MENU
BIZLAW BIZLAW
Powerd by LexisNexis®
BIZLAW
BIZLAW Powerd by LexisNexis®

RSS
Google+
Twitter
Facebook
HOME

企業の資金調達の流れ
(企業金融の概略解説)(後編)

明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐 河村 寛治

densetsu_main_image

伝説の法務部員、語る 第5回

 1泊3日のフライトで契約交渉をまとめ、帰国の便に急遽本社からのオファーが入り、別の案件のために国を跨ぐ。法務部在職中に渡航した国は数十か国を超え、約10億ドルに及ぶディールを手掛ける。現在の日本ではまるでフィクションのように思えるこれらのビジネスワークを、80~90年代当時、超人的な密度でこなし続けた一人の法務パーソンが存在した。この連載では、伊藤忠商事株式会社法務部に所属し、法務部国際法務チーム長として活躍した河村寛治氏(現 明治学院大学法学部教授)に、そのエピソードの一端を明かしてもらいながら、法務パーソンが追うべき時事的課題とその対応について語っていただく。第5回、テーマは「企業の資金調達の流れ(企業金融の概略解説)」について。



 関連記事
  伝説の法務部員、語る。 第1回 企業不祥事が明るみとなったとき、法務部門はどう動くべきか (前編)
  伝説の法務部員、語る。 第1回 企業不祥事が明るみとなったとき、法務部門はどう動くべきか (後編)
  伝説の法務部員、語る。 第2回 社外取締役は企業不祥事を防止できるのか? (前編)
  伝説の法務部員、語る。 第2回 社外取締役は企業不祥事を防止できるのか? (後編)
  伝説の法務部員、語る。 第3回 企業買収事例における法務部のあり方 (前編)
  伝説の法務部員、語る。 第3回 企業買収事例における法務部のあり方 (後編)
  伝説の法務部員、語る。 第4回 法務部の命題、牽制機能とサービス機能のバランス(前編)
  伝説の法務部員、語る。 第4回 法務部の命題、牽制機能とサービス機能のバランス(後編)
  伝説の法務部員、語る。 第5回 企業の資金調達の流れ(企業金融の概略解説)(前編)



企業価値、事業価値とは
一体何か

 今回は、最近よく言われている「企業価値」や「事業価値」について解説してみましょう。

 「企業価値」「事業価値」とは、現在の企業における事業や投融資活動が将来どれだけのキャッシュフローを生むか、という観点に重きが置かれた指標となっています。

 ここでの企業価値とは、「本業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いた総額」であり、事業価値とは、「対象事業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いた総額」のことです。このように、日常的な企業活動で得られるキャッシュフローのほかは、資金調達が企業価値や事業価値に密接に関係しているため、企業価値を高めるためには、「財務の最適化」が必要となるのです。具体的には、負債を利用して「財務のレバレッジ効果」を得て、価値向上を図るほか、有利子負債を活用した「負債の節税効果」等を得る方法などが挙げられます。

 負債調達(デット・ファイナンス)が多い企業は、負債比率が高い資本構成となり、一方で、株式や社債の発行を伴うエクイティ・ファイナンスが多い企業や負債調達が少ない企業は、負債比率が低くなるため、自己資本比率の高い資本構成となります。負債を増やせば、それにかかる支払利息は、費用として処理できるので節税効果が得られますが、負担(会計上の引当金などを指します。これは負債ではありませんが、企業会計にとっては負担となるものです)が増えれば倒産確率が高まるため、リスク負担のための負債にかかる支払利息の利率が増えるということになるのです。そのため、企業金融には、企業価値と資本構成の関係をバランスの良い状態に導くことが求められることとなります。これを最適資本構成と呼びます。

 これら最適資本構成を含む企業価値を示す指標としては、「総資本経常利益率」「ROE」「ROI」など様々なものが利用されています。金融機関にとっての企業価値、投資家にとっての企業価値、事業買収などの関係者にとっての企業価値など、その企業価値を必要とする立場や状況によって、その指標や尺度は異なります。


企業価値の評価方法

 このような企業価値の評価方法には、大きく分けてコスト・アプローチ(清算価値法など)、マーケット・アプローチ(類似企業比較法など)、インカム・アプローチ(DCF法など)の3種類が挙げられます。3番目のインカム・アプローチが、事業が継続されることを前提としたものであり、この企業価値の評価は、将来のキャッシュフローをベースに行われます。

 つまり企業価値は、事業価値に金融資産を加算したものとなりますが、この事業価値は、将来のキャッシュフローの現在価値となるため、まずは将来のキャッシュフローを予測することが求められます。そのためには、客観的な評価である過去の決算書などから将来を予測するのですが、通常は、「売上高」「売上原価」「販売費及び一般管理費」「減価償却費」「運転資本増加額」「設備投資」等に関して、過去平均の比率等を参考に算出することとなります。もちろん、将来の不安材料など不都合な事情が明らかであれば、その影響は反映されていきます。

 そして、この将来のキャッシュフローを割り引いた金額が、「現在価値」となり、この割引率は、実務的には、一定の任意の比率を設定するか、あるいは市場におけるデータ等を利用して設定します。その設定には、企業価値を評価する当事者にとって期待される投資リターン率が考慮されることとなります。これら将来のキャッシュフローを各年毎に現在価値に計算して、それを合計すれば、「事業価値」になるわけですが、何年分を合算するべきかという問題が出てきます。当然のことですが、この合算期間が長くなればなるだけ、将来のキャッシュフローの予測の確実性は薄まることとなるため、正確性は期待できなくなります。ただし最近は、企業の決算書類の公表の際に、キャッシュフロー計算書も公表されることとなるため、従前よりは、将来のキャッシュフローの予測がしやすくなっています。


コンプライアンスの真の意味、
企業法務部員の役割

 この企業における資金調達、つまり「企業金融」は、企業活動の様々な局面において、常に考慮すべき経営の中核をなすものです。さらに「企業価値」の向上という課題も、重要な経営判断です。

 企業による金融活動は、基本的には、「法」によって規制されており、企業価値の向上に関しても、企業活動そのものについても、「法」などのルールを遵守することが求められていることから、コンプライアンスが重要となります。

 このような金融活動、さらには企業活動そのものは、その法や一定のルールに違反しないよう、法やルールの枠組みの中で、つまり許容された法やルールの一般的枠組みの中で行われなければなりません。その意味では、「金融と法」は、さらには「ビジネスと法」の融和は、それを規制する法やルールと表裏一体の金融活動あるいは企業活動のすべてにかかわる重要な課題です。これがコンプライアンスの重要な目的でもあるのです。

 組織内において、このようなコンプライアンスが的確に実施されているかどうかを見守るため、中心的な役割を担うのが、法務部門であり、法務部員です。最近のように、グローバルに企業活動が展開されるようになっている時代においては、ビジネス活動そのものだけでなく、刑事罰の対象となるマネーロンダリング規制やテロ資金対策など、企業の資金調達を含め、金融活動に関して、より注意を向けることが必要です。もし、万一、これら金融活動に関連して不祥事が発生すれば、それはただちに企業価値の減少につながることになってしまうでしょう。

 前編でも解説した与信取引に関連して言うと、そもそも商社という業種は、昔から帳合などの取引に関与することがありました。取引当事者にとって、債権回収リスクなどの回避手段として、また資金負担の軽減を図るために、信用及び資金力のある会社を取引に介入させるというケースも多く存在していたのです。しかし最悪の場合には、当初の取引当事者間が結託して物流を伴わない架空取引を行い、商社がそれに巻き込まれてしまうというケースも少なからずありました。

 私自身は直接的に担当することはありませんでしたが、同僚が担当した事件では、実態の把握を含め関係者が苦労した案件もありました。このような介入取引自体がすべて問題であるというわけではありませんが、中には、最近の福岡魚市場事件のように、循環取引など商品が転々とされる過程で、意図的に対象商品が実在しなくなってしまうというケースもあったようです。これらは、対象商品を常に確認し、受渡しが現実になされたかどうかを確認するなど売買取引の基本動作を徹底することで避けることができます。また、取引自体の妥当性(たとえば、化学品問屋などが魚を扱うことは妥当とは言えません)や、市場規模に比べて取引額が異常に多いなど取引の異常性をチェックすることも必要となるでしょう。

 いずれにしても、取引自体に何らかの違和感を覚えた場合には、その取引の原点に立ち戻り、対象商品の物理的な存在の確認や、債権債務残高の確認などを含め、契約書類や受渡書類などを確認しておくことが必要です。事件が発覚してからではなく、事前にこれら問題を発見することで、損失の軽減を含め、対応はやりやすくなるでしょう。これが企業法務に期待される予防法務としての重要な機能であり、その意味でも企業法務部や法務部員の存在は、強力な戦力となることが期待されているわけです。



 写真/市川貴浩
 編集/八島心平(BIZLAW)


book_global_businesslaw

グローバルビジネスロー基礎研修 1企業法編
Basic Training of Global Business Law 1 Business Law

井原 宏 / 河村 寛治(編著)
定価:¥5,600+税

出版社:   レクシスネクシス・ジャパン
ISBN-13:  9784908069338
発売日:   2015/11/12




この連載記事を読む
 伝説の法務部員、語る。/ 河村 寛治(明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐)

河村 寛治

Profile

河村 寛治 [明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐]

1971年、早稲田大学法学部卒。伊藤忠商事株式会社入社、法務部配属。1977年、ロンドン大学大学院留学。1981年、伊藤忠ヨーロッパ会社(ロンドン)駐在。1990年、法務部国際法務チーム長。1998年、明治学院大学法学部教授。2004年、明治学院大学法科大学院教授。2013年、明治学院大学学長補佐。2015年4月、明治学院大学法学部教授に就任。
主な著書に『契約実務と法[改訂版]』(2014、第一法規)、『国際取引・紛争処理法』(2006、同友館)などがある。共著に『実践 英文契約の読み方・作り方』(2002、中央経済社)、『国際売買契約 ウィーン売買条約に基づくドラフティング戦略』(2010、レクシスネクシス・ジャパン)、『国際取引と契約実務[第3版]』(2008、中央経済社)、『現代企業法務 1(国内企業法務編)』(2014、大学教育出版)、『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(2014、レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




ページトップ