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法務部の命題、牽制機能と
サービス機能のバランス(後編)

明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐 河村 寛治

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伝説の法務部員、語る 第4回

 1泊3日のフライトで契約交渉をまとめ、帰国の便に急遽本社からのオファーが入り、別の案件のために国を跨ぐ。法務部在職中に渡航した国は数十か国を超え、約10億ドルに及ぶディールを手掛ける。現在の日本ではまるでフィクションのように思えるこれらのビジネスワークを、80~90年代当時、超人的な密度でこなし続けた一人の法務パーソンが存在した。この連載では、伊藤忠商事株式会社法務部に所属し、法務部国際法務チーム長として活躍した河村寛治氏(現 明治学院大学法学部教授)に、そのエピソードの一端を明かしてもらいながら、法務パーソンが追うべき時事的課題とその対応について語っていただく。第4回、テーマは「法務部の命題、牽制機能とサービス機能のバランス」について。



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コーポレートガバナンスを担う
牽制組織としての法務部は、
本部/事業部のどちらに立つべきか

 前回お話したとおり、企業法務部門に期待されているのは牽制機能です。

 それを比較的容易に果たすことができるのは、日常的な法務関連業務だけでなく、企業の経営上重要な課題となるような場合です。そのためにも、経営方針の策定を含め、企業経営上の意思決定時に、適時にかつ適切なリスク分析を含めて、問題をあらかじめ指摘しつつ、段階的な判断をすることができるような方法を提案できる体制や発言力を強めておくことが必要です。

 企業活動全体としてのコンプライアンスの徹底という視点や、法務部門としての果たすべき役割としての視点以外にも、法務部としての存在感や影響力の問題として、最近は特にこの牽制機能が指摘されることが多くなってきています。
 そのため、新たな事業への投資や、多額の投資を必要とするプロジェクト案件などに関しては、法務部門としても、営業部門と同様、あるいはそれ以上の勉強が必要とされるかもしれません。

 一般的には、法務部門は、どちらかというとネガティブな意見を指摘することが多い部門であると認識されているため、会議などでも敬遠されることが少なくありません。本来は、否定的な意見でもそれを具申することが求められている組織として法務部は存在しているものの、現実としてリスクや問題点、それも発生の可能性が低いと思われる問題点を指摘することは非常に難しいものです。反面、法に反するような事案は、意見を具申することはそれほど難しくはありません。

 とはいえ、現実的には、企業活動において、そのように法に明らかに反するようなことをあえて行うということ、そのための社内決済手続を行うことはほとんどないため、どちらかというと法的にグレーな事案であるとか、将来的に問題となるような案件が法務部として意見を具申する対象となると考えられます。
 企業理念に反するような行為については、企業理念や社是社訓に反するとか、企業が策定した企業行動基準などを明確にしておくことによって、より問題を指摘しやすく、説得力も強めることができます。これもまたコンプライアンスの一般的な役割でしょう。

企業の社会的責任が
法務の役割を変えていった

 企業が持つ社会的責任が強く意識されはじめ、企業活動の対応に変化が出てきたのは、1970年代におきたオイルショックをきっかけとして発生した大企業の買占めなどをはじめとした問題からでした。

 当時は、「企業が行うべきではないとされた事業や取引などについては、あえて取り組まない」などという経営方針が確認されるなど、企業活動のあり方が特に強く意識されるようになっていた時期です。企業が持つ社会的責任に対する関心が強まった表われでしょうか、企業として、社会への貢献が強く意識されるようになり、当時、多くの企業では、社会的な貢献をするため、財団をつくり社会貢献活動などを行うということが広く行われた時代でもありました。

 このような企業を取り巻く環境の厳しさや社会的責任に対する意識の高さが強まり、従来のような集中的かつ専門職的な企業法務の組織では問題に対応できなくなり、また市場での取引案件や取組みの仕組みが複雑化してくるにつれ、さまざまな法的知識の確保と同時に、多元的な法的業務の処理が求められるようになりました。具体的には、本社組織だけでは対応が難しくなり、営業部門に、より身近なところの相談窓口的な対応が必要になりました。

 ある時期からは、株主関連業務、知的財産権関連業務、輸出管理などを含めたコンプライアンス関連業務や、子会社を含めたコンプライアンスの実施状況などの内部監査業務などを担当する組織が独立して設置されるケースが増加しました。つまり多元的でかつ複数の法務的専門部門の存在が必要となり、そこでは、当然に企業法務部門での経験を得た人材が求められ、かつ、本社的な組織と事業部門に近い組織との間での法務業務経験のある人材も必要となってきたのです。

 このような企業法務業務を担う人材の養成に関しては、全体として即戦力志向が強まることは明らかであり、実際には、法科大学院の修了生を中心として、司法試験の合格者や司法修習を経ていない者、また司法試験には合格していないが法科大学院で実務のトレーニングを経た者に加え、企業法務専門弁護士などがそれを埋めているような状況です。

 ちなみに法科大学院出身の法曹人口が削減されると、その人材養成をどうするかという問題が改めて課題となります。一例として、企業内弁護士は、2015年6月時点で1,442名となり、それまでの5年間で3倍以上に増えている状況です。
 一方、こうして各事業部門における法的関連業務が増えるにつれ、法務担当要員の増員や育成はもちろん、本社機能を果たす組織と事業部門との業務分担が問題となってきています。

本社か、それとも事業部か

 かつて、私が在籍した企業において、事業部門の分社化が検討課題となった際に、法務部門については、本社組織へ集中すべきか、あるいは各事業部門への分散化のいずれを採用するかが大きな議論となった時期がありました。
 本来なら、人員的に余裕があるのであれば、各事業部門へ分散化しつつ、ローテーション等で対応していくというのが理想的であり、営業部門に近いところでサービス業務を担当しつつ、その中で牽制機能を図るべきだというのが大方の意見であったわけです。
 しかし、その反面、本社組織の法務部門は少数となってしまうため、将来の法務業務担当要員はどのように育成したらよいかということが問題となりました。

 結果的には、分社化がスタートした当時は、まだ全体的な法務人材もそれほどは多くはなく、そもそも少数精鋭でスタートした組織を短期間に増員することもできないということが理由となり、一部の人員は、事業部門に派遣されたものの、基本は、本社組織の一部として、主に牽制機能を中心に、重要案件についてはサービス機能も果たすことで対応するということになりました。
 その結果、全社的な業務に対する牽制機能としての対応はできましたが、各事業部門に対するサービス機能を通じた牽制機能が十分に働かないという状況もあったのではないかと述懐します。

 ただその後、20年近くの間の経過を見ると、前述のように企業内法務関連業務が専門化し、かつ多元化してきたことも踏まえ、それまでは別組織であった輸出管理やその他のコンプライアンスを担当する組織を加えると、全体としての法務担当業務要員は増加し、分社化した当時の人員の3倍以上となっているという状況を見ると以前の決断は間違っていなかったと思います。

 このように、「本社組織には法務業務担当要員がそれほど多くない」「人材を分散配置することができない」「ローテーションも難しい」というような企業は、社内的には同様の法務業務担当部門等の協力を得ることで、人員不足を補ったり、また外部的には、弁護士を利用したりして対応をせざるを得ないという状況となっているのではないでしょうか。
 こうした場合には、その対象業務はコンプライアンス対応が中心となるものと思われ、本社組織においては、「全体的なコントロールができるかどうか」「情報収集も含め、牽制機能が働くかどうか」という点について、やはり不安が残ると考えざるを得ないでしょう。

 ちなみに、内部監査部門もまた業務監査が中心となっているため、コンプライアンス上問題があったかどうかという事後的なチェック機能を果たすこととなっており、リスクや損失の事前防止につながるような予防的な役割までを期待することは基本的には無理だと考えざるを得ません。また外部の弁護士に関しては、特段、法的な問題があるのであれば、別ですが、その業務のほとんどがサービス業務中心と思われるため、弁護士単独での牽制機能を期待するのは、やはり厳しいと言えるでしょう。
 監査部門や社外弁護士との連携が期待されるとすれば、それは、「法務部門にとって、経営判断に際して単独では問題指摘の効果が期待できない」「その機会自体がない」という場合に、その力不足の部分を補うという場面に限ったことになるでしょう。

 いずれにしても、法務部門がサービス業務を提供しつつ、牽制機能を効果的に果たすためには、日ごろから経営トップや営業部門との間の信頼関係を構築しておくことが重要です。そのためには、法務部門自体としても、最大限の努力が求められることはいうまでもありません。経営層や事業部門との信頼関係が存在し、法務部の発言が重みを持って理解される状況があってこそ、適正な経営判断を実現するための法務部の牽制機能がはじめて期待され得るといえるとともに、その効果が得られることになるのです。


 写真/市川貴浩
 編集/八島心平(BIZLAW)


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発売日:   2015/11/12




この連載記事を読む
 伝説の法務部員、語る。/ 河村 寛治(明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐)

河村 寛治

Profile

河村 寛治 [明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐]

1971年、早稲田大学法学部卒。伊藤忠商事株式会社入社、法務部配属。1977年、ロンドン大学大学院留学。1981年、伊藤忠ヨーロッパ会社(ロンドン)駐在。1990年、法務部国際法務チーム長。1998年、明治学院大学法学部教授。2004年、明治学院大学法科大学院教授。2013年、明治学院大学学長補佐。2015年4月、明治学院大学法学部教授に就任。
主な著書に『契約実務と法[改訂版]』(2014、第一法規)、『国際取引・紛争処理法』(2006、同友館)などがある。共著に『実践 英文契約の読み方・作り方』(2002、中央経済社)、『国際売買契約 ウィーン売買条約に基づくドラフティング戦略』(2010、レクシスネクシス・ジャパン)、『国際取引と契約実務[第3版]』(2008、中央経済社)、『現代企業法務 1(国内企業法務編)』(2014、大学教育出版)、『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(2014、レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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