵:サザンスター・ミューチュアル社 リスクマネジメント部員
 広瀬哲也:同社リスクマネジメント部長
 Paul Friedman:同社リスクマネジメント担当役員
 米沢裕子:同社の法務課長
 五十嵐宏:同社の人事部課長
 岩間弁護士:同社の顧問弁護士

【経緯】

1 それは「私傷病休職」か?

 サザンスター・ミューチュアル社は、アメリカに親会社がある金融機関の日本現地法人である。外資系ということもあり、近年特に本社ではダイバーシティ&インクルージョンの考えが浸透してきており、出産後も育児休業を取得して会社に戻る女性社員数が急増している。
 リスクマネジメント部員の富田葵は、長らく不妊治療を受けていたが、念願の妊娠が発覚した。しかし、その翌日から一切出社しなくなってしまった。
 これまでも、不妊治療受診のため有給休暇取得があったり、また、一度は流産してまとまった休みを取ったりしたこともあり、富田葵はかねてより直属の上司である広瀬哲也リスクマネジメント部長に相談していた。広瀬部長は、子供が欲しいという富田の思いは人として当然だと考え同情しており、これまで富田の「妊活」による休みについて何ら注意をしたことはなかった。

 程なくして、富田から「待望の妊娠ができました。今度こそこの妊娠を大事にして健康な赤ちゃんを産みたいので、外出できません、しばらく休ませてください。まだ発覚したばかりで心音も確認できていないので、皆さんにはまだ言わないでください」とメールでの連絡があった。前回妊娠したのにもかかわらず流産だった際の富田葵の憔悴した姿を見ていた広瀬部長は、まずは祝福と休みの承認をメールで返信した。

 広瀬部長は、「まだ職場の皆に言わないで欲しい」という富田のリクエストは、確かに前回流産だった際のことを考えればもっともな希望であると考え、部内には「事情があり、しばらく富田葵さんはお休みします」とのみ発表した。状況がわからない部員達は困惑顔だ。
 広瀬部長は、担当役員の外国人Paul Friedmanに富田葵の件を報告に行った。富田の担当業務を他の者にアサインする予定である旨も伝えた。富田は英語に不自由しないため、Friedman役員の元で親会社へのレポート業務もいくつか担当している。
 Friedman役員は、「ヨカッタネ」と満面の笑顔だった。子供好きなFriedman役員も富田の前回の流産には心を痛めており、富田の休みには理解を示した。
 ここでもっと詳細について役員と相談できればよいのだが、英語の問題があるため、人事制度の混み入った件を役員に相談するのを広瀬部長は負担に感じていた。そもそもFriedman役員は親会社採用のExpatなので日本のサザンスター・ミューチュアル社の人事制度には詳しくないのだ。逆に広瀬部長自身も、親会社の制度は全く知らない状態だ。例えば、しばしばバケーションを取るFriedman役員の休暇制度がどうなっているのか想像もつかない。

 富田の休みを発表して数日たつと、理由もわからず突然いなくなった富田について部員の間で噂が飛び交う状況になり、部員達は疑心暗鬼になっているようだった。しかし、広瀬部長は、Friedman役員が突然親会社に出張してしまったこともあり、相談はできなかった。
 程なく、富田葵は有給休暇を使い切り、その翌日より欠勤となった。

 広瀬部長が状況確認のため富田にメールを送ったところ、富田からは、「心音は確認できましたが、まだ流産するかもしれないので、安定期まであと1か月ほど内緒でお願いします。会社には出産して育休を取ったあとまで行きません」とのメールが来た。
 もちろん、広瀬部長にも、二度と流産したくないという富田の気持ちは十分理解できた。しかし、このような休み方が可能なのかどうか確信が持てない。これまでも出産した女性社員は何人か見てきたが、皆お腹がだいぶ大きくなってからやっと産休に入っていたような記憶があった。広瀬部長は、人事部課長の五十嵐宏に相談することにした。

 広瀬部長から相談を受けた五十嵐課長は、ひとまず欠勤開始の連絡のため、富田に連絡を取った。体調上の理由で休職するのであれば、私傷病休職扱いとするため、診断書の提出が必要になる。五十嵐課長はあわせて富田に、医師の診断書を提出するよう指示した。


2 「マタハラ」「労基署」「弁護士」が叫ばれ始める

 その頃、リスクマネジメント部内では、何の引継ぎもなく突然休んだまま帰ってこない富田について、良い感情を持たない者が多くなっていた。噂が飛び交い、どうなっているんですかと直接広瀬部長に尋ねる者もいる。
 広瀬部長としては、富田から口止めされている以上本当のことを言うわけにもいかず、「富田さんはちょっと体調が良くないんだよ。あまり詳しいことは言えないんだけどね。」と苦しい返答をするしかなかった。
 広瀬部長は、富田葵の私物を段ボールにしまい、席を片付けた。富田の私物を整理すれば、少しはメンバー達の混乱も整理されるかもしれないと考えたからだ。

 そんな状況で、定例ミーティングの無予告キャンセルをされた他の部署のメンバーから、「あの仕事、富田さんがいなくなったらだれがアメリカに報告するんですか、途中で止まっているレポートがあるはずですが」という半分苦情のような問い合わせを受けた。しかし、詳細を把握していない広瀬部長にはお手上げだった。Friedman役員はメールのCCがついていた可能性があるが、他にはだれも進捗状況がわからない。

 五十嵐課長が富田葵に連絡してから1週間後、富田から人事部に連絡があった。産婦人科の医師に休職の診断書は出せないと言われてしまったとのこと。休まなければならないような体調ではないと判断されたとのことだった。五十嵐課長は、富田に「それでは一旦、今後のことを会って相談しませんか。体調が大丈夫であれば会社に一度来てください」と、面談の約束を取り付けた。

 その3日後、富田と五十嵐課長とで面談が実施された。
 五十嵐課長は、「休むなら規則上、正当な理由が必要になるんです。例えば、体調が良くない、安静が必要、ということであればお医者さんの診断書を提出してもらえないと、休職という扱いにできなくて、欠勤になるんですよ」と、医師の診断書を取得するよう再度説明した。五十嵐課長のソフトな対応に安心したように、富田は、妊娠とは関係なく、自分の現在の業務の相談についても愚痴まじりに話し始めた。

 その「相談」は、かなり長時間に及んだが、主な内容は、「私にはリスクマネジメントの仕事は合っていない、出産後は子育てと両立しなければならないし、もっと簡単で楽な定時あがりの仕事がいい」というものだった。
 これに対し、五十嵐課長は、「おわかりだと思いますが、うちの会社は正社員であれば、だれもが皆一生懸命働いていますよね。東京にはあなたが希望するような簡単で楽な仕事はほとんどないと思います。それに、現在と違う職務になるということは、グレードが下がって、給与もそれに伴って変更になりますよ」と説明した。加えて五十嵐課長は、「会社は、いわゆるバンド型賃金制度を取っています。職務が変わればバンドも変更になり、当然給与も変更になります」と説明した。
 富田は、「わかりました、一応もう一度考えてみますが、やっぱり今の仕事は続けられないと思うんです」と五十嵐課長に答えた。

 その後、安定期に入った富田より人事部に連絡があり、五十嵐課長は再度富田と面談を行った。前回の面談時と様子が180度変わって、ずいぶんと不満ありげな様子である。五十嵐課長は少々疲れを感じながらも、いつもと変わらぬ様子で富田を会議室に案内した。
 富田は席につくなり固い表情で話を始めた。


富田:「いろいろ相談してみたんです。そうしたら、労働基準監督署で、出産するからといって違う職務で給与が下がるとかは法律違反だって言われたんです。それから、友達に弁護士がいるので聞いてみたら、これはマタハラだって言っていたんです。会社としてどうなのか、おかしいと言われたんです」


 五十嵐課長は困惑したが、ひとまず富田に話をさせてみようと思い、会話を続けた。


五十嵐:「なるほど、そういうことを言われたんですね。それで、富田さんはどうしたいとか、お考えはありますか」

富田:「育児休業から復帰したら、リスクマネジメント部でなく他の部に行きたいんです。でも、グレードと給与はそのままで、家庭とも両立させます。夫(他社従業員)は海外駐在中なので、1人で育児をしないといけないのですが、給与が下がるのはマタハラだと思います。私頑張って両立します」


 ひと息に話す富田の返答に、五十嵐課長は、「ははあ、そうですか……」とひそかに返事にため息を込めた。医師の診断書についても聞いてみたが、「お医者さんは診断書は出せないと言うので、欠勤でいいのでそのまま休ませてください。会社に無理して来て流産するくらいなら欠勤でかまいません」との返事であった。何より「労働基準監督署」や「弁護士」というキーワードが気になり、五十嵐課長は一旦今日の面談を終了させ、法的な面での検討をしなければならないと考え始めた。


3 人事部の課題、法務部の検討

 一方、五十嵐課長は、正式に人事異動により富田をリスクマネジメント部から人事部付きにさせた。
 富田は部内で協調性もなく仕事もできるほうではなかったので、異動の件は部員もむしろ喜んで受け入れた。富田がいないリスクマネジメント部は、以前に比べ、むしろすっきりと明るい雰囲気になっていた。広瀬部長は内心、「もう富田が出産後復帰してきても受け入れるつもりにはなれないな。何より他のリスクマネジメント部員達が許さないだろう」と思い始めていた。

 富田との2回目の面談の翌日、五十嵐課長は法務部を訪れた。
 本当は社内規程で定められた法務相談依頼書を書いて依頼しなければならないルールなのだが、混み入ったケースはまずは口頭で軽く相談に行くのが五十嵐課長のスタイルだ。法務部長は顧問弁護士の事務所に相談に出かけたらしく留守とのことで、たまたま部屋にいた法務課長の米沢を捕まえて相談しておくことにした。五十嵐課長が用意した相談ポイントは次の通り。

ポイント1
突然出社しなくなった富田の業務進捗を確認するため、富田のメールアカウントを確認したいと広瀬部長から打診があった。技術的には可能であるとシステム部門から回答があったという。富田のメールボックスを広瀬部長に確認させても良いだろうか。

ポイント2
診断書を出すこともなく欠勤を続けている富田を無断欠勤で解雇できないか(妊娠中だが解雇しても大丈夫だろうか)?

ポイント3
仮にこのまま休みを認めるとして、もともと評判が悪かった富田は復帰時に戻る先がない(サザンスター・ミューチュアル社は規模が小さく、親会社の方針でヘッドカウントは常にギリギリである。それゆえ評判が悪い社員を引き受ける部署は事実上ないし、余計な人員をプールできるような部署も存在しない)。グレード及び給与を下げるのであれば、飛行機で行くような遠隔地にはなるものの、コールセンターならポストがあるかもしれない。転勤させても良いだろうか?就業規則上一応会社が命ずれば転勤させることができるはず。ただ、そうなると復帰後同じ給与にしないので、問題だろうか?

ポイント4
「マタハラ」と友人の弁護士が言ったというのも気になる。弁護士がついている場合、対応に気をつけるべきだろうか?労基署にも相談してしまったということだが、行政から何か言われることはあるのだろうか?


 相談を受けた米沢課長は、「本当に困った方ですね。労基署云々は確かに穏やかでないし、少し案件として重いので、簡単でいいので法務相談依頼書を正式に出していただけますか。一旦、法務部内で検討させてください」と五十嵐課長に告げた。
 富田が労基署や弁護士に相談したことも気になるが、最近はマタハラという用語も一般化し、この手のことが以前より厳しく見られるようになっていることも気になっていた。その場である程度回答できるほうが格好がいいが、最新状況を踏まえての回答のほうが間違いがないだろう。

 米沢課長は、法律事務所から帰ってきた法務部長に報告・相談の結果、今回は弁護士に相談することにした。法務部では、専門分野別に依頼する弁護士を都度決めている。本件は、労務問題についてこれまで何度も相談している岩間弁護士に相談することに決めた。


米沢:「この場合、法務部としての検討点は……」


 五十嵐課長の法務相談依頼書を元に、米沢課長は「法務部としての検討点」としてそれぞれのポイントを整理していった。


******************************************



 「企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case4)」、続く、後編では、米沢課長がドラフトした法務部の検討点に対して、岩間弁護士の解説が行われます。ご期待ください。


第2回につづく



 編集/八島心平(BIZLAW)




 この連載記事を読む
  企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A


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遠藤 元一 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

東京大学法学部卒。立教大学法科大学院講師、一般社団法人GBL研究所理事、「優れた第三者委員会報告書表彰委員会」委員。執筆として『循環取引の実務対応』(民事法研究会 2012年)、『倒産と担保・保証』(共著 商事法務 2014年)、「排除的管轄合意を無効としたアップル・島野訴訟中間判決」NBL1073号等。


青木 智子 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

早稲田大学法学部卒。通常企業法務の他、企業側の立場で、労働問題、コンプライアンス問題等も取り扱う。第二東京弁護士会 子どもの権利に関する委員会に所属し、子どもに関するいじめ事件、虐待事件等の対応も行っている。上場会社の監査等委員(現任)。

国際企業法務協会労働法研究会

国際企業法務協会」 International Corporate Counsels Association = INCAは、1988年に発足し、25年以上に亘り活発に活動している組織です。多数の企業法務部および個人が加入し、専門家の定期講演会、会員間の研修会、法分野ごとに研究会などを開催し意見・情報交換・懇親等を行っています。本連載の執筆陣である国際企業法務協会 労働法研究会は2012年8月に開講し、事例研究を行っています。






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