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交渉の成功確率を上げる方法論
注目の『交渉学』体験講座

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『交渉学基礎とロールシミュレーション ~模擬交渉で学ぶ「ビジネス交渉特論」体験講座~』 レポート

いわゆるテクニックとしての「交渉術」ではなく、“交渉”をより広い概念でとらえた学術的な研究により、ビジネス契約の成功確率向上から社内における調整まで幅広く応用できる「交渉学」が注目を集めている。
2017年6月3日に開催された「交渉学基礎とロールシミュレーション ~模擬交渉で学ぶ「ビジネス交渉特論」体験講座~」(主催:K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院)には、定員100名の枠を超える申込みが殺到。模擬交渉を中心とするプログラムに、企業の法務・知財担当者をはじめ、さまざまな業種・職種のビジネスパーソンが参加した。



日本人向けにカスタマイズした実践的交渉学を体験できる

 最初に、同大学院で『ビジネス交渉特論』『ビジネス交渉演習』を担当する客員教授の一色正彦氏が登壇し、交渉学の概要について説明を行った。

「交渉学は、1970年代後半に米国ハーバード大学でロジャー・フィッシャー教授が研究を始めた学問です。ロースクールに交渉学研究所を設立し、米国国務省の弁護士として国際交渉で培った経験に加え、世界中の交渉事例を分析して、特定の理論パターンを導き出しました。
その研究結果からロースクールの『模擬裁判』を発展させ、ビジネスパーソン向けに開発されたトレーニングプログラムが『模擬交渉』(ロールシミュレーション)です。そして、これをベースにして、日本人に合わせて独自に開発されたものが、本日の体験プログラムです」

 交渉学において、“交渉”とは「複数の当事者の利害関係のズレや対立・衝突を乗り越えるための問題解決プロセス」と定義される。目的は「問題解決によるミッションの実現」で、何をミッションとするかが非常に重要になるという。

「交渉には、大きく三つの能力が必要になります。一つ目が準備段階で交渉を“設計”する『分析力』で、二つ目は実際に交渉相手とやり取りを行うための『コミュニケーション力』です。そして、三つ目が、最終的に合意・不合意を決断する『意思決定力』です。必ずしも、合意が正解で、不合意が不正解ではありません。『どうしてこの相手と組むのか』『どうしてこの相手とは組めないのか』という理由を、論理的に説明できる意思決定が重要です。これら三つの能力を、体験プログラムを通じて体感してください」

 近年、交渉学を学ぶビジネスパーソンが増加する中、同大学院の交渉学科目を修了した社員を中心として、自社内で交渉学を継続学習する機会を設けている企業もある。一色氏は、その学習者たちへのアンケート結果をはじめ、継続的かつ長期的な付き合いが必要な相手に対して巧妙な交渉術を使うリスクや、交渉の成否を左右する二大要因である「論理的アプローチ」と「心理的アプローチ」を紹介した。


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相手のコンテキストを知ることで交渉の可能性を広げる

 一色氏のあとを受けて、同じく客員教授の竹本和広氏が登壇。竹本氏は以前、メーカーの知的財産部門に勤務しており、同大学院の修了者でもある。修了後も交渉学の学習を続け、客員教授を務めるようになった。

 竹本氏は、模擬交渉前のアイスブレイクとして、簡単なショートケースによる演習プログラムを実施した。ショートケースの条件設定は、「PCメーカーに勤める入社3年目の営業担当が、デザイン事務所から、交渉に入るや否や15%の値引きを持ちかけられる」というもの。さらに、「15%の値引きをしてもらえるなら、長い付き合いにつながるかもしれない」という条件も提示されている。

 参加者は全員が営業担当の立場に立って、二つの質問に対して回答を行った。
 まずは、「この相手に対して、どのような印象を持ったか?」という質問。ポジティブ・ネガティブ両方の意見が出たが、竹本氏は「実のところ、交渉のトレーニングでは、第一印象は重要ではない」と説明する。

「どのような第一印象を持っても結構ですが、その後の交渉において、その印象をあまり引きずらないことが大切です」

 そして、二つ目の質問は「相手が、なぜ、この条件で交渉してきたと思いますか?」。この回答を考えることは、交渉準備において重要な“仮説”を立てる力をトレーニングできるという。

「相手がなぜそうしたのかという仮説を、できるだけたくさん考えてみることが大切です。深い交渉を行うには、相手の発言内容である『コンテンツ』だけではなく、表面には表れない『コンテキスト』まで知らなければいけません。
コンテキストとは、相手の状況や背景、本音など、隠された事実や意図のことです。相手のコンテキストを知ることで、そこに合わせた譲歩ができたり、新しく別の解決方法が見つかったりする可能性も出てきます。仮説を立てる際には、ロジックツリーを描いて考えることも有効です」


ベースとなる「交渉準備」に必要な三つのポイント

 さらに、竹本氏は交渉準備に必要な三つのポイントを挙げた。

「まず一つめが、『マップ化による“ビジュアルな状況把握”』です。情報マトリクスやマインドマップ、リッチピクチャーなどを描くことで、自分の置かれている状況を把握します。

二つ目は、『ミッションを軸にした、ZOPA、BATNAのフレーム設定』。ミッションとは、自分や自社の将来的な究極のゴールを視野に入れながら、今回の交渉で目指すゴールのことを指します。しかし、実際はミッションを100%完璧に実現することは簡単ではありません。ですから、“最高の目標”と“最低の目標”という幅を持たせて設定するZOPA(Zone of Possible Agreement)や、不合意の際に備えてBATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement)という代替選択肢も事前に用意しておきましょう。

三つ目は、『対立を乗り越えた“創造型の問題解決”』です。一つのパイを山分けする“分配型”や、お互いがほしい部分を取る“交換型”以外にも、さらにお互いがウィン・ウィンになれるよう、新たな価値を創造できる選択肢まで考えることによって、交渉の成功確率を上げることも可能になります」


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交渉に不慣れでも学習しやすいオリジナルの“作戦会議”プログラム

 ここでいよいよ、模擬交渉の実践プログラムが始まる。講師の一色氏と竹本氏に加えて、同大学院の交渉学科目を修了したティーチングアシスタント(TA)9名が参加者をサポートする形式で模擬交渉が行われた。

 詳細な条件設定をお伝えできないのが残念だが、今回の模擬交渉の概要は以下のような内容だった。

「スイスの有名メーカーが、130周年記念モデルを世界限定5000個で発売。このニュースを聞いたブランド時計のコレクターが、品ぞろえが豊富で評判の高い時計専門ショップを初めて訪問。ショップ経営者と売買交渉を行うことになった」

 参加者はコレクターとショップ経営者いずれかの役割を与えられ、1対1で交渉を行う。しかし、ただ単に時計を売買するだけでは契約が成立できないよう、制約となる背景が設定されており、価格や個数、売買時期、将来的展望などが複雑に絡んだ交渉が必要な内容となっている。

 参加者全員に共通情報が書かれたシートが配られ、さらに、自分に与えられた役割の背景のみが書かれたシートも配布。この時点では、相手の役割の詳しい情報は一切分からない。

 まずは個人で自分の状況を把握して、交渉準備を進行する。その後、同じ役割の参加者複数名でグループになって、意見交換や情報共有する“作戦会議”が行われる。この演習はハーバード大学では行われていない、日本で開発されたオリジナルプログラム。交渉準備に慣れていない初心者でも学習しやすいというメリットがある。

 模擬交渉自体は各自の考えで進めることになるが、このプログラムを経ることで、同じケース・役割を担っていても、人それぞれの考え方の違いや、自分では思いつかなかった発想を知ることができる。そこから、「交渉相手はさらに自分の想像を超えることを考えているかもしれない」と想定し、さまざまな仮説を立てられるようになるのだ。また、グループによって作戦会議の傾向が大きく異なるのも非常に興味深い。

 休憩をはさんで、模擬交渉がスタート。交渉を10分間行った後、再び、同じ役割同士のグループで情報交換を行った。そして、1対1の交渉後半戦に戻って、最後の詰めに入る。


交渉相手からのダイレクトな評価が納得度と学習効果を高める

 トータル30分弱の模擬交渉が終了すると、ユニークなプログラムが行われた。これは“感想戦”と呼ばれ、交渉を行った2名がお互いに自分の考えや戦略を披露し合うものだ。
 自分自身の交渉に対する評価や本音を相手から直接聞くことは、実際のビジネスの交渉では極めて難しい。ましてや、交渉が決裂した場合は、なおさらだろう。この感想戦では、交渉相手の考えをすべて聞くことで自分の交渉結果に納得することができるため、学習効果も非常に高い。参加者の表情からは、相手の“告白”に驚いている様子が数多く見られた。

 その後は、交渉を行ったペアが複数集まったグループごとに、交渉結果や、合意に至った付帯事項、合意できなかった論点などを発表。そして再び、竹本氏が壇上に上がり、全体の情報共有と、交渉結果から得られた注意点の講評などを行った。

 模擬交渉の結果は、「合意」したペアが約8割で、「不合意」と「結論が出なかった」ペアがそれぞれ1割ほど。最高額の売買価格で合意に至ったのは、メーカー希望小売価格の1.5倍の値段がついたペアだった。コレクターはショップと販売代理契約を結び、ショップ経営者も「継続的に取引をできる顧客を増やす」という自身に課した目標を達成できた形だ。ちなみに、最低額のペアは希望小売価格の約半額だった。

 ほかにもさまざまな交渉内容が発表され、竹本氏からは「気になる点」もいくつか指摘された。例えば、あるペアでは、コレクターからの「自分にはコレクター仲間のSNSフォロワーが多いので、『このショップは品ぞろえが豊富だ』と情報提供できる」との提案に対し、ショップ経営者が「当店のスタイルとして、情報を拡散されるのは好ましくない」と拒否したケースだ。
「このケースからも、『交渉相手が何を目指しているか』というコンテキストを知ることの重要性が分かると思います」と竹本氏は解説した。


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実践してわかる交渉学の面白さ

 最後のプログラムでは、一色氏が、日本に進出した外資系企業の交渉術の失敗事例や、交渉中の心理的な“罠”への実践的な対処法などを紹介。また、今回の模擬交渉プログラムのようなアクティブ・ラーニングの今後についても言及した。

「人間の脳は、聞いたことは2週間後に20%しか覚えていませんが、自分が口に出しながら実際に行ったことは90%覚えているといわれています。この学習効果の高さが私たちの学習プログラムの特徴でもあります。今後は、小学校教育からアクティブ・ラーニングが採用されますから、この学習方法で学んだ若者たちが皆さんの会社にも入社してくることになります。その人たちに適切に接するためにも、自分自身がアクティブ・ラーニングを経験しておくことは先々において有効となるでしょう」

 そして最後に、交渉力育成のための“三つのポイント”を伝授して、約4時間にわたる体験講座は終了した。参加者自身が実際にシミュレーションを行うプログラムが中心で、取り組みやすい内容なので、「非常に活気のある講座」となった。この体験講座をきっかけに同大学院へ入学したり、科目等履修生として就学を始める人、さらに同大学院修了後も生涯教育として交渉学を学習する人も多いという。自分の交渉過程を見直し、ブラッシュアップしたい方は、実際に講座を受講して、交渉学そのものの面白さを体感してみて欲しい。



取材/あつしな・るせ(CreativeUnit sprash)
撮影/岩田伸久

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Profile

一色 正彦
[K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院 イノベーションマネジメント研究科 客員教授]

株式会社LeapOne取締役(共同創設者)。合同会社 IT教育研究所役員(共同創設者)。大阪外国語大学(現大阪大学)外国語学部卒業。パナソニック株式会社勤務を経て独立。東京大学大学院非常勤講師(工学系研究科)、慶應義塾大学大学院非常勤講師(ビジネススクール)、関西大学外部評価委員会委員(大学教育再生加速プログラム)などを務める。
大学にて交渉学や経営法学などの研究・教育を行うとともに、企業の交渉戦略や人材育成へのアドバイスなども行う。著書に『契約交渉のセオリー』(共著)(レクシスネクシスジャパン、2014)など。

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Profile

竹本 和広
[K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院 イノベーションマネジメント研究科 客員教授]

たかおIPワークス代表。一級知的財産管理技能士(特許専門業務)。AIPE認定知的財産アナリスト。K.I.T.知的創造システム専攻6期生(国際標準化戦略プロフェショナルコース修了)。知的財産管理技能士会運営委員、同研修委員長、知的財産教育協会中小企業センター副センター長、宇宙航空研究開発機構(JAXA)任期制招聘職員などを務める。
コニカミノルタ株式会社の知的財産部門で特許出願および権利化、自他社特許の評価、発明の発掘、特許調査ならびに若手技術者向け知財教育などに携わる。2011年に地域(東京都多摩地域)の中小企業向け知的財産マネジメント代行とコンサルティングを行う事業を起業。



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