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法律家が、新しい宇宙ビジネス
を創っていく時

学習院大学法学部教授 小塚 荘一郎

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宇宙法の世界で、何が起きているのか 第1回

 「宇宙」と聞いて、壮大な世界に思いを馳せ、ロマンを感じる人は多いのではないでしょうか。今回はそんな神秘的な宇宙について、法律、ビジネスの視点から見ていきます。
 お話を伺ったのは、本来は商法の専門家、学習院大学法学部教授・小塚荘一郎先生。
 宇宙ビジネスの課題は?宇宙ビジネスにおける法律家の役割は?先生が宇宙法研究の道に入ったきっかけは?「宇宙」について新たな視点で考えるきっかけとなりそうな興味深い話を、連続三回にわたってお聞きします。




――著作『宇宙ビジネスのための宇宙法入門』(ページ末参照)を執筆する中で、日本の宇宙ビジネスにおける一番の課題は何だと思いましたか。

小塚 日本の宇宙ビジネスの中で、「ビジネス法務という観点」の存在感が非常に薄いことが問題だと思います。
 宇宙法に興味がある方は多くいて、宇宙条約(注1)や、スペースデブリ(宇宙ゴミ)のガイドライン(注2)についてお話しすると、たいへん喜んでいただけます。

 ただ、いわゆる「宇宙ビジネスにおける法務」というのは、実は、一般的なビジネス法務そのものであって、コーポレート(M&A等)、契約のドラフティング、紛争解決などがほとんどなのです。
 もちろん宇宙法固有の部分はありますが、どの産業にも規制などの特有なものはあるので、結局、基礎は一般的なビジネス法務です。そのことがなかなか浸透していない状況が、一番の問題ではないかと思います。

 例えば今年、国際法曹協会(IBA)(注3)で、私が副委員長を務めている宇宙法委員会(Space Law Committee)が二つのセッションを持ちました。一つはドローンについてでしたが、もう一方のテーマは、宇宙活動に関する紛争と仲裁についてでした。仲裁を専門とするイギリスの法廷弁護士(バリスタ)に、宇宙活動から生じる紛争の特殊性をどう理解してもらえるか、ということが話になりました。宇宙ビジネスはしばしば国家、特に途上国、新興国政府との契約が多く、一種の、国際法曹投資紛争仲裁(注4)にもなります。

 こうした一般的なビジネス法務の中で、宇宙法の特殊性(例えば、宇宙空間の領有禁止)が勘案されていくのであって、そこに宇宙法だけの世界があるわけではありません。この辺りが、もっと理解されればと思います。


――宇宙ビジネスにおける法務と一般的なビジネス法務の領域は、重なるということですね。

小塚 結局、宇宙ビジネスの中で法律家が果たす役割は、「新しい宇宙ビジネスを創っていく」ことです。
 法律家が事業家や経営者と一緒に作業することは、宇宙ビジネス以外の分野では一般的に行われています。ところが、宇宙ビジネスの分野は技術開発が先行して、問題が起きてから法律家に相談するというケースが多い。これはあるべき姿ではありません。
 これからの宇宙ビジネスは、法律家がエンジニアや開発担当者と一緒になって、新たなビジネスを創っていくものであってほしいと思います。

 例えば「ケープタウン条約宇宙資産議定書」(注5)は、いわゆる資産担保金融(アセットベースト・ファイナンス)(注6)の仕組みです。宇宙ビジネスにおける資産担保金融については、世界的にも実例が存在するのかという疑問もあります。航空機や鉄道の世界では比較的行われていますが、人工衛星などを資産担保金融の手法でファイナンス(資金調達)したという例はあまり聞いたことがありません(プロジェクト・ファイナンス(注7)の例はあります)。

 しかし、欧米の法律家は、それなら自分たちが新しいビジネスモデルを創ってみようという発想で関与しています。このように、日本でも、法律家が積極的にビジネスを開発する動きが活発になると、宇宙産業の発展が加速すると思います。

 なお、「ケープタウン条約」は2012年にようやく採択されましたが、まだ批准国はありません。議定書の外でアセットベースト・ファイナンスを実行した例もまだ聞きませんが、とにかく新しいビジネスモデルを法律家が創る、というスタンスはみられました。残念ながら日本の現状は、ビジネスが確立してから法律家が相談に乗るということが多いように思います。


――「ケープタウン条約」が検討開始されてから十数年経ちますが、この先十年、二十年で具体的に実現しそうですか。

小塚 「宇宙資産議定書」については、世界的にも、現在は非常に冷やかな見方が多いのですが、私は十年後には発効しているのではないかと思います。
 なぜかと言えば、今のような急激なビジネス形態の変化が起きると、そこには必ずファイナンスの話が出てくるからです。もちろん金融機関によるファイナンスもありますが、シリコンバレーを育てたようないわゆる資本市場(キャピタルマーケット)からのファイナンスが、資金の規模と、とり得るリスクの両面の特性から、中心的になってくると思います。
 したがって、アセットベースト・ファイナンスのような手法が現実に使われる時代も、今後十年以内に来るのではないかと思います。

第2回へつづく


文/冨岡由佳子
取材・編集/木村寛明(BIZLAW)




※注
(注1)宇宙条約
「月その他の天体を含む宇宙空間の探査および利用における国家活動を律する原則に関する条約」の略称。1967年、国連総会決議により発効。平和利用の原則、領有の否定、軍事利用の禁止、宇宙活動に対する国家の責任などを定める。

(注2)スペースデブリ(宇宙ゴミ)のガイドライン
主要宇宙活動国の宇宙機関間で2002年に合意された「IADCスペースデブリ低減ガイドライン」と、それを踏まえて2007年の国連総会決議により採択された「国連スペースデブリ低減ガイドライン」がある。 前者は、設計・製造段階、打上げ段階、運用段階および運用終了後のデブリ低減に関する技術標準を定めたもの。後者は7つの勧告「正常な運用中に放出されるデブリの制限」「運用フェーズでの破砕の可能性の最小化」「偶発的軌道上衝突確率の制限」「意図的破壊活動とその他の危険な活動の回避」「残留エネルギーによるミッション終了後の破砕の可能性を最小にすること」「宇宙機やロケット軌道投入段がミッション終了後に低軌道域に長期的に留まることの制限」から成る。法的拘束力はいずれもない。

(注3)国際法曹協会(IBA)
IBA:International Bar Association。1947年設立。法律家個人及び各国の弁護士会等を会員とする世界的な法律家の団体で、世界における法の改革を支援するとともに法律家の将来を先導的に形成することを目的とする。

(注4)投資紛争仲裁
外国民間投資を受け入れた国家と、外国人投資家との間における紛争を解決するための仲裁。

(注5)「ケープタウン条約宇宙資産議定書」
2001年に採択されたケープタウン条約(可動物件の国際担保権に関する条約)の三番目の議定書。 「宇宙ビジネスへの資金供給を容易にするための担保権的権利の世界共通の登録制度を構築しようとするもの(中略)。1979年の月協定以来、約30年ぶりの宇宙活動に特化した条約」「衛星についても(略)アセットベースト・ファイナンスの取引を確立することが考えられ、同条約の宇宙資産議定書を作成する作業が開始された。宇宙資産議定書は2012年採択された」(前掲『宇宙ビジネスのための宇宙法入門』(2015年、有斐閣)p31、p249より)。

(注6)資産担保金融(アセットベースト・ファイナンス)
企業の保有する資産が生み出すキャッシュフローを担保とする資金調達方法。不動産・動産・債権・知的財産権などの特定の資産の信用力に基づいて、当該資産から生じるキャッシュフローを返済の裏付けとする。

(注7)プロジェクト・ファイナンス
特定のプロジェクトが生み出すキャッシュフローを裏付けとする資金調達方法。法的な担保は、事業から発生する収益と事業の持つ資産が対象となり、親会社への債務保証を求めないことが一般的である。


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『宇宙ビジネスのための宇宙法入門』
(2015年01月、有斐閣)

小塚 荘一郎 (学習院大学教授)、佐藤 雅彦 (国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)/編著

宇宙ビジネスを推進する上で、法的な枠組みを知るための入門書。宇宙ビジネスの分野で今何が起きているのか、法的な観点で分析を試みた一冊。



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 宇宙法の世界で、何が起きているのか

小塚 荘一郎

Profile

小塚 荘一郎 [学習院大学法学部教授]

1992年東京大学法学部卒業。専門分野は商法。博士(法学)。東京大学大学院法学政治学研究科助手、千葉大学法経学部助教授、上智大学法学部助教授、同大学法科大学院教授を歴任し、2010年4月より現職。2013年より慶應義塾大学先導研究センター(宇宙法研究所)訪問教授。
国内では、日本私法学会、日本海法学会等に所属。国際的には、私法統一国際協会(UNIDROIT)コレスポンデント、比較法国際アカデミー(AIDC)準会員。
主著は『宇宙ビジネスのための宇宙法入門』(佐藤雅彦氏と共編著、有斐閣、2015)、『フランチャイズ契約論』(有斐閣、2006)。




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