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自ら仕組みを決めることの
怖さ、面白さ

ソニー株式会社 法務・コンプライアンス部
法務グループ シニア・リーガル・エキスパート 村井 武

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法務が描き、作り、決めていくこと interview by CORK 第3回


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クリエイターのエージェント会社コルク法務部の半井さんが興味本位で企業・人物訪問するコーナー「Interview by CORK」第6回は、ソニー株式会社の法務・コンプライアンス部のシニア・リーガル・エキスパート村井武さん。最終回は、法務とデザインについて。


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法務のコアはどこにあるのか

コルク半井:コルクは今、「作家の頭の中をPublishする」ことがエージェントとしての役割だ、という共通認識を社員で共有しています。ソニーの法務・コンプライアンス部には、このくらいの短さで表すことのできるミッションステートメントはありますか?

 契約書も作った人の個性が出ますよね。50名近くのメンバーがいらっしゃると、誰に依頼しても同じ契約書が出てくる、という訳にはいかないと思うのですが、全員が共通認識として持っているラインや、それを共通で持つための工夫はありますか?

村井:ミッションステートメントを典型とする言葉での意識合わせも重要だとは思いますが、共通の認識、意識を作り出すのはやはりOJTでしょうか。若手はリーダー格と一緒に、リーダーの指示にしたがって仕事をすることが多いです。契約書ドラフトをしてリーダーのチェックと指導を受ける、その繰り返しですね。それぞれのリーダーにもちろん個性がありますが、部内で「ビジネス判断を含めてここは外せない」「誰が考えてもこの幅の判断で収まる」という共通認識は持っていると思います。なぜそうなのかを言語化すると、歴史や文化といった表現になってしまうのですが。

コルク半井:その価値は数値化や可視化が一番難しいところですね。

村井:個々人には得手不得手、好き嫌いがあります。法務の仕事には、訴訟のために大量の資料を集めて調査する、といった大変だけれども地道な業務もありますよね。契約書業務よりも、そういう訴訟・調査業務に抜群の腕を見せる人もいます。

 今までは、法務のキャリアパスとして、全員が契約案件、訴訟対応、それから大型案件という順番で経験を積むものだと考えてきましたが、最近は「自分がこの組織の中で得意とするもの、伸ばせるところ」を辿って行く考え方も、あるんだろうなと思います。その結果、最終的には半井さんのようにもはや法務だけではなくなる人がいても、それでいいのではないかと(笑)。

コルク半井:社員それぞれの強みを活かす、ということは、まさにコルクが挑戦しようとしていることです。人事制度、昇給、評価制度、就業規則、など、会社と社員の「約束ごと」に関係することなので、法務の仕事ではない、とは思っていないのですが、やったことがない仕事ですし難しいですね。

村井:法務の仕事、法務のコアってなんだろう? とは、自問自答しますよね。きっと企業法務業界にいる人はみんなそうじゃないかなあ。

コルク半井:多分私は後ろめたいんです。突っ走る担当者に対して、法務的なアドバイスをしたり契約書を作ったりまではできますが、ビジネスである以上、最終判断は現場が行いますよね。でも、そうなると法務は最終判断のリスクを取っていない。責任を負っていない。

村井:私が感じることがあると言った、「申し訳なさ」と同じですね。

コルク半井:なるほど。そうなのか。

村井:自分が経営者だったら、という視点で物事を考えることは、できることかもしれないですね。とはいえ、常にミクロ、マクロ両方の視点から全体を見ることは難しいですね。

コルク半井:今は社長の考え方を理解し、会社をどうデザインするかを理解してサポートしたいけれども、従業員として、同僚たちの働きやすさも考えたい。いろいろな立場を想像していると、ぶれてしまいそうな怖さもあります。
 でもやっと最近、法務の仕事も「デザイン」の要素があって「ものづくり」なんだなと思えてきたところです。コルクに来るまでは、おそらく自分の中に、自分で仕組みを作っていいんだという発想はなかったんですよ。

村井:今はそうもいかないでしょう。

コルク半井:はい、今は作っていくしいかない。自分で作るということは、自分で決める、決断するということとほぼ同義ですよね。

村井:私がソニーで働き始めたときに感じたことは、契約書を使ってビジネスデザインができる面白さと、「自分で決めなければならない」ことの怖さでした。事業部の担当者たちと一緒に交渉相手のところに行って、その場で案件をまとめるという仕事の進め方は、エキサイティングでしたが「あ、これで会社の権利義務が決まってしまうのか」と怖さを感じたことを覚えています。

コルク半井:「決める」って怖いですよね。エネルギーも必要です。それを日々実感しています。

村井:民法学者の平井宜雄先生は、企業法務も法律家の一員と考えられていました。そして「法律家に求められる能力はデザイナーとしての能力だ」「法律家の仕事は決めることだ」とおっしゃっていましたね。私の発想の半分は、そこから来ています。


「紛争の倍、
楽しい価値を考えてください」

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コルク半井:ソニー製品には、プロダクトデザイン、デザインすることのこだわりを感じます。また、それが来年で70周年を迎えるほどに長い時間をかけて積み重ねられている点は、ビジネスを法務と一緒にデザインしていく、という意識や、法務と事業部との距離の近さにも通じるものがあるように思えて羨ましいです。

村井:そう言っていただけると嬉しいですね。我々は法務として、社会や、環境、法律、技術などがこれだけ激変する中で、変わらなければならないもの、守らなければならないもの、乗るべき流れ、立つべき足場を決め続けなければならない。本当に楽じゃないなあ、と思いますね。

コルク半井:今のコルクでは、目の前に社長がいて、表情も見えますから、何かを決める際に相談に乗ってもらったり、判断を仰いだりすることができますが、きっとソニーさんの規模だともっと自分で判断しなければならないですよね。
 私は今、作家さんの作品を守る、という足場を頼りに判断していますが、きっと表現や発表の方法が多様化すると、考慮しなければならない要素は変わるんだろうなと思います。今のソニーさんで、判断の基準となる、大事にする価値とはなんですか?

村井:ソニーグループ内には、エンタテインメントやアーティストマネジメントの会社もあり、事業が多様化しています。技術だけではなく、作品、アーティスト、ひょっとしたら感情すらも「SONY」の統一ブランドの下でどうお客様に提供していくのか、そこは法務だけでなくグループ全体にとってチャレンジの繰り返しですね。常にトレンド、環境を読みながら、それぞれの組織、または個人が守るべき価値は何かを考えていかなくてはなりません。

コルク半井:今日伺ってお話を伺うまで、大企業はそれぞれの役割が決まったピラミッドみたいな組織で、法務はもっと「法務は法務です」みたいな姿勢をイメージしていたのですが……。

村井:いや、法務の仕事含めてそんなにきれいに分業できるものでもないですよ。間に落ちたものは誰かが拾わなければならないし。今日だって最初に慌てたところをご覧に入れてしまって……。。
(編集部注:インタビュー開始数分後に、ドアをノックされた我々。カメラマンの社内撮影許可のために事前申請が必要だったことが分かり、村井さんを走らせてしまった)

コルク半井:固いルールがあるのに、ちょっと使い勝手が悪そうなところが、逆に人間らしいなとほっとしました(笑)。
 改めて、村井さんの考える、法務の面白さってなんでしょうか。

村井:契約や法律というツールを使って企業の大小の意思表示に深く関与できることでしょうか。これに対して、留意点として、法的なるものは常に紛争と結びつきます。少なくとも紛争の可能性・余地を意識して仕事を進める必要がある。そして、紛争はつらい。たとえば今日メインにお話しして来た契約書にしてもワーストケースシナリオを想定しながら作る、という心の癖がつきます。

 ですから、企業法務に関心を持っている学生の前で話をする機会があるときは、これだけは覚えておいてほしいと伝えるようにしていることがあります。「法務という立場は、紛争というつらい状況をもイメージしなければならない仕事です。だから、いつもその倍くらい楽しいことを考えるようにしてください」と。

コルク半井:それは素敵なアドバイスですね! 契約書を見たビジネスであっても、それが成功したことによって世の中やお客さんにどんな価値を提供したのか、現場の人と分かち合うことが実は法務は少なかったりしますが、契約が締結されると、きっとそこで何らかのビジネスが行われ、製品や価値が生み出されていますよね。コルクだったら、読者に作品が届けられる。そこを楽しむことは大切ですね。

村井:製品、価値を生み出したチームメンバーになれたときは、嬉しいものですよね。

コルク半井:私自身、契約書とビジネスの流れが結びついているのを日々実感できるのは得難い経験ですね。今日、それは「ビジネスをデザインする」ということなんだなと改めて思いました。ソニーさんに「文化」として時代を超えて受け継がれるものがあるように、コルクの中の仕組みも、私の手を離れるものとしてデザインしたいです。
 今は完全に属人化しているコルク法務の仕事をどうライブラリ化するか。少し前まではよく、「自分が死んだら」という仮定で社内で話をしていたのですが、最近忘れていて。つい先日エンジニアの方が、自分が調整を繰り返さなくてもよいプログラムを考えようとしているのを見て、改めて、私がいなくなっても走る会社を作りたかったことを思い出したところでした。

村井:契約書の重要性とビジネスデザインの面白さは、ビジネスモデルが変わっていっても、なくならないでしょうね。契約書だって、契約締結時の当事者の意向はまさに締結時にクリスタライズされますが、時間が経ち、環境や関係が変わるとお互いの意向は変わりますよね。
 もしかしたら時期によっては契約書の内容を見直して、締結し直さなければならないかもしれない。半井さんがおっしゃる仕組み作りも同時に進めていくことはソニーにとっても大切だと思っています。一度契約が締結できたからといって終わりではない、ゴールのない仕事ですね。


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聞き手/半井志央(コルク)
イラスト/羽賀翔一(コルク・http://hagashoichi.cork.mu/
写真/市川貴浩



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 法務が描き、作り、決めていくこと


Interviewer

半井 志央 [株式会社コルク 法務担当]

京都大学法学部卒業、ロンドンへの留学経験あり。
国内のメーカー法務を経て、コルクに入社し、法務・編集・経理などを担当。
編集としては、紙と電子書籍の総合書店hontoのフリーマガジンhonto+に携わる。


コルクホームページFacebooktwitter(@shionakarai)

村井 武

Profile

村井 武 [ソニー株式会社 法務・コンプライアンス部
法務グループ シニア・リーガル・エキスパート]


大学法学部卒業後、外資系コンピュータメーカーにて契約や企業倫理規定を担当。
アメリカ本社と日本のお客様の間に挟まり悩むうちに権利義務とビジネスの関係の面白さに目覚め、より自由なビジネスデザインを求めてソニーの法務へ。
たまに大学で教えたりしています。




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