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善意の総体としての
コンペティション

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仲裁・交渉のコロシアム 大学対抗交渉コンペティション 第3回

 大学対抗交渉コンペティション(以下 INC)は、2002年に開催された第1回から、2014年に行われた第13回大会まで、延べ参加人数は実に2,810人を数える。毎年、運営側が練り上げた仲裁・交渉の難問を、参加者は2か月をかけて全力で読み説き準備を整え、本番に向かう。審査員は数時間におよぶ審査を行い、参加者の努力をジャッジする。
 その「熱量」はどこから生まれるのか。大会に関わった者のみ語ることができるエピソードは、INCの展望とはどんなものか。インタビュー最終回、話を聞いた。



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「皆でカバーするから大丈夫」
というごまかしは通用しない

――これまでのお話では、INCの最大の特徴のひとつは「今まで対峙したことのない難問に全力で立ち向かう、その経験そのもの」であるように伺えました。その経験を得る中で味わった、印象深いエピソードを教えてください。

下野 自分にとって、印象深い3つの瞬間がありました。ひとつは10月25日、OB・OGの方々と模擬仲裁を行った後です。正直、「このままでは負ける」と思いました。それまでは、皆でやるから大丈夫だよ、ミスをしてもカバーし合おう、というスタンスで問題に取り組んでいたんです。でも、INCの洗礼を受けた先輩と交わした模擬仲裁では、その「皆でやるから大丈夫」というごまかしが一切効かないことを痛感しました。そこから、徹底した分業体制モードに代わりました。チームとしてのギアが一段、確実に上がった瞬間でした。

 もうひとつは11月25日、本番に向けての反論書面を事務局へ提出する際に、その表紙をつけ忘れてしまったときです。

(編集部注:INCでは本番に向けて、各チームが仲裁・交渉の準備書面と、仲裁に関して相手チームに対する反論書面を提出します。書面上の不備があった場合は減点の対象になります)

 これは1.5点の減点でした。去年のINCでは、優勝校と準優勝校の差は1.5点。このミスで、東京大学の連覇が止まってしまうこともあり得ます。総大将としてチームを叱咤しました。表紙のつけ忘れのようなイージーミスは、最終的に総大将としての自分がチェックすべきものです。けれども、本番を一週間後に控えた状況下で、今更チームの総大将が頭を下げている場合じゃない。チーム全体の不備を叱咤できるのは自分だけですし、それがチーム全体のサポートにもなるのだと思いました。
 結果、チームの士気も保てましたし、今思い返すとそこから本番までの時間は、自分にとって思い出深く、好きな時間でした。

 3つ目は、本番初日、前半と後半の休憩時間です。あるメンバーが、仲裁でミスをおかしてしまいました。とはいえ小さなミスだったので皆で慰めたんですが、そのメンバーが泣いてしまったんですよ。
 「ミスをして申し訳ない、悔しいと思って涙が出てしまったわけではなくて、皆も余裕などない大変な状況下で、私を慰めてくれる、そのことに自然と涙が出てしまった」と。
 ああ、ここまでチームが一体になったんだなと思えた瞬間でした。

平田 下野君ほど感動的なエピソードはないんですが(笑)、やっぱりチームの代表として、メンバーの距離感が近づいていくのを目の当たりにするのは感慨深かったです。

 慶応チームはゼミ形式でINCへの参加準備を進めていきましたが、そこに入る前に、ゼミ生の間で少し認識に違いがありました。
 3年生ですので、就職対策や資格対策が日常化します。そちらを優先する人も当然出てくる。そして、INCは片手間で参加できるものでは到底ありません。その食い違いで、ゼミ内の雰囲気が悪化し、INCへのモチベーションが低下してしまった時期もありました。

 その意識が変わっていったのは、10月1日に問題が発表された日からです。そこから本番までの2か月、担当を割り振られたそれぞれのメンバーは、準備を重ねる中で、どんどん自分の責任を明確に感じるようになっていったんだと思います。
 泊まり込みや徹夜を続けて、身体はつらいはずなのに、楽しみながら自発的に問題にのめり込むことができました。それだけ、学校の勉強を置き去りにしてでも打ち込めるほど、のめり込める問題だったんです。


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 「理屈だけ通っていても駄目なんだ」という実感も、INCに参加したからこそ得られた視野だと思います。
 これは、2013年の国際交渉コンペティションに参加した先輩が仰っていた言葉でもあります。

(編集部注:毎年6月から7月にかけ、「国際交渉コンペティション」が行われます。コンペティションはすべて英語で行われ、1チーム2名で構成されます。国際交渉コンペティションには、INC英語部門の交渉の部で優れた成績を得た大学の参加者から選抜された2名が参加します)

 「論理的な展開で筋が通っていても、それは現実から見てどうなの?」と。 自分たちの主張はあっても、当事者の現実から離れてしまっている理屈固めじゃ駄目なんだ、と。
 当事者であるレッド、ブルー社の立場で思考しなければ、法律上の論理的な問題を現実に落とし込んだ主張はできません。これは得難い経験になりました。

辻本 社会人になって3,4年目くらいでしょうか。INCに私の上司が審査員として参加することになって、会社の先輩とその年の大会を見に行ったんです。
 大学3年生といえば遊びたい盛りですから(笑)、正直、その先輩もそこまでINCを真剣なものとは見ていなかったと思います。
 でも、実際のINCを目の当たりにして、かなり刺激を受けていました。目の色が変わっていましたね。長時間に渡って、大学生がハイレベルな議論を戦わせている場は衝撃だったようです。
 ちょうど弊社で社内公用語を英語にする、という動きがあった時期とも重なり、そこから社内でも、月に一回、英文契約書を題材にして、AグループとBグループに分かれて契約交渉のスタディセッションを英語で行うようになりました。

井上 (楽天では)法務部が前に出て交渉することはないんですか?

辻本 あまり多くないですね。相手方との交渉については、事業セクションごとに現場が行うのが原則です。法務課は、取引やサービスに関する法的構成や交渉の方針等の構築、契約書審査等によるサポートを行い、自分たちが表に出ることは少ないです。
 でも、実際に交渉経験がなければ契約書修正も分からないので、この社内交渉セッションは役に立っています。

――企画・運営側からはいかがでしょう。

森下 INCは毎年毎年、印象深いエピソードがあるので、どれかひとつを挙げるのはなかなか難しいですね。ただ、毎年必ず思うのは、INCはたくさんの厚意の積み上げで成り立っている、ということです。御後援の方々、審査員の先生方、OB・OGの方々、本当に多くの皆様の御協力でINCは成り立っています。 また、教員として、これはおそらく、審査員の皆様を始めとして、多くの大学の先生も感じることだと思いますが……学生の成長です。

井上 そうですね。INCに参加した学生は明らかに成長します。

森下 学生の成長を毎年、目にすることができる。これは教員としてありがたいことです。

辻本 ところで、もう次の問題を作られたりしているんですか?

森下 いやいや、まだ影も形もないです(笑)。

井上 でも毎年、INCの問題は時事に適切に基づいていますよね。すごいですよ。

――審査員の立場からはいかがでしょう。

井上 私たち審査員が対戦に立ち会い、審査を終えた瞬間に、涙が出る学生がいます。真剣だからこそ、はりつめたものがふっと終わった瞬間だからこそ、あの審査の場で涙が出るんでしょうね。

森下 そうですね。他にも、優勝校の喜びの涙、様々な悔し涙、仲間への思いから出た涙。INCでは毎年いろんな「涙」を見ます。

井上 人が懸命に何かに立ち向かっている姿に対峙できる、それが審査員の醍醐味ですよ。大げさな話ですが、「日本も捨てたものじゃない」と思えます。




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