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法律家の養成における
リーガル・クリニックの役割(前編)

明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐 河村 寛治

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伝説の法務部員、語る 第6回

 1泊3日のフライトで契約交渉をまとめ、帰国の便に急遽本社からのオファーが入り、別の案件のために国を跨ぐ。法務部在職中に渡航した国は数十か国を超え、約10億ドルに及ぶディールを手掛ける。現在の日本ではまるでフィクションのように思えるこれらのビジネスワークを、80~90年代当時、超人的な密度でこなし続けた一人の法務パーソンが存在した。この連載では、伊藤忠商事株式会社法務部に所属し、法務部国際法務チーム長として活躍した河村寛治氏(現 明治学院大学法学部教授)に、そのエピソードの一端を明かしてもらいながら、法務パーソンが追うべき時事的課題とその対応について語っていただく。第6回、テーマは「法律家の養成におけるリーガル・クリニック(臨床法学教育)の役割」について。



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リーガル・クリニック
(臨床法学教育)とは

 リーガル・クリニックは、「臨床法学教育」とも呼ばれ、一般的にリーガル・クリニック(Legal Clinic)あるいはクリニカル・リーガル教育(Clinical Legal Education)と呼ばれています。

 この臨床法学教育は、わが国において司法制度改革の目玉の一つとなった法曹養成制度としての法科大学院の創設(2004年4月)とともに導入され、同時に本格的にその教育実践が開始されることとなりましたが、その内容は各法科大学院においてさまざまであり、多様な教育カリキュラムが展開されてきています。

 法曹になるためには、これまでは、その登竜門である司法試験の合格という「点」による教育の質の確保が求められていたが、法科大学院がスタートしてからは、一定の専門家養成教育という「プロセス」が重視されることとなり、法科大学院は、その主要な部分を担うこととされました。そこでは「理論」と「実務」の架橋に教育の中心を置くことになり、すべての法科大学院では、カリキュラムの主要な柱として「法律実務基礎科目群」の履修が要求されることとなり、その一部が「臨床法学教育」となっています。

なぜ
リーガル・クリニックと呼ばれるか

 この臨床法学教育(リーガル・クリニック)は、もともとは、医学部における医師の養成において、大学での授業以外に行われている臨床研修指定病院など、現場での臨床研修(インターン)という臨床医学教育を法学教育に応用したものです。法律専門家としての養成のために必要とされている、法律実務家として欠くことのできない実務上の技能、実務知識、職業倫理などを習得するための実務教育がその中心となっています。当然のことながら、法曹専門家の養成には、一部でも実務に携わることが教育効果の点でも最も有効であり、そのためにも「臨床実務教育」は、医師の養成におけるインターンと同様に、必須であるといえるでしょう。

 リーガル・クリニックは、これまでの大学における講義等による座学を中心とする教育以外に、学生に実際の事件を経験させること、つまり臨床実務を体験させることにより、さまざまな現場で法の実務を学び、その結果を学問にフィードバックし、さらに臨床の場面で実践させることを重視した教育を目指しています。つまり座学で学ぶ法理論を、法実務の現場において応用・検証することで、その理解を深く確実にするだけでなく、法理論に裏打ちされた法曹技能を修得させ、専門職業人としての倫理観と価値観をも涵養するという効果を期待したものなのです。つまり学生は、臨床法学教育を通じて「生きた法律」を修得することになります。


リーガル・クリニックは
どのようにして発達したか

 このような臨床法学教育は、法科大学院制度の創設にあたり、米国のロースクールを参考にして導入されたものです。そのため、当時、多くの関係者が米国に視察や調査に訪れ、米国からの専門家を呼び、米国のロースクール教育における各種臨床法学教育プログラムに注目をし、その重要性を認識したことがきっかけとなっている。結果として、わが国における法曹養成教育の一つの重要な柱として重視されることとなりました。

 それまでは、臨床法学教育というものは、司法研修所における実務修習の一つとして行われてきましたが、司法修習生の増加による修習期間の短縮のためか、その内容は訴訟実務に偏らざるを得ない状況でした。そして、司法研修所における前期修習は、法科大学院において行うべきであるという意見も踏まえ、各法科大学院の教育カリキュラムの中で臨床法学教育を含め、実務教育が必修科目として求められることとなったわけです。

 いずれにしても、それが制度としてカリキュラムに含まれるかどうかとは別に、何らかの形で、学生が学内における法学基礎教育と並行して、実務経験(実務体験)を経るという方法が、事案や問題をより深く認識し、かつその解決のためにも、また法的知識を修得するためにも有効であり、かつ法曹教育には不可欠であると考えられている。今もこれは変わらないでしょう。


米国等における
リーガル・クリニックとは

 このような臨床法学教育の重要性を含め、法曹実務教育をいかに行うべきかという問題は、リーガル・クリニックの導入のきっかけとなった米国においても、非常に早くから指摘されてきました。現在では、人権保護などの公益活動を含む多様な分野におけるリーガル・クリニックを設けるロースクールが増加しています。

 リーガル・クリニックで法曹実務教育をいかに行うかという点については、米国においてロースクールが生まれると同時に問題意識が持たれ、その後も継続的にそのあるべき姿などが模索されてきています。特に重要なのが、米国弁護士連合会(American Bar Association;ABA)が1989年に設けた「法科大学院と専門家の間の間隙を狭めるための専門調査会」による調査研究であり、その成果は、1992年に公表された、通常「マクレート・レポート」と呼ばれています。
 このような臨床法学教育は、米国以外では、カナダ、ヨーロッパにおいてはイギリスおよびポーランド、アジア・オセアニアにおいては中国およびオーストラリアなど諸外国において、多様でかつ活発な教育実践がなされており、また、これら諸国においても専門職養成において臨床方法論を採用することは、ひとり法曹養成分野に限られず、医学教育に代表される他の専門職養成の実績から、臨床法学教育において学ぶことの重要性は少なくないと考えられています。

 続く後編では、法科大学院における臨床法学教育の現状とその必要性を、実際の例を通して解説していきます。

後編につづく



 写真/市川貴浩
 編集/八島心平(BIZLAW)


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この連載記事を読む
 伝説の法務部員、語る。/ 河村 寛治(明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐)

河村 寛治

Profile

河村 寛治 [明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐]

1971年、早稲田大学法学部卒。伊藤忠商事株式会社入社、法務部配属。1977年、ロンドン大学大学院留学。1981年、伊藤忠ヨーロッパ会社(ロンドン)駐在。1990年、法務部国際法務チーム長。1998年、明治学院大学法学部教授。2004年、明治学院大学法科大学院教授。2013年、明治学院大学学長補佐。2015年4月、明治学院大学法学部教授に就任。
主な著書に『契約実務と法[改訂版]』(2014、第一法規)、『国際取引・紛争処理法』(2006、同友館)などがある。共著に『実践 英文契約の読み方・作り方』(2002、中央経済社)、『国際売買契約 ウィーン売買条約に基づくドラフティング戦略』(2010、レクシスネクシス・ジャパン)、『国際取引と契約実務[第3版]』(2008、中央経済社)、『現代企業法務 1(国内企業法務編)』(2014、大学教育出版)、『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(2014、レクシスネクシス・ジャパン)、『グローバルビジネスロー基礎研修1 企業法編』(2015、レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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