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情報にオピニオンは必要か?

ジャーナリスト 堀 潤

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一次情報の純度とプロフェッショナルの価値 第1回

 「ニュースは“知る”だけじゃない “You” are news creator! 」。これは、ジャーナリスト堀潤氏が主催するソーシャルニュースメディア「8bitNews」のスローガンだ。市民自らがニュースソースにアクセスし情報発信を行う「パブリックアクセス」の実現を目指して、8bitNewsでは一般の市民によるニュース投稿が行われている。そして、そのすべてはテキストではなく動画だ。 堀潤氏は2001年にNHKへ入局してから2013年の退局に至るまで、いわば日本有数の大手メディアの顔として活躍した。2015年、堀氏が描くマスメディアの課題と未来はどのようなものか。話を聞いた。



――2000年代に入り、日本ではインターネット上でさまざまな「市民ニュースメディア」が急速に立ち上がり、定着を実現できず展開を終了したものもあります。その理由は何でしょうか?

 まず、「市民メディア」という事柄を語ろうとするときに陥りやすいのが、「市民メディア=素人」「マスコミ=プロ」という図式に当てはめようとすることですね。素人の集まりで何ができるの? と思い込みがちになる。
 でも、ニュースにおいて最も大切なのは一次情報を発信することであり、純度の高い情報にこそ価値があります。
 ニュースの源である一次情報は、いつだって社会に生活する人々自身が持っていますよね。市民という言葉をあえて使うなら、一次情報の価値は市民が持っているんです。

 東日本大震災の原発事故を想像してください。現場の作業員は非メディア人です。けれども、オンタイムの一次情報を持っている当事者は間違いなく彼らですよね。だったら、一次情報を持っている人の発信力を高めればいい。情報の保持者自らが、自分の手で発信できるようになれば、ニュースは質量とも底上げされます。
 けれども、そこで混同してはいけないのが「情報の発信」と「情報の文脈作り」です。これまでの市民メディアが定着できなかった最大の理由のひとつは、そこを混同してきたからだと思っています。

――具体的にはどのようなことでしょうか?

 たとえば、あるカフェで爆発事故が発生したとします。お店から黒煙があがり、辺りには刺激臭が立ちこめた。その場にいたお客は、Twitterでその様子をツイートし、急いでお店から逃げたことをつぶやきます。そのリアルタイム性は、その現場にいた当事者にしか発信できないものですよね。一次情報として重要です。
 けれど、なぜこの事故は起きたのか? 過去にこのお店で、もしくは周囲で同じような爆発事故はあったのか? その分析や判断には、決して臆断や曖昧な主観が入り込んではいけない。それをニュースにしてはいけないんです。
 集めた一次情報を分析し、どんな文脈やオピニオンを付加してニュースにするのが最適なのかを判断する。そこにこそプロフェッショナルの付加価値があります。

 これまでの市民メディアでは、このプロフェッショナルが担うべき役割と、市民リポーターが行うべきこととが混濁したままニュースが作られていたんですね。市民リポーターが発信した情報には、そのままリポーター自身の主義主張が前に出てしまっていた。
 そして、当時のニュースはテキストベースです。市民リポーターのほとんどは、てにをはレベルの高い精度が求められるマスメディア用のテキストを作成する訓練は受けていません。加えると、当時の市民ニュースメディアで取り上げられていたニュースの多くは、既存のマスメディアが取り上げていたテーマをなぞるだけのものが多かったと思います。
 アマチュアジャーナリストほど自分のオピニオンを強調しがちですが、私は極論すれば、オピニオンにはあまり価値がないと思っています。 重要なのは事実。事実を正確に伝えることです。


アマチュアの役割、
プロフェッショナルの付加価値

 情報を配信する、という点のみならば、今では実はプロとアマチュアの垣根はほとんどなくなってきている。違いは発信のスキルだけです。特にこの十数年で、映像インフラのコストは激減しました。今ではスマートフォンで、誰でもハンディサイズのHDカメラやフリーの配信インフラを使える。情報の配信ツールが一般化していますよね。 こうしたツールを使って発信された一次情報が「ニュースの原資」としてどんどん蓄積されるようになれば、ニュースの精度も上がっていくと思います。

 2012年、パレスチナ紛争のガザ侵攻でアルジャジーラが行った地域情報の伝え方が好例ですね。この侵攻では、イスラエル国防軍がガザ地区の武装勢力に対し、Twitterを使ってのプロパガンダ攻勢を行ったことが有名です。
 戦地のまっただ中、グローバルなSNSを使って、GPSの位置情報付きで世界に情報を配信できる。そこにアルジャジーラはどこよりも早く目を付けていた。ガザ侵攻において、アルジャジーラは市民やフリーのジャーナリストを独自に束ね、Twitter経由で寄せられた位置情報付きの情報を地図に落とし込み、ライブ性の高い紛争マップを作成しました。

 一次情報は現地市民が生み出し、その加工・編集をプロフェッショナルであるマスメディアが行う。
 これはまさに、アマチュアとしてのネットメディアとプロフェッショナルのマスメディアが融合した「市民メディア」の姿だと思います。

 ところが日本では、マスメディアはネットメディアを胡散臭いものと思い、ネットメディアはマスメディアを体制的であると批判しあう。この状況は不毛です。
 純度の高い一次情報を発信できる市民の力と、マスメディアの分析力とを結びつける役割が今こそ必要なんです。本来は公共放送メディアがそこを担うべきなんですが……。
 でも、そういうことをやりたがっているメディア人は民放キー局、ラジオ局、ネットメディアと、形を問わず増えてきているんですよ。

第2回へ続く


取材、編集/八島心平(BIZLAW)
写真/稲垣正倫(BIZLAW)




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 一次情報の純度とプロフェッショナルの価値

堀 潤

Profile

堀 潤 [ジャーナリスト]

1977年生まれ。2001年にNHK入局。「ニュースウオッチ9」リポーターとして主に事件・事故・災害現場の取材を担当。独自取材で他局を圧倒し報道局が特ダネに対して出す賞を4年連続5回受賞。2010年、経済ニュース番組「Bizスポ」キャスター。12年より、アメリカ・ロサンゼルスにあるUCLAで客員研究員。日米の原発メルトダウン事故を追ったドキュメンタリー映画「変身 Metamorphosis」を制作。13年よりフリーランス。
NPO法人「8bitNews」代表。淑徳大学客員教授。
主著に『僕らのニュースルーム革命』(幻冬舎、2013)、『僕がメディアで伝えたい事こと』(講談社、2013)、『変身 Metamorphosis メルトダウン後の世界』(角川書店、2013)




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