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年に400冊の読書
本の虫と弁護士の関係

鳥飼総合法律事務所パートナー 弁護士、
青山学院大学法科大学院客員教授(租税法) 木山 泰嗣

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『弁護士が勝つために考えていること』 第1回

2014年7月25日、星海社新書より刊行された『弁護士が勝つために考えていること』は、単にそのテーマである民事訴訟にとどまらない奥の深い新書であり、現代を生きる術が描かれています。著書の木山弁護士に、その意図するところ、そして木山弁護士が本を書くに至ったこれまでを語ってもらいました。

アーカイブ作りは
今からでも遅くない

――木山先生は数多くの著作をされていますが、なぜこんなにも多くの執筆をされているのでしょうか。

木山 単著で36冊なので、監修とか共著みたいなものを入れると50冊ぐらいは書いていると思います。全部を正確に数えたことはないのですが。例えば、女子アナが民法を読むCDの『女子アナ民法』(中央経済社)の監修などもしていますが、こうした監修ものは単著の数に入れていません。
 書いている理由は、本が好きだからです。面白い本に出会った時は、大きな衝撃を受けます。読むことで触発されることがあるのが、本を読むことの魅力です。趣味としての読書をするときにも、意識せずに情報のスキマというか「ありそうでなかったもの」を、書き手としての視点で探していることもあります。たくさん本を執筆していることのモチベーションという意味ですと、本当に純粋に本が好きだからということに尽きると思います。

―― 1年に400冊ぐらい読まれるということですが。

木山 そうですね。7、8年くらい前から、毎年読み終わった本の数を記録しています。以前は年間400冊以上は読んでいました。読むというのは完読という意味です。最近は弁護士業務や執筆に加え、日常的に講演や授業が大量に入ってくるようになったため、去年は300冊ちょっとぐらいで、久しぶりに400冊を割りました。でも大体平均すると1日1冊ぐらいは読んでいることになりますかね。1年に1000冊ぐらい本を買っています。常に大量の本を併読しているので、自然と途中で読まなくなる本もたくさんあります。そういう本は読んだ本の数にはカウントしていません。

 私はいつもスターバックスで昼ご飯を食べているのですが、その10分、15分でも本を読みながら過ごしますし、電車の中とか、特に土日は朝から気合を入れて本を読みますし、使える時間があればほとんど本を読んでいます。

――本当に「本の虫」なんですね。

木山 ははは。でも、実は子供の頃は全然本を読んでなくて…。漫画を読むぐらいで、「本の虫」でもなかったのです。きっかけは、司法試験に受かってから、司法修習の起案なんです。修習では、民事裁判なら判決書の起案、弁護科目だったらその準備書面の起案を、朝の10時から夕方の5時までするのですけど。その時に渡される資料が100ページぐらいあるのです。
 私はこの起案が、全然できなかったのです。資料を読むのに時間を食われてしまうんですね。早く終わる人は期限の5時ではなくて2時とか3時に提出して出て行っちゃうようなものなのですが、私は3~4時まで読んでいました。100ページの記録を読むのに大半の時間を使ってしまい、書く時間が足りなくなってしまうのです。

 そこで、強烈な劣等感を味わいました。起案の成績はひどく悪かったですし。読んでいるだけで書く時間がとれなかったから当然なのですけど。これが弁護士になると、相談を受けるにしても、文書で書かれた資料を早く読んで理解しないといけないことになります……。これはまずいと思いました。自分の人生の中で、読書体験が少ないことに気づいたのです。
 読むのが速い人にいろいろ聞いてみると、やはり日ごろから本をたくさん読んでいるんですね。読むのが速くないと仕事も回らないので、最初は意識的に今からでも遅くないから読もうと。私が弁護士になったのは29歳なので、本を読むようになったのはほぼ30代から。今40歳なのですが、この10年間で本を大量に読みました。それで読むのが飛躍的に速くなったんです。多分その読むスピードは今でも速くなっていると思います。

 特に、私は書き手にもなりましたから、「自分で意味が分からないことを、書き手が書くはずがない」という大原則が頭の中にあります。どんなに読みにくい文章であったとしても、少なくとも出版物として刊行されている以上は、書き手の人は分かって書いているはずだと。これを理解しながら読むか読まないかでだいぶ違うと思いますね。
 あと、類書をたくさん読むと、何度も同じ共通点が出てくるため、読まずに済む部分が増えるというメリットもあります。頭の中のアーカイブが成熟するにつれて、どこを読めばいいか、何が新しいもので、何がもう読まなくても分かっていることなのか、という見極めもつくようになります。私は、趣味として読むのが好きなので、文章そのものを味わって読むことも多いですが、リサーチや仕事では特にスピードが出ますね。

――最近面白かった本は?

木山 難しい質問ですね。私、全然記憶に残らないんですよね。本を次から次へと読むので。そのときはいいなと思っても、すぐに次の本を読んでいますので急にいわれると思い出せません(あとから思い出すと、安田善次郎=守屋淳(翻訳)『現代語訳 意志の力』(星海社新書)などがこのインタビューを受けた頃に面白かったと思った本です)最近では、憲法の本に興味を持って読んでいます。
 改正の議論とか、集団的自衛権の解釈など話題になっていますが、アナウンサーの小林麻耶さんとタイアップさせていただいた『聴く日本国憲法』(中央経済社)の監修をすることが決まった去年の夏頃から、古いものも含めて読み漁りました。憲法の制定経緯、改正の議論に関しては一般書も出ているので、この1年でだいぶ読みました。

――そうやって深堀りしていくわけですね。

木山 1冊の本を読むと、程よい感じでいろんな付随情報が出てくるでしょう。参考文献が出ていたり、本の中で引用があったりするので、読んでいる最中にAmazonで注文して買ってしまうんです。そうして広がっていくんですね。

 憲法に関しては、古本で昭和20年代ぐらいの真っ黄色になった本もAmazonで買ったんですよ。意外ですが、絶版になっている本にも、知識の源泉があります。古い本を読むだけで歴史を感じますし、いまある本では得られない情報がたくさん得られます。一つのテーマを本で辿っていくと、ネットでは決して得られない知識や情報が手に入りますね。

 例えば憲法の制定経緯。日本が敗戦して、GHQがわずか9日間で日本国憲法の原案を英文で書いて、それを時の総理であった幣原喜重郎に渡すわけですが、その原案の内容がどうだったかという話だとか、原案そのものがどういう風に修正されていったのかとか、知られていないことが多いです。原案そのものはわずか9日間でできているわけですし、そこから憲法が当時の帝国議会で議論されて成立するまでは1年もないのです。多くの日本人はその内容を歓迎し受け入れたことも事実ですが、帝国議会で審議・修正がされ可決したものとはいえ、そのもととなるものは日本国民が作ったものではないのですよね。その詳細は本を読むことで分かりました。
 さらにさかのぼり、大日本帝国憲法の本も読みました。大日本帝国憲法の公式解釈本である、伊藤博文『憲法義解(ぎげ)』(岩波新書)も古本で買って読みました。その歴史を書いた本も読みました。大日本帝国憲法も、結局のところ開国から始まっています。ペリーがやってきて、欧米から日本を守るために、近代国家として認めてもらうために、憲法・法律を制定する必要性が出てきた。当時は不平等条約も締結されていて、その撤廃を求めるという理由もあった。

 大日本帝国憲法は欽定憲法といって天皇が与えてくれたものです。そして、今の憲法は敗戦という重たいものを背負って占領軍によって原案が作られた歴史があります。憲法9条を守ろうとしている人々は戦争と結びついているから変えてはいけないという理論を持っているのだと思います。たしかに9条の理念は素晴らしい。しかし世界の憲法をみると、法律の改正と同じように、細かいことを含めて改正がされています。いろいろな憲法の本を読んでいるうちに、9条の改正については問題があるとしても、「憲法は絶対に変えではいけないもの」という国民意識が作られた背景には、やはり大日本帝国憲法以来の日本における特殊な歴史にあるのだと気づきました。

 憲法記念日の5月3日は、日本国憲法が施行された日ですよね。しかし、いろんな本を読んでいくと、日本の政府としては日本書紀に登場する神武天皇が即位した2月11日を憲法記念日にしたかったらしいのです。しかし、制定作業が進まず間に合わなかった。そこで、今度は、明治天皇の誕生日である11月3日を憲法記念日にしたいと考えたようです。日本国憲法は11月3日に成立していますからね。しかし、これはGHQが反対し、前年に東京裁判の開廷日であった5月3日にするよう要請してきた。こういうことも本を読んで最近知りました(加藤周一=樋口陽一『時代を読む』(岩波文庫)参照)。それで1966年にやっと法改正で2月11日に建国記念日が成立したのです。ちょっと話題がそれてしまいましたね。

――なるほど…。そうやって自らのアーカイブを増やして、書きたいテーマを探していくわけですね。

木山 そういうことです。読書が次回作へつながっているのです。

第2回へ続く


協力/星海社
文・写真・編集/稲垣正倫(BIZLAW)



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 『弁護士が勝つために考えていること』

木山 泰嗣

Profile

木山 泰嗣 [鳥飼総合法律事務所パートナー 弁護士、
青山学院大学法科大学院客員教授(租税法)]

上智大学法学部法律学科卒、2003年弁護士登録(第二東京弁護士会)。専門は税務訴訟及び税務に関する法律問題。著書『センスのよい法律文章の書き方』(中央経済社)、『小説で読む民事訴訟法』(法学書院)、『弁護士が書いた究極の文章術』(法学書院)、『反論する技術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など専門分野を超えた多才な文筆力を持つ。




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