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企業買収事例における
法務部のあり方 (前編)

明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐 河村 寛治

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伝説の法務部員、語る 第3回

 1泊3日のフライトで契約交渉をまとめ、帰国の便に急遽本社からのオファーが入り、別の案件のために国を跨ぐ。法務部在職中に渡航した国は数十か国を超え、約10億ドルに及ぶディールを手掛ける。現在の日本ではまるでフィクションのように思えるこれらのビジネスワークを、80~90年代当時、超人的な密度でこなし続けた一人の法務パーソンが存在した。この連載では、伊藤忠商事株式会社法務部に所属し、法務部国際法務チーム長として活躍した河村寛治氏(現 明治学院大学法学部教授)に、そのエピソードの一端を明かしてもらいながら、法務パーソンが追うべき時事的課題とその対応について語っていただく。第3回、テーマは「企業買収事例における法務部のあり方-リスクの分析と分配を中心として-」。



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~デュー・デリジェンスの役割と現状~

 最近では、グローバル企業以外でも、企業買収や経営統合に関して、その対象企業が買収や統合に値するかどうかを事前に評価することが必要となっています。そのための手段が、企業の内容を把握するためのデュー・デリジェンス(Due Diligence)です。米国を含め海外での企業買収・統合などの場合には、このデュー・デリジェンスは当然のことのように行われていますが、日本では、従来は財務諸表や開示営業報告などの形式的な調査などだけですませることが多く、米国のように弁護士や会計士などの専門家を総動員して詳細な企業調査を行うようなことは非常に稀でした。

 しかし最近は、将来の不測のリスクを発見したりするため、このような詳細な調査を行うことも多くなっているようです。特に会計書類などには現れていないような隠れた瑕疵や負債などを見つけるためには、詳細な調査は非常に重要です。

 デュー・デリジェンスの目的には、企業買収や経営統合などにあたって、対象会社の内容を的確に把握し、それが買収あるいは統合対象として適切な内容の企業であるかどうか、またその会社に隠された負債や想定外の損害賠償責任などの問題がないかどうかを徹底的に調査することはもちろん、対象企業を取り巻く、政治的・経済的な環境、販売環境、生産環境、労働環境、資金環境などを調査することにより、買収や統合後に対象企業を円滑に経営・運営するための必要な情報を確保することも含まれます。

「取りあえずの評価素材」としての
企業開示情報

 つまりデュー・デリジェンスとは、対象企業が買収や統合に値する企業かどうか、また対象企業の将来の収益力は問題ないかどうか、経営はうまく行われているかどうか、また労使の関係はうまくいっているのかなど、買収や統合後に当該企業や事業を円滑に経営し、運営することができるかどうかを検証するプロセスなのです。デュー・デリジェンスの徹底は、リスクを最小限とした企業買収や経営統合の成功に直結しているため、非常に重要な課題といえるでしょう。

 しかし一般的には、対象企業の情報については、公表されているもの以外は存在していないことが多く、企業を評価するために必要な情報をすべて開示しているという企業はそれほど多くはありません。そのため日本では、まずは公表されている決算書などの財務諸表や事業報告などの企業開示情報に頼ることになります。けれどもそれだけでは十分な情報とはいえません。また、米国ではForm 10-Kという証券取引委員会に届けられているもの(日本での有価証券報告書に近い)が参考になるとされていますが、もちろんそれだけでも、十分ではないのです。

 このような不十分な資料から、企業の収益力や、安定性・将来性、技術力や販売力などを判断することになるわけですから、限界があるのは明らかです。特に、上場企業でない場合には、公表されている情報量にも限りがあります。取引先企業であれば、与信管理のための資料はあるものの、まずは一般的な公表情報から判断せざるを得ないでしょう。企業の価値についての具体的な評価方法は、最終的にはデュー・デリジェンスの結果によることとなりますが、まずは限られた開示情報から、買収・統合対象としての価値があるかどうかを含め企業の価値を評価することになるので、決算書などの財務諸表や事業報告などの企業開示情報などによる評価は、「取りあえずの評価」ということになります。

 また、売却先を公募しているような場合には、米国などでは、一定期間、当該企業が保有する関連資料も含め、必要な情報を買収希望会社に対し開示するという実務も行われています。この場合には企業の評価も行いやすくなると思われますが、買収希望会社も競合することになるケースが多いため、開示資料の評価に許容される調査に要する時間などは、当然に一定の制約があります。

 企業買収・統合を行おうとする企業にとっては、できるかぎり時間をかけて必要な調査をすべて実施したいと考えるのが通常ですが、どのような目的で調べるかにより、その調査範囲などは異なります。当然のことながら、調査のために与えられる期間や方法などは自ずと限定される場合もあり、また闇雲に時間をかければよいという問題でもありません。 特に、競争入札などの場合には調査期間が2~3日程度に限られてしまい、入札予定者が十分に関係書類をコピーできないようなケースもあります。

大規模なデュー・デリジェンスから
法務部員が得られるもの

 ここで、かつて私が在職した商社において経験した、デュー・デリジェンスに関する印象深いエピソードをお話しましょう。

 ヒューストンにあった米国会社が保有するインドネシアにおける石油ガスの権益が入札対象となったケースに関与したときのことです。許容されたデュー・デリジェンスの期間が合計で3日間しかなく、最終日にマネジメントインタビューをしようとすると、契約書などの書類チェック期間は、実際上2日程度しかないという非常に厳しいスケジュールでした。

 その件は、入札予定金額もある程度の金額が予想され、かかる費用はあまり意識しなくてよいということでもあったので、とにかく、与えられた期間内に、入札金額を決めるために必要な情報を収集することを優先的な第1目標として、米国の弁護士事務所から5~6名を集め、かつ会計事務所からも5名程度の公認会計士に参加してもらい、一部屋に集められていた膨大な資料の読破と問題点やリスクの洗い出しをわずか2日ほどで行ったのです。その件では、営業の責任者はマネジメントインタビューに時間のほとんどをかけていたため、結果的には、法務部員であった私自身が弁護士や会計士の作業の指揮を執るはめになったのです。その結果の分析作業も含め、その後もこれほど厳しい経験をしたことはありませんでした。
 その入札案件は、結果的には失注してしまったのですが、法務部員としては、営業部からの絶大の信頼を獲得し、さらに一緒に入札に共同で参加した外国企業のトップからも気に入られたという実りを得ました。

 デュー・デリジェンスの規模が大きくなればなるほど、法務部員は時間と戦わなければなりません。「円滑な企業買収による経営統合」という目標を常に念頭に置きながら、非常に大きな負荷の中で資料を分析することが求められます。
 では、この「円滑な企業買収による経営統合」を実現するためには、どのような課題をクリアしなければならないのでしょうか?

 続く後編でお話していきましょう。

(後編につづく)



 写真/市川貴浩
 編集/八島心平(BIZLAW)


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グローバルビジネスロー基礎研修 1企業法編
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井原 宏 / 河村 寛治(編著)
定価:¥5,600+税

出版社:   レクシスネクシス・ジャパン
ISBN-13:  9784908069338
発売日:   2015/11/12




この連載記事を読む
 伝説の法務部員、語る。/ 河村 寛治(明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐)

河村 寛治

Profile

河村 寛治 [明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐]

1971年、早稲田大学法学部卒。伊藤忠商事株式会社入社、法務部配属。1977年、ロンドン大学大学院留学。1981年、伊藤忠ヨーロッパ会社(ロンドン)駐在。1990年、法務部国際法務チーム長。1998年、明治学院大学法学部教授。2004年、明治学院大学法科大学院教授。2013年、明治学院大学学長補佐。2015年4月、明治学院大学法学部教授に就任。
主な著書に『契約実務と法[改訂版]』(2014、第一法規)、『国際取引・紛争処理法』(2006、同友館)などがある。共著に『実践 英文契約の読み方・作り方』(2002、中央経済社)、『国際売買契約 ウィーン売買条約に基づくドラフティング戦略』(2010、レクシスネクシス・ジャパン)、『国際取引と契約実務[第3版]』(2008、中央経済社)、『現代企業法務 1(国内企業法務編)』(2014、大学教育出版)、『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(2014、レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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