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研究の出発点は
「法で救えないもの」への気づき

千葉大学 法政経学部 准教授 関谷 昇

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 本年、本サイトで新連載「ルールとは何か、政治とは何か」が始まります。今回は連載に先立ち、執筆を担当される千葉大学法政経学部准教授・関谷昇先生にお話をお聞きします。
 「法」と「政治」について、一人ひとり、だれしも抱いているイメージに違いがあると思います。今回のインタビューは、日常の中で一度立ち止まって、ルールとは何か、政治とは何か、そもそもの根本を改めて考えてみる。そんなきっかけを与えてくれる、興味深いお話を3回にわたってお届けします。お楽しみください。



古代から変わらない、
共存の知恵を考える「政治」

――関谷先生の専門分野について、お話しください。

関谷 僕は、広い意味の政治学、中でも特に「西洋政治思想史」を専門にしています。基本的に、政治が誕生した古代ギリシアから現代に至るまでの、政治思想の歴史を扱う学問です。

 講義では、ソクラテス(注1)プラトン(注2)アリストテレス(注3)に始まって、現代のハンナ・アーレント(注4)ジョン・ロールズ(注5)まで、時代ごとの課題に色々な形で取り組んだ思想家を取り挙げて話をしています。古典というものは時代を超えて読み継がれているもので、ルールや政治をめぐる問いも、その解釈の歴史の延長線上にあると言えます。我々を取り巻く問題に対して、同時代的な認識と思考が必要であることは言うまでもありませんが、さらに深いものの見方と多角的なものの考え方を追求していこうとすると、そこに拡がっているのが政治思想史上の諸思想であり、そこには実に豊かな知恵と実践の可能性が見出されます。


――政治思想史の中で、古代も現代も基本的に変わっていないところはありますか。

関谷 古代ギリシアに誕生して以来、今日に至るまで、政治というものは様々な価値観を有する人々が共存していくための知恵であり技術であるということです。その「共存」のあり方をめぐって、一定のルールというものが見出され、さらにその根底において正義というものが考え続けられていると言えます。

 利害の対立、価値観の衝突は、どの時代にも起こるわけで、力が解決することもあるし、対話が解決することもあります。いずれにしても人間が織りなす知恵であり技術ですが、その背景には、それぞれの時代に共有されている規範意識があり、それをいかに理解していくかということが問題を解決していく糸口になります。 そしてもっとテクニカルに考えていくと、法というものが非常に重要な要素になってきます。共存を図ろうとする人々がルールを共有することで、話し合うということ自体を可能にする環境をつくる。逆に、話し合いを通じて、この部分だけは皆で守ろうとルールを作り出し、その下に秩序を維持していく。

 まさに政治的な営みの中から法がつくられるとともに、法的な営みの下で政治が展開されていくということです。誰が、いかなる価値規範に基づいて、どのようなルールや政治を作り出していくのか、それらをめぐる緊張関係こそ、昔も今も変わらない、本質的な部分だと思います。


「他者感覚」を持って、
想像力を膨らませる

――ルールや法をめぐる普遍的な視点など、研究の中で政治思想史の奥深さに触れているのですね。ではそもそも、関谷先生が政治思想史に興味を持ったきっかけは何ですか。

関谷 僕が政治に関心を持ったのは、若気の至りというところもありましたが、「法では救えないものってあるのではないか」と思ったことです。

 簡潔に言うと、法には二つの側面があります。一つは、さまざまな人々を守る、非常に強力な武器という側面。人権(基本的権利)に代表されるように、人の利益、価値、生を守る道具として存在しています。
 しかし、他方では、強力な武器であるということが、逆に、人々の生活を救えていない側面もあります。例えば、現実の諸問題に対して法が対象とできていない部分があったり、法制度において課された要件を満たせずに捨象されてしまう人々がます。あるいは、権利としては認められていても、その権利を行使することができず、みずからの生をまっとうできない状況に置かれた人々もいます。

 そうすると、法秩序と言っても、その中で無視される人々が出てきてしまう。そこをどう考えればいいのか。色々考えていく中で行きついた問題意識が、「法で救いきれない部分をどう補っていくのか」ということであり、その眼差しを持つ営みこそが「政治」だという点でした。そこが、もともとの関心の出発点で、それは今でも変わっていないように思います。政治学には、政治理論、行政学、国際政治、政治史、地域政治など色々ありますが、この関心に応えてくれると期待をもたせてくれたのが政治思想史でした。

 少し難しい言い方ですが、政治は常に「他者感覚」が重要だと言われます。たとえば、古代の思想家・アリストテレスは、法が、形式的に色々なことを定めたり秩序づけたりする、共通の普遍的な規範であるとするならば、政治的な営みはむしろ、特殊的なものを色々な形で取り挙げて、政治共同体全体の観点から的確な判断と実践を見出していく、といったことを言っています。

 その中で大事なポイントとして指摘されているのが「他者感覚」です。この「他者感覚」がないと、これでいいという現状の追認にとどまり、さらには自己中心の視点から他者の強制や排除の論理が出てきてしまうわけです。だからこそ、「現行制度では救いきれない人がいる」「この法だけでは実現できない利益がある」「自分の認識や理解を超えた価値観を有する人たちがいる」と考えていくことが必要になるわけです。それが広い意味での「他者感覚」で、その意味での想像力を膨らませていくことが、政治の非常に大事な側面になります。その政治の中で、あるべき法がつくられ運用されていくと考えられるのです。


法の眼鏡をはずして、
生の現実を見る「政治」

――最近、企業法務の中でソフトローというのをよく聞きます。いかに法律を捉えて、条件に当てはまらなくて救われない人、法がカバーしていないところを、どう救うのか。その視点は、現代ビジネスにも生きてきますね。

関谷 「法」と「政治」の違いについて、いつも学生に話すことがあります。
 現実をどうとらえるかと言った時に、「法」は六法にあるような法的枠組み、わかりやすく言うと法という「眼鏡」をかけて現実をとらえ、ルールにかなっているかどうかを判断する。あるいはそれに基づいて、手続き的に現実を動かしていく。いわゆる法的思考、法的整理という言い方がされます。
 それに対して「政治」の場合は、むしろ法の「眼鏡」をかけないで生の現実を見ていきます。生の現実を見ていく中で、何が問題なのか、改めてどういうルールが必要なのかを考えていく。今の運用に問題があれば、改善、改正したり、新たな法をつくろうという視点も出てきます。

 それからソフトロー(注6)、言い換えると慣習みたいなものは、生活や社会に根差しています。これは実定法(注7)ではないけれども、形式化されない人々の知恵であり、それが様々な形の共存を可能にしたり、合意形成の前提になる。そういう感覚やルール意識を含めて現実をとらえていくことも、すごく大事だと思います。


――政治思想的な視点で、今のシステムを見てみるのは大事なことですね。

関谷 政治思想史は、色々な物の見方や素材を提供してくれます。我々は過去との対話の中で、どういうものの見方があるのか、どんな考え方があるのか、と紐解いていく。それが同時に、今における現場との対話につながっていきます。

第2回へつづく


文/冨岡由佳子
取材・編集/木村寛明(BIZLAW)




この連載記事を読む
 ルールとは何か、政治とは何か


※注
(注1)ソクラテス
前470年頃~前399年。古代ギリシアの哲学者。ソクラテス自身は著作を残していないため、その思想は弟子のプラトン、クセノフォン、アリストテレスなどの著作から知られる。「無知の知」をもって自分自身を見つめ、徹底して「魂への配慮」を重視したことで知られる。

(注2)プラトン
前427年~前347年。古代ギリシャの哲学者。ソクラテスの弟子、アリストテレスの師。『ソクラテスの弁明』『国家』などの著作があり、究極的な理想(イデア)の観点から、正義の政治を導こうとしたことで知られる。

(注3)アリストテレス
前384年~前322年。古代ギリシャの哲学者。プラトンの弟子。ソクラテス、プラトンと共に、西洋最大の哲学者とされる。ポリスの政治について本格的な議論を展開し、プラトンとは逆に多元的な政治のあり方を追求した。

(注4)ハンナ・アーレント
1906年~1975年。ドイツ出身のユダヤ人。ナチスの迫害を逃れてアメリカへ亡命。政治思想家、政治哲学者。20世紀の全体主義を生み出した大衆社会の分析や公共性をめぐる幅広い議論で知られる。

(注5)ジョン・ロールズ
1921年~2002年。アメリカの哲学者、政治学者。リベラリズムと社会契約の再興に大きな影響を与えた。主著『正義論』などで、功利主義を批判しつつ、公正としての正義を提唱した。

(注6)ソフトロー
権力による強制力はないが、違反すると、国家、自治体、企業、個人に対して、経済的、同義的なふりをもたらす規範。JIS規格、JAS規格、その他各種基準など。

(注7)実定法
国家機関、特に立法府の制定行為、慣習、判例などの経験的事実に基づいて成立し、その存立を経験的、歴史的に実証される法。「実証法」。事物もしくは人間の本性に基づいて成立する永遠不変の法「自然法」に対置される。可変性、歴史的相対性が特徴。



関谷 昇

Profile

関谷 昇 [千葉大学 法政経学部 准教授]

1971年生まれ。栃木県出身。1995年獨協大学法学部卒業。1997年千葉大学大学院社会科学研究科法学専攻修了、修士(法学)。2000年同大学院社会文化科学研究科日本研究専攻修了、博士(法学)。同大学法政経学部助教授等を経て、2007年より現職。
専門分野は、政治思想史、政治学。研究テーマは、[思想研究]近代社会契約説、自治の思想、補完性原理、コミュニティ論。[社会的実践]市民自治、市民参加・協働のまちづくり。

ホームページ : http://www.noborusekiya.com/




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