MENU
BIZLAW BIZLAW
Powerd by LexisNexis®
BIZLAW
BIZLAW Powerd by LexisNexis®

RSS
Google+
Twitter
Facebook
HOME

法の枠組みが曖昧な宇宙ビジネス。
法律家が企業と一体となって活動を

学習院大学法学部教授 小塚 荘一郎

kozuka_main01

宇宙法の世界で、何が起きているのか 第2回

 現在、宇宙ビジネスでは、パラダイムシフトが起きようとしています。小塚荘一郎先生に聞く宇宙ビジネス。第二回は、宇宙ビジネスの現状や、その営みを支えるための法律家の重要性にフォーカスします。



 関連記事
  宇宙法の世界で、何が起きているのか 第1回 法律家が、新しい宇宙ビジネスを創っていく時




――今後展開されるだろう宇宙ビジネスを前提にして、どのような法的課題がありますか。

小塚 最近マスメディアなどでは、宇宙活動の分野で、宇宙旅行ビジネスが話題になっています。
 伝統的な宇宙活動は、公共調達の世界です。あえて言うと、法律問題としては調達法制、日本で言う会計法でした。国や宇宙航空研究開発機構(JAXA)がメーカーに製品を発注、あるいは打上げ等のサービスの提供を発注するという関係だったわけです。

 ところが、現在起こっているのは、そうした公共調達ではなく、純粋な企業活動として宇宙活動を行うというものです。宇宙旅行ビジネスはその先駆けという点で重要です。

 実は近年、米国では宇宙ビジネスの分野で非常に大きな動きが起きています。シリコンバレーのIT企業や、IT企業に資金を供給するベンチャーキャピタル(注1)が、宇宙ビジネスに目を向け始め、この分野に参入しようとしています。それが技術開発とビジネス展開の両面で、非常に大きなパラダイムシフト(注2)をもたらしていると見ています。

 もともとロケット技術の研究は、エンジン技術の延長線上で行われていました。ただ、結局のところ物体が地上を離れて飛んでいくので、コントロールするためには電気通信技術が必要になります。そしてその電気通信をコントロールするのは、コンピュータおよびソフトウェアです。当初の成り立ちから言うと、宇宙企業は三菱重工やIHI、米国ではボーイングなどの重工メーカーでした。それが現在、世界的にIT企業が進出して産業構造を変化させつつあります。

 こうした中で、法律家の役割が重要になります。とりわけ、新しい企業活動が出てきた時に、宇宙法の枠組みが曖昧なため、ビジネス展開に悩むことはしばしばあります。

 例えば、そもそも宇宙空間はどこから始まるのか。空域がどこで終わるのか。これについては未だにハッキリしません。これは数十年間議論して結論が出ていない問題で、おそらく今後も出ないでしょう。その結果、国が領空として主権を及ぼす空域がどこかよくわからない高度まであって、その上に、全く異なる法理に基づく主権が及ばない宇宙空間がどこかから始まる。こんな曖昧な状態でビジネスが行われているわけです。

 また、米国企業の中には天体の資源開発、月や小惑星での貴金属の採掘などを、真剣に考えて技術開発しているところもあります。しかし、天体の資源開発を民間企業が行って良いのかということも、宇宙法上ハッキリしません。

 このように、法的な枠組みが非常に不明確な中でビジネスが成立、展開し、そこに資金提供が行われ、事業活動が進められていく。こうした動きが現に起こっているわけで、まさに、法律家が企業と一体となって活動していかないと、とても実現できない事業分野であると思います。
 そういう意味で、やや厳しいことを言うと、法律家がしっかりと関与していない状態で、日本の宇宙産業の今後はどうなるだろうかと、少し心配しているところでもあります。


――『宇宙ビジネスのための宇宙法入門』(ページ末参照)の中でも記述されているソフトロー(注3)の流れをしっかりと構築するか、立法するかしないと、後々リスクが大きいということでしょうか。

小塚 そうとも言えますが、むしろリスクをとってビジネスをするという考え方もあると思います。国際的にソフトローが作られていく動きとは別に、例えば米国はSPACE ACT of 2015と呼ばれる法律を単独で立法しました。米国企業の技術力とビジネス展開力が背景にあれば、それが事実上支配的になる可能性も十分にあります。

 ですから、法律家は世界情勢を含めて、いろいろな方向にアンテナを張って、宇宙ビジネスを引っ張っていかないといけないのではないかと思いますね。


――企業が宇宙ビジネスに参入して競争することで、新たに生まれてくる課題は何ですか。

小塚 民間企業主体で次々と宇宙ビジネスに参入する時代になると、限られた資源を奪い合うことにもなります。有限な資源をどう配分していくか、実はこれが宇宙ビジネスのボトルネック(注4)になっていく可能性があります。

 私はそうなりうるポイントが二つあると思っていて、一つは電波の周波数の問題です。電波の周波数は技術的に有限で、これをどう配分していくのか。現在のペースで宇宙事業者が増えていくと、大変な状況になります。

 もう一つは、宇宙へのアクセス方法の問題です。宇宙空間のある高度まで到達しないと、人工衛星は機能しません。ところが、地球の上空から宇宙空間に出る高度周辺にかなりの数のスペースデブリ(宇宙ゴミ)が溜まっていて、どんどん増えていっています。そうすると、比喩的に言うと、宇宙空間に到達するまでの道がゴミで塞がれて段々細くなっていくという現象が起きています。

 有限な資源を守るために、環境問題と同じような意味でのスペースデブリ問題(注5)が出てきます。スペースデブリをあまり多く出さないというルールを作っていくことも大事です。日本はしっかりと対応(注6)していますが、他の国が同じようにルールを守っているかは、よくわからない面もあります。その先にはおそらくスペースデブリを収集、除去する活動(注7)も必要になるのではないかと現在言われていて、JAXAも含めて世界で研究が行われているところです。

(第3回へつづく)


文/冨岡由佳子
取材・編集/木村寛明(BIZLAW)




※注
(注1)ベンチャーキャピタル
ベンチャー事業に資本を供給することを業務とする組織、会社。

(注2)パラダイムシフト
社会の規範や価値観の変化。

(注3)ソフトロー
強制力はないが、違反すると経済的、道義的な制裁を受ける規範。

(注4)ボトルネック
生産活動や文化活動などで、全体の円滑な進行・発展の妨げとなる要素。

(注5)スペースデブリ問題
現在、地球周辺の宇宙空間には人工衛星やロケットの破片などの残骸がゴミとなって溢れている。観測できるだけでも一万六千個以上。1cmのデブリでも衛星に衝突すればその全機能を停止させる危険性がある。デブリを出さないこと、既にあるデブリから衛星をどう守るかということなどは、早急に解決すべき課題とされる。

(注6)日本はしっかりと対応
JAXAでは「スペースデブリ発生防止標準」を定め、JAXAが主体となって行う打ち上げや民間事業者に委託して行う打ち上げに適用している。そのため、「相乗り」の形で打ち上げられる小型衛星を含め、日本から打ち上げられる衛星やロケットについては、国際標準に合致したデブリ対策がとられている。

(注7)スペースデブリを収集、除去する活動
大きなスペースデブリについて、JAXAやESA(欧州宇宙機関)などの宇宙機関、各国の民間企業(日本人が設立した会社としてアストロスケール(在シンガポール)が知られている)が小型の推進機関を取りつけて衛星を大気圏に再突入させる等の様々な方法による除去技術を開発中である。


s

『宇宙ビジネスのための宇宙法入門』
(2015年01月、有斐閣)

小塚 荘一郎 (学習院大学教授)、佐藤 雅彦 (国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)/編著

宇宙ビジネスを推進する上で、法的な枠組みを知るための入門書。宇宙ビジネスの分野で今何が起きているのか、法的な観点で分析を試みた一冊。



この連載記事を読む
 宇宙法の世界で、何が起きているのか

小塚 荘一郎

Profile

小塚 荘一郎 [学習院大学法学部教授]

1992年東京大学法学部卒業。専門分野は商法。博士(法学)。東京大学大学院法学政治学研究科助手、千葉大学法経学部助教授、上智大学法学部助教授、同大学法科大学院教授を歴任し、2010年4月より現職。2013年より慶應義塾大学先導研究センター(宇宙法研究所)訪問教授。
国内では、日本私法学会、日本海法学会等に所属。国際的には、私法統一国際協会(UNIDROIT)コレスポンデント、比較法国際アカデミー(AIDC)準会員。
主著は『宇宙ビジネスのための宇宙法入門』(佐藤雅彦氏と共編著、有斐閣、2015)、『フランチャイズ契約論』(有斐閣、2006)。




ページトップ