MENU
BIZLAW BIZLAW
Powerd by LexisNexis®
BIZLAW
BIZLAW Powerd by LexisNexis®

RSS
Google+
Twitter
Facebook
HOME

法務部の命題、牽制機能と
サービス機能のバランス(前編)

明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐 河村 寛治

densetsu_main_image

伝説の法務部員、語る 第4回

 1泊3日のフライトで契約交渉をまとめ、帰国の便に急遽本社からのオファーが入り、別の案件のために国を跨ぐ。法務部在職中に渡航した国は数十か国を超え、約10億ドルに及ぶディールを手掛ける。現在の日本ではまるでフィクションのように思えるこれらのビジネスワークを、80~90年代当時、超人的な密度でこなし続けた一人の法務パーソンが存在した。この連載では、伊藤忠商事株式会社法務部に所属し、法務部国際法務チーム長として活躍した河村寛治氏(現 明治学院大学法学部教授)に、そのエピソードの一端を明かしてもらいながら、法務パーソンが追うべき時事的課題とその対応について語っていただく。第4回、テーマは「法務部の命題、牽制機能とサービス機能のバランス」について。



 関連記事
  伝説の法務部員、語る。 第1回 企業不祥事が明るみとなったとき、法務部門はどう動くべきか (前編)
  伝説の法務部員、語る。 第1回 企業不祥事が明るみとなったとき、法務部門はどう動くべきか (後編)
  伝説の法務部員、語る。 第2回 社外取締役は企業不祥事を防止できるのか? (前編)
  伝説の法務部員、語る。 第2回 社外取締役は企業不祥事を防止できるのか? (後編)
  伝説の法務部員、語る。 第3回 企業買収事例における法務部のあり方 (前編)
  伝説の法務部員、語る。 第3回 企業買収事例における法務部のあり方 (後編)



組織内の法的リスクをカバーするための
独立性と、事業部門へのリーガルサービスを
どのように両立するべきか

 企業法務のあり方やあるべき姿については、これまでさまざまに議論がなされてきています。その役割は、個々の企業によってその発展経緯などにより異なっており、ラインかスタッフかという組織内の役割も含め議論されてきているものの、共通しているのは、リスクマネジメントという経営判断の一環としての役割でしょう。特に共通する法務の役割のひとつは、法的問題点の分析を含むリスク分析や、リスクの回避方法の検討という業務を通じて経営陣への働きかけや経営判断への意見の反映などを行うことであり、その結果として、損失を最小限に留め、利益の最大化を図るという企業としての目標を実現することに寄与することです。その積極度の濃淡は、当然に企業によって異なっているものと思われます。

 これらを実現するためには、リスクや損失が発生してからという臨床的な対応(臨床法務)を行うのではなく、その発生を可能な限り未然に防ぐということが求められることが重要です。結果として、企業経営やビジネス活動における法的な問題点を含め、可能な限りリスクや損失発生を減らすという予防的な対応(予防法務)が企業法務に求められるようになっています。そして、この予防法務としての役割を効果的に果たすためには、可能な限り、早い段階で経営判断に関与することが望ましいといえるでしょう。

 一般的には、契約書等の検討や作成業務が法務部の主要業務となっている企業が多いようですが、通常、相手方が起案した原案の提供を受けて、それを検討するというケースが少なくなく、法務部がそれを目にするタイミングも、どちらかというと「契約書がある程度まとまった段階で、最終的に問題がないかどうかをチェックしてくれ」という依頼を受けるケースが多いのではないでしょうか。また企業によっては、社内ルールで法務部のチェックを経ないと署名あるいは捺印ができないということから、そのためだけに法務部に回付されてくるというケースも多いと思われます。

 このような場合には、相手方ドラフトに落とし穴的な問題点やリスクが含まれていないかどうか、不測の損害を被るような事態はないかどうかというチェックしか法務部としてできることはありません。これはこれで法務部としての重要な機能であり、期待される役割ではあるものですが、法務部の役割は本来はこれだけではないはずです。時間的な制約がある中での対応ではなく、早い段階で営業部から相談を受けることができれば、契約書のドラフトをこちらで作成することもでき、さまざまなリスクの分析もやりやすく、また将来のリスクを回避することも可能となります。

法務パーソンとして関与した
マンション開発から見えてきたもの

 かつて、私が法務部に在籍しており、契約書の検討や作成業務を始めたころの出来事です。
 地方都市で、マンションの開発案件の相談がありました。地主の要望で、建設資金や税金といった資金拠出を一切しないような形であれば、底地の提供ができるということであったため、当時はまだそれほど事例が多くはなかった底地と開発後のマンションの居室とを等価交換する方式を採用したのです。

 その案件では、底地の譲渡が行われたことにならないよう、等価交換契約書のドラフトを起案することとなったわけですが、当時はまだマンション自体の開発が都心でも増えてきた時期であったこと、また等価交換方式などもそれほど多くの例がなく、当然のことながら等価交換に関する契約書のサンプルなどもなく、一から起案をしなければならないという状況でした。

 そのため、等価交換が有効に成立するために、「クリアすべき税務上の要件」「マンションの共用部分をどうするか」「建築費の変更等に伴い完成後に等価交換の結果、発生することのある清算分をどうするか」などといった問題への対応を含め、地主の要望を満たすために契約書に盛り込むべき事項を洗い出していきました。法務部員でありながらマンション開発の初期段階から関与するなど貴重な経験をしたものです。

 この不動産開発案件を担当したころの私は、入社後まだ経験不足な状況でした。 そのため当時の上司や営業部にとっては不安が大きかったのではないかと思います。しかしこの経験をきっかけとして、この後さまざまな局面で、私は法務部員として不動産の開発案件に関与することになり、その営業部との信頼関係を強固にすることができました。結果として、海外における不動産開発案件への参画にもつながってきたものと今では考えています。

 また、「海外でゴルフ場を開発したい」という重要な取引先からの話があり、経営陣としては、「将来のリスク負担を含め不安材料が多いので、なんとか将来の禍根を残さないよう十分に納得をさせてやめさせたいが……断念させる理由はないか」という相談を受け、数回、交渉に海外まで同行した案件がありました。案件を潰すために交渉に同行したのは、後にも先にもこれが初めてでしたが、結果的には、解約のための条件を可能な限り多く付け加えた契約の締結を行い、最終的には、弁護士代などの費用負担はあったものの、うまく納得してもらってゴルフ場開発計画を断念するという決断をしてもらったというケースがありました。その後、国内でのゴルフ場の経営難等の問題にも直面した結果、「海外でゴルフ場開発に手を出していなくてよかった、助かった」と、その取引先の社長からも感謝されたという後日談もあります。

 これらはどちらかというと、営業部と一緒に問題点を潰していきながら、法務部として、案件の実現に向けたサービス機能を果たしつつ、その結果として将来のリスクや損失を防止するという牽制機能を果たしてきたという例ではないでしょうか。

Mr.ノンコンペティションと呼ばれて

 一方、前回も紹介した米国における投資事業に関連するお話を紹介します。

 投資対象事業の中には、すでに実施している競合事業があり、投資に際して、その契約書においてどのように扱うかという点が、重要な交渉事項となっていました。

 私の勤務会社は商社であったため、ほとんどすべての業種の事業を行っているという関係で、競合禁止あるいは競業避止義務は受けられないということを交渉事項の重要な項目としていましたが、相手方も「この競合禁止義務がなければ、交渉が進められない」と主張を繰り返します。さまざまな打開策を探り、まずは既存の事業は除外することの了解は得ることができたものの、それ以上の譲歩はなかなか得られませんでした。

 特定の事業部門による投資事業が、他の事業部門の将来のビジネスを制約するかもしれないという問題点が交渉の最後の段階まで残り、これがクリアできなければ最終的に契約書に署名できないという状況にも追い込まれましたが、すべての事業部門と協議しつつ、最大限の譲歩を引き出す交渉をしながら、相手方の最終的な了解を得て交渉をまとめあげるという経験も積むことができました。

 ちなみにこの案件では、最後まで、競業避止義務条項について、こちらが頑張るという状況となったため、相手方からは会うたびに、「Mr.ノンコンペティション」と呼ばれていたものでした。

 こうしたケースは、法的な問題というよりも、他の事業部門の将来のビジネスチャンスを制限してしまうリスクがあるかもしれない、という全社的な経営判断の問題となります。そのため、経営判断に際しては、契約違反となるリスクを回避するという問題を全社的に理解してもらうことが重要な課題です。その結果として、どちらかというと、企業の内部組織である企業法務部門が中心となって、経営判断に際して意見を具申するなどという積極的な対応を行うことでリスク回避を図った事例と言えるでしょう。

 そして、法務部が牽制機能を振るうスタンスが、本社組織としての機能なのか、それとも各事業部門組織としてのものなのかによって、牽制機能そのものの意味合いも異なってきます。

 続く後編で、詳しく見ていきましょう。



 写真/市川貴浩
 編集/八島心平(BIZLAW)


book_global_businesslaw

グローバルビジネスロー基礎研修 1企業法編
Basic Training of Global Business Law 1 Business Law

井原 宏 / 河村 寛治(編著)
定価:¥5,600+税

出版社:   レクシスネクシス・ジャパン
ISBN-13:  9784908069338
発売日:   2015/11/12




この連載記事を読む
 伝説の法務部員、語る。/ 河村 寛治(明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐)

河村 寛治

Profile

河村 寛治 [明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐]

1971年、早稲田大学法学部卒。伊藤忠商事株式会社入社、法務部配属。1977年、ロンドン大学大学院留学。1981年、伊藤忠ヨーロッパ会社(ロンドン)駐在。1990年、法務部国際法務チーム長。1998年、明治学院大学法学部教授。2004年、明治学院大学法科大学院教授。2013年、明治学院大学学長補佐。2015年4月、明治学院大学法学部教授に就任。
主な著書に『契約実務と法[改訂版]』(2014、第一法規)、『国際取引・紛争処理法』(2006、同友館)などがある。共著に『実践 英文契約の読み方・作り方』(2002、中央経済社)、『国際売買契約 ウィーン売買条約に基づくドラフティング戦略』(2010、レクシスネクシス・ジャパン)、『国際取引と契約実務[第3版]』(2008、中央経済社)、『現代企業法務 1(国内企業法務編)』(2014、大学教育出版)、『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(2014、レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




ページトップ