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試験の先に目標を置け!

学習院大学 名誉教授 戸松 秀典

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憲法と法秩序 第3回

戸松秀典名誉教授に聞く「憲法」。第3回は大学教育に携わる中で感じた課題についてお聞きした。



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――戸松先生は長く教壇に立たれていらっしゃり、対話を重視した教育を心がけていたようにお聞きしています。対話を重視したポイントなどをご紹介ください。

戸松 学部の授業でも質問は大歓迎なのですが、講義では300人ぐらい学生がいますから規模が大きくて、対話式は難しいですね。でも、演習では対話重視です。
 演習では、私は最後の5分だけ時間をもらって、それ以外は学生同士がテーマに沿って議論する時間にしています。自分たちで結論を導くので、それなりに学生同士で対話が行われます。中には外れた議論ばかり展開するケースもありますが、みていると時間内にきちんと収束していくものです。そして、学生がよく調べてきて、逆に私が教えられることも多かったですね。ですから、私は情報を提供して、考え方の広がりや多様性を示すことに終始しています。

 社会人になった場合に、対話しながら結論を導くことはきっと避けて通れないでしょう。対話の中で相手の意見をよく聞きながら自分の意見も確認して、建設的に発言できるような人材になってほしい。一番いけないのは会議に出席していても、自分は黙っていて物事だけが合意されて決まっていく。そういう社会人になってほしくないと願っています。大学での学習が、そういう部分の訓練にもなればいいなと思っています。


――海外では対話式は多くみられると思いますが、比較してお感じになることはありますか。

戸松 日本の学生は、海外の学生と違って、対話形式に慣れていないという印象です。
 日本の教育は先生の言うことをよく聞くことが求められ、聞いた内容を答案に書くことが結果的に評価される部分があり、先生にものを言うのは好ましくないという風潮も中には見受けられます。

 一方で、アメリカに留学したときに、コロラド州の小学校にまねかれて話をした経験があります。そのときの子どもたちは、実に質問が多かったのを記憶しています。たとえば、私が「日本語の文字は縦書きにも横書きにも対応していて、縦書きでは上から下に読み、横書きでは左から右に読むのです。日本の文字は面白いよ。」そういう話をしたら、とたんに手が上がって「先生!下から上には書かないの?」という質問がきました。なんと発想が豊かなことか。こういう場面に数多く出会いました。


――法科大学院ではいかがでしょうか。

戸松 日本で法科大学院が始まるとき、ソクラティックメソッドをやろうとしたところ、学生が慣れていないことを感じました。それでも、法科大学院の学生は対応しようと努力していましたし、社会人経験者の方は、逆に、実務上の経験を教えてくださったりして、結果としては授業内容が豊かになることもありました。学生と対話する授業形式は、法科大学院では特に効果があると思っています。

 余談的になりますが、日本には試験文化があります。大学入試、大学で単位を取るための期末試験、司法試験、公務員試験、そのほかの資格試験にもいえますが、試験に出しやすい憲法の設問や点の取りやすい解答が勉強の過程で全面に出がちです。すなわち、きちんとした答案になりやすいものが教科書に書かれ、それに基づいた教育が行われています。それは、ともすると実社会で起きている問題とはかけ離れた議論に陥りやすい危険をはらんでいます。個人的には、機械的に形式的に議論して上手に答案を書くというやり方は意味がない気がしています。ですから、試験問題の作成には、実社会を意識した高度な工夫が求められますね。


――法科大学院などでの憲法教育について、お感じになることをおっしゃってください。

戸松 法科大学院は、法の実務家を目指す者の教育機関ですから、当然総合力が求められます。憲法だけが問題になって訴訟になることはほとんどありません。民事、刑事、行政などの訴訟があってその中に憲法問題が含まれますから。私は理想とする法秩序に基づいた憲法教育ができると期待してこの制度を歓迎し、委員としても協力していました。

 しかし、法科大学院の現状は違っていて、司法試験の合格率が重視されて、試験勉強型にシフトしている印象があります。学生からの質問も「試験の答案ではどう書けばいいですか?」とか「この議論は、試験ではどういう部分で関係してきますか?」というものが多かったです。そこで、私は学生に言いました。「Beyond the examination! 試験を超えたところに目標を置け!」と。試験は単なる通過点でしかありませんから、試験の先の実務家としての力量を蓄えることも大切なのです。法科大学院で学ぶうえでは、ここはおろそかにしてほしくはないと思っています。


――法曹を目指す学生や若手弁護士に向けて、憲法を学ぶうえでのメッセージをお願いいたします。

戸松 これまでも述べましたが、憲法だけが論点になる事件なんてほぼありません。その一方で、実定法では結論が導くことができず、しかし、終局的に何かの価値を解決しなければならないときには憲法が出てきます。かといって、憲法には具体的に何か書いてあるわけではない。憲法とはそういうものです。多様性に富んでいるのです。そういう部分を学びながら理解していただけたらと思います。

 それから、憲法が好きだという方は、ぜひ、民法や刑法などの実定法を一度じっくりと学んでください。
 憲法は、前文と103条という構成で条文数が少なく、一般的で抽象的な内容ですから、一通り学ぶと自己満足的な憲法解釈や、憲法体系ができあがりやすいのです。社会で起こる現象も、自分なりの憲法解釈で説明できることもしばしばです。でも、民法や刑法ではそこまで柔軟に解釈はできません。そのため、民法や刑法などの実定法を一度じっくりと学ぶことが、憲法の学習においても重要なのです。それと、判例により形成されている法秩序を学ぶことが重要であり、学説をひたすら学ぶことが目標であってはなりません。学説は法ではありませんから。解釈の幅が広い憲法だからこそ、学ぶ者はそこの理解は重要ですね。


――本日はありがとうございました。


編集/木村寛明(BIZLAW)
写真/古田悠太




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 憲法と法秩序

戸松 秀典

Profile

戸松 秀典 [学習院大学 名誉教授]

憲法学者。学習院大学名誉教授。
1976年、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。新・旧司法試験委員、最高裁判所一般規則制定諮問委員会委員、下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員、法制審議会委員等を歴任。著書に『プレップ憲法(第3版)』(弘文堂、2007年)、『憲法訴訟(第2版)』(有斐閣、2008年)、『論点体系 判例憲法1~3 ~裁判に憲法を活かすために~』(共編著)(第一法規、2013年)、『憲法』(弘文堂、2015年)など多数。




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