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社会構造に降り始めた
「自動運転車」という隕石(前編)

インクリメントP株式会社 知的財産法務部長 足羽 教史

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 人工知能に関するソフトウェア・クラウドデータベース、医療などのソフトウェア分野、そしてロボット工学、自動運転自動車、ドローンなどのハードウェア分野双方において、テクノロジーは急激な発展と変化を見せています。企業ビジネスがこれらの最先端技術の活用を視野に入れようとするとき、求められるのはビジネスの促進と法的リスクとをカバーできる法務のあり方です。最先端の技術領域を扱うビジネスに関して、これからの法務の課題は何か。あるべき法制度の設計はどのように行われるべきか。この連載では、「最先端法務」の未来を展望します。
 第3回は「難題解決を迫られつつある自動運転車の法律問題」。



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自動車産業に降った隕石

 2010年代は、後年、自動車産業に隕石が降った年代として記憶されるかもしれない。
 かつて全盛を誇った恐竜は隕石の衝突によって突然滅びたという仮説があるが、自動車産業の外にいたはずの、米国大手IT企業を代表するグーグルが降らせた隕石のおかげで、世界の自動車産業はもう昨日のまま安閑と過ごすことはできなくなった。地球の覇権があっという間に恐竜(爬虫類)から哺乳類に移り、やがて人類がそれを受け継いだが如く、自動車産業の覇権は旧来の自動車会社の手からすり抜けていくかもしれない。二十世紀に開幕し全盛を誇ったモータリゼーションは閉幕を余儀なくされ、明日の自動車は今とは似ても似つかぬものになっているかもしれない。その物騒な隕石の名は、「自動運転車」と言う。


自動運転車のビジョンが現実に

 2010年10月、グーグルは、ビデオカメラやレーダーセンサー、レーザー距離計などを装備した自動運転車を開発していることを発表した。翌2011年には、米ネバダ州、その後、フロリダ州とカリフォルニア州が相次いで公道の試験走行を認める法案を制定したため、自動運転車に改造されたトヨタ・プリウス等が堂々と公道に姿を現した。以来、誰もが、自動運転車が縦横に走り回る近未来の姿をはっきりと意識するようになる。

 自動車各社も技術的な備えが全くなかったわけではなく、高度な運転補助機能を徐々にレベルアップさせていこうとは考えていた。だが、自動運転車の量産などに本気で取り組む気などなかったから、公道を堂々と走る自動運転車に内心仰天し、また舌打ちしたことは想像に難くない。各社とも、置いてきぼりにならないよう、慌てて自社の「自動運転車戦略」を語り始めた。


完全自動運転車というもっと大きな隕石

 だが、世界はこの隕石が単なる前触れに過ぎなかったことを思い知ることになる。
 2014年5月、今度はグーグルは既存の自動車の改造ではなく、自動運転車の最終系とも言えるプロトタイプを製造して発表した。何と今度の自動運転車には、ハンドルもアクセルもブレーキも付いていない。運転手という存在を完全に消し去ってしまっている。この日から法的な課題も飛躍的に難易度が上がることになった。そして、業界関係者は他の人工知能が関わる分野を差し置いて、自分たちがどこよりも先に、人工知能の法的課題に真剣に取り組まざるを得なくなっていることを知ることになる。


自動運転車の分類

 米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、2013年5月に自動運転に関する一次政策方針を発表し、車両の自動化の分類を以下のように定義した。

 レベル0(自動化なし)
  常時、ドライバーが運転の制御(加速、操舵、制御)を行う状態

 レベル1(特定機能の自動化)
  加速、操舵、制動のいずれかをシステムが行う状態

 レベル2(複合機能の自動化)
  加速、操舵、制動のうち複数の操作をシステムが行う状態

 レベル3(半自動運転)
  加速、操舵、制動をすべてシステムが行い、システムが要請したときはドライバーが対応する状態

 レベル4(完全自動運転)
  加速、操舵、制動をすべてドライバー以外が行い、ドライバーが全く関与しない状態

 その上で、この時点での半自動運転、完全自動運転の基準策定は時期尚早としていた(但し、一定の基準の元に、公道での試験走行を認めるよう州政府に提言した)。


法的対応も大きく異なる完全自動運転車

 この自動運転車の実現には、技術的な対処はもちろん、法規制の整備が不可欠であることは言うまでもないが、このレベル3までとレベル4の間には、技術的にも、法的な対応を検討するにあたっても大きな断絶がある。

 米国および日本等が加盟する道路交通に関する条約(ジュネーブ条約 1949年)には、①車両には運転者がいなければならない、②運転者は適切かつ慎重な方法で運転しなければならない、と規定されており、日本の国土交通省も、運転者がいることを前提とした自動運転車では、特別な手続きなく、公道走行が可能としてきた。しかしながら、レベル4となると、現行の自動車の概念の変更を迫るものであり、ジュネーブ条約の改定、およびそれに基づく国内法(道路交通法等)や様々な関連法規や概念(製造物責任法、自動車運転過失致死傷罪、瑕疵担保責任等)は場合によっては抜本的な変更を余儀なくされる。

 レベル4の自動運転車では、運転の制御を人間から人工知能に委譲することになるが、条約も法規制もすべて人間の運転者を前提としている。そのため、制御を人工知能に委譲して、それに伴う法的な責任を人工知能に負わせるという概念がそもそも成立し得ない。


腰がひける既存の自動車業界関係者

 世界の自動車各社のCEOによる公的な発言を一渡り調べても、既存の自動車の概念を覆し、場合によっては、自動車の市場での総数を大幅に減らす可能性のある、レベル4の自動運転車を積極的に推進する姿勢は見出せない。既存の業界関係者以外のベンチャー企業や、公共セクター等で、走行路を固定した無人バス、タクシー等の計画はいくつか登場し、関係各国政府もそれなりに足元に火がついて来たとはいえ、無人運転実現に伴う未解決の技術的な課題も少なくない(雨天、雪、夜間走行等)。特に日本では、官民とも積極的に推進する空気は感じられないままだった。

 これを積極的に推進し、法的課題にも世界に先駆けて取り組む行政府があるとすると、グーグルのお膝元である、米カリフォルニア州であり、米国政府ということになる。当然グーグルはロビーイングに余念がないだろうから、何らかのポジティブな回答が出てくることが予想されていた。

 しかしながら、2015年12月、米カリフォルニア州の運輸局(DMV : Department of Motor Vehicles) から出てきた上院法案には、「自動運転車の専用の免許証を取得した運転者の乗車を義務づける」とされており、レベル4の自動運転車を認めないとの姿勢が示されていた。グーグルはすぐに「非常に落胆した」とのコメントを発表したものの、既存の自動車業界関係者は安堵の胸をなでおろしただろう。


一転完全自動運転車実現に舵をきった米国

 ところが、再び業界に冷水が浴びせかけられる。2016年2月、NHTSAは一転、次のような見解を発表した。

「人間ではないものが車両を運転できるならば、運転するものは『運転者』とみなすのが妥当」

 グーグルの確認に対して、NHTSAは、「グーグルが十分な情報と根拠を提供する」ことを前提に、人工知能が制御する自動運転用ソフトウェア、SDS(Self-Driving System)を「運転者」とみなせる可能性があると回答している。
 NHTSAはさらに、自動車業界関係者や利害関係車と協力して、2016年6月ごろまでに、自動運転車の安全な運用と展開に関するガイダンスを作ることを決め、さらに米国政府も自動運転車の開発支援に10年間で40億ドルを投じることを発表した。

 結果として、「米国政府はグーグルを支援し、レベル4の自動運転車の実現を後押しをする意思を示した」とのメッセージが全世界に発信されることになった。

 続く後編では、完全自動運転車が実現された社会でのメリット、そして法的な問題の姿を追っていきたい。

 (後編に続く



編集/八島心平(BIZLAW)




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Profile

足羽 教史  [インクリメントP株式会社 知的財産法務部長]


【略歴】
インクリメント P(株)知的財産法務部部長
トヨタ自動車、JX日鉱日石エネルギー(旧三菱石油)を経て現職。総合研究開発機構(NIRA)客員研究員(2015/9〜)、国際企業法務協会理事(2016年度)、『風観羽』ブロガー(ブログでの発言は所属する組織・団体とは関係ない)。






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