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解答なき交渉の舞台

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仲裁・交渉のコロシアム 大学対抗交渉コンペティション 第2回

 「これまで出会ったことのない難問に全力でぶつかる。その経験こそが大学対抗交渉コンペティションに参加する意義」と、大学対抗交渉コンペティション(The Intercollegiate Negotiation Competition 以下INC)経験者である楽天株式会社法務部・辻本氏は語る。その経験を通して培うことのできるスキルは、思考の変化とはどんなものか。話を聞いた。



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磨かれた「即応性」と「英語力」

――INCで培うことのできるスキルはどんなものでしょう。それは皆様のキャリアや実戦に、どんな影響を与えましたか?

下野 先ほどプレゼン能力と言いましたが、より具体的に言うと「即応性」ですね。こちらが弱い部分を突かれても、動じずその場で考えて、それらしく見せる能力というか。

井上 それ、とても大事ですよ。

下野 INCでは、相手が何を望んでいるのかを、その場で考えなければならないんです。そうすると、今までは「何でそうなるんだよ」というような頭ごなしの否定から、「なぜこういう事態なのだろう、相手が望んでいることは何だろうか?」と思うようになります。
 ゼミの太田先生(太田勝造 東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授)が仰っていた、「日常は交渉の連続である」という言葉を実感できるようになったと思います。

平田 ゼミ全体を通しては、論理的思考が伸びました。少し語弊があるかもしれませんが……、大学3年生は就職活動や資格対策などで忙しくなる時期です。そこまでまじめに法律をやってこなかった人もゼミ内には居ましたので、法的三段論法をチーム内でたたき込み、相手の論理を突けるようにしました。
 個人的な面では、英語のスピーキング能力です。私は英語チームとして出場したのですが、それまで読み書きはできても満足な英会話はできませんでした。

辻本 留学経験はあります?

平田 1か月イギリスに留学したくらいです。本格的に英語を始めたのはINC対策からですね。とにかく、拙い英語でもチーム内で議論を重ねました。ちなみに慶応大学の対戦校は名古屋大学で、チーム全員が留学生でしたが、INC本番では英語で相手に自分たちの意図を伝え、交渉できました。

井上 そこまで来ると、トランスレーションしなくなりませんか。

平田 しなくなりました。INC練習試合では、日本語の準備書面を英訳して試合に臨むんですが、本番では英語の問題文から相手方の契約書面など、すべてを通して英語で思考できるようになりました。


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森下 今ではINC全体で、日本語と英語の試合割合は2:1まで来ていますね。

――OB・OGからの立場からはいかがでしょうか。

辻本 東京大学の法学部は卒論がないんですよ。もし、INCがなければ私は何となく4年間を過ごし、東大出身という肩書きだけで社会に出たかもしれません。井上さんも仰っていましたが、INCに参加することで得られる、「今までに取り組んだことのない難問に全力で取り組んで答えを出す」、その経験はすごく大きいです。ちょうど、スポーツ選手が過酷な練習と本番を通して得られる成功体験と同じではないかと思います。

 私たちの代は結果として優勝校として報われましたが、順位がついた中で一位だったから価値がある、ということでもないと考えます。これまで出会ったことのない難問に全身全霊で取り組んだという経験は、INCに参加したすべての人にとって財産になっていると思います。逆に、全力で取り組まずに優勝しても意味はない。

 法務部に勤務していると、現実に目の前に問題が広がっている状況に出会います。法律を武器にしてその対策を考えるけれど、当然、INCとまったく同じ状況が現実にあるというわけはありません。INCの体験が、ダイレクトにその後の社会人生活の予行演習になる、というものではないです。ただ、実務上の問題と法律の関連付けを考え、学ぶ機会として、学生が得られる体験の中ではINCは最高に近いんではないでしょうか。何せあれだけの難易度の問題ですから……。

森下 「問題が難しい」という声は、例年のアンケートでも必ずいただきます(笑)。ただし、2か月間フルに問題に取り組む参加者に対して、おいそれと難易度は下げられません。

 それに、大学教育では、学生の方は答えを探そうとすることが多いと思いますが、INCの問題には、何か一つの解答があるというわけではありません。答えを探そうとして取り組むと、実際の仲裁や交渉の場面で窮してしまうことになると思います。自分の頭でしっかりと考えて準備する必要があることは言うまでもないですが、相手や仲裁人の反応を見ながら、流れに応じて柔軟に対応できるようになる力も必要です。問題を作っている私も、INCの問題に対する最善の答えが何かについては分かりません。


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辻本 確かに、これが「解答」というのはないですね。

井上 このチームの意図は何となくこっちだな、というのが見えてしまうと、審査をしていても正直飽きてしまいます。そうして、そのチームは往々にして問題が持つ「罠」にはまっている。
 逆に、こんな発想があるのか!?けれども確かに道理だ、という解釈が来ると、点は跳ね上がりますね。審査員の我々や、おそらく作題者の森下先生も想定していない論陣が張られると、嬉しくなります。

辻本 参加していた当時も、相手の反論の道順が分かると、少し拍子抜けしてしまう、という実感はありました。一方で、単純に反論が思いつかない攻撃が来ると、素直になるほど、と思う。そんな応酬がINCにはあります。
 確たる正解がない状況で、歯を食いしばって相手方との交渉に食らいついていく場面というのは、実務の世界にも通じるなと思います。

 (第3回に続く



取材・編集/八島心平(BIZLAW)
写真/稲垣正倫(BIZLAW)


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インタビュイー(左から・敬称略)
下野 高平 [東京大学法学部第三類3年]
平田 航輝 [慶應義塾大学法学部法律学科3年]
森下 哲朗 [上智大学法科大学院教授]
井上 修 [日本ヒューレット・パッカード株式会社 取締役執行役員 法務・コンプライアンス統括本部長 ニューヨーク州弁護士]
辻本 祐佳 [楽天株式会社 トラベル事業 総務・ガバナンス推進グループ 兼 法務部 法務課]




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