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企業不祥事が明るみとなったとき、
法務部門はどう動くべきか(前編)

明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐 河村 寛治

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 1泊3日のフライトで契約交渉をまとめ、帰国の便に急遽本社からのオファーが入り、別の案件のために国を跨ぐ。法務部在職中に渡航した国は数十か国を超え、約10億ドルに及ぶディールを手掛ける。現在の日本ではまるでフィクションのように思えるこれらのビジネスワークを、80~90年代当時、超人的な密度でこなし続けた一人の法務パーソンが存在した。この連載では、伊藤忠商事株式会社法務部に所属し、法務部国際法務チーム長として活躍した河村寛治氏(現 明治学院大学法学部教授)に、そのエピソードの一端を明かしてもらいながら、法務パーソンが追うべき時事的課題とその対応について語っていただく。第1回、テーマは「企業不祥事が明るみとなったとき、法務部門はどう動くべきか」。



企業不祥事が明るみとなったとき、法務部門はどう動くべきか
-第三者委員会報告書をもとに- (前編)

 最近、さまざまな企業不祥事がメディアをにぎわせています。

 そして、企業不祥事の対応策として、その原因等を明らかにし、実効性のある再発防止策の立案等のために、独立した第三者委員会が設置され、その報告書が公表されています。その報告書の分量は、オリンパス損失隠し事件しかり、東洋ゴム免震偽装事件や東芝不正会計事件しかり、膨大なものです。

 企業経営において、すべての不正を未然に防止することはほとんど不可能に近いといえますが、それらを早期に発見して、適切に対応することが、企業経営に求められる最大の課題であることは当然のことです。そのためには、ガバナンス機能の強化や、適正な内部統制システムの整備が必須であったのですが、これらの不祥事事例からは、どうもそれらが適正に機能しているとはいえない状況であったことが読み取れます。

 特に、東芝不正会計事件に関する第三者委員会報告書においては、「内部統制システムが適正に機能しなかった」と指摘されています。その原因等や問題の分析結果から、内部統制システムが適正に機能するにはどうしたらよいかという点を、本稿では企業法務の視点で考えてみたいと思います。前編は「経営責任と企業風土」、そして企業不祥事が発生した場合の「責任の所在」について、本報告書から取り上げてみましょう。


【経営責任と企業風土】
 東芝の報告書では、

「経営トップらが『見かけ上の当期利益の嵩上げ』を狙い、担当者らがその目的に沿う形で不適切会計を継続的に行ってきた」(※本稿内のアミかけ部分引用・抜粋は著者)

 としていますが、その原因については、

「経営トップや、事業部門の責任者に当期における損失計上を先延ばしにしようとする意図が存在したものと思料される」

 などと述べています。また、その意図が「会計処理上許されない損失先送りとの認識を含むものであったか否か」は明確にされていませんが、歴代3社長が現場に圧力をかけるなどして、

「経営判断として不適切な会計処理が行われた」「経営トップらを含めた組織的な関与があった」

 などと、経営者の責任が厳しく指摘されています。

 そして、財務部・経営監査部・監査委員会等の内統制部門による内部統制が十分に機能しなかったとも指摘されており、

「東芝の役職員において、適切な会計処理に向けての意識が欠如していた」「上司の意向に逆らえない企業風土があった」

 などと言及がなされています。不祥事の背景が企業風土にあったと言及されている報告書は、非常に珍しいといえるでしょう。


【責任の所在】
 さらに本報告書では、

「取締役、執行役ではなかった役職員の中にも、不適切な会計処理に関与していたり、不適切な会計処理により意図的な『見かけ上の当期利益の嵩上げ』が実行されていることを認識又は容認していた者も存在する。これらの役職員のうち、少なくとも幹部職員(例えば、部長職以上の職にある職員)については、その関与の程度等を十分に検証した上で、人事上の措置(懲戒手続きの実施を含む)を適切に行うことが望ましい」

 として、責任の所在が役員だけではないことが指摘されると同時に、幹部職員全体の処分にまで厳しく言及されています。なお、役員の責任の有無に関しては、調査委員会が別途設置されています。

 東芝の場合、非常に早い時期に監査等委員会制度を導入していたため、なぜ監査委員会が今回の不祥事を見逃したのかという点も問題となっていますが、

「不適切な会計につながる事実は認識しても、それが不適切と認識していなかったケースと、会計上問題と認識していたケースがあるが、監査委員長が歴代財務担当者だったということも一因」

 であるという指摘もなされています。

「監査委員会において問題点を審議するなどの行動は行われず、また監査委員会として業務執行者に問題を指摘したりするなど何らかの行動を行うことはなかった」

 として、監査委員会が実質的に形骸化していたことが問題ではないかという指摘もなされています。

 その一方で、

「経営トップや組織の不当な関与により内部統制が有効に機能しない状況下では、組織全体がごまかしや不正な操作による組織防衛行動に走ってしまう余地が生ずる。このような会社組織による事実の隠ぺいや事実と異なるストーリーの組み立てに対して、独立の第三者である会計監査人がそれをくつがえすような強力な証拠を入手することは多くの場合極めて困難である」

 などと、会計監査人である監査法人が「不適切会計」を指摘できなかったことはやむを得ないのだとしていますが、はたしてそうだと言い切れるのかは疑問です。

 この監査法人の責任の有無に関しては、2011年に表面化した「オリンパス損失隠し事件」についての第三者委員会の調査報告書が、会計監査人の新日本有限責任監査法人について、前任の会計監査人であるあずさ監査法人からの引継ぎの際の「監査人の交代事由」に関する事実確認が極めて形式的かつ簡略なものに留まっていたこと、M&Aで取得した海外企業の配当優先株の買戻しに際して「のれん」計上した処理について、より慎重な検討及び判断がなされるべきであったなどと厳しい指摘を行ったのとは全く異なった指摘となっています。

 筆者が当時勤務していた伊藤忠商事は、近江商人の流れを汲んでいることから、「売手よし、買手よし、世間よし」という「三方よし」がその社是となっていました。そのため、新しい取引を開始するに際しては、常にこれを意識しながら、企業としてのあるべき姿を模索してきていたかと思います。入社当時、コメの買い占めなどにより商社の社会的責任が問題となったりしましたが、「社会から非難されるような取引は行わない」などと経営責任のあり方が強調され、また当時、青少年の育成のために寄与することを目的として、記念財団が設立されたりしました。このような環境下で育ったものですから、悩んだときは、いつもこれを思い出して、己の判断の拠り所としていたものです。

 後編は、内部統制の在り方、そして企業不祥事が起きたときの法務部の関与の在り方について筆を進めることにします。

後編につづく


 写真/市川貴浩
 編集/八島心平(BIZLAW)


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河村 寛治  定価:¥3,200+税

出版社:   レクシスネクシス・ジャパン(2015/2/2)
ISBN-13:  978-4-908069-10-9




この連載記事を読む
 伝説の法務部員、語る。/ 河村 寛治(明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐)

河村 寛治

Profile

河村 寛治 [明治学院大学法学部教授、明治学院大学学長補佐]

1971年、早稲田大学法学部卒。伊藤忠商事株式会社入社、法務部配属。1977年、ロンドン大学大学院留学。1981年、伊藤忠ヨーロッパ会社(ロンドン)駐在。1990年、法務部国際法務チーム長。1998年、明治学院大学法学部教授。2004年、明治学院大学法科大学院教授。2013年、明治学院大学学長補佐。2015年4月、明治学院大学法学部教授に就任。
主な著書に『契約実務と法[改訂版]』(2014、第一法規)、『国際取引・紛争処理法』(2006、同友館)などがある。共著に『実践 英文契約の読み方・作り方』(2002、中央経済社)、『国際売買契約 ウィーン売買条約に基づくドラフティング戦略』(2010、レクシスネクシス・ジャパン)、『国際取引と契約実務[第3版]』(2008、中央経済社)、『現代企業法務 1(国内企業法務編)』(2014、大学教育出版)、『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(2014、レクシスネクシス・ジャパン)など多数。




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