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感情の部分を大事に、
関係性を築く

対談:外岡潤×矢田尚子

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高齢者のケアと専門家によるサービスを考える 第3回

「介護弁護士」という独自の切り口で活躍されている弁護士・外岡潤氏と、主に高齢者住宅の契約問題を研究されている日本大学法学部准教授・矢田尚子先生。「法律」と「福祉」の専門家であるお二人の対談を、3回にわたってお届けします。
第3回目となる今回は、ADRによる裁判外での紛争解決等について、「法律」と「福祉」双方の観点からお話しいただきました。



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  戦略、志としての「介護弁護士」 / 外岡 潤
  「住む」だけではない、高齢者の住まい / 矢田 尚子(日本大学法学部 准教授)



介護福祉の紛争は、
不毛な裁判よりADRで解決

――外岡先生は「てるかいご」(注1)という介護トラブル解決専門ADR機関の代表として、ADR(注2)の活動をされています。福祉の分野でADRが必要だと思われたきっかけを教えてください。

外岡 やっぱり「正解がない」と言いますかね、法律で終局的な解決が得られない世界だと思ったからですね。例えば、高齢者の転倒事故は、事件数が増えていますが、理論上は当然施設の見守り義務違反に基づく賠償請求権をどうするか、といった法律の俎上に乗る訳です。ですがいちいち法的にきっちり解決しようとしていたらキリがない。中には本当に不毛な議論も存在します。最近も、顧問先の社会福祉法人に対して「8年間デイサービスに父親を通わせていたが、ずっと虐待を受けていた。一年あたり20万円の慰謝料で160万円弁償しろ」という請求が弁護士を通じて実際にありました。

 しかし、何が問題になっているかと言えば、結局は感情的な部分であることが多いと感じています。自分が大事に介護してきた親が、人生の最後にひどい扱いを受けたとか、「あの事故さえなければ散歩もできてもっと余生を謳歌できたのに」とか、そういった感情の部分で、一こと言いたいとか謝ってほしいという、本人以外の周囲の家族の感情が、責任追及の原動力になっていることが非常に多いのです。

 その辺りの感情のもつれを何とかして紐解いていけないかな、と思っていたところで、早稲田大学の和田仁孝教授が、医療紛争の領域でADRの研究をされていることを知りました。「ADRは特に介護の世界で必要だ」と確信し、法人(一般社団法人介護トラブル調整センター http://www.terukaigo.jp)を立ち上げ自分なりに研究し実践しているところです。


――相談件数は多いですか。

外岡 電話での問合せが多いですが、やっぱり「アドバイスが欲しい」と言われます。ただ、そこはADR機関として受けている以上、中立・公正な立場で臨まないといけないので、ADRとして受ける事案については、一方の側に有利となるアドバイスはできないと言わざるを得ません。そこが心苦しいところです。


――ジレンマがありますね。矢田先生が、外岡先生のADRの活動に関心を持たれたきっかけは何ですか。

矢田 外岡先生がおっしゃるように、私も裁判で争ったところで不毛なのではと思うケースが少なくないと感じています。たとえば、転倒事故は、どんなに気を付けても高齢者を四六時中見張っていることなどできない以上、完全に防ぐことは不可能です。そのようなことはおそらく介護に携わったことがある人ならば、よくわかるかと思います。それが、裁判にまで発展したというのは、やはり感情の部分が大きいのだろうと思っています。だからこそ、出来る限り裁判に至らない形、話し合いで解決することが当事者にとってはとても大事であり、外岡先生の活動には非常に関心があります。

 特に、介護事故にまつわる裁判は、入居者の遺族が事業者を訴えるというケースが大半を占めます。けれど、結局、いくら争って裁判に勝ったところで、亡くなった入居者が戻ってくるわけではありません。その意味では、死に至るような大きな事故を防ぐことが大事であり、何より、実際にサービスの提供を受けている段階から、もっとサービスの質を良くしていくために、関係者皆で日ごろから話し合うことに意味があると思います。


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メディエーションを啓発して、
良い関係をつくる

外岡 ADRの中にメディエーション(注3)という技術があります。私はこれから、大学をはじめとする教育機関などで、メディエーションの可能性と技術を啓発・普及させる活動に従事したいと強く願っています。私見ですが、メディエーションの考え方やスタンスこそが、リーガルマインドの根底にある「バランス感覚」の養成に直結していると確信しているからです。

 私の下に相談や問い合わせをされる方は、高齢の親をもついわゆる「団塊の世代」が大半なのですが、こういうと偏見かもしれませんが団塊の世代の方々は、見ていて、白黒はっきりつける、礼儀を重んじる、という傾向があるように思います。
 そういう方々は、直接会って話をして誠意を見せれば、分かり合えたりするのですよね。そういう意味で、こじれて裁判になってしまうのは、とてももったいないことだと思って。話せば分かるところを、莫大な資金と時間、労力をかけて裁判で争う訳ですから。裁判の前に、一度、ADR等で顔を合わせて話し合うことが重要であり、それこそが成熟した人間的な社会であると思います。そのためには私達一人ひとりが良き市民として精神的に自立していなければなりませんが。

 矢田先生がおっしゃるように、家族としては「良い施設に看てもらって、私の親は幸せだった」と最後は思いたいわけです。その手助けができれば、紛争は減ると思います。

矢田 職員の方々は本当に普段から熱心に対応されているのに、転倒したその時の対応等だけを採り上げて関係がこじれてしまうのは悲しいことだと思います。一生懸命やってきたことが分かってもらえないというのは辛いことだと思うので、職員の日頃の対応や思いなどもADRの場を通じてうまく入居者の家族に伝わるといいなと思っています。

 外岡先生は、メディエーションの技術や、寄り添って人の話を聞くことの対応の仕方を具体的に著書で書かれておられますが、それは介護の現場においては、とても有意義なことだと考えています。同時に、学生にとっても法的な思考を学んでいくうえで、相手に寄り添って話を聞くことができるようになれば、社会に出た後、どんな場面でも役に立つ技術だなと思います。


――家族としては、その場面しか分からないことが多いですよね。転倒した時に誰が看ていて、どう対応したのか。でも大事なのは、普段その職員がどう接していたのか。そこまで分かったら、家族の感情は全然違ってきますね。

外岡 その通りですね。例えば私の祖母も都内の施設にお世話になっていますが、職員の方は、話してみると私の全然知らない祖母の姿を知っているのですよね。祖母としての顔でない、一人の女性としての姿。そういうのを第三者的に見て、家族に教えてくれたりすると、改めて介護職の方を尊敬するというか、暖かい気持ちになれます。職員と家族のコミュニケーションは本当に大事ですね。

 その意味で家族側も歩み寄る努力や協力は必要です。施設に預けっぱなしにするのはもちろん良くない。良い関係をどうやってつくっていくかは、互いに努力しないといけません。普段は預けっぱなし、無関心で、何か問題が起きれば「虐待じゃないか」なんて施設を疑ったり、責任追及するなんて不毛ですよね。世の中全体の課題です。


介護を固く考え過ぎず、
できることを半歩から

――実際に介護をする立場にある方、あるいは今後介護をする方に向けて、メッセージをお願いします。

外岡 「介護と仕事の両立」という言葉がありますが、あまり難しく考える必要はないと思います。結論から言うと、本当になるようにしかならない世界なので(笑)。同時に、介護をしている本人が「失敗してしまった」とか「最後まで看てあげられずに、施設に閉じ込めてしまった」と思ったとしても、介護を受けた方は実は幸せだったりもします。その辺りは考えても仕方がないので、あまり思い詰めなくて良いということを言いたいです。

 介護をしなきゃいけないとか、そんなことは問題じゃない。まさに多死時代・超高齢社会(注4)で、これからどうなっていくのか、その時代の変化に立ち会えるというのは、私はチャンスだと思っています。世の中全体が大きく変わっていきますから。介護=重いと思わないでほしいですね。

 ついでに言うと、もし介護のために仕事を辞めることになっても、人生の負けでも失敗でもありません。介護離職の問題になると、「辞めたら人生終わり」と言う方がいますが、そんなことは全くない。これもある意味思い込みですよね。仕事を辞めても面白い人生を送ることはいくらでもできます。考え方を限定しないことですね。特に法律や制度は、多数意見に寄りがちなので、いい意味で適当に考えることが大事だと思います。

矢田 私が祖父の介護を手伝っていた時、本人の傍に必ず誰かはいたけれど、それだけで本当に良かったのか、祖父の思いにどれだけ寄り添えたのかと思うことがありました。本当に正解がないので。自宅よりも施設の方がきちんとしたケアが受けられたのではないか、そのような疑問も残っています。

 今になって、あの頃の自分はもっとやれたことがあったのではないかと思うこともあります。その経験から、本人が望むことをきちんと受け止めて、それを周囲の人間が互いに協力し合って、実現できる状態にしていけたら、と強く思います。

外岡 シビアですけど、結局は自己満足の世界だと思うんです。一人で勝手に悩み、罪を感じ、何もしてあげられなかったと思う。それは客観性がないので、あまり思い込まないことが大事です。でも、良いことをすれば喜んでくれることは間違いないので、あまり自分を責めず、できることを半歩でもすることが良いと思います。

矢田 確かにそうですね。「これはできたのではないか」と思うことをできるだけ残さないこと。自分が思う、やってあげられる最善のことを、思いついた時にやっていくしかないのかもしれません。

 ただ、そのようなときに、気軽に相談したり、自分の気持ちを言える場があるとありがたいなと思っています。2025年には、私を含め、多くの人が親の介護に直面することになるのは分かっているので、困ったときには皆、相談や質問し合いたいですよね(笑)。また、これから親は地方で自分は東京、という遠距離介護の方も増えると思うので、その場合の介護のあり方はどうするべきかといった地理的な問題の検討もさらに重要になってくると思います。


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――そのとき、シニアライフ情報センター(注5)のサービスは、良い位置にいるように思いますが。

矢田 シニアライフ情報センターでは、住み替えを検討する中で生じたさまざまな相談にワンストップで対応できるような仕組みがあり、弁護士、ファイナンシャルプランナー、行政書士など、色々な職業の専門家とネットワークをつくっています。特徴的なのは、相談があると、まず、シニアライフ情報センターがヒアリングを行い、その情報をもとに専門家も含めて全体会議を開き、相談解決の手段を皆で話し合う、という仕組みになっている点です。一人で相談を聞くと偏った判断になる恐れがありますが、専門家同士が互いに意見を述べ、依頼者の生活全体を考え、ベストな解決、対応策を探っていきます。

 また、シニアライフ情報センターは、高齢者向け住まいの紹介業によくあるような、成約に至れば施設側から紹介料等をもらうということは一切しておらず、あくまでも会員の会費等で運営し、情報を収集しています。したがって、住まい探しの相談サービスにおいて中立性があるのも特徴です。

 決して高齢者向け住まいへの住み替えありきで情報を提供し、相談に乗るのではないのです。本人にとってやはり最良の選択が住み慣れた自宅であるというのであれば、それを支援するために必要となる情報を本人や本人を支える家族や周囲の方々に提供し、広く相談に乗っているのです。まさに、人生の「伴走者」なのだと思います。


――今後、「法律」と「福祉」をつなぐ役割が期待される若い方々に、今からできることは何でしょうか。

矢田 私の授業では、「措置から契約へ」という流れの中、2000年に介護保険法がスタートしたことで、福祉と法律がより深く結びつくようになったことや、介護の問題は他人事ではないこと、さらに、介護の現場では人に寄り添って話を聞くことがいかに大事であり、それがひいては紛争の予防にもつながることを、学生に伝えていきたいと思っています。 人に寄り添って話を聞くことの大切さを理解してもらう上でも、外岡先生から学生に一度直接お話し頂けるとありがたいです。


――外岡先生が研修で取り入れられているグループワークは、効果ありますか。

外岡 避難訓練に掛けて「謝罪訓練」というタイトルで開催しています。これは元々私が、和田先生のメディエーションの講習をヒントにつくったものです。実際に起きたトラブル事例を基に、5、6人のグループ内で二手に分かれて、利用者家族役と施設職員役を演じて頂き、アドリブで謝罪・説明のシミュレーションをしてもらうのですね。ここぞとばかりに、施設を糾弾する家族役もいたり。テーマは深刻ですが、意外と笑いが絶えない雰囲気です。普段体験できない家族の側の気持ちが分かったという意見などもいただいて、ご好評いただいています。実践に近い体験というのが、良かったのかもしれません。

矢田 体験で言うと、毎年、千代田区から講師を派遣して頂き、受講学生には認知症サポーターになってもらっています。その講座の中では、グループワークの時間もあり、実際の事案を素材にしながら、どのようにすれば認知症の方を支えられるのか、ということを皆で話し合います。すると学生から次々と新鮮な意見が出てきて、学習の効果を実感しました。大学でも、積極的に体験型の授業ができるならば、なおいっそう学生の意識も違ってくるだろうな、若い世代にも認知症の方の気持ちが伝わるだろうな、と思いました。

 認知症の方やその家族が安心して住み慣れた地域で暮らすためには、認知症を理解し、認知症の方を支える認知症サポーターの輪をさらに広げる必要があるといわれています。すでに、多くの企業の皆様も認知症サポーターの養成に取り組んでおられるとの報告がなされていますが、それがまだの企業の皆様については、認知症サポーターの取り組みを、企業のCSR活動の一環として採用していただけると、いっそう、社会の中で認知症高齢者のケアの理解が広まると考えています。企業の皆様、ぜひ、検討をよろしくおねがいします。


 文/冨岡由佳子
 取材・写真/木村寛明(BIZLAW)




外岡潤先生のセミナーが開催されます!


NPO法人シニアライフ情報センターが主催し、講師に外岡潤先生をお迎えしたセミナーが開催されます。 詳しくは、NPO法人シニアライフ情報センターのホームページをご確認ください。(http://senior-life.org/news_1.htm




※注

(注1)「てるかいご」
外岡先生が代表理事を務める一般社団法人介護トラブル調整センターが運営する、介護トラブル解決専門ADR機関の愛称。対話文化の普及による平和の創造を目的として、紛争解決に向けた実践的取組み、紛争予防のための対話文化の啓発活動を行う。 なお、あくまで両当事者から中立・公正の立場で臨まなければならないため、どちらか一方のアドバイザーとして外岡先生の事務所の弁護士が法律相談に乗った場合、以後「てるかいご」の利用はできない。同様に、「てるかいご」に最初に打診された場合、以後当事務所の弁護士への相談はできない。これは、「てるかいご」を通じた当事務所への利益誘導を防止するため。
▼「てるかいご」(http://www.terukaigo.jp/

(注2)ADR
裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution)。訴訟ではなく、中立的な第三者が介入して、調停、仲裁、斡旋などにより紛争を解決する方法。

(注3)メディエーション
調停、仲裁、仲介。当事者双方の感情を重要視し、じっくり話を聞いた上で両当事者の真の訴えを心理学的アプローチにより明らかにする手法。

(注4)超高齢社会
高齢化率(総人口に対する、65歳以上の人口が閉める割合)が21%を超えた社会。日本は平成19(2007)年に21.5%、平成27(2015)年には26.7%となり、過去最高を更新。

(注5)シニアライフ情報センター
1992年発足。高齢者の住み替えなどを支援するNPO法人。
▼シニアライフ情報センター(http://www.senior-life.org/

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Profile

外岡 潤 [弁護士]

昭和55年札幌生まれ、東京育ち。東京大学法学部卒業後、弁護士に。企業法務系法律事務所を経て、平成21年に介護・福祉専門の「法律事務所おかげさま」を開設。同年ホームヘルパー2級、ガイドヘルパー資格を取得。
財団法人介護労働安定センター雇用管理コンサルタント。平成24年6月より、一般社団法人介護トラブル調整センター代表理事。介護トラブルの裁判外解決(ADR)活動を推進。セミナー・構演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することが得意。特に介護トラブルの回避に関するセミナーは独自の経験と論理に基づいており定評がある。
主な著書は、『おかげさま~介護弁護士流老人ホーム選びの掟』(平成23年、ぱる出版)、『介護トラブル対処法 介護弁護士外岡流3つの掟』(平成26年、メディカ出版)『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(平成28年、レクシスネクシス・ジャパン)他多数。

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Profile

矢田 尚子 [日本大学法学部 准教授]

神奈川県出身。千葉大学大学院修了。
専門は民法、住宅法。中央建築士審査会、よこはま多世代・地域交流型住宅整備・運営事業者選定等委員会等の委員を務める。主な著書『高齢者居住法』(信山社、2003年、共著)、『集合住宅・住宅金融の危機管理』(ぎょうせい、2009年、共著)等。



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  高齢者のケアと専門家によるサービスを考える/対談:外岡潤×矢田尚子






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