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パワハラによるうつ病により
休業した契約社員に対する
企業側の雇い止め対応(1)

国際企業法務協会労働法研究会 

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企業法務から見るアクチュアル労務トラブルQ&A(Case2)

 「法務部スタッフ」を主人公として、その視点から語られる、今日的で複雑な労働問題の数々。会話文や主人公のモノローグなどを用いて事件は語られ、時間軸に沿って事態は展開していきます。法務部スタッフは外部弁護士のアドバイスを仰ぎながら、事例に即した「落としどころ」を見出していきます。
 Case2 は、「パワハラによるうつ病により休業した契約社員に対する企業側の雇い止め対応」です。 株式会社YAWARAで生じた雇い止めトラブル。人事部からの相談を受けて、法務部長の古賀はその検討点を洗い出していきます。(※この連載はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)



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Case2 パワハラによるうつ病により休業した契約社員に対する企業側の雇い止め対応

【登場人物】
 古賀:株式会社YAWARA 法務部長
 吉田:同社の人事部長
 篠原:同社の営業部長
 田村:同社の営業担当(女性)
 野村弁護士:同社の顧問弁護士


【経緯】

 株式会社YAWARAは、インターネット専業の広告代理店。TV、新聞、ラジオの広告市場が軒並み縮小を続ける中、それに取って代わるように右肩上がりに成長を続けるインターネット広告市場を背景に、YAWARAの業績は右肩上がりに伸びていた。業績の伸びに比例して、社員数も増加していたが、業界経験者はどこの会社でも取り合いになっており、いい人材を確保することは難しくなっていた。

 そんな9月4日、人事部長の吉田が、古賀のところにやってきた。吉田が古賀のところにやってくるのは、決まってトラブルが発生したときだ。古賀は、内心またかと思いつつも、今度はどんなトラブルなのだろうと、少し楽しんでいる不謹慎な自分がいるのを感じた。

吉田「古賀さん、ちょっと相談に乗ってもらっていいですか?」

 吉田はいつもと同じフレーズで、古賀に話してかけてきた。吉田の相談がちょっとだった試しは今までに一度もない。吉田の相談は、中途入社の営業担当である契約社員の田村が、突然無断で出社しなくなったので、期間満了日に雇い止めをしたいが問題ないか? というものだった。社員が何の理由もなく突然会社に来なくなるということが本当にあるのだろうか? 何となく怪しいと思いながら、古賀は、吉田から雇用契約書のコピーを受け取った。

 田村の雇用契約書を見ると、締結日は7月15日、契約期間は締結日から3か月間で、満了日の1か月前までにそれぞれから更新拒絶通知がなければ、3か月間自動延長される内容だった。もし、今回雇い止めをするのであれば、9月14日までに、更新拒絶通知を送付する必要がある。そんなに余裕がある話ではない。それにしても、田村は、何故突然出社しなくなったのだろう?

古賀「吉田さん、田村さんが出社しなくなった理由に、本当に心当たりはないのですか?」

 古賀は吉田に、率直に疑問をぶつけてみた。すると、吉田は、訥々と話し出した。 田村が入社したのは7月15日。田村は、業界経験がないだけでなく、社会人経験もほとんどない状態だったが、本人が死に物狂いで働くと面接で熱く語ったため、ほぼ新卒の状態で採用した。YAWARAでは、純粋な新卒採用以外では、経験ある中途採用しか行わないのが通例なのだが、急募の採用枠だったこともあり、通常よりも採用基準が低くなったことは間違いないようだ。

 田村は、熱く語った割には期待外れだったようで、一般的な新入社員に比べても能力が圧倒的に不足していた。仕事の処理能力は遅く、注意力も散漫で、業務上のミスが多かった。メールの送信先を誤り、別のクライアント宛てに提案資料を送付してしまったり、クライアントから礼儀作法の不備について、たびたびクレームが寄せられたり、挙句の果てには、上司である営業部長の篠原から依頼された仕事をすっかり忘れてしまい、納期を過ぎて、篠原から催促を受けてようやく思い出したりするようなことが頻繁に発生した。篠原は、そのたびに田村に対して、厳しく指導や教育を行っていたようだが、田村には一向に改善の兆しは見えなかった。

 営業部長の篠原は、体育会系の営業マン上がりで、仕事に厳しいことで知られている。仕事第一で、仕事のためにはプライベートを犠牲にすることも当然だと考えており、特に新卒メンバーに対しては、休日にもしっかり勉強するようにと、参考書籍をどっさり渡し、読みきることを求めていた。

 YAWARAでは、入社後しばらくは2週間ごとに人事面談を行うことになっており、田村にも、8月2日、8月16日にそれぞれ面談が行われていた。8月2日の面談では、田村は、「篠原の期待に応え、早く仕事を覚えたいが、急がなければと逆に焦ってしまい、失敗を重ねてしまう」と発言していたことが記録されており、8月16日の面談では、「夜眠ることができず、血尿が出る等の体調不良」であることが伝えられたため、人事担当者が、できるだけ早く帰宅することを勧めると同時に、産業医による診察を受診することを勧めた記録があった。

 その後、田村は、8月24日に、人事担当者の勧めに従い、産業医による診察を受診した。産業医の診断によると「身体的には異常はない。血尿の件は膀胱炎だと考えられる。睡眠障害は上司との関係性はあるかもしれない。心身状態は良くないため、このまま続くと、うつ病になる可能性は高いと思われる」ということだった。

 そして、9月4日から、田村は突如無断欠勤しており、他の営業部員が電話とメールで連絡を取り続けているが、未だに連絡がつかない。


【法務部としての解釈】

 単に田村の無断欠勤のみが理由であれば、10月14日での雇い止めは問題ないように思われる。ただ、今回のケースを、単純にそのように処理することに疑念を覚えた古賀は、自分の疑念を次のようにまとめてみた。

検討点1 そもそも今回の無断欠勤を理由に解雇することは可能か?
 単純に、田村が、自分の我侭や身勝手で無断欠勤を行っているとしても、就業規則に定める懲戒解雇事由にまでは該当せず、譴責、減給、出勤停止の処分を行えるに留まるものと考えられる。今後、何度も譴責、減給、出勤停止処分を受け、それでも改悛の見込みがない場合や、現時点でも既に労働の意思を全く喪失してしまっている場合には、懲戒解雇事由に該当するが、今回初めて無断欠勤を行っただけで、それのみを理由に懲戒解雇処分するのは、困難なのではないかと考えられる。

検討点2 解雇が不可だとしたら、今回の無断欠勤を理由に雇い止めすることは可能か?
 そもそも、田村の業務が臨時・季節的な業務であり、契約上も臨時的な地位であるうえ、期間満了による契約終了についての明確な合意・十分な認識が双方にあった場合には、今回の無断欠勤の有無に関わらず雇い止めは可能である。
 一方で、田村の業務が恒常的に発生する業務であり、契約上も将来の正社員化を見据えた契約社員であり、期間満了による終了に関する規定も形骸化していた場合には、契約期間が短期間で、更新回数がゼロの場合でも、検討点1と同様の考察になると考えられる。

検討点3 今回の無断欠勤だけを理由に雇い止めすることが不可だとしたら、能力不足という理由を付加すれば、雇い止めすることは可能か?
 能力不足で雇い止めする場合には、「雇用関係の維持ができないと言えるような重大な能力不足」が必要と考えられる。今回、田村に他の新卒社員と比較しても能力不足は感じられるものの、企業経営や運営に現に支障が生じあるいは損害が生ずるおそれがある場合とまでは言えず、雇い止めすることは困難だと考えられる。

検討点4 今回、このまま雇い止めすることが難しいとしたら、それは何故か?
 検討点1~3で検討した理由と同時に、田村の無断欠勤の要因に、篠原のパワハラが原因となっている可能性があることが挙げられる。

検討点5 上記の場合、田村にこのまま会社を辞めてもらうためには、どのような方法が適切か?
 解雇や雇い止めというYAWARAが一方的に雇用契約を終了させる方法ではなく、田村にも納得して雇用契約の合意解約に応じてもらう方法がよい。


 検討点を洗い出した後、古賀は同社の顧問である野村弁護士にメールを送り、遅い帰途についた。

******************************************


 続く(2)では、5つの検討点について野村弁護士が詳細な分析を行います。次回の更新をお待ちください。

 (第2回につづく


 編集/八島心平(BIZLAW)




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遠藤 元一 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

東京大学法学部卒。立教大学法科大学院講師、一般社団法人GBL研究所理事、「優れた第三者委員会報告書表彰委員会」委員。執筆として『循環取引の実務対応』(民事法研究会 2012年)、『倒産と担保・保証』(共著 商事法務 2014年)、「排除的管轄合意を無効としたアップル・島野訴訟中間判決」NBL1073号等。


青木 智子 [東京霞ヶ関法律事務所 弁護士]

早稲田大学法学部卒。通常企業法務の他、企業側の立場で、労働問題、コンプライアンス問題等も取り扱う。第二東京弁護士会 子どもの権利に関する委員会に所属し、子どもに関するいじめ事件、虐待事件等の対応も行っている。上場会社の監査等委員(現任)。

国際企業法務協会労働法研究会

国際企業法務協会」 International Corporate Counsels Association = INCAは、1988年に発足し、25年以上に亘り活発に活動している組織です。多数の企業法務部および個人が加入し、専門家の定期講演会、会員間の研修会、法分野ごとに研究会などを開催し意見・情報交換・懇親等を行っています。本連載の執筆陣である国際企業法務協会 労働法研究会は2012年8月に開講し、事例研究を行っています。






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