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高齢者向け住まいの自治が、
職員の意識を育む

対談:外岡潤×矢田尚子

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高齢者のケアと専門家によるサービスを考える 第1回

「介護弁護士」という独自の切り口で活躍されている弁護士・外岡潤先生と、主に高齢者住宅の契約問題を研究されている日本大学法学部准教授・矢田尚子先生。「法律」と「福祉」の専門家であるお二人の対談を、3回にわたってお届けします。
高齢者の虐待問題・認知症患者の増加への対応、高齢者の住まいの問題、そして、今求められている弁護士のサポートやADRによる紛争解決、さらには介護の心構えまで、「法律」と「福祉」双方の観点からお話しいただきました。



 関連記事
  戦略、志としての「介護弁護士」 / 外岡 潤
  「住む」だけではない、高齢者の住まい / 矢田 尚子(日本大学法学部 准教授)



高齢者問題に
関心を持ったきっかけ

――高齢者問題に取り組もうと思われたきっかけを教えてください。

外岡 以前のインタビュー(注1)でもお話ししましたが、『ヘルプマン!』(注2)という漫画を偶然読んだことが、全てのはじまりでした。
 『ヘルプマン!』はすごく実践的な内容で、最近「リスクマネジメント編」が連載されています。例えば、おじいさんがあるデイサービスに行ったところ、おばあさんと恋仲になり、ラブホテルに行きたいと言い出しました。そのおじいさんは心筋梗塞の症状があったのですが、主人公の百太郎がおじいさんをホテルへ連れて行った場合に、どういった法的問題が起こりうるのか。そうしたこともテーマとして扱っていて、興味深い作品です。

矢田 私も『ヘルプマン!』に影響を受けて、福祉と法律をつなげられたらと思い、大学では「福祉契約論」という授業を昨年から始めました。『ヘルプマン!』を読んで熱い気持ちになって、授業に向かっています(笑)。
 高齢者問題に取り組もうと思ったそもそものきっかけは、大学院生の頃に祖父の介護に関わったことです。祖父の家で食事を用意したり、身の回りのことを手伝うなかで、徐々に祖父の判断力が衰え、最終的に寝たきりになった時に、介護のあり方についていろいろと思うことがありました。

 当時、母と伯母が交替で介護をしていましたが、それでもだんだんと負担が増え、大変な状況になっていきました。そこで、住み替え先の高齢者向け住まいを探してみようということになりましたが、「ここなら安心」という高齢者向け住まいを近くで見つけることはできませんでした。そのようななか、最後は介護する側まで体調を崩してしまいました。このような介護技術もない家族の手で在宅介護をやりきるといったような状況は何とかしないといけないと実感し始めた頃、「介護の社会化」を謳った介護保険法(注3)が2000年に施行となりました。その前後の時期と祖父の介護が重なったこともあって、ぜひ法と福祉にまたがる分野を研究テーマにしたいと思ったのです。


「虐待」かどうかの境目はなく、
対応が難しい

――高齢者を取り巻く問題で、最近特に関心の高いトピックは何ですか。

外岡 マネジメントで言えば、虐待の問題ですね。一昨年末、川崎市の有料老人ホームで高齢者が突き落とされる事件(注4)が起きて、全国的に大きな関心を集めました。ただ、実は虐待の問題は定義が曖昧であり、「虐待か、そうでないか」の境目がはっきりしないので、揉めやすい事象です。セクハラやパワハラと似た所がありますが、個人の受け止め方によっては虐待といえるか微妙なケースもあるし、一方で暴行罪や傷害罪等に相当する明らかな人権侵害もあります。どうやって虐待を発見して是正していくか、予防していくかというのは、本当に難しい問題と言われています。


――事件の起きた川崎のホームは、雑誌でも評判の良い方にランクされていたこともあって、衝撃的でした。

矢田 その事件が起きたホーム自体ではありませんが、運営者が同系列のいくつかの住まいを見学し、話を伺ったことがあります。そのときは、従業員教育に熱心に取り組んでいる印象を持ちました。そのため、事件が起きた時は驚きました。事件後、高齢者向け住まいの業界全体で虐待防止の研修などが頻繁に行われているようです。けれど、どうしても対応が後手に回っているように感じてしまいます。このようなことが二度と起きることのないよう、どのような対応をとるべきなのか、いろいろな角度から考えていかなければいけないと思っています。


――職員は適正なサービスをしていても、サービスを受けた方が誤解して、虐待だと感じることもあるのですか。

外岡 認知症は色々な症状(周辺症状。BPSDといいます)が出るので、例えば気に入らない職員がいると、別の職員に味方になってもらうために「あの職員からお金をよこせと言われた」などと言うことがあります。全くの作話かもしれないし、もしかすると本当に言われたのかもしれない。ターゲットにされた職員が「自分はそんなこと言ってない」と弁明しても、密室で起きることで他に証人もおらず、さらに被害者自身がはっきり説明できないこともあって、何が真実か見出す手がかりがありません。本当にカオスの世界になってしまいます。


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「虐待防止委員会」の設置など、
具体的な形に

――そうなると、職員の意見が高齢者住宅や施設の経営側に吸い上げられる仕組みが必要だと思うのですが、そうした動きはあるのでしょうか。

外岡 虐待問題に組織としてどう向き合っていくかは大きな課題ですね。
 例えばある高齢者向けの住まいで虐待が発覚したとして、行政から改善措置・指示が出ても、実際に高齢者住宅・施設側がやることは表面的であると懸念しています。
 セオリーとしては、私のような弁護士等を委員会メンバーに入れて、第三者委員会をつくります。あとは年間スケジュールを立てて、定期的に職員間で集まって会議・研修をして、何かあったらすぐ報告するように言う。そういった取り組みを役所に報告して終わり。それ以上の積極的な取り組みはない気がします。

 私が必要だと思うのは、高齢者住宅や施設内に虐待をメインに扱う委員会を常設するなど、一過性でない具体的なシステムの形にすることです。国保連(国民健康保険団体連合会)や社会福祉協議会に呼ばれて「虐待防止セミナー」を開催することも多いのですが、そこでは「虐待防止のシステム作りの手引」(注5)を配布します。虐待は、情報を集めて事実認定することが大事なので、情報収集や虐待か否かの認定、大きな事件の場合はマスコミ対応まで担う「虐待防止委員会」を高齢者住宅や施設内に設置するべきという考えです。
 虐待事件に特化して機動的に動く部署を設置することで、まず関係者の意識が明確になりますし、高齢者住宅や施設が内部で一体となって問題を解決できるようになります。従来の「研修・教育」一辺倒だと、幾ら一生懸命「虐待はいけませんよ」と講義しても、現場職員は皆忙しくてじっくり勉強する余裕もありませんし、職員の入れ替わりが激しく教育が追いつかないのが現状です。実際問題として、「過去に虐待した人」を採用時にスクリーニングすることも、個人情報の壁に阻まれてしまいできない。ですから一定規模以上の高齢者住宅や施設では、委員会の設置などの目に見える形から入ることが必要です。

 他には、リスクマネジメント活動の一環として介護業界ではメジャーな「ヒヤリハット報告書」に倣い、「虐待ハット報告書」(注6)を取り入れることを提唱しています。例えばご利用者への言葉がけ一つとっても、職員が着替えや食事介助中に「早くしなさい」等と言っているところを目撃したら、「これは心理的虐待ではないか」という問題意識の下、匿名でも良いので報告してもらいます。
 虐待か否かはグレーなことが多いので、こうした個別のケースについて職員同士が議論することで、意識の芽が徐々に育まれると思うのです。形式的・一方的な講義だけだと、知識は身についてもセンスが養われません。
 本当は、地方自治体主導で効果的な取り組みを体系化して、各施設を指導するのが手っ取り早いとは思いますが、具体的な提案まで踏み込んでできないので、高齢者住宅や施設といった現場では、現状では、そこまで詰めて考えられていない気がしています。


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高齢者向け住まいによる自治を、
行政が支援するべき

矢田 民間の高齢者向け住まいの自治は、基本的には、事業者に委ねられています。そんな事情もあってか、行政としてはなかなか介入しづらい面もあるようです。ただ、やはり、外岡先生がおっしゃるように、「虐待防止委員会」を設置して全ての意見・情報が吸い上げられる仕組みをつくりたい。少なくとも虐待については、どの高齢者向け住まいでも起こりうることなので、実効性の高い監督の仕組みが必要だと思っています。
 実は、高齢者向け住まいの事業者の側でも、自分たちが行っている行動が虐待にあたるのかどうか、不安に思うこともあるようです。その意味でも、日々の介護業務の中で悩みを抱える職員が、普段から「虐待ハット報告書」に記入して、「これどうかな?」と気軽に話し合えるような仕組みをつくるのは、良いことですね。


――「虐待防止委員会」のような委員会を、施設内につくるのか国・自治体につくるのか、どちらが良いでしょうか。

外岡 各市区町村に、もともと虐待を見る部署はあります。ですが今一機能していない。高齢者虐待防止法(注7)で、「現場で虐待を発見したら、速やかに行政に報告する義務がある」ということになっていますが、それ自体に無理があると思うのですよね。いきなり行政に報告せよというのは。
 要するに、法律の本来的性格である「性悪説」が一番色濃く出てしまっている。行政は、何かあったらすぐ通報してと言いますが、でもそれは一ヘルパーからすれば「仲間(先輩)を売る」ことになるので、現場としてはジレンマがあるわけです。ただでさえ「虐待」っていうとすごく重い言葉に聞こえるし、組織全体の評判に関わるし、一生懸命やっていた施設からすれば、心外ということもあると思うのです。

全体の傾向からすれば、結局「事なかれ主義」の隠ぺい体質になって、滅多なことがないと地方自治体にも報告できなくなってしまう。逆に、高齢者住宅や施設を恨みに思っている職員が、退職時の嫌がらせとして地方自治体に報告したり、あるいは利用者の家族が「虐待だ」と地方自治体に訴えたりすることもあります。それでもう、現場は混乱しています。
 やっぱりベースとしては性善説で、地方自治体には各事業者を信頼してもらうしかない。そうすると高齢者住宅や施設内の自治、自主的な努力が大事になってきます。先ほどの虐待防止委員会は、例えばディズニーランドにはパーク内に自前の消防署や救急隊があると言いますけど、それに倣って組織の中に「ミニ警察」、「ミニ裁判所」をつくったらどうでしょう?という提案ですね。

 ところが現状は、介護の現場では一番大事なコンプライアンスの意識が欠落してしまっている。実務に即したリーガルマインドが、少なくとも施設長とか、高齢者を預かる責任のある立場の方々に、徐々に普及していく形にしないと、通り一遍の研修会を繰り返してもキリがありません。


――高齢者住宅や施設の中で、まず自治に目を向けていくことが必要ということですね。

外岡 高齢者住宅や施設としては、現場で何かあるとすぐ地方自治体に通報されてしまう。そして、地方自治体からは「調査、報告せよ」と指示が出るため、自分たちが対応しなければならず、面倒くさい、目を付けられたくない…という意識になってしまう。本来、地方自治体は、高齢者住宅や施設からの相談を受けたときに適切にサポートするような、まさに「自立支援」をするスタンスであるべきだと思うのです。

(第2回につづく)


 文/冨岡由佳子
 取材・写真/木村寛明(BIZLAW)




※注

(注1)以前のインタビュー
下記URLからご覧ください。
▼「戦略、志としての介護弁護士」
http://www.bizlaw.jp/interview_sotooka_01_01/

(注2)『ヘルプマン!』
作者・くさか里樹。日本の老人介護を題材にした作品で、高齢社会の問題点を分かりやすく、リアルに描いている。2003年から『イブニング』(講談社発行)、2014年から『週刊朝日』(朝日新聞出版発行)にて連載。

(注3)介護保険法
加齢による心身の疾病などで介護や支援が必要になった人が、その能力に応じて自立した日常生活を営むために必要な保健医療サービス・福祉サービスを受けられるよう、国民の共同連帯による介護保険制度が創設された。介護保険料の徴収、給付条件や給付サービスなどの詳細を定める。平成9(1997)年制定、平成12(2000)年施行。

(注4)川崎市の有料老人ホームで高齢者が突き落とされる事件
2014年12月に発生した、川崎市の有料老人ホームで入所者3人が相次いで転落死した事件。2015年には別の入所者への暴行事件も発生した。

(注5)「虐待防止のシステム作りの手引」
外岡先生作成の資料。施設内虐待を防止するためのポイントが解説されている。

(注6)「虐待ハット報告書」
外岡先生作成の資料。虐待か否かはグレーなことが多いため、個別のケースについて日常的に職員同士が議論するための素材となるように作られている。

(注7)高齢者虐待防止法
「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」。2006年4月施行。「高齢者虐待」として、養護者や養介護施設・養介護事業者等の従業員による身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待を規定。虐待を発見した者は市町村に速やかに通報する努力義務がある。通報を受けた市町村は安全確認をし、必要な場合は地域包括支援センターなどによる立ち入り調査や入所措置を講じる。

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Profile

外岡 潤 [弁護士]

昭和55年札幌生まれ、東京育ち。東京大学法学部卒業後、弁護士に。企業法務系法律事務所を経て、平成21年に介護・福祉専門の「法律事務所おかげさま」を開設。同年ホームヘルパー2級、ガイドヘルパー資格を取得。
財団法人介護労働安定センター雇用管理コンサルタント。平成24年6月より、一般社団法人介護トラブル調整センター代表理事。介護トラブルの裁判外解決(ADR)活動を推進。セミナー・構演などで専門的な話を分かりやすく、楽しく説明することが得意。特に介護トラブルの回避に関するセミナーは独自の経験と論理に基づいており定評がある。
主な著書は、『おかげさま~介護弁護士流老人ホーム選びの掟』(平成23年、ぱる出版)、『介護トラブル対処法 介護弁護士外岡流3つの掟』(平成26年、メディカ出版)『介護職員のためのリスクマネジメント養成講座』(平成28年、レクシスネクシス・ジャパン)他多数。

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Profile

矢田 尚子 [日本大学法学部 准教授]

神奈川県出身。千葉大学大学院修了。
専門は民法、住宅法。中央建築士審査会、よこはま多世代・地域交流型住宅整備・運営事業者選定等委員会等の委員を務める。主な著書『高齢者居住法』(信山社、2003年、共著)、『集合住宅・住宅金融の危機管理』(ぎょうせい、2009年、共著)等。



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