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企業の資金調達の流れ
(企業金融の概略解説)(前編)

明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐 河村 寛治

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伝説の法務部員、語る 第5回

 1泊3日のフライトで契約交渉をまとめ、帰国の便に急遽本社からのオファーが入り、別の案件のために国を跨ぐ。法務部在職中に渡航した国は数十か国を超え、約10億ドルに及ぶディールを手掛ける。現在の日本ではまるでフィクションのように思えるこれらのビジネスワークを、80~90年代当時、超人的な密度でこなし続けた一人の法務パーソンが存在した。この連載では、伊藤忠商事株式会社法務部に所属し、法務部国際法務チーム長として活躍した河村寛治氏(現 明治学院大学法学部教授)に、そのエピソードの一端を明かしてもらいながら、法務パーソンが追うべき時事的課題とその対応について語っていただく。第5回、テーマは「企業の資金調達の流れ(企業金融の概略解説)」について。



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コーポレート・ファイナンスとは

 企業における資金調達は、経営の重要課題の一つです。

 この企業の資金調達は、大きく分けて、第一に生産設備や施設などの固定資産の取得や維持に必要な「設備資金」と、企業の製造・販売活動のための部品や材料等の調達などのために必要な「運転資金」に分かれます。前者の設備資金に関しては、金融機関からの借入れや投資家から調達した社債や出資金を主要な資金源とするケースが多く、後者の日常的な運転資金の調達に関しては、一部は金融機関からの運転資金用の借入れ(通常は、短期のものが多い)によるものの、それ以外は、ほとんど日常の企業活動に伴う与信取引に伴うものが多いといえるでしょう。

 企業の資金調達に関しては、これまでは「コーポレート・ファイナンス」という表現が取られ、どちらかというと銀行等からの借入れ(デット・ファイナンス)や資本市場からの調達(エクイティ・ファイナンス)などが一般的でした。金融機関や投資家の視点から、企業価値やその算出方法などが解説されることが少なくなかったのです。しかし実際に企業における金融の中心となるのは、与信取引などの企業の取引活動に関連した「企業金融」です。この企業金融が重要な役割を果たすことが、本来の意味での「コーポレート・ファイナンス」でしょう。

 つまり、いわゆる「コーポレート・ファイナンス」とは、金融機関や投資家から見た企業金融というよりは、企業の側に立った、企業にとっての資金調達のことを指すのんです。そこでは、企業間取引における信用取引に伴う資金調達が中心となりますが、資機材の調達のためのファイナンス・リース取引や、企業の投資活動に伴うプロジェクト・ファイナンス、さらには企業の経営戦略に伴う資産の流動化なども、企業にとっては重要な資金調達の手段です。それらの手段は経営指標を高めることも目標としています。


与信取引による資金調達とは

 企業間の取引は、そのほとんどが掛け売りとなっており、買主側の企業にとっては、その代金決済の時期を遅らせることができれば、それだけ資金の融通がつくこととなります。そのためには、取引の相手方企業において、どの程度の決済期間を認めてくれるか、つまり信用供与を認めてくれるかどうかという点が問題となり、これを「与信行為」と言います。もちろん、取引当事者が下請代金支払遅延等防止法における下請け関係にある場合には、この決済期限の規制の対象となります。

 通常、このような与信取引に関しては、債権保全の問題を伴うこととなりますが、売主である債権者としては、買受側企業の信用状況を見ながら、代金の回収リスクを回避するために物的な担保を取得する必要があるかどうかが検討されることとなります。

 一般的に、継続的な取引関係にある場合には、不動産や動産などを担保として提供しますが、いざという場合に処分換価性が高い売掛債権や商品などの動産などが、より効果的な担保であるとされています。一方で、原材料を購入して製品などを製造販売している企業にとっては、債務者として担保等を提供して与信を受ける側となりますが、他方では、債権者として製品等の販売代金等の回収のために、信用を供与し、担保等を取得する側にもなります。

 ちなみに、取引当事者間に介入する場合、取引先企業から回収した手形(最近ではあまり利用されなくなりましたが)に関して、その決済期日まで待つのではなく、それを期日前に資金化するとか、仕入先に対して、その手形を決済手段として利用する方法があります。これと同様なものが、「売掛債権の流動化」です。この売掛債権の流動化は、通常は決済期限内の短期的な資金調達となるわけですが、それが長期的なもの、つまり特定のプロジェクトに関係するものは、いわゆる「プロジェクト・ファイナンス」と呼ばれるものが多いのです。これらは、いったん企業として引受けた与信リスクを、金融機関等に対して転嫁することとなります。

 与信リスクの観点からは、取引先の信用状況を調査・分析し、その結果、取引先企業毎に与信限度という取引額の最大限の限度額を設定し、債権額がこれを超えないように管理することが必要となります。これを「与信管理」と呼び、総合商社などの多くは、与信管理を専門に扱う組織を持っています。

 いずれにしても企業の経営者や財務の責任者などにとっては、日常のビジネスに関連した金融やそれにかかわる法律あるいは法的問題を意識し、そこに内在するリスクの分析やその回避方法を心得ておくことが求められます。


決算書とキャッシュフロー

 以上で説明した企業の日常的な企業活動に伴う資金調達、つまりキャッシュフローを利用した資金調達がなぜ重要かというと、キャッシュフローは、どちらかというとバーチャルな会計上の損益ではなく、現金の流れをベースに会社の資金不足部分をどのように調達するか、企業の運転資金をどう調達するかを問題にしているからと言えます。

 よく例に出されるのが黒字倒産です。会計上は利益が出ているのに、企業に資金、つまりキャッシュがないために倒産に追い込まれるという事態です。黒字倒産の発生にはさまざまな原因がありますが、簡単なものは、会計上は売上げが計上されているものの、その代金が取引先から回収ができていないため、手元の資金がなくなってしまうケースです。つまり、入金される現金(キャッシュ・インフロー)と出ていく現金(キャッシュ・アウトフロー)に差が出てしまうということが原因です。

 このキャッシュフローと比較して、会計上の記録を示す貸借対象表と損益計算書があります。貸借対照表は期末などの企業の資産や負債を示すものであり、バランスシートとも呼ばれています。また一定の期間の収益を数字で表すものが損益計算書(プロフィット・ロス・ステートメント)です。企業の決算書類を過去の決算書類と比較することにより、企業の収益を含め、資産や負債の変動を認識することができるので、企業経営上の問題や課題が明らかになります。このような経年経緯を検証することが与信管理を行ううえで重要なのです。

 私がかつて勤めた商社では、入社してしばらくは、債権保全を含めた債権管理がその業務の中心でした。そこでは、与信取引の相手先企業から物的担保や人的担保を取得することが多く、不動産担保を取得した場合には、その評価をすることも少なくなかったのです。その際の不動産の評価は、通常の売買対象としてではなく、債権回収のために必要な処分価値としてものでした。そのため、近隣の売買事例を参考にするだけでなく、収益物件の場合については、収益還元法という方法を利用した評価をすることも経験しました。この収益還元法とは、不動産からの収益から管理費用等を差し引き、それをベースに利回りを算定するというものでした。

 結果として、不動産鑑定がどのように行われるか、さらには、現実にその不動産を処分して債権回収を図るということも経験することができ、自身が行った不動産評価が適切であったかどうかも実証することができました。

 また取引先が信用不安や倒産状態に陥った際の、決算書内容の検証方法や、また再生や回収のための決算内容の見直し方など、さらには任意整理などの際の債権者への資産分配など、不動産評価にかかる案件から学んだ実務経験が非常に多かったことを覚えています。このような経験は、その後、海外での不動産開発や様々な投資プロジェクトなどに関与した際に、その収益性とともにリスクなどを分析・判断するためにも非常に役に立ちました。そこでは、もちろんキャッシュフローの必要性や、その将来収支の分析などの重要性も認識することができたわけです。

 続く後編では、最近よく耳にする言葉である「企業価値、事業価値」と、キャッシュフローの関係について解説していきたいと思います。



 写真/市川貴浩
 編集/八島心平(BIZLAW)


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グローバルビジネスロー基礎研修 1企業法編
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井原 宏 / 河村 寛治(編著)
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出版社:   レクシスネクシス・ジャパン
ISBN-13:  9784908069338
発売日:   2015/11/12




この連載記事を読む
 伝説の法務部員、語る。/ 河村 寛治(明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐)

河村 寛治

Profile

河村 寛治 [明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐]

1971年、早稲田大学法学部卒。伊藤忠商事株式会社入社、法務部配属。1977年、ロンドン大学大学院留学。1981年、伊藤忠ヨーロッパ会社(ロンドン)駐在。1990年、法務部国際法務チーム長。1998年、明治学院大学法学部教授。2004年、明治学院大学法科大学院教授。2013年、明治学院大学学長補佐。2015年4月、明治学院大学法学部教授に就任。
主な著書に『契約実務と法[改訂版]』(2014、第一法規)、『国際取引・紛争処理法』(2006、同友館)などがある。共著に『実践 英文契約の読み方・作り方』(2002、中央経済社)、『国際売買契約 ウィーン売買条約に基づくドラフティング戦略』(2010、レクシスネクシス・ジャパン)、『国際取引と契約実務[第3版]』(2008、中央経済社)、『現代企業法務 1(国内企業法務編)』(2014、大学教育出版)、『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(2014、レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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