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知財英語コミュニケーションとは何か?

エスキューブ(株)代表取締役・エスキューブ国際特許事務所所長
知財経営コンサルタント・弁理士 田中 康子

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さあ、「知財英語」で話そう 第1回

いまや「知財」は事業戦略の柱、そして「英語」はビジネスの要。「知財英語コミュニケーション」は、知財部員や弁理士だけでなく、法務部員、研究者、エンジニア、技術営業、弁護士等々、世界を相手に仕事をするグローバル人財にとって必要なスキルなのです。ところが「知財英語」は、知財や契約に関する法律用語の他、技術に関するテクニカルワードも含むため、英会話教室ではなかなか学ぶことができません。
この連載では、「知財英語コミュニケーション」を身につけるためのエッセンスを、全6回に渡り紹介します。第1回、タイトルは「知財英語コミュニケーションとは何か?」




出願からディナーまで
「知財英語」コミュニケーション

「知財英語コミュニケーション」とは、筆者が米国系企業知財部門での勤務経験を通して創り出した概念であり、一言でまとめるなら、企業の知財部員や弁理士が、海外企業、海外関係会社、あるいは特許代理人等とビジネスをする際に行うコミュニケーションのことである。

そして、この「知財英語」は、知財部員、弁理士のみならず、海外企業を相手に交渉を行う必要のあるすべてのビジネスパーソンにとって、大きな力となる(その理由は後述)。

知財業界では、特許や商標、あるいは契約等に関する特殊な言葉を用いる。
例えば、ある発明について特許を取りたい場合は、その「発明の内容を記載した書類」を特許庁に提出するのだが、この「発明の内容を記載した書類」は「特許明細書」と呼ばれ、英語では「specification」と言う。さらに特許明細書と合わせて提出する「希望する権利範囲を記載する書類」を「特許請求の範囲」と言い、英語では「claim」と言う。英単語自体はさほど難しくないものの、通常の英和・和英辞典には載っていないことがおわかりいただけるだろう。その他、特許出願を「patent application」と言い、ある物の用途に関する特許を用途特許「application patent」と言うことがある。おそらく知財実務者以外には通用しない言葉だと思う。これが「知財英語」である。

「でも、日本にいて仕事をするなら、日本語の知財用語を知ってさえいれば十分では?」

いえいえ、それがそういうわけにもいかない。

知財(知的財産)は、製品やブランドを保護して事業や経営に貢献するために活用するものであり、日本国内のみならず海外で事業を行う機会があれば、海外でも特許権等の知財権を取得する必要が出てくる。特許権は、国ごとに独立しており、事業を実施する国のそれぞれに特許出願する必要がある。各国で特許出願、権利化をするためには、それぞれの国の特許代理人に代理をしてもらわなければならない。

例えば米国に出願する場合は、米国の特許代理人(米国弁理士 patent agent、または米国特許弁護士 patent attorney)に依頼する必要があるし、米国特許庁(USPTO)への特許出願は原則英語でする必要がある。となると、英語の特許明細書を準備し、英語で米国の特許代理人に業務を依頼することになる。他の国についても、代理人が日本語を話す場合を除いては、すべて英語でコレポンするのが通常である。

ここまでの業務は、読み書きを中心に「知財英語」を活用できれば何とかなりそうだ。ところがまだまだ、知財実務は奥が深い。

例えば、日ごろ仕事を頼んでいる米国の代理人は、年に数回会社に尋ねてくる。大体は表敬訪問や営業だが、普段メールやファックスのみでやり取りしている人と対面して打合せができる機会を逃すことができようか。そうそう、これこそ進行中の案件について相談したり、日ごろ疑問に思っている点や代理人への要望をぶつけたりする絶好の機会なのである。さらに、ランチやディナーを共にすれば、互いをよく知り、より効率よく仕事を行うためのまたとないチャンスとなる。

「……え、米国代理人は英語をしゃべるんですよね?……」

当然である。
またあるときは、米国の特許事務所や日本の業界団体の主催で、現地での知財セミナーを受ける機会がやってくる。米国に数週間滞在して、昼間はセミナーに出席する。セミナーでは、中国、韓国、時にはメキシコ等からやってきた参加者が物おじせず質問する場面を目にする。そうなるとこちらも負けずに質問しなければと思う。休み時間は彼らと互いの国の知財制度について情報交換をする。そして夜になれば、セミナー出席者は、現地の代理人らにほぼ漏れなく食事に誘いだされる。なぜか。海外からのセミナー出席者、特に日本人や中国人は、彼らの大切なクライアントかポテンシャルクライアントだからである。

そしてまたあるときは、海外企業との共同研究の話が浮上してくる。共同研究を行うときに結ぶ契約には、必ず知財に関する条項が入っている。契約書はもちろん英語である。契約書案を読んで相手と交渉しなければならない。時には、メールでのやり取りでは埒があかず、直接会って交渉、または電話会議で交渉という場面もやってくる。共同研究契約を結ぶにあたり、「御社の知財ポリシーを聞かせてください」なんていうリクエストもありうる。そうなれば、事前にプレゼン資料を作成してお客様の前でプレゼンテーションをすることになる。

このように、知財実務は奥が深く、単に日本で机に向かって読み書きをしているだけではないのである。海外からの客人と業務に関する会話をし、食事の席では歓談する。あるときは海外での知財セミナーに参加して英語の講義を聴き、英語で質問し、英語で情報交換をする。またあるときは英語の契約の交渉を英語でする、英語でプレゼンする機会があるのである。ここで必要になるのが、ビジネス英語とは違う「知財英語」を使った「コミュニケーション」のスキルである。


“This invention is very important.”
では伝わらない

筆者は、知財実務歴26年。最初の業務は日本企業知財部での医薬品の特許調査だった。

医薬品事業はグローバルなので、調査の対象となる特許や学術文献も英語のものが多い。日々英語のデータベースを、英語を使って検索し、英語の文献を読んだ。数年経って特許出願と権利化を行う部署に移った。日本出願の他、外国出願を扱う機会も多く、英語の特許明細書、外国の特許庁からのオフィスアクションや外国代理人のレターを読んだ。時には、出張で訪れた代理人と打合せをしたし、米国でのセミナーにも参加して、米国特許庁で審査官との面談も経験した。英語での知財実務に少し自信がついたころ、米国系企業に転職した。

ところが、いきなり米国本社とのテレビ会議に放り込まれ何を言っているのかわからない。米国人上司へのプレゼンでは、資料に何を書いて良いのかわからない。プレゼンのスクリプトはなんとか暗記して臨んだものの、質問されるとタジタジ。特に苦労したのは、特許出願の許可を取るための米国本社事業部の技術部長(Technical Director)との電話会議である。日本の研究所から出てきた発明の内容と先行技術を比較するリストを作成して事前にメールで送付し、それを使って新規性と進歩性について説明する。それだけでなく、その発明がカバーする製品の上市予定時期、上市した場合の予想売上についても説明をしなければならない。もちろん電話越しに。そのうえで、技術部長が出願可否を判断するのである。

例えば、次のように。


Tanaka: This invention relates to an ABC polymer film. The ABC polymer is obtained by polymerization of a monomer mixture including X, Y and Z. The polymer has an excellent scratch-resistance and it may be used as a top coat film for a handheld device such as a smartphone or a tablet. From the prior art search using the internal patent database, we found some references. Here is a list comparing the references and our invention. As you can see, our invention includes X monomer and no references include X, so the invention is novel. Further, from the experimentation performed by the co-inventor, Suzuki, the top coat film comprising the ABC polymer has almost twice scratch-resistance of the one written in the references.

Tech. Director: Tanaka-san, I have a question. I understand the invention is novel and maybe inventive from the references, but is there any plan to launch the product using the polymer?

Tanaka: Yes, actually, we are planning to start selling the product around April next year, and before that, by the end of October at the latest, we would like to share some samples with our customers for their evaluation. I think we need to file a patent application prior to showing the samples to the customers.

Tech. Director: OK. How much sales are you expecting in the next year?

Tanaka: Well, I heard that we were expecting about 3,000,000 dollars in the next year, then it would be more than 50,000,000 in 2018.

Tech. Director: OK. I approve the patent application. Please file it before going to the customers. Thank you for joining the meeting today.

Tanaka: Thank you, Mr. Director, we will start preparing the application.



以上、難しい文法を使った文章は一切なく難解な単語も入っていないが、技術部長が意思決定をするために必要な情報を、通じる言葉で表現しているのをおわかりいただけるだろうか。

ここまでのやり取りができるようになるのは簡単ではなかった。特に、社会人になった年のTOEICが300点、米国企業入社時に660点だった筆者にとっては至難の業だった。最初のころはYesやNoなど短い単語しか出てこず、とにかく必要なことを言わなければと、This invention is very important. We want to file a patent application as soon as possible. と言ったら、Why? と聞かれて沈黙。翌月の会議でやり直すことになった。

このような失敗を繰り返しながら、電話会議で米国人の会話を聴いているうち、意思決定のために、どんな事柄をどんな英語で、そしてどんな話の構成で話しているのかがわかってきた。そして、どんどん彼らの真似をして、だんだん必要なことを適切に表現できるようになってきた。すると今度は、技術部長の方から、今月はTanakaさんからの案件は無いのか?とか、他の国からの発明の意思決定に際して意見は無いか?と聞かれるようになってきた。存在が認められたのだ。

こうなってくると、がぜん電話会議が楽しい、仕事が楽しい。遠く離れた米国との間でも、日本で、日本語で仕事をするのと同じように仕事ができるという充実感を感じ、世界中どこにいても、誰とでも仕事ができる!という自信につながった。と同時に、日本企業で読み書き中心の実務をしていたころに使っていた英語は、十分に意思疎通のできる英語ではなかったことに気づいた。それでもなんとか業務を全うできたのは、仕事の相手が米国代理人中心だったためである。彼らは非常にスマートであり、何といっても、筆者は彼らのクライアントだったので、たどたどしい英語もニコニコして聞いてくれるし、ゆっくりわかりやすいようにしゃべり、何度でも言い直してくれていたのである。決して、翌月の会議でやり直すことにはならない。


主張・表現・仕切る力が
強い交渉力を生み出す

以上のような実体験を通して、相手との十分な意思疎通、つまりコミュニケーション、を意識的に行うことの大切さが身に付いた。十分なコミュニケーションのためには、次の3つのスキルが必要だ。


 ・相手の言うことを聴いて自分の主張をする力(ディスカッションスキル)
 ・相手が理解できる言葉で表現する力(プレゼンテーションスキル)
 ・場を仕切る力(ファシリテーションスキル)


また、これらのスキルが身に付けば、交渉力(ネゴシエーションスキル)も自ずとついてくるようだ。

筆者は、自力で、右往左往しながら時間をかけてこれらスキルを身に付けてきた。だが、もしこのような知財の英語を使ったコミュニケーションを学べる場所があったらどんなに楽だっただろう、苦労している時間を他の仕事や休みに回せたかもしれないのに、と思う。そこで、今回を皮切りに、以下に挙げた全6回の連載で、皆さんに知財英語コミュニケーションスキルを少しずつ伝授していきたいと思う。


 第1回 知財英語コミュニケーションとは何か?
 第2回 知財英語プレゼンテーション1
     Starting presentation, Closing presentation, Dealing with questions
 第3回 知財英語プレゼンテーション2
     Main body
 第4回 知財英語ディスカッション1
 第5回 知財英語ディスカッション2(Teleconference)
 第6回 現地代理人とのコミュニケーション
     Letter and email, Interview, Dining, Office visit


第2回は、「知財英語プレゼンテーション1」として、Starting presentation, Closing presentation, Dealing with questionsについて紹介する。


編集/八島心平(BIZLAW)





2016年11月11日、18日、25日の3日間にわたり、本連載著者、田中康子先生による「知財英語コミュニケーション」ワークショップが開催されます。詳しくは下記バナー先よりご参照ください。


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田中 康子

Profile

田中 康子エスキューブ(株)代表取締役・エスキューブ国際特許事務所所長
知財経営コンサルタント・弁理士]

1990年千葉大学理学部卒業。1990年より 帝人株式会社 知的財産部。2005年より ファイザー株式会社 知的財産部、2006年住友スリーエム株式会社 知的財産部。 2013年4月 エスキューブ株式会社を設立。2013年8月エスキューブ国際特許事務所を設立。現在日本弁理士会 知財経営コンサルティング委員会 委員長。




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