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パワハラによるうつ病により
休業した契約社員に対する
企業側の雇い止め対応(2)

国際企業法務協会労働法研究会 

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企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case2)

 「法務部スタッフ」を主人公として、その視点から語られる、今日的で複雑な労働問題の数々。会話文や主人公のモノローグなどを用いて事件は語られ、時間軸に沿って事態は展開していきます。法務部スタッフは外部弁護士のアドバイスを仰ぎながら、事例に即した「落としどころ」を見出していきます。
 Case2 は、「パワハラによるうつ病により休業した契約社員に対する企業側の雇い止め対応」です。株式会社YAWARAで生じた雇い止めトラブル。法務部長の古賀は、洗い出した5つの検討点を顧問の野村弁護士に投げかけます。野村弁護士の回答は、どのような内容だったのでしょうか。(※この連載はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)



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Case2 パワハラによるうつ病により休業した契約社員に対する企業側の雇い止め対応

【登場人物】
 古賀:株式会社YAWARA 法務部長
 吉田:同社の人事部長
 篠原:同社の営業部長
 田村:同社の営業担当(女性)
 野村弁護士:同社の顧問弁護士


【経緯】

 パワハラによるうつ病により休業した契約社員に対する企業側の雇い止め対応(1)で、古賀(株式会社YAWARA 法務部長)は同社営業スタッフの田村の無断欠勤について、次の5つの検討点を洗い出した。

検討点1 そもそも今回の無断欠勤を理由に解雇することは可能か?
検討点2 解雇が不可だとしたら、今回の無断欠勤を理由に雇い止めすることは可能か?
検討点3 無断欠勤だけを理由として雇い止めができないのなら、能力不足という理由を付加すれば、
     雇い止めすることは可能か?
検討点4 今回、このまま雇い止めすることが難しいとしたら、それは何故か?
検討点5 上記の場合、田村にこのまま会社を辞めてもらうためには、どのような方法が適切か?


 古賀は、同社顧問の野村弁護士にメールでこの質問を送った翌日、朝早く出社した。

 自分のメールボックスを開くと、そこには早くも野村弁護士からの回答が届いていた。
 古賀ははやる気持ちを押さえながら、そのメールを読み進めていった。

【弁護士の視点】

1 無断欠勤を理由とする解雇の有効性
 解雇について、かつては解雇権濫用法理、現在は労契法16条が規定を置いている。そこで、「客観的に合理的な理由」、「社会通念上の相当性」を満たすかという観点から、解雇事由の有無を検討する必要がある。
 遅刻や欠勤が数回あっても、他の日に適切に就労していれば、一応労務を提供しているといえ、職務懈怠ではあるが、直ちに解雇事由に該当するとはいえない(労基法39条の有給休暇の規定を意識して、出席率が8割を超えている場合は、普通解雇事由に該当しないとする実務家の見解もある)。上司の業務命令に従わないということだけのケースも同様である。

 しかし、頻繁に欠勤や遅刻等を繰り返し、その程度が著しく、会社の業務に支障を与えた場合や、業務に支障を与えなくても労働契約の基礎となる信頼関係を揺るがせ、是正のために注意し反省を促したにもかかわらず改善されないなど今後の改善の見込みがない場合には、就業規則の「勤務態度が著しく不良で従業員としての職責を果たせないと認められたとき」等の解雇事由に該当するとして(普通)解雇が有効になる可能性が生じる[※1]。

[※1] 裁判例で解雇が有効とされたものとして、通勤途上の負傷や私傷病等を理由に、4回の長期欠勤を始め約5年5か月のうち約2年4か月を欠勤し、最後の長期欠勤の前の2年間の出者日数のうち約4割が遅刻であった従業員の解雇(東京海上火災事件―東京地判平成12・7・28労判797号65頁)、上司の業務命令を無視して定例部会の無断欠席、離席、外出中の会社への連絡を怠り、上司から連絡を入れるように指示されても従わなかった社員の解雇(東京地判平成14・5・14労経連1819号7頁)等がある。

2 無断欠勤を理由とする雇止め
 雇止めは、有期労働契約(期間の定めのある労働契約)を、期間満了を理由として労働契約を終了させることを指す。期間の定めのない労働契約を使用者が一方的に解除する「解雇」とは適用場面が異なり、期間満了によって当然に労働契約が終了する場合は、解雇のように使用者は解約の意思表示をする必要はない。
 ただし厚労省の定めた「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」〔平成15年厚労省告示357号、平成20年3月1日一部改正〕では、次の3点に該当する場合は雇止めに関して30日前の予告通知を行わなければならないとされていることに留意する必要がある。

① 契約を3回以上更新している
② 1年以下の契約期間の労働契約が更新又は反復継続され、最初に労働契約を締結してから継続して
  通算1年を超えている
③ 1年を超える契約期間の労働契約を締結している

 上記に照らすと、田村はまだ、1回も契約を更新していないので、有期労働契約が反復継続されて通算5年を超えたときに発生する無期転換申込権を考える必要はない。しかしその場合でも、有期労働契約が反復更新された場合、労働契約法16条の解雇権濫用法理が類推適用される(日立メディコ事件―最判昭和61・12・4労判486号6頁)。そのため、雇止めには合理的な理由が要求される。
 もっとも、雇止めでは、解雇と比較して緩やかに労働契約終了の効果が認められる。その場合、次の7点を総合的に考慮して、雇止めを判断する必要がある(カンタス航空機事件―東京高判平成13・6・27労判810号21頁)。

① 雇用が臨時的か常用的
② 計約の更新回数
③ 雇用の通算期間
④ 契約更新の手続及び実態
⑤ 同様の地位にある者の従来の雇止めの状況
⑥ 雇用継続への期待を抱かせる企業側の言動
⑦ 労働者の雇用継続への期待の合理性等

 本件では、田村の業務が恒常的に発生する業務であり、将来の正社員化を見据えた契約社員であることに加え、上司である篠原がプライベートを犠牲にすることは当然だとの考えから大量の参考書籍を渡して休日に読み切ることを要求する等、業務命令や指導に行き過ぎているように思われる。場合によっては、雇止めは合理的な理由あるいは社会的相当性を欠き、契約終了の効果が生じない可能性もあるように思われる。

3 ローパフォーマーに対する雇止め
 いわゆるローパフォーマー、すなわち、業務の遂行に必要な能力を著しく欠き、職務に適しないことは、就業規則の「勤務成績または業務能率が不良で就業に適しない」等の解雇事由に該当し、(普通)解雇が有効になる可能性はある。 ただし、「能力」の定義が不明瞭で公正な評価も困難であるため、能力不足のみ(=勤務成績が芳しくないというだけ)、人事考課で平均を下回る評価を継続的に受けているというだけでは解雇事由に該当しない。

 本件では田村がミスを繰り返すことを問題視するようだが、ミスを繰り返す場合、業務上要求される注意義務の程度、ミスの重大性および頻度、業務に与える影響(周囲によるフォローの必要を含む)を考慮しなければならない。
 さらに、会社側でも、指導や教育を行い、そのような機会を与えても改善が見られず、今後必要なレベルに達することが見込めないと判断される場合に初めて「解雇」が可能となる。

 具体的には、上長など適切な立場の者が改善指示書やメール等で注意や指導を行い、あるいは従業員と話し合い、一定期間の具体的な目標や実施すべき措置を設定し、その達成度を確認することが有用な場合がある。この上司と当該従業員との間のやり取り等は、具体的に記録し、証拠化しておくことが望ましい。
 さらに、本件では、田村が中途採用者であること等も留意する必要がある。中途採用の場合、一般的には即戦力として期待されることが多い。また、地位または職種が特定された労働契約の場合は、その地位または職種に求められる能力や適格性を備えていることが採用の条件であり、それらを欠いている場合に解雇が認められやすいと考えられるからである。
 ただし、本件では会社は田村には経験がないことを認識しながら中途採用しているため、即戦力を発揮することは期待されておらず、むしろ会社が一定期間をかけて、従業員の能力が伸びるように適切に指導・支援を行うことが予定されていると考えられる。また、地位や職種が特定されていることも窺われない。したがって、能力不足を理由として解雇することは困難と考えられる。

4 パワハラに関わる民事責任、パワハラが発覚した場合の会社として採るべき対応策、パワハラと雇止め
 2012年1月にとりまとめられた「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」は、パワハラを次のように定義している。

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

職場のパワハラの行為類型には、次の①~⑥があるとされている。

① 暴行・傷害(身体的な攻撃)
② 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③ 隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し)
④ 職務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強要、仕事の妨害(過大な要求)
⑤ 業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
  (過小な要求)
⑥ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

 このうち④~⑥は「業務上の適正な指導」との線引きが難しい。指導の正当性について、表現、回数、継続性、状況等を考慮し、発言・叱責等についてはどのような言い方をしたかも考慮して、判断する必要がある。 また、上司による叱責等の原因を確認することも重要である。叱責等がかねてからの注意・指導に従わなかった結果であるときは、相当強い叱責等が行われてもやむを得ない措置といえる場合がある(前田道路事件―高松高判平成21・4・30労判990号134頁)からである。

 パワハラが認定される場合、被害労働者に対し、加害者である上司や同僚は、身体、名誉感情、人格権等を侵害する不法行為責任が、企業も、使用者責任(民法715条)、労働契約上の安全配慮義務(民法415条、709条、労働契約法5条)や職場環境配慮義務(民法415条、709条、雇用機会均等法11条)違反の責任、パワハラが行われていることを認識しながら漫然放置した取締役等も対第三者責任(会社法429条)を問われる可能性がある(近年、これらの責任が認められる裁判例が増加している)。
 パワハラ被害の申告があった段階では、以下の①~⑥のような手順は労働審判や訴訟等への準備としても有用である。

① 加害者と被害者のメールの内容を確認する
② 当事者や関係者から事情を聴取して、その結果を書面化しておく[※2]
③ 可能であれば、当事者から報告書を提出してもらう[※3]
④ パワハラの事実が確認されれば、速やかに加害者の懲戒処分や異動等を行う
⑤ 再発防止策のための研修等を実施し、これらを記録化する

[※2] まずは関係者からの聴取から着手して、客観的な事実関係を把握した上で、最後に当事者、特に加害者とされる当事者から聴取を行うことが的確である
[※3] 後日、労働審判・訴訟等で報告書と矛盾した主張がなされた場合に、報告書で信用性を弾劾できる

 また、パワハラにより従業員がうつ病などの精神疾患となり、勤務することができなくなっても、会社は雇止めすることはできない。多くの会社では、社員が病気になった場合にそなえて病気休職あるいは疾病休職という制度を設け、休職制度により復職させることが行われている。
 有期雇用の契約社員には休職制度は適用されないが、本件の田村のように、上司によるパワハラがうつ病の原因であることが疑われ、業務上の疾病=労災である場合、その療養のために休業している期間中は、社員を解雇できないとされていること(労基法19条1項)、また、田村の業務が恒常的に発生する業務であり、将来の正社員化を見据えた契約社員であることを考えると、休職制度を適用して復職の可能性を模索するといった慎重な対応が的確と考えられる。もっとも、精神疾患による休職の場合、外形上は、通常の勤務に耐えられるかどうかは明確ではなく、意思の診断を要するとはいえ、現実的には、従業員が職務を継続する意向を有する限り、雇止めすることは容易とはいえないことに留意する必要がある。

5 雇用契約の合意解約
 1~4で検討したとおり、本件では田村を雇止めすることは法的には困難なように考えられる。期間途中で雇用契約を終了させるには、原則として相手方の同意が必要である。労働契約法17条では期間の定めのある労働契約は「やむを得ない事由」がないと期間満了まで解雇できないとされ、「やむを得ない事由」がある場合でも残期間についての損害賠償請求をされる余地がある。
 そこで、相当の対価を支払い、同意を得て合意解約することを検討すべきであろう。




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 野村弁護士からのメールを読み終えた古賀は、同社の人事部長の吉田、営業部長の篠原へメールを転送する。

 「対価を支払っての合意解約……」

 ため息とともに古賀はそうつぶやいた後、続けて両者へ会議の参加要請を送信した。
 長い一日が始まろうとしていた。



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 田村の雇止めを巡り、古賀、篠原、吉田は、どのような決断を下すのか。
「企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A」、次回の更新をお待ちください。



 編集/八島心平(BIZLAW)




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  企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A



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遠藤 元一 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

東京大学法学部卒。立教大学法科大学院講師、一般社団法人GBL研究所理事、「優れた第三者委員会報告書表彰委員会」委員。執筆として『循環取引の実務対応』(民事法研究会 2012年)、『倒産と担保・保証』(共著 商事法務 2014年)、「排除的管轄合意を無効としたアップル・島野訴訟中間判決」NBL1073号等。


青木 智子 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

早稲田大学法学部卒。通常企業法務の他、企業側の立場で、労働問題、コンプライアンス問題等も取り扱う。第二東京弁護士会 子どもの権利に関する委員会に所属し、子どもに関するいじめ事件、虐待事件等の対応も行っている。上場会社の監査等委員(現任)。

国際企業法務協会労働法研究会

国際企業法務協会」 International Corporate Counsels Association = INCAは、1988年に発足し、25年以上に亘り活発に活動している組織です。多数の企業法務部および個人が加入し、専門家の定期講演会、会員間の研修会、法分野ごとに研究会などを開催し意見・情報交換・懇親等を行っています。本連載の執筆陣である国際企業法務協会 労働法研究会は2012年8月に開講し、事例研究を行っています。






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