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労働委員会によるあっせん手続きを
申し立てられた際の企業側の対応(2)

国際企業法務協会労働法研究会 

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企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case3)

 「法務部スタッフ」を主人公として、その視点から語られる、今日的で複雑な労働問題の数々。会話文や主人公のモノローグなどを用いて事件は語られ、時間軸に沿って事態は展開していきます。法務部スタッフは外部弁護士のアドバイスを仰ぎながら、事例に即した「落としどころ」を見出していきます。
 Case3 は、「労働委員会によるあっせん手続きを申し立てられた際の企業側の対応」です。
(※この連載はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)

 


 関連記事
  Case1 物流企業における従業員の事故についての企業側の対応 (1)(2)(3)
  Case2 パワハラによるうつ病により休業した契約社員に対する企業側の雇い止め対応 (1)(2)
  Case3 労働委員会によるあっせん手続きを申し立てられた際の企業側の対応 (1)



Case3 労働委員会によるあっせん手続きを申し立てられた際の企業側の対応(2)

【登場人物】
 古賀:株式会社YAWARA 法務部長
 吉田:同社の人事部長
 篠原:同社の営業部長
 田村:同社の営業担当(女性)
 野村弁護士:同社の顧問弁護士

 

※この事例は、「パワハラによるうつ病により休業した契約社員に対する企業側の雇い止め対応」(Case2)の続編にあたります。

  野村弁護士に質問を送った翌日、古賀が出勤すると早速返信が届いていた。古賀はメールを読み進める前に、もう一度自分の質問内容を確認する。それは次の2点だった。

検討点1 労働委員会に対するあっせん申請書が届いたが、どのようにアクションすればよいか?
検討点2 労働委員会によるあっせん手続きのうえで、何に注意すればよいか?


【弁護士の視点】

1 あっせん手続の概要
 「あっせん」とは、裁判外紛争手続の1つとして、双方の主張の要点を確かめ、事件が解決されるように努める話し合い手続のことである(労働関係調整法第13条)。
 労働争議が発生し、当事者の双方またはあっせん手続を取り扱う機関は多数あるが、利用される頻度が高いのは、労働委員会によるあっせん労働局によるあっせんである。
 労働争議が発生した場合、当事者の双方または一方の申請、または労働委員会の会長の職権に基づいて、あっせん手続きが開始される(労働関係調整法第12条)。

 あっせんは、手続が迅速・簡便で、専門家が関与して当事者双方に中立的な立場で紛争解決を試みる手続ではあるが、相手方の当事者は、労働協約上の規定がある場合を除いてあっせんに応ずる義務を負うわけではない。
 応じなければあっせんはあっせん員の指名のみで終了するが、あっせんを申立てる労働者側は、あっせんが成立しない場合における労働審判を見据えて行動している。そのため、会社があっせん手続に応じない場合は、労働者側は「労働者は紛争を解決すべく和解に向けて努力をしたが会社が誠実に対応せず、あっせんに応じなかったため労働審判の申立てに至った」との経緯を労働審判申立書に記載し、労働審判委員会に有利な心証形成を行うことを試みる場合がありうる。

 また、労働審判では法的争点が明確化され、判例・裁判例を踏まえた審理が行われるため、あっせん手続に比べて会社側に有利になる場合は多いとはいえない。
 これらの事情から、実務上は、会社があっせんに応じないで終わる事例はレアケースである。

 あっせん員は、両当事者から事情を聴取して、あっせんの努力を行うが、この過程であっせん案を出す場合も、出さない場合もある。あっせん員の示す解決案を受け入れるか否かは、当事者の自由である。あっせん員は自分の手で事件が解決される見込みがないときは、あっせんを打切り、事件の要点を労働委員会に報告する(労働関係調整法第14条)。
 近年、あっせんによる解決率は6割程度のようである。

2 あっせん手続への準備における留意点
 あっせん手続が打切りとなっても、その後、地位確認請求訴訟[※]や労働審判等が裁判所に申し立てられることもありうるため、それらの手続にも対処しうる十分な準備をして臨むことが望ましい。

※解雇された従業員が、「解雇手続が無効であり、現在も従業員の地位が存在することの確認を求め、未払給与の支払い等を求める訴訟のこと

 本件では、「雇止めの撤回」と「パワハラ行為に対する謝罪・損害賠償」の2つが争点とされている。
 この2つの争点について、労働審判等に移行した場合にも会社として迅速に対応できる準備(事実関係の整理と会社の主張を裏付ける証拠の収集・確保)が求められる。

 まず、パワハラについては、業務上必要な程度を超えた指導に至っておらず、パワハラに該当しないことを主張し、それを裏付ける証拠を提出する必要がある。
 雇止めについては、更新が反復継続されていないことが最大のポイントであるが、雇止めするに足りる合理的な事情を整理する。具体的には、上司と当該従業員とで話し合い、一定期間の具体的な目標や実施すべき措置を設定し、その達成度を確認する等のやり取りをしている場合にはそのやり取りを、また、注意や指導を行い、改善指示書やメール等で注意や指導を行った事実があればその具体的な記録を収集・分析し、時系列に沿って主張を整理し、証拠を提出することが求められる。
 その上で、契約はまだ更新されておらず、雇用の通算期間、労働者にも雇用を継続するには一定の成果を出すことが求められることを伝えている等、雇用継続への期待を抱かせていないこと、会社として、それ以上に、雇用継続への期待を抱かせるような言動をしていない事実等を主張し、それに沿った証拠を提出できればさらに良いのではないかと思われる。

【結末】

 あっせんの当日、定刻に、労働委員2名が入室してきた。
 事前に提出していた答弁書をしっかり読み込んでくれている様子で、新たに事実を聞かれることはなかった。そのソフトな語り口は、野村弁護士に同席してもらってはいるものの、緊張していた古賀と吉田を、十分に安心させるものだった。


労働委員「労働委員会としては、会社側の主張は、筋が通っていると感じています。ただ、会社側が全く譲歩の姿勢を見せなければ、今回合意に至ることはないとも考えています。会社側として、譲歩の可能性は一切ないのでしょうか?」

野村弁護士「会社側は、一切の責任はないと考えていますが、同時に早期解決を望んでいます。組合が求めている、①田村組合員に対する雇い止めの撤回、②ハラスメントについての謝罪と賠償として給与12か月分の支払いというのには応じられませんが、給与1か月分程度の解決金の支払いについては応じる用意があります」

労働委員「では、組合側と話をしてきますで、このまま、お待ちください」


 同席した野村弁護士の所感は、次のようなものだった。


野村弁護士「今回の労働委員は、会社側の主張を、かなり好意的に受け入れてくれています。答弁書で主張した、①体調不良が発症したのが、入社後1か月以内という極めて短期間のうちであり、入社前からそのような症状があったことを隠して入社した可能性も高いこと、②タイムカードから見た労働時間も、加重労働と言えるほどの時間ではなく、業務と体調不良の関連性が認めにくい上に、田村には参考書籍2冊を渡したのみで、残業や自宅業務を指示した事実がないこと、③体調不良を訴えた8月25日には会社の懇親会に参加し、普通に飲食を行っており、更には、8月26日には、同じく会社のレクリエーションで、高尾山登山に元気に参加していた事実があること、④篠原にセクハラ発言の事実がなかったことが、労働委員の心証を、会社側主張に傾かせたのではないでしょうか」


 その後、何度も労働委員が、会社側と組合側の部屋の往復を繰り返すことになったが、最後に労働委員が次のように語った。


労働委員「大変お待たせしました。私達も組合側の説得を続け、最終的には、会社が、給与3か月分の解決金を支払うのであれば、組合側が合意することを確認してきました。当初の1か月分の解決金より3倍の金額になってしまいますが、会社側として、早期解決を優先されるのであれば、お支払いをご検討ください」


 実は、古賀と吉田は、会社から給与4か月分の解決金までの支払いについては決裁を得て、この場に臨んでいた。給与3か月分で合意できるのであれば、古賀と吉田が、この労働委員の提案を拒否する理由は全くない。古賀と吉田は、即座にこの提案を受け入れる回答を行った。

 その後、労働委員による協定書(案)が作成され、会社と組合双方の同意が得られたところで、労働委員会によるあっせん手続きは終了した。


 後日談ではあるのだが、田村は、実は、株式会社YAWARAの前職でもパワハラによる体調不良を理由に退職しており、当該会社からも和解金を受領していたことが発覚している。(了)



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 「企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case3)」、いかがでしたでしょうか。Case4では、「マタニティハラスメント・診断書なき産休前の欠勤と解雇・復帰後の職務と報酬・バンド制賃金」をテーマとした事例を取り上げます。ご期待ください。





 編集/八島心平(BIZLAW)




 この連載記事を読む
  企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A



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遠藤 元一 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

東京大学法学部卒。立教大学法科大学院講師、一般社団法人GBL研究所理事、「優れた第三者委員会報告書表彰委員会」委員。執筆として『循環取引の実務対応』(民事法研究会 2012年)、『倒産と担保・保証』(共著 商事法務 2014年)、「排除的管轄合意を無効としたアップル・島野訴訟中間判決」NBL1073号等。


青木 智子 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

早稲田大学法学部卒。通常企業法務の他、企業側の立場で、労働問題、コンプライアンス問題等も取り扱う。第二東京弁護士会 子どもの権利に関する委員会に所属し、子どもに関するいじめ事件、虐待事件等の対応も行っている。上場会社の監査等委員(現任)。

国際企業法務協会労働法研究会

国際企業法務協会」 International Corporate Counsels Association = INCAは、1988年に発足し、25年以上に亘り活発に活動している組織です。多数の企業法務部および個人が加入し、専門家の定期講演会、会員間の研修会、法分野ごとに研究会などを開催し意見・情報交換・懇親等を行っています。本連載の執筆陣である国際企業法務協会 労働法研究会は2012年8月に開講し、事例研究を行っています。






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