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なぜインハウスローヤーは
増えたのか?

株式会社ジュリスティックス
リーガルプレースメント事業部長/リーガル専門ヘッドハンター 野村 慧

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Decade of the In-house lawyer 第1回

 法科大学院修了生・弁護士向け就職支援ウェブサイトの「ジュリナビ」。企業法務部とリレーションを取りながら専門性の高い弁護士・法務人材紹介サービスを提供する「ジュリナビキャリア」。その両サービスを運営するのが、株式会社ジュリスティックス。そのリーガルプレースメント事業部長が、野村慧氏だ。弁護士・法務人材を専門とする敏腕ヘッドハンターとして活躍している。弁護士・法務人材マーケットのこれまで、今、これからを見据える野村氏に話を聞いた。第1回は、「なぜインハウスローヤーは急激に増加したのか?」

11倍の増加率に潜む
需要と供給のニーズ

――2004年3月時、日本のインハウスローヤー数は109名。そこから10年を経た2014年現在、その数は1266名。実に11倍の増加率を見せています。なぜインハウスローヤーは急激に増加したのでしょうか?

野村 その背景には、需要(採用側)と供給(応募者側)、2つのニーズの高まりがあります。
 需要ニーズにおいては、小泉首相が掲げた「聖域無き構造改革」による市場原理社会へのかじ取り、それによる自由競争の激化が挙げられます。規制緩和、特に法務分野では、会社法、証券取引法、金商法の改正に伴い、多くの企業は内部統制やガバナンスを自前主義で整えなければならなくなった、つまり法的リスクに対処する必要性が顕在化したのです。
 とはいえ、従来の企業内の人事育成手法で法的体制整備を行うことは難しく、結果として法曹人材の採用活動が大手国際企業を中心に始まりました。司法制度改革以前は投資銀行を中心とする外資系金融機関がメインに弁護士をインハウスローヤーとして採用していましたが、今ではインハウスローヤーを採用している企業のトップ10は日系企業です。業界も、金融業界から全業界に広がっています。

 もうひとつの理由は、グローバル化の進展です。東南アジアを中心にした日系企業の海外進出が盛んになり、今までになかった組織内法務の整備が求められるようになりました。具体的には、現地法人の設立、合弁事業、M&A、進出国でのコンプライアンス構築、現地法律事務所の選定、起用、対外折衝、行政対応などです。進出国ごとのカントリーリスクや、法的に未成熟な国にどう対応するのか。それが新しい課題として従来の法務業務にプラスオンされるようになったのです。法務部はプロフィット部隊ではないため、限られた人員でこれらの課題にあたらざるを得ませんでしたが、限界があります。そのうちに、競合他社と競り合う形でインハウス導入が広まり、結果的に業界全体での法務専門人員の増加につながりました。
 グローバル化は、直近では海外腐敗防止法、反トラスト法、M&A業務といったこれまであまり馴染みのない案件を企業法務部にもたらしました。これらの案件に対応できる人材を内部教育で補うには時間がかかり過ぎます。そのため、国際法務経験のある弁護士や、無資格者であっても国際法務経験のある法務部員の中途採用活動が活発化しています。

――企業の「グローバル化」等が、採用側の背景というわけですね。では、応募者側のニーズはなぜ急激に高まったのでしょう?

野村 採用側ニーズの背景にも共通しますが、規制緩和による司法制度改革、法曹人口増加が背景のひとつに挙げられます。高い法的素養のある人材の育成を目的として、2004年に法科大学院が開校、2006年に新司法試験第1回目の合格者が出ました。法曹人口の増加に伴い、そのキャリアルートもまた多様化しました。司法試験にパスし、法律事務所に所属するのがそれまでの常識であり、企業に勤務するインハウスはある種異端と見られるような風潮がありましたが、この時期から、若い弁護士を中心として企業を目指すようになったのです。弁護士資格者が増えて一般に身近となることで、企業の法曹へのニーズは相当生まれる筈だ、という読みです。

 そして2008年9月、リーマンショックがやって来ます。これが、インハウスローヤーを志す人口が増えたもうひとつの背景です。
 リーマンショック後、法律事務所での採用数や給与が抑えられ、弁護士事務所間での競争が目に見えて盛んになりました。クライアント企業と弁護士事務所の間の力関係にも変化が見られるようになりました。その現状を見ていた若手が、インハウスを指向するようになったのです。待遇面やワークライフバランスの面でも、企業での職の安定を求める人が増えるようになりました。

企業が求めるもの
応募者が望むもの

――インハウスローヤーを狙うにあたっては、司法修習生か、実務経験を積んだ後の中途採用のどちらが有利なのでしょう?

野村 一概には言えませんが、司法修習時から直接企業を狙うほうが、倍率や競争相手の面から見ても企業就職には有利と言えるとも思います。例えば中途採用で大手企業を狙う場合、応募者の競争倍率は100倍以上に達することも稀ではありません。また中途採用の場合、母集団が多様化します。

――母集団の多様化とは、どういうことでしょう。

野村 企業側が中途採用でインハウスローヤーを募集する場合、当然人材に求めるスキルも高度なものになります。そうした募集案件には、自ずと専門性の高い人材が応募します。大手渉外事務所出身者であったり、年次の高い複数期の人であったり、既にインハウスとして経験を積んだ人であったりと、「中途採用への応募者」という母集団は多様化するのです。つまり中途では、それだけ多くの競争相手と戦わなければなりません。
 逆に司法修習生から直接インハウスとして採用するような募集では、大手でも競争倍率はおおよそ数十倍程度と言われています。競争相手も、質的に均一の「司法修習生」という同じ母集団のみで差別化が強く求められずに済みます。
 また、司法修習生から直接企業に所属することで、組織内での10年後のキャリアには大きな差が出ることもあります。

――しかし、企業側が求めるスキルレベルと、司法修習生出身者とのスキルレベルの間には溝があり、また中途採用者であってもビジネス感覚などの面で齟齬が生じてしまう、いった声も聞きます。いわゆる企業と法曹人材のミスマッチについては、どのような状況なのでしょうか。

野村 実際に私どもの人材紹介サービスを介して企業に入られた方の動向を伺っても、最近では企業と人材にミスマッチは減っていると感じています。
 例えば64期代のインハウスローヤーの離職率は、入社後3年で約10%。思った以上に定着しています。理由としては、「安心の担保」が取れてきているということが挙げられます。
 現在では、同じロースクール、同期にはほぼ必ずインハウスローヤーがいると言えるでしょう。企業に入ってどのような業務をするのか、どのような働き方なのかといった情報が既に周囲に蓄積されているため、新たにインハウスローヤーを志す場合に安心して応募できる(「安心の担保」)が取れるのです。年を追うごとにインハウスローヤー数は増加し、その分だけインハウスローヤーに関する情報は増えていく。応募者は十分な企業研究などの準備を事前に十分することができるため、企業と法務人材のミスマッチは減り、定着率もアップする、というサイクルが生まれていると思います。
 応募者側が増加したニーズを更に掘り下げれば、若手が志向するキャリアの傾向が変化している、という背景にたどり着くでしょう。

 また現在、インハウスローヤーの約66%が、年代の若い(60期以降の)弁護士です。私自身、そうした方々のキャリアコンサルティングを行ううえで感じるのですが、「外部の弁護士として紛争解決を手がけるよりも、ビジネスの現場で仕事をしたい」という志向の人が非常に増えているのです。
 例えば法律事務所で若手が手がける案件の多くは、訴訟など紛争関連です。企業にとり紛争はビジネス上のいわば病的な、負の出来事であり、どれだけ大量にこうした業務経験をしても、当該企業のビジネスの全体像はおぼろげにしか把握できないでしょう。
 そのため、企業の外部弁護士(アウトサイドカウンセル)は、手がける企業のビジネスを断片的にしか理解できず、アドバイスも往々に一般的なものにとどめる傾向があります。

 しかしインハウスローヤーは、所属した企業に特化したサービスを提供する存在です。その企業の歴史、ビジネス、経営理念、組織体制、人員、文化などのすべてを把握したうえで問題解決を行うことが可能となるため、インハウスローヤーは現場で通用するビジネススキル、センスを駆使し、より経済的で有効な問題解決ができるのです。
 例えば、インハウスローヤーの業務のひとつに訴訟管理があります。企業では、インハウスが訴訟代理人として直接訴訟を遂行することは限られています。その企業を熟知したインハウスが、それぞれの専門性の高い社外の弁護士を駆使することでより経済的に、また戦略的に紛争解決を図れるケースが多いのです。
 もちろん企業取引での契約作成や交渉においてもインハウローヤーのこうした特性が発揮されます。

――なるほど。特定のビジネスフェーズだけの案件を数多く手がけるよりも、ビジネスの全行程を特定の企業に特化して手がけたい、とする傾向がインハウスローヤー増加の背景でもあるんですね。では、10年前と現在とで、インハウスローヤーに求められる資質はどう変化しているのでしょうか? 

第2回に続く


写真/柏崎佑介
取材・編集/八島心平(BIZLAW)



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 Decade of the In-house lawyer

野村 慧

Profile

野村 慧 [株式会社ジュリスティックス
リーガルプレースメント事業部長/リーガル専門ヘッドハンター]

弁護士及び法務人材の転職支援における、業界有数のヘッドハンター。
株式会社ジュリスティックス リーガルプレースメント事業部長。
求職者側では、執行役員~法務スタッフ・弁護士(パートナー~アソシエイト)・司法修習生等の転職支援を成功させてきた経験を持つ。クライアント側では、数百の企業・法律事務所のリクルーティング活動を支援してきた実績を有する。法律事務所では、大手法律事務所から一般民事系法律事務所まで、企業としては、上場企業を中心に業界を問わず担当。 複数の日本を代表する大手企業より、独占でコンサルティング業務を受注している。
これまで、大手金融機関の法務人材採用に関するアドバイザーや東証1部上場企業の法務課から法務部昇格のプロジェクトに関与するなど、活動は多岐にわたる。




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