MENU
BIZLAW BIZLAW
Powerd by LexisNexis®
BIZLAW
BIZLAW Powerd by LexisNexis®

RSS
Google+
Twitter
Facebook
HOME

整合性とあいまいさを持つ
「契約」というコード

ソニー株式会社 法務・コンプライアンス部
法務グループ シニア・リーガル・エキスパート 村井 武

_DSC1966

法務が描き、作り、決めていくこと interview by CORK 第2回


nakaraisann

クリエイターのエージェント会社コルク法務部の半井さんが興味本位で企業・人物訪問するコーナー「Interview by CORK」第6回は、ソニー株式会社の法務・コンプライアンス部のシニア・リーガル・エキスパート村井武さん。今回は、契約書について伺います。


関連記事
 法務が描き、作り、決めていくこと 第1回 社内に法務リピーターを生み出す


不作為債務は
決して一括りにはできない

コルク半井:契約書の重要性は理解しているつもりなのですが、最近、もっと契約書は進化しないかな、と思っているのですが。

村井:そうですね、長い契約書は、短くならないかなと思うこともありますね。

コルク半井:ええ、短くしたいですね。よくあることなのですが、現場の担当者が相手方とすごくいい雰囲気で話をまとめてきた。そこで、契約書を結びましょう、となった。そこまではいいんです。
 でも「契約書」を作ると、現場の熱量が奪われてしまうというか、担当者が自分の案件なのに読んでも理解できなくなったり、自分の言葉で説明できなくなったりしてしまうギャップが生まれることが、そのつもりはなくてもビジネスの速度を奪っているような気がして葛藤があります。

村井:担当者が「法務がこう言っているんで」と相手方に言うやつですね。

コルク半井:あえてその言い方をしてくれ、と戦略的に使う場合もありますけどね(笑)。
でもこれだけさまざまな分野で技術が進化して便利になる世の中で、「契約書2.0」的な進化はしないものなのかなと。

村井:分かります。そうですよね。我々はビジネスの担当者から受け取ったふわっとした一応の合意を、文字にして、権利義務の平面に落とさなければならない。契約の自由といっても、法による制約はある。そんなこんなで、法務が関与する過程で確かに熱量を奪ってしまうようなところはあるかもしれません。できるだけ現場の熱量は維持したいとは思います。それでも法務が関与する以上、合意と法律との関係をチェックするのは当然として、さらに、気を付けなければならない点が二つあると思っています。

 ひとつは、整合性。辻褄が合っていなければならない。契約書はプログラムと同じで、全体がシステムです。余談ですが、優秀なプログラミングができる人は、用語法を覚えると、契約書をさっと書けるようになりますよ。

コルク半井:あっ、私も最近、「ちょっと勉強したらすぐプログラム書けるようになると思う」と言われました。

村井:プログラマーに契約書を書かせると「コンパイルしてランできないとダメ、あいまいさなんてありえない!」と言い出して、余計にビジネスがストップしてしまう可能性もあるんですけどね(笑)。

 契約書がシステムだ、というのはビジネスがシステムであることを考えると当然なんです。そして法務はビジネス担当者同士の一応の合意の全体を権利と義務として設計していく訳ですから、そこで全体についても細部についてもビジネス担当者に「こことここ、矛盾してない?」と指摘して設計変更を提案できるし、するべきだと思うんです。

 法務が入って契約の設計を始めることで、一応の合意を創り上げて来たソニー社員同士の間ですら「あれ、そういうつもりだった?」という理解の違いが浮かび上がることもあります。契約書を作る作業はステークホルダーの間の理解のずれをもあぶり出し、合意を創り上げる作業なんです。ですからできるだけ早い時期に法務が関与することが肝心だと思っています。

 全体の整合性が必要な契約書の見直しは、実はコーディングと似ていて、1箇所を修正すると、全体を見直さなければならない。長い契約書であればあるほど、ある条項が「ここで効いてくるのか!」という場面があるので、慎重に確認しなければなりません。

コルク半井:ありますね。まさに先日ある規約を作っているときは、プロの校閲の方に整合性の確認をしてもらいたいと思ってしまいました。

村井:いくら現場が「さあいくぜ!」となっていても、権利義務関係全体を文字でコーディングしてみて初めて見えることがある。法務の役割として大切なことは、たとえば現場の担当者が先方と約束してしまったことと違う条件を提示しなければならなくなっても、整合性を取ること。その点を担当者に論理的に説明して、どうするかを一緒に考えます。

 時には先方に、「改めて法務と全体像を詳細に組み立ててみたら、こことここの辻褄が合わないことが分かりました。この点を放置しては将来のビジネスの障害になるので、前回はあの条件でお話しましたが、何とかこの条件に変えてもらえませんか」と言わなければならないこともあるでしょう。でも、そうやって社内のステークホルダーや取引先とのイメージをすり合わせていく地道な作業を繰り返さないと、お互いに利益を生む合意にはたどり着けないと思うんです。

 もうひとつは、当然ながら有利不利の判断ですね。このときにソニーで特徴的な点はグループ会社への影響です。大企業ではひとつの事業部がよかれと思って判断したことが、意外なところで他の事業部やグループ全体に影響が出ないとも限りません。その事業部が盛り上がっていたとしても、グループ全体の利益を考慮して、時にはストップをかけなければならないこともありますね。たとえばコルクだったら、「おーい、こんなことやるよ」と声をかければ全員が分かると思うんですよ。

コルク半井:そうですね。大体の方向性は把握することができます。

村井:それがこの規模の企業になると、やはり難しくなる。その面で、ソニーで特に注意しているのは不作為債務、「~をしません」という約束です。特に関係会社も含めて、となると、本当に約束できるの? と。

 相手からすると、我々は「ソニー」というひとつの存在に見えるかもしれません。しかし子会社や関係会社はそれぞれ独立した法人格で、個別の意義と歴史があり、それぞれの夢と目標を持っています。その人たちをAffiliateといって一括りにして何かに「合意する」とは言えない。グループ会社を一括りにした約束-特に「~をしません」という不作為の約束-は、そんなに簡単にはできないんですよ。

コルク半井:それぞれがシステムである契約書が、ソニーというシステム全体につながっていくんですね。個々の契約の内容が整合性が取れている必要があり、またソニー全社のビジネスを構成した場合にも整合性が取れていなければならない。これは大変だ。私が今の会社の規模で、「現場の人がいろいろ言うから大変だ」なんて言っていたら怒られますね。


当事者の合意は
どこで生まれるのか

_DSC2014

村井:また、「契約というコード」を読んでもらうための読みやすさも大切ですね。法律は、意思表示は明確になされるもの、という前提で作られている気がしますし、企業間の契約では意思表示はかなり明確だと思ってきたのですが、だんだんとそうでもない気もしてきたんですよねえ。意思表示の内容、当事者同士の共通したイメージはどこで形作られるのか、ということはよく考えますね。文字で書いてさえしまえば、それでいいのか? と。

コルク半井:そうですね。お互いに腹を割って話しているから、このくらいのシンプルな契約書でよい、と判断するケースもあれば、不安だからあれもこれも契約書に書いておこう、というビジネスもありますね。

村井:先ほど、辻褄を合わせることが大切だと言ったことと矛盾するかもしれませんが、契約書上で辻褄が合わない場合に、交渉力や時間の制限からその点をビジネスリスクとして現場に判断させることも、現実としてはありますよね。「相手方が納得しないので、この範囲のリスクはあるけれどここは我慢できますか」と言わざるを得ないときがある。

 あくまでも契約は事業に沿った現場のものなので、最後の判断をするのは事業部です。しかし、契約という面では法務はフロントラインに立ち、相手を説得・納得させるべきだし、それが法務の仕事だと思います。だからこそ、相手の法務や弁護士を説得できなかったときは、申し訳なさを感じます。

コルク半井:申し訳なさ、ですか。

村井:そうですね。契約書は常に紛争を意識して書かざるを得ないところは否定できませんから、前向きなビジネスデザインだけではないですよね。最終的には損害賠償するかしないか、つまり煎じ詰めれば契約のリスクは金銭的リスクと捉え、契約書全体の判断を事業部に判断を委ねる企業もあるでしょう。
 でも私たちは基本的には、一緒にビジネスをデザインしているという意識を持っているので、法務として相手方を説得はしてあげたい。ただ、リソースは限られているので、一定レベルのものは雛形を使っている現実もあります。

コルク半井:そうですね、全部一緒に一から組み立てたいですが、どうしても雛形に頼らざるを得なくなるケースもありますよね。

村井:雛形って、プログラミングのときに使うライブラリと似ていますよね。実際私たちは雛形群をライブラリと呼ぶことがあります。ソフトウェア開発でライブラリが不可欠なのと同様、企業の契約業務に雛形は不可欠だと思います。雛形のあり方や内容については、若手と一緒にあれこれ悩んでいます。

 私自身は、ある時期からすべての場合を予見した契約はできない、ビジネスを進めるという意味においては、柏木昇先生が商社法務に勤務されていた時代に著された「契約締結前の法律プラクティスとしての予防法学」(NBL No. 242,244)で指摘されているように、契約書について「多義的な条項は許されないが、ある程度のVagueness(あいまいさ)には許容できるし、効用もある」というスタンスでもいいのではないかと考えるようになりました。

 また、法務としては各条項に理由があるから入れているけれど、本当に現場がすべて読んで理解するのか? とか。さらに、おっしゃったようにどんどん契約書は長くなりますから、このままでいいのか、とかね。契約書は難しい。まだまだ考え続けなければならない課題がたくさんありますね。

(第3回につづく)


聞き手/半井志央(コルク)
イラスト/羽賀翔一(コルク・http://hagashoichi.cork.mu/
写真/市川貴浩



この連載記事を読む
 法務が描き、作り、決めていくこと


Interviewer

半井 志央 [株式会社コルク 法務担当]

京都大学法学部卒業、ロンドンへの留学経験あり。
国内のメーカー法務を経て、コルクに入社し、法務・編集・経理などを担当。
編集としては、紙と電子書籍の総合書店hontoのフリーマガジンhonto+に携わる。


コルクホームページFacebooktwitter(@shionakarai)

村井 武

Profile

村井 武 [ソニー株式会社 法務・コンプライアンス部
法務グループ シニア・リーガル・エキスパート]


大学法学部卒業後、外資系コンピュータメーカーにて契約や企業倫理規定を担当。
アメリカ本社と日本のお客様の間に挟まり悩むうちに権利義務とビジネスの関係の面白さに目覚め、より自由なビジネスデザインを求めてソニーの法務へ。
たまに大学で教えたりしています。




ページトップ