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「法律」と「福祉」を
つなぐことが大事

対談:外岡潤×矢田尚子

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高齢者のケアと専門家によるサービスを考える 第2回

「介護弁護士」という独自の切り口で活躍されている弁護士・外岡潤氏と、主に高齢者向け住まいの契約問題を研究されている日本大学法学部准教授・矢田尚子先生。「法律」と「福祉」の専門家であるお二人の対談を、3回にわたってお届けします。
第2回目となる今回は、関心のある最近のトピックや、福祉業界に求められる「多職種連携」などの話題について、お話しいただきました。



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認知症の高齢者が
加害者になるケース

――高齢者を取り巻く問題で、最近特に関心の高いトピックは何ですか。

矢田 今年3月に最高裁で判決が出た、認知症事故訴訟(注1)に関心があります。認知症の男性の家族は、「真面目に生きてきた親が、最後の最後で事故を引き起こした加害者となってしまうのは辛い」という思いで、最高裁まで争ったということでした。
 今後いっそう認知症の高齢者が増えていくといわれるなか、住み慣れた地域で、良い環境で認知症の高齢者を支えていくにはどうしたら良いのか本気で考えていかなければならないと感じています。法律的には誰が責任をとるのかという話に終始してしまうけれども、全体としては、認知症の方を支えるために、家族以外の色々な人たちがもっとかかわり、手を貸す仕組みをどんどん考えていかないといけないと思っています。


――前回のインタビュー(注2)で、自宅で最期を迎えられるように地域包括ケアが進められている、というお話がありましたね。

矢田 在宅でのケアが大変な場合、高齢者向け住まいへの住み替えという選択が考えられます。ただし、高齢者向け住まいもそこですべてが完結するわけではなく、地域とのつながりや連携が必要です。仮に、高齢者向け住まいで看取りや認知症対応を行うとするならば、医療との連携は不可欠になってきます。住み慣れた地域の中で高齢者をどのように支えていくのかは、以前から大事だと言われ続けていますが、具体的にどのように取り組んでいったら良いのか、少なくとも在宅以外の選択肢を充実させることも地域包括ケア、また認知症の方も安心して暮らせる地域づくりを実現させるうえで、必要になると考えています。


弁護士が高齢者向け住まいと
家族の間に入り、末永いサポートを

――矢田先生は、高齢者向け住まいの契約書の問題点について研究されていますが、高齢化が進むにつれ、自身で判断できない方も増えていきますね。

矢田 高齢者向け住まいを運営する事業者に話を伺ったところ、最近、入居段階で、医師から認知症という診断は受けてはいなくても、軽度の認知症が疑われるような方が結構な数、いらっしゃるそうです。その場合、家族にも契約の場面に立ち会ってもらい、署名代行してもらうことが多いそうです。そのようなときは、契約が有効にきちんと結ばれていると言えるのか、すごく不安に感じることがあるそうです。確かに、法律上グレーな状況のままで契約を進めている状況は、問題です。

 そこで、弁護士さんなどの法律家の第三者が契約場面に立ち会うことで、事業者が伝えたいことをご本人やご家族にきちんと伝えてもらい、また、ご本人やご家族らが心配に思っていることを事業者に伝えてもらう。そういった形で、法律家の方たちが間に入ってサポートし、当事者双方が安心して契約を結べるような状況があったらありがたい、と高齢者向け住まいを運営する事業者さんに言われました。


――法律的な内容面にとどまらず、高齢者の置かれた状況を全体的に見るリーガルサービスが必要ということでしょうか。

矢田 そうですね。そうした第三者の存在が高齢者向け住まいにおける契約場面でも今後、求められるようになるのではと考えています。法律家のみなさまには、任意後見(注3)が開始となる場面だけでなく、さらにそれ以前の見守り段階から家族と事業者との間に入って、入居者ご本人の思いをくみ取り、最期まで関わってもらいたいです。

 やはり家族対事業者になってしまうと、何かあった時に感情の擦れ違いから簡単にいさかいが起きたり、あるいは良かれと思ってしたことが相手にはきちんと伝わっていなかったりすることもかなりあります。法律家の方は、何が争いになるのかという、問題の切り分けが得意な方も多いので、争いの芽をあらかじめ摘むことができることも多いと思います。だからこそ、高齢者向け住まいへ住み替えても、高齢者の方が日常の生活を当たり前に続けられるよう、法律の専門家である弁護士の方たちにこの分野にもっと入ってきてもらいたいと、強く希望しています。
 裁判になってからの段階ではなく、予防の段階から入ってもらいたいのです。高い報酬は望めないと思いますが、長い目で見て、末永くお付き合いしてくれる法律家のみなさまが増えてくると良いと思っています。

外岡 矢田先生のされている活動の中で、ソーシャルワーク的なこともしながら法律家になりたい、という志のある学生は集まりつつあるのですか。

矢田 授業の中では、自分の祖父や祖母のことがあって興味を持つ学生は結構います。福祉の世界に契約という概念が入ったことによる影響や法的課題を知りたい、また、大学1年次で学ぶ民法総則の授業等の中で、成年後見制度について学び、少しは知識もあるけれど、実際に福祉の場面でその制度がどのように関わるのかを具体的に知りたい、と学生は思っているようです。

 私が担当する「福祉契約論」という授業では、必ず認知症サポーター(注4)になってもらい、少しでも認知症を理解し、認知症と後見がどのように関わるのかなどを具体的に学んでいきます。自分たちが大学で学んでいる法律が、現場でどういった形で結びつくのかを、知ってもらい、面白いと思ってもらえるような教育ができたらと良いなと思っています。

外岡 フィールドワークを大事にされていて、素晴らしい授業ですね。


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福祉業界に求められる
「多職種連携」

外岡 私自身は福祉の分野に大変興味があって、面白いと感じています。矢田先生のおっしゃるように、個別の案件にすぐ結びつくものではないけど、全ての高齢者の生活を支える下地の部分に関わるので、法的なサポートの必要性は絶対何か出てきますよね。

 今福祉業界では「多職種連携(注5)」ということが強く言われています。医師、看護師、理学療法士、そして弁護士も欠かせないのだけど、唯一弁護士が腰が引けている状態。そこは弁護士会が、外の世界に対して、自分からもっとつながっていこうとすれば良いのです。

 こういうと不遜かもしれませんが、弁護士は、自ら手を差し伸べて、介護福祉の業界とつながっていこうとする動きが希薄であるように思います。これからはもっと柔軟に、福祉の問題が集まる社会福祉協議会や地域包括支援センターなど色々な機関と結びついていくべきです。例えば法律を学ぶ学生がインターンなどで福祉の仕事を体験・見学できる仕組みをつくったら、法律の業界全体の意識も変わってくると思うのです。今は弁護士の数だけ増えて仕事が無いといいますが、一方で地域包括には高齢者が悪徳商法の被害に遭ったとか、相続問題が山のように寄せられてパンクしかけている。これだけのミスマッチを放置しておくことは非常にもったいないです。

 これは私見ですが、「法律」と「福祉」のマインドは、水と油の関係だと思っていて(笑)どういうことかといいますと、うがった見方をすれば、法律は性悪説というか、相手を疑ってかかる面が非常に強い。契約書一つとっても「万が一違反して裁判になったらどこそこの裁判所へ」と、最初からトラブルを想定して決めてしまう。一方で福祉は性善説で、博愛主義というか、困っている人をどう救うか、という奉仕の精神が強い。人を疑わないのですね。だからこそ法律に関しては苦手で、役所等の言いなりになってしまう。或いは本来の職域を逸脱して、目の前のご利用者のために何でもしてしまう。互いにアレルギーがあるかもしれないけれど、上手くミックスというか、この法律と介護・福祉の世界を有機的につなげていくことが、理論の上でも大事だと思います。


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「特養」を「要介護3以上」に
したことの影響

外岡 特別養護老人ホーム(特養)の待機者が減り、一方で比較的軽い要介護度の高齢者の行き場がないという報道(注6)がありましたが、矢田先生はこの現象をどう思われますか。

矢田 特養(注7)の待機者を減らすために、2015年の介護保険法の改正では、原則、「要介護3以上」の方に限るとしました。しかし、他の高齢者向け住まいとの関係性などを十分に整理することなく、急にハードルをあげたので、どこまで効果があるのか疑問に思うこともあります。特養の待機者が減ったとしても、特養に入れない方は、結局誰かのサポートが必要です。その受け皿として期待されているのが、有料老人ホームやサ高住ですが、それなりに費用がかかります。そのため、運よく、低額な特養、老健及びケアハウスなどに入ることができない限りは、やはり在宅介護にならざるをえないと思われます。
 特に単身高齢者の場合には、今は軽度であるとは言っても要介護度が上がっていけば、いつかは誰かのサポートがないと在宅での生活はできません。そのときも、地域におけるサポート体制が十分ならば何とかなるかもしれません。しかし、体制が整っていない地域があるのが現状です。

 その一方で、これから多死時代(注8)に入り、病院で亡くなることさえ難しくなるといわれています。そのような中、多くの特養は看取りの専門性を高めようと力を入れ始めています。したがって、特養に入れれば最期までそこで過ごし、亡くなることが確実にできる、という道筋がより明確になるのであれば、今回の「要介護3以上」に法改正する意味もあると思います。


――「要介護3」未満の方は、在宅ケアが多いということでしょうか。

矢田 たとえば、サ高住には、医療はついていません。そのため、実際には、要介護度2以上になってくると、そのサ高住が提供するサービスだけでは生活の継続が難しくなり、結果として退去せざるをえなくなるといわれています。さらに、サ高住(注9)や住宅型の有料(注10)はサービスを利用するたびに費用が積み増しとなってくるため、金額が高くなる可能性も高い。そのため、軽度の高齢者の方で高額な費用は払えない、中・低所得者の多くの高齢者とその家族は、在宅でがんばらざるを得ない状況になります。そのような中、介護のために家族が仕事を辞めるという現象も起きています。その一方で国は介護離職ゼロ(注11)を目指すと言っていますが、財政難の中、どこまでその約束が果たされるのかは不透明な部分があります。

 高齢者向け住まいへの住み替えも、経済的に余裕があればいくらでも選択肢はある一方で、結局お金がないと選択肢すらない。このような状況をどうしたら少しは打開できるのかもっと考える必要がありそうです。

(第3回につづく)


 文/冨岡由佳子
 取材・写真/木村寛明(BIZLAW)




※注

(注1)2016年3月に最高裁で判決が出た、認知症事故訴訟
責任能力がない認知症男性が徘徊中に電車にはねられ死亡した事故で、家族が鉄道会社への賠償責任を負うかが争われた訴訟。最高裁は、男性の妻に賠償を命じた2審名古屋高裁判決を破棄し、JR東海の逆転敗訴を言い渡した。
争点は、認知症高齢者を介護する家族の監督義務。民法714条は、認知症などが原因で責任能力がない人が損害を与えた場合、被害者救済として監督義務者が原則として賠償責任を負うと規定。今回の場合、同居していた妻が高齢な上に「要介護1」の認定を受けていたことなどから、家族の賠償責任はないとの判決が出た。

(注2)前回のインタビュー
下記URLからご覧ください。
▼「意外と知らない、高齢者の住まいを考える」(http://www.bizlaw.jp/serial_yata_01_01/

(注3)任意後見
任意後見制度とは、本人が契約の締結に必要な判断能力を有している間に、将来自己の判断能力が不十分になったときの後見事務の内容と後見人を、事前の契約で決めておく制度。

(注4)認知症サポーター
特定非営利活動法人「地域ケア政策ネットワーク全国キャラバンメイト連絡協議会」が実施する「認知症サポーターキャラバン事業」における認知症サポーター養成講座を受講・修了した者。
▼「認知症サポーターキャラバン」(http://www.caravanmate.com/

(注5)多職種連携
質の高いケアを提供するために、異なる専門的背景をもつ専門職が、共有する目標に向けて協働すること。

(注6)特別養護老人ホーム(特養)の待機者が減り、一方で比較的軽い要介護度の高齢者の行き場がないという報道
平成28年7月1日付日本経済新聞に「特養待機者が都内で減少 15年、入所条件の厳格化影響か」との記事が掲載された。
都内の特別養護老人ホームで2015年の待機者が13年に比べて18%減少。背景には、政府の介護費抑制策で15年4月から新規の入所対象者を重度の人に限定したことがある。要介護度が低くても介護に手間のかかる高齢者は多く、適切な施設に入れない人がいる可能性が指摘されている。

(注7)特養
特別養護老人ホーム。重度の介護を必要とする要介護者が、少ない費用負担で長期にわたり入所できる施設。社会福祉法人や地方自治体などにより運営される公的な介護施設。

(注8)多死時代
多死社会。高齢者の増加により死亡者数が非常に増加し、人口が減少していく社会形態。超高齢化社会の次に訪れる社会と位置づけられる。

(注9)サ高住
サービス付き高齢者向け住宅。バリアフリーの賃貸住宅で、主に自立あるいは軽度の要介護状態の高齢者が入所できる施設。生活相談員が常駐し、入居者の安否確認や様々な生活支援サービスを受けることができる。

(注10)有料
介護付き有料老人ホーム。食事・清掃・身体介護から、リハビリ・サークル活動・レクリエーションなど、施設スタッフによる幅広いサービスが受けることができる施設。主に民間事業者が運営。

(注11)介護離職ゼロ
家族の介護を理由に離職する人は推定で年間10万人。国は、「1億総活躍社会」の実現へ向けた3本目の矢の目標を、2020年代初頭までに介護離職ゼロにするとしている。
▼厚生労働省「介護離職ゼロ」(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000112622.html

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Profile

外岡 潤 [弁護士]

昭和55年札幌生まれ、東京育ち。東京大学法学部卒業後、弁護士に。企業法務系法律事務所を経て、平成21年に介護・福祉専門の「法律事務所おかげさま」を開設。同年ホームヘルパー2級、ガイドヘルパー資格を取得。
財団法人介護労働安定センター雇用管理コンサルタント。平成24年6月より、一般社団法人介護トラブル調整センター代表理事。介護トラブルの裁判外解決(ADR)活動を推進。セミナー・構演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することが得意。特に介護トラブルの回避に関するセミナーは独自の経験と論理に基づいており定評がある。
主な著書は、『おかげさま~介護弁護士流老人ホーム選びの掟』(平成23年、ぱる出版)、『介護トラブル対処法 介護弁護士外岡流3つの掟』(平成26年、メディカ出版)『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(平成28年、レクシスネクシス・ジャパン)他多数。

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Profile

矢田 尚子 [日本大学法学部 准教授]

神奈川県出身。千葉大学大学院修了。
専門は民法、住宅法。中央建築士審査会、よこはま多世代・地域交流型住宅整備・運営事業者選定等委員会等の委員を務める。主な著書『高齢者居住法』(信山社、2003年、共著)、『集合住宅・住宅金融の危機管理』(ぎょうせい、2009年、共著)等。



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